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Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第12回 有価証券偽造の罪 2016年12月15日)

2016-12-13 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 社会的法益に対する犯罪――公共の信用に対する罪・風俗に対する罪
 第12回 有価証券偽造罪

(1)有価証券偽造罪・有価証券虚偽記入罪
 有価証券偽造の罪は、経済的取引の安全を確保するために、有価証券に対する公共の信用を保護することを目的としています。

 有価証券とは、国債、株券、手形、小切手などです。それらは、一方で債権・債務の関係、権利・義務の関係を証明する「文書」としての側面を持っています。それと同時に、他方で財産権があることを表示するものでもあります。また、一般社会において流通する性格を持ち、通貨に共通する性格を持ち備えています。

 従って、有価証券偽造の罪は、通貨偽造の罪に次ぐ性質を持っています。ただし、有価証券のなかには、通貨のような流通性を持たないものも含まれていることに注意する必要があります

1有価証券偽造罪・有価証券虚偽記入罪
 刑法162条① 行使の目的で、公債証書、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券を偽造し、又は変造した者は、3月以上10年以下の懲役に処する。
 ② 行使の目的で、有価証券に虚偽の記入をした者も、同様とする。

ⅰ客体
 有価証券とは、財産上の権利が表示されているものです。例えば、国債、地方債、株券のほか、手形、小切手、社債券、商品券などです。取引上の流通性を有していることは必要ではなく、例えば私鉄電車の定期乗車券も有価証券に含まれます(最判昭32・7・25刑集11・7・2037)。「当選した宝くじ」も、転売が禁止され、流通性がありませんが、有価証券にあたります(最決昭33・1・16刑集12・1・25)。表示された権利を行使するためには、その証券を占有していなければなりません。

 判例は、テレホンカードが有価証券があたると認定しています。何故ならば、磁気情報の部分、券面上に記載されている度数の部分、それらと外観を一体として見れば、テレホンカードは、電話による通話というサービスを提供してもらえる財産上の権利が表示されているといえるからです。従って、テレホンカードの磁気情報部分を変更し、通話可能度数を増加させるなどした場合、有価証券の「変造」にあたります。また、それをカード式公衆電話で使用した場合、変造有価証券の行使にあたります(最決平3・4・5刑集45・4・171)。

 学説によれば、テレホンカードの変造は有価証券の変造ではなく、電磁的記録不正作出罪(161条の2)にあたると批判するものがあります。例えば、Aがテレホンカードを変造し、それをBに手渡し、BがそれをCに「交付」した場合、判例によればAには有価証券変造罪が成立します。学説によれば、Aには電磁的記録不正作出罪(161条の2①)が成立します。では、Bに何罪が成立するのでしょうか。学説からは、不正作出電磁的記録供用罪(同条②)の成立が認められるのでしょうか。しかし、「交付」は「供用」(使用)ではないので、同罪の成立を認められません。従って、学説からはBは不処罰です。しかし、判例のようにテレホンカードを有価証券と捉えるならば、Bには変造有価証券交付罪(163条)が成立します。判例がテレホンカードの有価証券性にこだわったのは、「変造テレホンカードの交付」を不処罰にするのを回避するためであったと思われます。

 ただし、平成13年(2001年)に、「支払用カード電磁的記録不正作出罪」(163条の2)が制定されたことによって、立法的な解決が図られました。同条3項に「行使の目的での支払用カードの譲り渡し」を処罰する規定が設けらました。従って、「変造テレホンカードの交付」を「変造有価証券交付罪」と判断する必要はなく、「譲り渡し」として扱えばよくなりました。今後はテレホンカードを「有価証券」や「電磁的記録」として扱わずに、「支払用カード」として扱い、それの第三者への交付を「不正作出支払用カード譲渡罪」(163条の2③)で対処すればよいということでう。

ⅱ行為
①偽造
 偽造とは、有価証券を作成する権限を持たない者が、他人の名義を冒用して、真正な有価証券と同じような外観のものを作成することです。通用期間が経過し、効力を失った鉄道の定期券(それは真正な有価証券ではない)の日付の書き換えた行為が「偽造」にあたると判断されています(大判大12・2・15刑集2・78)。通用期間が過ぎた定期券は、もはや真正な有価証券ではないからです。日付を書き換えただけでなく、架空人の名義によって書き換えた場合でも偽造にあたります。

②変造
 変造とは、有価証券の作成権限を持たない者が、他人名義の真正な有価証券に不正な変更を加えることです。手形の振出日付や受取日付の改ざん(大判大3・5・7刑録20・782)、小切手の金額欄の数字の改ざん(最判昭36・9・29刑集15・8・1525)などが変造にあたると解されています。

 テレホンカードの磁気情報の部に記録された通話可能度数を権限なく改ざんする行為は、真正に作成された有価証券を権限なく変更を加えるものなので、変造にあたると判断されていましたが(最決平3・4・5刑集45・4・171)、刑法の一部改正により、支払用カード電磁的記録不正作出罪(163条の2)が制定されましたので、それによって対処されるようになったことは、すでに説明しました。

 有価証券の偽造・変造は、それを作成する権限を持たない者によって行なわれます。その意味で、文書偽造罪における「有形偽造」に相当します(作成権限を持つ者によって行なわれるのを「無形偽造」といいます)。

③虚偽記入
 虚偽記入とは、有価証券に真実に反する記載をすることです。行使の目的が必要です。

 有価証券を「作成権限のある者」が虚偽記入した場合に、虚偽記入にあたるますが、「作成権限のない者」が行なった場合もまた虚偽記入にあたるのか、それとも偽造・変造になるのかについては、争いがあります。判例は、有価証券の発行などの「基本的証券行為」以外の「裏書、引受け、保証など」のような付随証券行為について、「作成権限のない者」が他人の名義を冒用して行なう場合、虚偽記入にあたると解しています(最決昭32・1・17刑集11・1・23)。ただし、学説は、「作成権限のない者に」よる虚偽記入は「偽造」と解しています。

2偽造有価証券行使・交付・輸入罪
 刑法163条① 偽造若しくは変造の有価証券又は偽造の記入がある有価証券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者は、3月以上10年以下の懲役に処する。
 ② 前項の罪の未遂は、罰する。

 本罪は、偽造・変造・虚偽記入された有価証券を「行使」、「交付」、「輸入」することです。
 行使とは、真正な有価証券の効用に従い、流通に置くことを含め、閲覧可能な状態にすることをいいます。見せ手形として使用した場合でも行使にあたると解されています(大判明44・3・21刑録17・482)。
 交付とは、偽造有価証券であることを知っている者にそれを引き渡し、占有を移転することをいいます(大判昭2・6・28刑集6・235)。行使の目的が必要です。事情を知らない善意の者に引き渡した場合、行使にあたります。引き渡された者が、それが偽造手形であることを後に知り、真実の署名を行なった手形債務者に対して、その手形を呈示して、弁済を請求しても、それは当然の権利なので、偽造有価証券の行使にはあたりません(大判大3・11・28刑録20・2277)。偽造通貨に関する取得後知情行使罪のような規定は、有価証券の罪にはありません。

 輸入とは、外国から日本国内に持ち込むことをいいます。

 行使・交付・輸入については、いずれも未遂が処罰されます。
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