第13回 共犯③ 共犯
問題17
判例 91、92、93、81、98
(1)身分犯と共犯
1刑法の役割と犯罪の一般的形態
刑法→犯罪と刑罰に関する法律
犯罪に対して刑罰を科すことで、
犯罪から個人・社会・国家の利益(法益)の保護
犯罪→客観的に存在する法益の侵害・危殆化(構成要件該当の違法行為)
その行為を行ったことの責任(有責性)
誰もが被害者になりうる。また誰もが加害者にもなりうる。
2犯罪の特殊的形態――身分犯
・構成的身分犯と真正身分犯
法益のなかには、
一定の社会的地位、職業、資格、人的属性・関係を
備えている行為者にしか侵害できないものががある
男女の性別
内外国人の別
親族の関係
公務員・医師・弁護士などの資格
一定の犯罪行為には、
このような行為者の人的関係や特殊的な地位・状態を
犯罪の成立要件の前提条件(行為者の要件)としているものがある。
強姦罪(旧規定) 行為主体は男性に限定
外国人登録証の携帯義務 外国人に限定
収賄罪 公務員に限定
尊属殺人罪(旧規定) 両親の子孫などの卑属に限定
秘密漏示罪 医師・弁護士などに限定
例えば、
収賄罪
公務員が職務に関して金銭などの利益を受け取る行為
公務の中立性が歪められているのではないかと
一般国民が疑念を抱くおそれがある
非公務員が職務に関連して利益を収受
非公務員の職務も重要であり、
その中立性が歪められているのではと危惧されるが、
刑法はそのような職務を保護していない。
公務員という職業・地位→身分
公務員であることが収賄罪の成立の前提要件
公務員であること=収賄罪の構成的身分
このような身分犯を
構成的身分犯または真正身分犯
という
・加重的身分犯・減軽的身分犯(加減的身分犯)・不真正身分犯
誰によっても侵害可能な法益を、
一定の特徴や属性を備えている行為者が侵害した場合、
その刑罰が加重・減軽される(とくに加重類型が多い)
単純遺棄罪(刑217・基本類型)と保護責任者遺棄罪(刑218:加重類型)
幼年者・老年者などを遺棄する行為
それを保護責任者が行う場合には加重
単純横領罪と業務上横領罪
他人の物の占有者がそれを領得する行為
それを業務者が行う場合には加重
【92】共犯と身分(2)
一般人による窃盗罪と親族による窃盗罪
他人の物を窃取する行為
それを親族間で行う場合は減軽・免除
このように行為者の属性によって
刑が加重または減軽される身分犯を
加減的身分犯または不真正身分犯
という。
3身分とは何か?
男女の性別、
内外国人の別、
親族の関係、
公務員・医師・弁護士などの資格
総じて一定の犯罪行為に関する行為者の人的関係
4身分概念の拡張傾向
・営利目的麻薬輸入罪における「営利の目的」
単純麻薬輸入罪と営利目的麻薬輸入罪
前者が麻薬輸入罪の基本類型
後者がその加重類型
加重の根拠は?
営利の目的に基づいて行ったこと
それは加重的身分?
【91】共犯と身分(1)
判例は、営利目的を「加重的身分」と捉えている
・事後強盗罪の行為主体である「窃盗」
事後強盗罪(刑238)
窃盗が
財物の奪い返しや現行犯逮捕を防ぎ、
また証拠隠滅を図る目的に基づいて
窃盗の被害者などに暴行・脅迫を加える行為
暴行・脅迫は誰が行っても犯罪として処罰可能
それを窃盗犯が被害者に上記の目的に基づいて行った場合
人身犯である暴行・脅迫が財産犯である強盗罪として扱われる
この「窃盗」は身分
人身犯である暴行・脅迫を財産犯である強盗罪として構成する身分?
暴行・脅迫の刑を強盗罪の刑にまで引き上げ、加重する身分?
