Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅰ(12)択一

2021-06-28 | 日記
Nо.050 正犯と共犯の区別
 正犯と共犯の区別に関して、学生AからCまでは、それぞれ異なる立場から次の発言をしている。①から⑤までの発言のうち、学生Aの発言として矛盾しないものはどれか。
学生A 僕は、基本的構成要件に該当する行為、すなわち実行行為をみずから行う者が正犯であり、それ以外の行為により犯罪に関与した者が共犯であると解する。
学生B 僕は、自己の犯罪をなす意思で行う者が正犯、他人の犯罪に加功する意思で行う者が共犯であると解する。
学生C 僕は、犯罪結果発生について一定程度の危険性を生じさせる行為あるいは法益侵害の確実性・自動性の認められる行為を行った者が正犯であり、そうでない者が共犯であると解する。


発言の特徴
学生Aは、構成要件該当行為(実行行為)を正犯と共犯を区別する基準としています。
学生Bは、行為を行う行為者の意思を基準に正犯と共犯を区別しています。同じ行為を行っている場合でも、それを自分の犯罪として行っているのか、それとも他人の犯罪に関与しているだけなのか、どのような認識から行っているのかという意思を重視しています。
学生Cは、A君のように構成要件該当行為だけでなく、それが法益に及ぼす影響を重視します。法益侵害が自動的に生ずるのか、それが確実なのかを重視します。


1(   )君の見解を徹底すると、間接正犯、共謀共同正犯はおよそ肯定することができなくなるのではないか。
→間接正犯は、責任能力のない者、犯罪の故意のない者の行為を「道具」のように利用して、犯罪の結果を発生させることを言います。共謀共同正犯とは、2人以上の者が犯罪の実行を共謀し、そのうちの者が共謀に係る犯罪を実行した場合に、共謀にのみ関与した者についても、その犯罪の共同正犯が成立することを言います。他人を道具のように利用する行為は、それ自体として犯罪の構成要件に該当しません。犯罪の共謀もそれ自体としては犯罪の構成要件該当行為の共同実行にはあたりません。A君は、構成要件を基準に正犯と共犯を区別するので、間接世犯や共謀共同正犯を認めません。すると、( )にA君が入ります。
 1の発言をA君がするのは矛盾します。


2 僕の見解は、正犯は「犯罪を実行」した者だとする刑法第60条および第61条1項の文言にもっとも適合し、また、区別の基準が明白であるという長所がある。
→刑法60条の共同正犯は、2人以上の者が共同して「犯罪を実行した」と規定しています。61条の教唆犯は、人を教唆して「犯罪を実行させた」と規定しています。犯罪を実行した人が正犯であり、それを教唆した人は教唆犯です。この「犯罪の実行」とは、構成要件該当行為を行うことをいいます。「僕の見解」は、このように構成要件該当行為を基準に正犯と共犯を区別しています。
 2の発言をA君がするのは矛盾しません。


3正犯行為も、教唆・幇助行為も、同様に結果発生の危険性をもつ行為であるから(  )君の見解では、正犯かどうかを区別することが困難となる。
→構成要件該当行為を行うと、構成要件的結果が発生します。A君の見解によると、それが正犯です。たとえ、構成要件的結果を発生させる危険な行為であっても、それが構成要件に該当する行為でなければ正犯にはなりません。教唆も幇助も、構成要件的結果を発生させる危険性を持っていますが、教唆・幇助は、構成要件該当行為とは異なる行為です。A君の見解は、正犯か共犯かの区別基準は構成要件該当行為なので、正犯か共犯かどうかの区別が困難になることはありません。(  )にA君が入ることはありません。A君が3の発言を行うことは、A君の発言として矛盾しません。
 3の発言をA君がするのは矛盾しません。