【93】共犯と身分(3)
大阪高裁の事案では、構成的身分として理解されている。
ただし、「判例」といえるかどうか怪しい
最高裁の判断ではないから。
また、弁護人の控訴趣意は、「量刑不当」であったにもかかわらず、
高裁の判事がそれとは無関係なことを判断しているから(傍論)。
(2)身分犯の共犯
1刑法65条
犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、
身分のない者であっても、共犯とする(1項)。
身分によって特に刑の軽重があるときは、
身分のない者には通常の刑を科する(2項)。
2旧判例(旧通説)の理解
1項 身分犯への共犯についての一般規定
2項 身分の有無によって刑に軽重の差がある場合の個別的調整規定
構成的身分犯であれ、加減的身分犯であれ、
およそ身分犯に関与した者には、
65条1項が適用されて、身分犯の共犯が成立する。
ただし、関与した非身分者には、
65条2項が適用されて、
非身分者には非身分犯の罪が成立し、
その刑(通常の刑)が科される。
例1
政治家の公設秘書X(公務員)と私設秘書Y(非公務員)が
政治家の職務に関連して企業Zから金銭を収受した。
Zは贈賄罪の正犯
Xは収賄罪の正犯
では、Yは?
65条1項が適用されて、収賄罪が成立する。
XとYは収賄罪の共同正犯が成立。
しかも、非公務員のYには「通常の刑」を定めた犯罪が成立しないので、
65条2項を適用する必要はない。
例2
子どもAの母親Xが
Aを遺棄するために、ボーイフレンドYに協力を求め、
XはYの「協力」のもとに、Aを遺棄した。
Xには保護責任者遺棄罪(刑219)の正犯が成立。
Yには65条1項を適用し、保護責任者遺棄罪の幇助犯が成立。
ただし、保護責任者でないYには刑法65条2項を適用し、
「通常の刑」を定めた単純遺棄罪(刑217)を適用して、
単純遺棄罪の幇助犯の刑が科される。
Xは保護責任者遺棄罪の法定刑で処断され、
Yは単純遺棄罪の幇助犯(単純遺棄罪の法定刑を減軽)の刑で処断。
刑法65条1項・2項の解釈については、
次のように解されている。
まず、構成的身分犯、加減的身分犯のいずれであっても、
それに関与した身分のない共同正犯者・共犯者には、
刑法65条1項を適用し、
身分犯の共同正犯が成立するとしたうえで、
つぎに、それが加減的身分犯の場合には、
身分のない共同正犯者・共犯者には
65条2項を適用し、
刑が加重・減軽される前の基本類型の刑(通常の刑)
によって処断する(幇助の場合にだけ減軽→62条1項参照)。
なぜ、このような解釈をするかというと、
刑法65条1項は、
身分者・非身分者ともに違法行為を共同して行っているので、
違法性の連帯を規定した条項であり、
65条2項は、
関与者ごとの責任の個別化を規定した条項である。
従って、非身分者には、
身分によって刑が加重・減軽される前の「通常の刑」が科される。
このように理解している。
3現在の判例・通説
身分犯には
構成的身分犯
加減的身分犯
2種類の身分犯がある。
65条1項 構成的身分犯への非身分者の関与
→身分者と非身分者とは身分犯の共同正犯・共犯
65条2項 加減的身分犯への非身分者の関与
→身分者には身分犯が、非身分者には非身分犯が成立し、
共同正犯・共犯になる
現在の判例・通説は、
旧判例のような解釈はしていない。
65条1項は構成的身分犯の共犯に関する規定
65条2項は加減的身分犯の共犯に関する規定
明確に区別して、適用している。
4「身分のない者には通常の刑を科す」
加減的身分犯に非身分者が関与(共同正犯・共犯)した場合、
身分者には加減的身分犯が成立し、
非身分者には刑が加重・減軽される前の「通常の刑」が科される。
Xが実子Aを遺棄した(保護責任者遺棄罪)
内縁関係のYがXと共同して実行した(単純遺棄罪の共同正犯)
または内縁関係のYがXを手助けした(単純遺棄罪の幇助)
賭博の常習者Xが賭博を行った(常習賭博罪)
常習性のないYがXと共同して実行(単純賭博罪の共同正犯)
またはYがXに資金を提供した(単純遺棄罪の幇助)
では、
賭博の常習者ではないYが賭博を行った(単純賭博罪)
常習者のXがYと共同して実行した(常習賭博罪の共同正犯)
またはXがYに資金を提供した(○○賭博罪の幇助)
○○は常習賭博罪か、それとも単純賭博罪か?