4財産犯における2項犯罪の場合、法は他人に財産上不法の利益を得させる行為も処罰しているから、(   )君の見解が、この行為は他人のためにする意思で行われているので共犯とするのであれば、現行法の規定と相容れない結論になる。
→財産犯における2行犯罪というのは何かというと、236条2項の利益強盗罪(それ以外には詐欺罪・恐喝罪があります)のような犯罪です。強盗罪には、暴行・脅迫を手段として財物を強取する強盗(財物強盗:1項強盗)と、同様の手段を用いて財産上不法の利益を自ら得たり、他人に得させる強盗(利益強盗:2項強盗)があります。2項強盗の場合、利益を他人に得させているので、他人のために行っていますが、強盗罪の正犯として処罰されます。自己の犯罪をなす意思なのか、他人の犯罪に加功する意思なのかによって正犯・共犯を区別するなら、利益を他人に得させた強盗は、他人の利益強盗罪の共犯になるはずです。しかし、刑法236条2項はそれを利益強盗罪の正犯としています。意思を基準に正犯・共犯を区別するのは現行法の規定に相容れません。このような批判は、構成要件該当行為を基準に正犯・共犯を区別するA君の見解から主張できます。
 4の発言をA君がするのは矛盾しません。


5僕は、結果を惹起したすべての者が本来正犯であり。共犯規定は刑罰制限事由にすぎないと考えているから、正犯も共犯も客観的には同じもので、主観によってのみ区別されるものだと思う。
→結果を惹起している以上、それに関与した者は本来的には全員が正犯だと言います。構成要件に該当する行為を行った者も、それ以外の教唆・幇助の行為を行った者も、結果を惹起した以上、全員が正犯だと言います。これは、構成要件該当行為を基準に正犯・共犯を区別するA君の見解から主張できません。
 5の発言をA君がするのは矛盾します。


→矛盾しないのは、2、3、4です。
(1)1個 (2)2個 (3)3個 (4)4個 (5)5個 こたえ3の3個


Nо.053 共謀共同正犯
 学生AからDまでは、共謀共同正犯に関し、次のⅠからⅣまでのいずれかの異なる【見解】に立ち、後記のように【発言】している。学生と見解の組合せとして正しいものは、後記1から5までのうちどれか。
【見解】
Ⅰ 共謀共同正犯を認めることはできない。
Ⅱ 間接正犯の場合に、他人の利用を実行行為の1つととらえて、みずから手を下さなくても正犯性が認められるのと同様に考える。
Ⅲ 単に共同に参加したというだけでは共同正犯とすることはできないが、共謀者と実行分担者の間の支配関係、役割分担関係から判断し、犯罪実現に向けて実行に準ずる重要な役割を果たした共謀者は共同正犯といえる。
Ⅳ 各関与者による犯罪の共謀の結果、それを精神的な支柱として超個人的社会的実在としての共同意思主体が形成され、その構成員による犯罪計画の実行は、そのまま共同意思主体の実行として認識されるために、実行を分担しなかった者も共同正犯となる。


→Ⅰの見解は、刑法60条の共同正犯は犯罪の「実行共同正犯」に限る立場です。「共謀」は「実行」以前の関与でしかないので、共同正犯にはあたりません。
 Ⅱの見解は、共謀共同正犯を間接正犯の理論によって根拠づけています。間接正犯とは、責任能力のない人や犯罪の故意のない人の行為を「道具」のように利用して、犯罪結果を間接的に発生させる場合をいいます。共謀に関与した者は、自ら手を下さなくても、他の関与者の行為を「道具」のように利用して、彼らに犯罪結果を発生させているので、共同正犯の成立を認めることができます。この見解を「間接正犯類似説」といいます。
 Ⅲの見解は、共謀に関与した者と実行行為を行った者との間にある支配従属関係・上下関係・役割分担菅家などから判断して、共謀に関与した者が「犯罪実現に向けて実行に準ずる重要な役割を果たした」という場合に共同正犯の成立を認めます。共謀者と実行者の間にある支配従属関係というのは、人間関係としては非常に特殊な関係です。暴力団やテロ組織などの一定の人間集団を想定し、黒幕的な存在を共同正犯として処罰するための理論が必要視されています。この見解を「準実行共同正犯説」といいます。
 Ⅳの見解によれば、複数人が犯罪の共謀に関与した結果、精神的な支柱としての個々の関与者を超越する社会的実体・実在としての共同意思主体が形成されると言います。この社会的実体は、暴力団やテロ組織のような団体にあたります。この説は、組織形成過程における超個人的な社会的実体を持った「共同意思主体」に着目し、構成員が犯罪を実行した場合、共謀者にも共同正犯が成立するので、準実行共同正犯説と共通していますが、犯罪の実行主体は、実行・共謀に関与した構成員ではなく、共同意思主体です。これは団体責任を認める考えにつながっていきます。この見解を「共同意思主体説」といいます。


【発言】
学生A 【  】君の見解には、本来、対等平等関係にある共謀共同正犯に、一方が他方を利用したいという関係が認められるのかという疑問がある。
→一方が他方を利用する関係は、ⅡないしⅢの内容です。
 これによりAがⅡ・Ⅲには立っていなことは明らかです。
学生B 【  】君は、刑法第60条の「犯罪を実行」とは、構成要件該当行為を行うことであるから、構成要件の一部を実行する者のみが共同正犯になると主張するんだね。
→犯罪の実行は犯罪の構成要件該当行為の一部または全部の実行であるので、間接正犯や共謀共同正犯は認められなくなります。
 これによりBがⅠには立っていないことは明らかです。
学生C 【  】君の見解に対しては、故意ある道具を認めるという点で道具となる実行行為者に存する規範意識を克服して背後者に正犯性を認めるところに疑問があると批判されている。
→共謀共同正犯を間接正犯に類似したものと見ると、共謀者は実行者の行為を「道具」として利用すると説明されますが、実行者には犯罪の故意があり、規範意識もあるので、間接正犯に類似したものとはいえない部分があります。そうすると、共謀共同正犯を間接正犯に類似したものと説明することには疑問が残ります。
 これによりCがⅡに立っていないことは明らかです。
学生D 【  】君の見解は、団体責任を問うものであると批判されている。
→団体責任という言葉からも明らかなように、この発言はⅣの見解に対する批判です。
 これによりDがⅣに立っていないことは明らかです。
学生A 僕の見解では、果たして役割によって、共謀に参加した者のなかで、共同正犯となる者とならない者とがふるい分けられることになる。
→Aは、共謀に関与しただけでなく、その役割を重視して、共謀共同正犯にあたるかどうかを判断します。
 これによりAがⅢに立っていることが明らかです。
学生B 【  】君の見解によると、教唆犯にも正犯性が認められることになってしまう、教唆犯と間接正犯の概念的区別が不可能になってしまうのではないかとの疑問がある。
→BはⅡの間接正犯を批判しています。
 これによりBがⅡに立っていないことは明らかです。
 CもⅡに立っていないので、ⅡはDの見解になります。


学生C 【  】君の見解では、共謀に参加したという事実のみで共同正犯となりうることになり、妥当ではない。
→共謀に参加しただけで共謀共同正犯になるのは、Ⅳの見解です。
 これによりCがⅣに立っていないことが明らかです。
 CはⅡ・Ⅳに立っていません。CはⅠの見解です。


(1)AⅠ―DⅡ (2)AⅢ―CⅣ (3)BⅡ―DⅠ (4)BⅣ―DⅠ (5)CⅠ―DⅡ
 こたえ (5)


Nо.054 過失の共同正犯
 次の【事例】について、学生AおよびBが後記【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から③までの(   )内に入る学生Aの発言として正しいものを後記【発言】から選んだ場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。
【事例】
 甲と乙が、共同して、それぞれ道路上の大きな石をがけ下に投下していたところ、通行中の丙にあたり、丙を死亡させたが、甲、乙いずれの投げた意思が命中したか不明であった。
→これは、がれきの撤去中に起こる業務上過失致死罪の事案です。甲と乙に、丙の死亡の予見義務違反、結果回避義務違反があったかどうか、その義務が甲・乙に課された共同の義務であったかどうかが問題になります。


【会話】
学生A 私は、過失犯の共同正犯を肯定するので、甲・乙に過失致死罪の共同正犯が成立すると考える。
→甲・乙は、道路上の石をがけ下に投下するにあたって、通行人がいないかどうか、その人にケガを負わせないかどうかを予見し、それを回避する義務がありました。しかも、それは両者に共同して課されていました。その義務に共同して違反したので、過失致死罪の共同正犯が成立します。


学生B 私は、過失犯の共同正犯を否定する。君は、共同正犯は、2人以上の者が特定の犯罪を共同して実現する場合であることを前提としているけれども、そうすると、過失犯は不注意という無意識部分に本質があるのだから、過失犯の共同正犯を否定することにならないか。
→共同して犯罪を実行というのは、相互に協力しあいながら犯罪を実行することを意味するならば、共同正犯は、関与者が意思連絡をとりながら共同して犯罪を実行すること、つまり「故意犯の共同正犯」に限られます。