刑法65② 身分のない者には通常の刑を科す。
この条文を適用して、
身分のある者に「通常の刑」を加重・減軽した刑を科せるか?
つまり、
常習者Xに
「通常の刑」である単純賭博罪の刑を加重した「常習賭博罪」の
刑を科せるか? 科せない!
常習者Xが非常習者Yに資金を提供した→単純賭博罪の幇助
5単純遺棄罪と保護責任者遺棄罪の関係
単純遺棄罪(刑217・基本類型)
幼年者・老年者などを遺棄する行為
保護責任者遺棄罪(刑218:加重類型)
それを保護責任者が行う場合には加重される
保護責任者Xと非保護責任者Yが共同してXの実子Aを遺棄(作為)
Xの保護責任者遺棄罪とYの単純遺棄罪の共同正犯
非保護責任者Yが保護責任者Xに教唆して、
Xの実子Aを遺棄させた(作為)
Xの保護責任者遺棄罪の正犯
Yには、刑法65条2項が適用されて、
単純遺棄罪の教唆犯
非保護責任者Yが保護責任者Xに教唆(作為)して、
Aの保護をさせなかった(不作為)
Xは保護責任者不保護罪(刑218条後段)の正犯
Yは○○罪の教唆犯?
保護責任者不保護罪という犯罪は、
保護責任者の不保護という不作為によって成立し、
非保護責任者が保護しなくても、成立しない。
つまり、保護責任者不保護罪は構成的身分犯である。
Xの保護責任者不保護を教唆したYには
刑法65条1項が適用されて、
保護責任者不保護罪の教唆犯になる。
しかし、そうすると、
YがXに保護責任者遺棄罪(作為)を教唆した場合に
Yに単純遺棄罪の教唆犯が成立するのと比べると、
不均衡ではないだろうか?
しかし、この場合、
YがXに保護責任者不保護を教唆したのは作為の方法によるので、
Yには刑法65条2項を適用して、
単純遺棄罪の教唆が成立すると解するのが妥当。
(3)必要的共犯
1犯罪の一般的形態――単独正犯と共同正犯
正犯の形式は、
基本的・原則的に
構成要件に該当する行為を1人で実行する
共同正犯の形式(刑60)
構成要件に該当する行為を2人以上で実行する
2犯罪の特殊的形態――必要的共犯
構成要件に該当する行為を2人以上で実行するが、
2人以上で実行することがすでに想定されている場合
集団犯と対向犯
集団犯
内乱罪(刑77)、
騒乱罪(106)、
凶器準備集合罪(208の2)
これらの犯罪には共犯規定の適用は不要(集団内部で刑種と刑量に差がある)
対向犯1
重婚罪(184)と賭博罪(185)
これらの犯罪は相手の存在を前提とし、
本人も相手も同じ犯罪が成立するので、
共犯規定の適用は不要
対向犯2
収賄罪(197)と贈賄罪(198)
この犯罪は相手の存在を前提とし、
異なる犯罪が成立するので、共犯規定は適用されない
民間業者Xが公務員Yを誘って、わいろを提供した。
民間業者X 贈賄罪
公務員Y 収賄罪
民間業者Xは、公務員Yに収賄するよう唆した場合でも、
それは贈賄の一環として行われた行為であり、
贈賄行為に含めて評価されるので、
民間業者Xには、公務員Yの収賄の教唆は成立しない。
3対向犯の一方のみが処罰され、他方は処罰されない
・わいせつ物頒布(175)
わいせつ物を頒布・配布した人を処罰する
X1はY1にわいせつ物を頒布するよう依頼し、
Y1がX1にわいせつ物を頒布した。
Y1 わいせつ物頒布罪の正犯
X1 わいせつ物収受罪?(そのような犯罪はない)
しかし、Y1はX1にわいせつ物を頒布するよう依頼した。
これはわいせつ物頒布罪の教唆にあたるか?