学生A ( ① )
→Aは過失犯の共同正犯を認めるので、それを否定するBに対して、どのような批判をするのでしょうか。Bは、共同正犯=意思の連絡=共同実行の意思=故意の共有=故意犯の共同正犯と主張しています。Bは刑法60条の「共同」という文言の解釈から、その見解の正当性を強調しています。共同とは、つまり意識的・自覚的な協力関係を指すと主張しています。しかし、犯罪の実行は故意犯だけでなく、過失犯の場合にも認められます。犯罪の実行=過失犯の実行であれば、刑法60条には共同による過失犯の実行というものも含まれると解釈できます。
 そうすると、(①)にはイが入ります。


学生B そうだとすると、君は過失犯の共同正犯を認める根拠をどのように説明するのだろうか。


学生A ( ② )
→A君は過失犯の共同正犯を認めますが、60条の条文には過失犯の共同正犯が含まれる余地があるというだけでは、過失犯の共同正犯を認める根拠としては消極的です。もっと積極的な根拠づけが必要です。過失は「罪を犯す意思」のない場合なので、罪を犯すことを意識していない「無意識」と言うこともできますが、その実質は結果の予見義務違反と結果の回避義務違反です。したがって、過失犯の共同正犯は、2人以上の者に結果の予見・回避義務が課され、それを不注意から怠った場合に成立すると考えられます。
 そうすると、(②)にはウが入りそうです。


学生B 君のように考えても、そのような場合は結局、過失同時犯に解消することができるから、過失の共同正犯を否定する結論とほとんど差異がなくなることになり、過失の共同正犯を肯定する実益がないのではないか。
→A君は過失犯の共同正犯を認めます。しかし、過失同時犯というものを認めるならば、過失犯の共同正犯というものを認めなくても、A君の見解と同じ結論を導けるのではないか。B君はそのように主張します。過失同時犯というのは、複数の単独の過失犯が、それぞれ同時に行われ、結果を発生させた場合です。過失犯の競合とも言います。このような過失同時犯または過失犯の競合を認めるならば、過失犯の共同正犯というものを認める必要はありません。B君はこのように主張します。したがって、過失犯の共同正犯を認めるA君は、このB君の主張を批判しなければなりません。
 過失同時犯や過失犯の競合というのは、複数の行為者の過失行為が同時に行われ、それが競合して、結果が発生していることを前提にしています。つまり、過失行為と結果の間に因果関係があるというのが前提です。複数の過失行為が競合して、結果へと結びついたという場合であれば、複数の単独の過失犯が成立し、それが同時に行われ、競合して結果を発生させたと認めることができます。そうすると、複数の者が過失行為を同時に行ったが、結果との因果関係が認められなければ、単独の過失犯は成立しないので、その行為者は不処罰になります。しかし、過失犯の共同正犯を認める立場からは、共同の過失行為から結果が発生している以上、個々の過失行為と結果の因果関係を問題にする必要はありません。


学生A ( ③ ) (③)にはアが入ります。


【発言】
ア 共同行為者のいずれの不注意が原因で結果が発生したかを特定できない場合には、全体として結果回避義務違反がなされたと評価できるときでも、全員を不可罰とえざるをえないことになるが、私の見解からは、そのようなことにはならないので、君の指摘は妥当しない。
イ 共同正犯が何を共同するのかという議論から、過失犯の共同正犯の成否が論理必然に結論づけられるわけではないので、君の指摘は妥当しない。また、この問題についての私の見解からしても、過失犯に実行構成を認めることができ、その実行行為を共同することは可能であるから、過失犯の共同正犯は皇帝できると考える。
ウ 私は、共同行為者に対して共同の注意義務が課せられている場合に、共同行為者がその注意義務に共同して違反したと認められる場合に限り、過失犯の共同正犯を肯定できると考える。
(1)①ア②イ③ウ (2)①ア②ウ③イ (3)①イ②ア③ウ (4)①イ②ウ③ア (5)①ウ②ア③イ


Nо.055 承継的共同正犯
 承継的共同正犯の成立範囲に関する次の【見解】に従って後記アからオまでの各事例を検討し、甲に承継的共同正犯が成立すると認められるものの個数を後記1から5までの中から選びなさい。
【見解】承継的共同正犯が成立するのは、後行者において、先行者の行為およびこれによって生じた結果を自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思のもとに、実体法上の一罪(狭義の単純一罪にかぎらない)を構成する先行者の犯罪に途中から共謀加担し、上記行為等を現にそのように手段として利用した場合に限られる。
→この見解は、承継肯定説の立場から、先行者の行為・結果を自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思のもとに、実際にそのような手段として利用した場合に、後行者に先行者の行為・結果の承継を認め、その全体に対して共同正犯の成立を認める見解です。
ア 甲は、Aが強盗目的でB女を縛り上げて反抗を抑圧し財布を奪うのを物陰で見ていたが、Aが立ち去った後、B女が抵抗できない状態にあることを利用して指輪を奪った。
→Aに強盗罪が成立するのは明らかです。Aにはすでに強盗既遂罪が成立します。では、甲にも強盗罪が成立するでしょうか。成立するならば、それは強盗罪の共同正犯でしょうか。それとも強盗罪の単独正犯でしょうか。もしも強盗罪が成立しないなら、甲には窃盗罪が成立するだけでしょうか。この問題は、AがBを縛り上げて反抗を抑圧した行為を、甲が承継するかどうかにかかっています。しかも、Aの強盗既遂後に、反抗抑圧状態を承継するかどうかです。そもそも承継的共同正犯とは何でしょうか。
 【見解】を見て下さい。承継的共同正犯の説明文です。ここには、「先行者の犯罪に途中から共謀加担し、上記行為等を現にそのように手段として利用した場合」と書かれています。Aが強盗目的でBを縛り上げて反抗を抑圧した後、甲が途中から共謀加担した場合に、AがBを縛り上げた状態を承継するというのが承継的共同正犯です。Aの強盗はすでに既遂に達しています。承継的共同正犯が問題になる場面ではありません。
 甲はAがBを縛り上げた状態を承継しないので、強盗罪の承継的共同正犯は成立しません。甲は身動きが取れないBから指輪を取っただけです。これは窃盗罪の単独犯です。
 強盗罪の承継的共同正犯は成立しません。
イ 甲は、Aが身の代金目的で子どもBを誘拐したことを知り、それでひと儲けしようと考え、AとともにBの両親に対して身の代金を要求した。
→略取罪・誘拐罪のなかに、身の代金目的略取・誘拐罪(刑225の1)という類型があります。近親者その他略取さら又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて財物を交付させる目的で、人を略取し、または誘拐する行為です。身の代金目的に基づく略取・誘拐罪です。略取・誘拐すれば、本罪が成立します。
 さらに、近親者などに身の代金を要求すれば要求罪が、身の代金を交付させれば交付罪が成立します。
 略取・誘拐→要求→交付という経過をたどりますが、それぞれの段階において略取・誘拐罪、要求罪、交付罪という別々の犯罪が成立します。それらの関係は、前者の行為が後者の行為の手段となり、後者の行為が前者の行為の結果となっているので、牽連犯の関係にあります(刑54①後段)。
 もう一度、【見解】を見て下さい。承継的共同正犯の説明文です。ここには、「後行者において、先行者の行為およびこれによって生じた結果を自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思のもとに、実体法上の一罪(狭義の単純一罪にかぎらない)を構成する先行者の犯罪に途中から共謀加担し」と書かれています。「実体法上の一罪を構成する先行者の犯罪に途中から共謀加担し」というのは、先行者が開始した犯罪がまだ既遂に達していない段階であり、後行者がその途中から関与したという意味です。Aはすでに身の代金目的でBを誘拐し、略取・誘拐罪が成立し既遂に達しているので、身の代金目的略取・誘拐罪の承継的共同正犯は成立しません。
 では、甲は無罪かというと無罪ではありません。甲はAと身の代金要求罪を共同して実行しています。甲には身の代金要求罪の共同正犯が成立します。
 略取・誘拐罪の承継的共同正犯は成立しません。
ウ 甲は、Aが強姦目的でB女に暴行を加えその反抗を抑圧している現場を目撃し、Aと通じてAに続いてB女を姦淫した。
→強姦罪または強制性交等罪は、被害者の反抗を著しく困難にするような暴行・脅迫を手段行為として行い、女子を姦淫または人と性交などをする行為です。暴行・脅迫と姦淫・性交という2つの行為から成り立っています。ただし、1個の犯罪であり、その実行の着手は、姦淫・性交目的に基づく暴行・脅迫の開始の時点です。
 【見解】を見て下さい。承継的共同正犯の説明文です。ここには、「先行者の犯罪に途中から共謀加担し、上記行為等を現にそのように手段として利用した場合」と書かれています。問題文では、AがBに対して強姦目的から暴行を加え、反抗を抑圧している途中から甲が関与しています。甲はAがBに暴行を加えたこと、それによってBの反抗が抑圧された状態にあることを認識しながら、Aと通じてその状態を利用してBを姦淫しているので、強姦罪の承継的共同正犯が成立します。
 強姦罪の承継的共同正犯が成立します。
エ 甲は、Aが不法に恋敵Bを監禁していることを知り、途中からAの犯行を認識・認容しながら共同してBの監禁を続けた。
→監禁罪は、一定の場所に閉じこめるなどして、人の移動の自由を制限する行為です。移動の自由が制限されている間は監禁罪は継続し続け、被害者が解放された時点で終了します。このような監禁罪のような継続犯の途中から関与した場合、監禁罪の承継的共同正犯が成立します。
 監禁罪の承継的共同正犯が成立します。