・自殺関与罪・同意殺人罪(202)
自殺希望者X2が、自殺用の薬物の調達をY2に依頼した。
X2はY2から薬物を受け取り、それを用いたが未遂に終わった。
X2 自殺未遂(自殺未遂罪という犯罪はない)
Y2 X2に対する自殺幇助の未遂(自殺未遂の幇助罪)。
では、Y2に薬物の調達を依頼したX2は、
Y2の「自殺幇助の未遂」の教唆?
・犯罪として処罰されるのは原則的に正犯であるが、
教唆犯や幇助犯は正犯でないにもかかわらず、処罰される。
それはなぜか。
それは教唆犯・幇助犯は、
正犯を介して構成要件の実現に関与しているから。
その構成要件は、正犯だけでなく、教唆犯・幇助犯から見ても、
違法な結果であるから、
教唆犯・幇助犯はそれを間接的に実現したとして処罰される。
例えば、XがYを教唆して、Zにわいせつ物を頒布させた。
XがYを教唆して、Zの自殺(未遂)を幇助させた。
Zへのわいせつ物の頒布は、Xが行った場合でも違法な結果であり、
Zの自殺(未遂)の幇助は、Xが行った場合でも違法な結果である。
つまり、XがYを介して実現した結果が、
Xから見ても違法な結果である場合に、
Xは共犯の責任を負う。
では、X1がY1を介して実現した結果、
またX2がY2を介して実現した結果は、
X1・X2から見て、違法な結果であるといえるか?
Y1のわいせつ物の頒布をX1が自分に行っても、
Y2の自殺幇助未遂をX2が自分に行っても、
犯罪にはならない。その行為には法益侵害性はないから。
従って、X1・X2がその行為をY1・Y2に行わせても、
犯罪(教唆)には問われない。
【98】必要的共犯
弁護士資格のない者Xの弁護士業務は非弁行為として処罰される。
業務を依頼したYは、その教唆?
・自分が犯した犯罪の証拠を他人に隠滅するよう教唆した場合
禁錮刑以上の刑が科される罪を犯した者がある家に隠れた。
犯人自身が隠れた場合、犯人蔵匿罪にはあたらない。
それは広い意味での防御権を行使する行為の一環。
他人が犯人をかくまう行為だけが犯人蔵匿罪にあたる。
犯人Xが友人Yに依頼して、かくまわせた。
Yは犯人蔵匿罪の正犯。
Xはその教唆?
Xが隠れても、防御権の一環であり、犯人蔵匿罪にはあたらないが、
その行為を他人にさせるのは、防御権の濫用である。
したがって、XにはYに対する犯人蔵匿罪の教唆が成立する(判例)
この判例には批判あり。
(4)予備罪の共同正犯
1予備罪の幇助
刑法201 殺人予備罪
YがA殺害のために、自ら準備をした→X殺人予備罪
予備罪とは、自己予備(自分の殺人目的を実現するための予備罪)
では、他人の殺人目的を実現するための予備は?
YにはA殺害目的あり、XにはA殺害の目的なし。
XとYが共同して準備を行う→殺人予備の共同正犯?
殺人予備罪は自己予備罪に限る。目的のないXには殺人予備罪の正犯は不成立。
ただし、Yの殺人予備罪も1個の犯罪であり、刑法62条の「正犯」であるので、
XはYの殺人予備の幇助として処罰される余地はある。
Yが殺人目的を持っていることをXが認識していれば、
Xに目的がなくても殺人予備罪の幇助は成立する。
2予備罪の共同正犯
・刑法43条の「犯罪の実行に着手し」の「犯罪」とは?
この「犯罪」は既遂類型である。
刑法60条の「共同して犯罪を実行し」の「犯罪」とは?
この「犯罪」も既遂類型である。
したがって、
犯罪の共同実行の着手前の行為(予備行為)が犯罪(予備罪)であっても、
それは43条・60条の「犯罪」ではない。
実行の着手前の行為が予備罪であっても、それは43条・60条の「犯罪」ではない。
したがって、予備罪には未遂や共同正犯もありえない。
教唆・幇助の対象も、43条・60条の「犯罪」であるなら、
予備罪の教唆・幇助は成立しえないことになる。
しかし、予備罪もまた処罰される以上、「犯罪」である。
予備罪の共同正犯、予備罪への教唆犯・幇助犯の成立を肯定できる。
【81】殺人予備罪の共同正犯
問題17
判例 91、92、93、81、98
(1)身分犯と共犯
1刑法の役割と犯罪の一般的形態
刑法→犯罪と刑罰に関する法律
犯罪に対して刑罰を科すことで、
犯罪から個人・社会・国家の利益(法益)の保護
犯罪→客観的に存在する法益の侵害・危殆化(構成要件該当の違法行為)
その行為を行ったことの責任(有責性)
誰もが被害者になりうる。また誰もが加害者にもなりうる。
2犯罪の特殊的形態――身分犯
・構成的身分犯と真正身分犯
法益のなかには、
一定の社会的地位、職業、資格、人的属性・関係を
備えている行為者にしか侵害できないものががある
男女の性別
内外国人の別
親族の関係
公務員・医師・弁護士などの資格
一定の犯罪行為には、
このような行為者の人的関係や特殊的な地位・状態を
犯罪の成立要件の前提条件(行為者の要件)としているものがある。
強姦罪(旧規定) 行為主体は男性に限定
外国人登録証の携帯義務 外国人に限定
収賄罪 公務員に限定
尊属殺人罪(旧規定) 両親の子孫などの卑属に限定
秘密漏示罪 医師・弁護士などに限定
例えば、
収賄罪
公務員が職務に関して金銭などの利益を受け取る行為
公務の中立性が歪められているのではないかと
一般国民が疑念を抱くおそれがある
非公務員が職務に関連して利益を収受
非公務員の職務も重要であり、
その中立性が歪められているのではと危惧されるが、
刑法はそのような職務を保護していない。
公務員という職業・地位→身分
公務員であることが収賄罪の成立の前提要件
公務員であること=収賄罪の構成的身分
このような身分犯を
構成的身分犯または真正身分犯
という
・加重的身分犯・減軽的身分犯(加減的身分犯)・不真正身分犯
誰によっても侵害可能な法益を、
一定の特徴や属性を備えている行為者が侵害した場合、
その刑罰が加重・減軽される(とくに加重類型が多い)
単純遺棄罪(刑217・基本類型)と保護責任者遺棄罪(刑218:加重類型)
幼年者・老年者などを遺棄する行為
それを保護責任者が行う場合には加重
単純横領罪と業務上横領罪
他人の物の占有者がそれを領得する行為
それを業務者が行う場合には加重
【92】共犯と身分(2)
一般人による窃盗罪と親族による窃盗罪
他人の物を窃取する行為
それを親族間で行う場合は減軽・免除
このように行為者の属性によって
刑が加重または減軽される身分犯を
加減的身分犯または不真正身分犯
という。
3身分とは何か?
男女の性別、
内外国人の別、
親族の関係、
公務員・医師・弁護士などの資格
総じて一定の犯罪行為に関する行為者の人的関係
4身分概念の拡張傾向
・営利目的麻薬輸入罪における「営利の目的」
単純麻薬輸入罪と営利目的麻薬輸入罪
前者が麻薬輸入罪の基本類型
後者がその加重類型
加重の根拠は?
営利の目的に基づいて行ったこと
それは加重的身分?
【91】共犯と身分(1)
判例は、営利目的を「加重的身分」と捉えている
・事後強盗罪の行為主体である「窃盗」
事後強盗罪(刑238)
窃盗が
財物の奪い返しや現行犯逮捕を防ぎ、
また証拠隠滅を図る目的に基づいて
窃盗の被害者などに暴行・脅迫を加える行為
暴行・脅迫は誰が行っても犯罪として処罰可能
それを窃盗犯が被害者に上記の目的に基づいて行った場合
人身犯である暴行・脅迫が財産犯である強盗罪として扱われる
この「窃盗」は身分
人身犯である暴行・脅迫を財産犯である強盗罪として構成する身分?
暴行・脅迫の刑を強盗罪の刑にまで引き上げ、加重する身分?