オ Aが強盗目的でBに対して暴行を加え反抗を抑圧した後、事情を知らされたAの後輩・甲は、かばんを用意し、Aの金品の取得を容易にしましたが、分け前にあずかるつもりはなかったという点です。
 【見解】によると、承継的共同正犯が成立するのは、後行者において、先行者の行為およびこれによって生じた結果を「自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思」が必要です。Aは「分け前にあずかるつもりはなかった」ので、「自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思」は認められません。したがって、強盗罪の承継的共同正犯は成立しません。
 強盗罪の承継的共同正犯は成立しません。


(1)1個 (2)2個 (3)3個 (4)4個 (5)5個 →こたえ(2)


Nо.068 共犯からの離脱
 共犯からの離脱に関する次のアからエまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものの個数を後記1から5までの中から選びなさい。


 甲は、乙と共謀のうえ、こもごもVに暴行を加えた。その後、甲は現場から立ち去ったが、その際、乙がVに対してなおも暴行を加えるおそれが消滅していなかったにもかかわらず、格別これを防止する措置を講じることなく、単に乙に「おれ、帰る」ともに告げただけであった。この場合、甲・乙間の当初の共犯関係は、甲が立ち去った時点で解消したということはできない。
→できない。(正しい)
 甲と乙がVに暴行を加えるなどしたので、暴行罪の共同正犯が成立します。途中で甲が帰っても、暴行罪の共同正犯が否定されるわけではありません。その後、乙がVに暴行を続け、負傷させたとします。乙に傷害罪が成立することはあきらかです。では、甲にも傷害罪が成立し、甲・乙に傷害罪の共同正犯が成立するでしょうか。甲が「おれ、帰る」と言い残して帰った後、甲と乙のVに対する暴行罪の共同正犯が終了している、または甲が乙との暴行の共犯から離脱しているというなら、乙のその後の暴行は単独で行った行為であり、そこから傷害結果が発生している場合には、それは乙の傷害罪であって、甲との間において傷害罪の共同正犯は成立しません。
 では、甲が「おれ、帰る」と言い残して帰った後、甲と乙のVに対する暴行罪の共同正犯が終了している、または甲が乙との暴行の共犯から離脱していると言えるでしょうか。甲が立ち去るとき、その際、乙がVに対してなおも暴行を加えるおそれが消滅していなかったにもかかわらず、格別これを防止する措置を講じることなく、単に乙に「おれ、帰る」ともに告げただけでした。暴行の共犯関係を解消するためには、また暴行の共犯から離脱するためには、乙がなおも暴行をくわえるおそれがある場合には、たんに離脱の意思を表示して、乙からその了承を得るだけでなく、暴行の継続を阻止するなどしなければなりません。