【93】共犯と身分(3)
大阪高裁の事案では、構成的身分として理解されている。
ただし、「判例」といえるかどうか怪しい
最高裁の判断ではないから。
また、弁護人の控訴趣意は、「量刑不当」であったにもかかわらず、
高裁の判事がそれとは無関係なことを判断しているから(傍論)。
(2)身分犯の共犯
1刑法65条
犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、
身分のない者であっても、共犯とする(1項)。
身分によって特に刑の軽重があるときは、
身分のない者には通常の刑を科する(2項)。
2旧判例(旧通説)の理解
1項 身分犯への共犯についての一般規定
2項 身分の有無によって刑に軽重の差がある場合の個別的調整規定
構成的身分犯であれ、加減的身分犯であれ、
およそ身分犯に関与した者には、
65条1項が適用されて、身分犯の共犯が成立する。
ただし、関与した非身分者には、
65条2項が適用されて、
非身分者には非身分犯の罪が成立し、
その刑(通常の刑)が科される。
例1
政治家の公設秘書X(公務員)と私設秘書Y(非公務員)が
政治家の職務に関連して企業Zから金銭を収受した。
Zは贈賄罪の正犯
Xは収賄罪の正犯
では、Yは?
65条1項が適用されて、収賄罪が成立する。
XとYは収賄罪の共同正犯が成立。
しかも、非公務員のYには「通常の刑」を定めた犯罪が成立しないので、
65条2項を適用する必要はない。
例2
子どもAの母親Xが
Aを遺棄するために、ボーイフレンドYに協力を求め、
XはYの「協力」のもとに、Aを遺棄した。
Xには保護責任者遺棄罪(刑219)の正犯が成立。
Yには65条1項を適用し、保護責任者遺棄罪の幇助犯が成立。
ただし、保護責任者でないYには刑法65条2項を適用し、
「通常の刑」を定めた単純遺棄罪(刑217)を適用して、
単純遺棄罪の幇助犯の刑が科される。
Xは保護責任者遺棄罪の法定刑で処断され、
Yは単純遺棄罪の幇助犯(単純遺棄罪の法定刑を減軽)の刑で処断。
刑法65条1項・2項の解釈については、
次のように解されている。
まず、構成的身分犯、加減的身分犯のいずれであっても、
それに関与した身分のない共同正犯者・共犯者には、
刑法65条1項を適用し、
身分犯の共同正犯が成立するとしたうえで、
つぎに、それが加減的身分犯の場合には、
身分のない共同正犯者・共犯者には
65条2項を適用し、
刑が加重・減軽される前の基本類型の刑(通常の刑)
によって処断する(幇助の場合にだけ減軽→62条1項参照)。
なぜ、このような解釈をするかというと、
刑法65条1項は、
身分者・非身分者ともに違法行為を共同して行っているので、
違法性の連帯を規定した条項であり、
65条2項は、
関与者ごとの責任の個別化を規定した条項である。
従って、非身分者には、
身分によって刑が加重・減軽される前の「通常の刑」が科される。
このように理解している。
3現在の判例・通説
身分犯には
構成的身分犯
加減的身分犯
2種類の身分犯がある。
65条1項 構成的身分犯への非身分者の関与
→身分者と非身分者とは身分犯の共同正犯・共犯
65条2項 加減的身分犯への非身分者の関与
→身分者には身分犯が、非身分者には非身分犯が成立し、
共同正犯・共犯になる
現在の判例・通説は、
旧判例のような解釈はしていない。
65条1項は構成的身分犯の共犯に関する規定
65条2項は加減的身分犯の共犯に関する規定
明確に区別して、適用している。
4「身分のない者には通常の刑を科す」
加減的身分犯に非身分者が関与(共同正犯・共犯)した場合、
身分者には加減的身分犯が成立し、
非身分者には刑が加重・減軽される前の「通常の刑」が科される。
Xが実子Aを遺棄した(保護責任者遺棄罪)
内縁関係のYがXと共同して実行した(単純遺棄罪の共同正犯)
または内縁関係のYがXを手助けした(単純遺棄罪の幇助)
賭博の常習者Xが賭博を行った(常習賭博罪)
常習性のないYがXと共同して実行(単純賭博罪の共同正犯)
またはYがXに資金を提供した(単純遺棄罪の幇助)
では、
賭博の常習者ではないYが賭博を行った(単純賭博罪)
常習者のXがYと共同して実行した(常習賭博罪の共同正犯)
またはXがYに資金を提供した(○○賭博罪の幇助)
○○は常習賭博罪か、それとも単純賭博罪か?
刑法65② 身分のない者には通常の刑を科す。
この条文を適用して、
身分のある者に「通常の刑」を加重・減軽した刑を科せるか?
つまり、
常習者Xに
「通常の刑」である単純賭博罪の刑を加重した「常習賭博罪」の
刑を科せるか? 科せない!
常習者Xが非常習者Yに資金を提供した→単純賭博罪の幇助
5単純遺棄罪と保護責任者遺棄罪の関係
単純遺棄罪(刑217・基本類型)
幼年者・老年者などを遺棄する行為
保護責任者遺棄罪(刑218:加重類型)
それを保護責任者が行う場合には加重される
保護責任者Xと非保護責任者Yが共同してXの実子Aを遺棄(作為)
Xの保護責任者遺棄罪とYの単純遺棄罪の共同正犯
非保護責任者Yが保護責任者Xに教唆して、
Xの実子Aを遺棄させた(作為)
Xの保護責任者遺棄罪の正犯
Yには、刑法65条2項が適用されて、
単純遺棄罪の教唆犯
非保護責任者Yが保護責任者Xに教唆(作為)して、
Aの保護をさせなかった(不作為)
Xは保護責任者不保護罪(刑218条後段)の正犯
Yは○○罪の教唆犯?
保護責任者不保護罪という犯罪は、
保護責任者の不保護という不作為によって成立し、
非保護責任者が保護しなくても、成立しない。
つまり、保護責任者不保護罪は構成的身分犯である。
Xの保護責任者不保護を教唆したYには
刑法65条1項が適用されて、
保護責任者不保護罪の教唆犯になる。
しかし、そうすると、
YがXに保護責任者遺棄罪(作為)を教唆した場合に
Yに単純遺棄罪の教唆犯が成立するのと比べると、
不均衡ではないだろうか?
しかし、この場合、
YがXに保護責任者不保護を教唆したのは作為の方法によるので、
Yには刑法65条2項を適用して、
単純遺棄罪の教唆が成立すると解するのが妥当。
(3)必要的共犯
1犯罪の一般的形態――単独正犯と共同正犯
正犯の形式は、
基本的・原則的に
構成要件に該当する行為を1人で実行する
共同正犯の形式(刑60)
構成要件に該当する行為を2人以上で実行する
2犯罪の特殊的形態――必要的共犯
構成要件に該当する行為を2人以上で実行するが、
2人以上で実行することがすでに想定されている場合
集団犯と対向犯
集団犯
内乱罪(刑77)、
騒乱罪(106)、
凶器準備集合罪(208の2)
これらの犯罪には共犯規定の適用は不要(集団内部で刑種と刑量に差がある)
対向犯1
重婚罪(184)と賭博罪(185)
これらの犯罪は相手の存在を前提とし、
本人も相手も同じ犯罪が成立するので、
共犯規定の適用は不要
対向犯2
収賄罪(197)と贈賄罪(198)
この犯罪は相手の存在を前提とし、
異なる犯罪が成立するので、共犯規定は適用されない
民間業者Xが公務員Yを誘って、わいろを提供した。
民間業者X 贈賄罪
公務員Y 収賄罪
民間業者Xは、公務員Yに収賄するよう唆した場合でも、
それは贈賄の一環として行われた行為であり、
贈賄行為に含めて評価されるので、
民間業者Xには、公務員Yの収賄の教唆は成立しない。
3対向犯の一方のみが処罰され、他方は処罰されない
・わいせつ物頒布(175)
わいせつ物を頒布・配布した人を処罰する
X1はY1にわいせつ物を頒布するよう依頼し、
Y1がX1にわいせつ物を頒布した。
Y1 わいせつ物頒布罪の正犯
X1 わいせつ物収受罪?(そのような犯罪はない)
しかし、Y1はX1にわいせつ物を頒布するよう依頼した。
これはわいせつ物頒布罪の教唆にあたるか?