イ 甲は、共犯者7名との間で住居侵入および強盗の共謀を遂げたうえ、見張り役として周囲の状況を監視していたところ、屋内にいる共犯者2名が強盗に着手する前の段階において、現場付近に人が集まってきたのを見て犯行の発覚をおそれ、屋内にいる共犯者に電話をかけた。その際、甲は、「もう少し待て」と言われたが、「危ないからもう待てない。先に帰る」とだけ伝えただけで電話を切り、付近に停めてあった自動車に乗り込み、他の共犯者3名とともにその場を立ち去った。この場合、当初の共謀関係の解消は認められない。
→認められない。(正しい)
 共犯からの離脱の事案では、これまで犯罪の実行の着手の前後に分けて、離脱の要件が整理されていました。犯罪を共謀し、その実行に着手する前の段階では、離脱を希望する者は、他の共犯者にその意思を表示し、了承を得ることによって離脱が認められると解説されてきました。そして、実行に着手した後の段階では、離脱を希望する者は、他の共犯者にその意思を表示し、了承を得るだけでなく、他の共犯者が犯行を継続するのを阻止しなければ離脱は認められないと解説されてきました。
 実行の着手前は無罪のような場合(予備罪などがない場合)、実行の着手に至っていなければ、結果発生の物理的因果性はありません。心理的因果性がありますが、それは他の共犯者による離脱の承諾によって消滅しています。したがって、実行に着手した婆(未遂罪などがある場合)、心理的因果性は他の共犯者による離脱の承諾によって消滅しても、実行お着手によって生じた結果発生の物理的因果性を消滅させる必要があるので、他の共犯者が犯行を継続するのを阻止しなければ離脱は認められません。
 このような基準は、予備罪の処罰規定がない犯罪の場合にはあてはまりますが、強盗罪のような予備罪を処罰する規定がある場合にもあてはまるでしょうか。強盗罪の予備が行われている場合、さらに牽連犯の関係にある住居侵入が行われている場合、強盗の実行の着手前であるとはいっても、すでに結果発生の物理的因果性が生じているので、それを解消させるなどしなければ、離脱は認められないのではないかと思われます。そうすると、設問の事案のように、屋内にいる共犯者2名が強盗に着手する前の段階において、「危ないからもう待てない。先に帰る」とだけ伝え、その場を立ち去った場合、たとえ離脱の了承が認められたとしても、他の共犯者の犯行の継続を阻止するなど結果発生の物理的因果性を消滅させる必要があるように思います。


ウ 甲が、友人乙、丙、丁および戊(ぼ)と深夜歩道上で雑談をしていたところ、酩酊して通りかかったGと口論になり、Gが戊に対して暴行を加えたたため、甲ら4名はこれを阻止しようと、Gに対して殴る蹴るの暴行を加えた。これにより、Gは戊に対する暴行をやめ、悪態をつきながらその場を離れたものの、なおも乙の怒りは収まらず、Gに殴りかかり、手拳で顔面を殴打し、傷害を負わせた。この場合、乙の暴行を阻止しなかった甲には当初の共謀関係からの離脱は認められず、過剰防衛となる。
(参考)甲  乙  丙  丁  戊 己 庚  辛  壬  癸
    こう おつ へい てい ぼ き こう しん じん き
→認められる(過剰防衛にはならない)(誤り)
 これは、甲ら5人でGに対して共同して暴行を加え、正当防衛にあたる場合に、乙がGに対して行為を継続し、それが量的過剰防衛にあたる事案です。乙がGに暴行を加え傷害を負わせましたが、乙が行為を継続する前に甲ら4人が当初の暴行から離脱し、共犯関係が解消されているならば、甲らには過剰防衛は成立しません。


エ 甲は、乙と共謀のうえ、A宅に押し入り、乙がAの妻に刺身包丁を突きつけ金銭を要求したところ、Aの妻がわずか900円を差し出してきたため、「そんな金はいらん」と言い、乙にも「帰ろう」と言って先に外へ出た。この場合、甲には共犯関係からの離脱が認められるため、たとえ乙がAの妻から金銭を強取してきたとしても、甲には強盗未遂罪が成立し、それに中止犯の規定が適用される余地がある。
→認められない(誤り)
 甲・乙が強盗の実行に着手した後、甲に強盗の共犯からの離脱が認められるためには、乙に対して離脱の意思を表示し、かつ乙の犯行の継続を阻止しなければなりません。甲は「帰ろう」と言って先に外へ出ました。しかし、乙の犯行の継続を阻止しませんでした。甲には強盗の共犯からの離脱は認められません。


(1)0個 (2)1個 (3)2個 (4)3個 (5)4個 →こたえ(3)2個