・自殺関与罪・同意殺人罪(202)
自殺希望者X2が、自殺用の薬物の調達をY2に依頼した。
X2はY2から薬物を受け取り、それを用いたが未遂に終わった。
X2 自殺未遂(自殺未遂罪という犯罪はない)
Y2 X2に対する自殺幇助の未遂(自殺未遂の幇助罪)。
では、Y2に薬物の調達を依頼したX2は、
Y2の「自殺幇助の未遂」の教唆?
・犯罪として処罰されるのは原則的に正犯であるが、
教唆犯や幇助犯は正犯でないにもかかわらず、処罰される。
それはなぜか。
それは教唆犯・幇助犯は、
正犯を介して構成要件の実現に関与しているから。
その構成要件は、正犯だけでなく、教唆犯・幇助犯から見ても、
違法な結果であるから、
教唆犯・幇助犯はそれを間接的に実現したとして処罰される。
例えば、XがYを教唆して、Zにわいせつ物を頒布させた。
XがYを教唆して、Zの自殺(未遂)を幇助させた。
Zへのわいせつ物の頒布は、Xが行った場合でも違法な結果であり、
Zの自殺(未遂)の幇助は、Xが行った場合でも違法な結果である。
つまり、XがYを介して実現した結果が、
Xから見ても違法な結果である場合に、
Xは共犯の責任を負う。
では、X1がY1を介して実現した結果、
またX2がY2を介して実現した結果は、
X1・X2から見て、違法な結果であるといえるか?
Y1のわいせつ物の頒布をX1が自分に行っても、
Y2の自殺幇助未遂をX2が自分に行っても、
犯罪にはならない。その行為には法益侵害性はないから。
従って、X1・X2がその行為をY1・Y2に行わせても、
犯罪(教唆)には問われない。
【98】必要的共犯
弁護士資格のない者Xの弁護士業務は非弁行為として処罰される。
業務を依頼したYは、その教唆?
・自分が犯した犯罪の証拠を他人に隠滅するよう教唆した場合
禁錮刑以上の刑が科される罪を犯した者がある家に隠れた。
犯人自身が隠れた場合、犯人蔵匿罪にはあたらない。
それは広い意味での防御権を行使する行為の一環。
他人が犯人をかくまう行為だけが犯人蔵匿罪にあたる。
犯人Xが友人Yに依頼して、かくまわせた。
Yは犯人蔵匿罪の正犯。
Xはその教唆?
Xが隠れても、防御権の一環であり、犯人蔵匿罪にはあたらないが、
その行為を他人にさせるのは、防御権の濫用である。
したがって、XにはYに対する犯人蔵匿罪の教唆が成立する(判例)
この判例には批判あり。
(4)予備罪の共同正犯
1予備罪の幇助
刑法201 殺人予備罪
YがA殺害のために、自ら準備をした→X殺人予備罪
予備罪とは、自己予備(自分の殺人目的を実現するための予備罪)
では、他人の殺人目的を実現するための予備は?
YにはA殺害目的あり、XにはA殺害の目的なし。
XとYが共同して準備を行う→殺人予備の共同正犯?
殺人予備罪は自己予備罪に限る。目的のないXには殺人予備罪の正犯は不成立。
ただし、Yの殺人予備罪も1個の犯罪であり、刑法62条の「正犯」であるので、
XはYの殺人予備の幇助として処罰される余地はある。
Yが殺人目的を持っていることをXが認識していれば、
Xに目的がなくても殺人予備罪の幇助は成立する。
2予備罪の共同正犯
・刑法43条の「犯罪の実行に着手し」の「犯罪」とは?
この「犯罪」は既遂類型である。
刑法60条の「共同して犯罪を実行し」の「犯罪」とは?
この「犯罪」も既遂類型である。
したがって、
犯罪の共同実行の着手前の行為(予備行為)が犯罪(予備罪)であっても、
それは43条・60条の「犯罪」ではない。
実行の着手前の行為が予備罪であっても、それは43条・60条の「犯罪」ではない。
したがって、予備罪には未遂や共同正犯もありえない。
教唆・幇助の対象も、43条・60条の「犯罪」であるなら、
予備罪の教唆・幇助は成立しえないことになる。
しかし、予備罪もまた処罰される以上、「犯罪」である。
予備罪の共同正犯、予備罪への教唆犯・幇助犯の成立を肯定できる。
【81】殺人予備罪の共同正犯