Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

第5回講義「刑法Ⅱ(各論)」(2013.10.29.)

2013-10-29 | 日記
 刑法Ⅱ(各論)第5回(10月29日) 個人的法益に対する罪--人格・信用・業務に対する罪
(1)秘密に対する罪 (2)名誉棄損罪・侮辱罪 (3)信用・業務に対する罪

(1)秘密に対する罪
1基本的性格
 秘密 個人の秘密――非公知性 隠匿意思 隠匿の利益
    国家秘密と営業秘密
    国家公務員法・地方公務員法上の「秘密漏示罪」とその「漏示のそそのかし罪」
    不正競争防止罪

2信書開封罪(133)
 正当な理のなく信書を開封する行為

 信書  特定の人(自然人・法人)から特定の人(自然人・法人)へ宛てられた文書
     意思伝達文書、事実記載文書

 封   内部が見れないように施された装置(糊づけ、ホッチキス)

 開封  封を開けることで成立(秘密が知られたことを要しない:危険犯)

 親告罪 発信前は発信者。受信後は発信者と受信者(大判昭11・3・24刑集15巻307頁)

3秘密漏示罪(134)
 主体  医師・薬剤師・医薬品販売業者・助産婦・弁護士・弁護人・公証人
     または元職の人(1項)
     宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者またはこれらの職にあった者
     構成的身分犯→共犯の問題として刑65①の適用問題

 漏示  秘密を知らない人に告知する(作為)
     不作為による告知

 親告罪

(2)名誉棄損罪・侮辱罪
1基本的性格
 名誉  外部的名誉・社会的名誉(人に対する社会的評価)
     「虚名」(事実上の評価。真実を暴露しても名誉毀損にあたる)

2名誉毀損罪(230)
成立要件
 客体  特定の人(法人・団体を含む)の名誉(大判大15・3・24刑集5巻117頁)

 公然  摘示された事実を不特定または多数の人が認識しうる状態

     特定または少数人からの伝播可能性(最判昭34・5・7刑集13巻5号641頁)

 事実の摘示 社会的評価を引き下げ得るような具体的事実(真実か虚偽かは問わない)

       公知の事実も含まれる(大判大5・12・13刑録22輯1822頁)

 摘示の方法 確定的な事実として摘示するだけでなく、噂・風評・風聞の形態も含まれる

 名誉の毀損 社会的評価の実際の低下は不要(立証の困難:危険犯)

真実性の証明による免責(230の2)
 名誉の保護と言論・表現の自由の保障とのバランス→不処罰理由=違法性阻却

 事実の公共性 プライベートな事実も含まれる(最判昭56・4・16刑集35巻3号84頁)

 目的の公益性 主たる目的の公益性(東京地判昭58・6・10判時1084号37頁)

 真実性の証明 上記2要件を満たしたうえで、真実性の証明が必要。
        摘示された事実の全部ではなく、
        その主要・重要部分の真実性を証明すれば足りる

        証明の程度 「厳格な証明」ではなく、「証拠の優越」

 真実性の錯誤 真実であると勘違いしたことが、
        確実な証拠・資料に照らし、相当の理由があるならば、
 
        名誉毀損罪の「違法性の認識」または「違法性の認識の可能性」なし

→厳格故意説または制限故意説からは「故意」が阻却される

        判例:名誉毀損罪の故意なし(最大判昭44・6・25刑集23巻7号975頁)

 公訴提起前の犯罪に関する事実(事実の公益性あり)

 公務員または公選の公務員の候補者に関する事実(事実の公共性と目的の公益性あり)

 死者の名誉  公然と虚偽の事実の摘示→死者の(生前の)外部的・社会的評価

3侮辱罪(231)
 保護法益 名誉毀損罪と同じ外部的・社会的評価

 侮辱   事実を摘示することなく、人の社会的評価に対して否定的価値判断を示すこと

4親告罪
 親告罪

(3)信用・業務に対する罪
1基本的性格
 信用 経済活動における人の評価(摘示した事実が真実だった場合、処罰されない)
毀損 侵害犯ではなく、危険犯(毀損の発生は不要。そのおそれで足りる)

 業務 職業その他社会生活上の地位に基づいて反復・継続して行われる事務または事業
    違法な業務の要保護性
    →事実上、平穏に行なわれ、適法な外観がうかがわれる場合にのみ保護される

2信用棄損罪(233)
 虚偽の風説の流布 客観的事実に反するうわさや情報の不特定または多数の人への伝播

 偽計 人を偽罔し、または人の錯誤・不知を利用すること

 毀損 経済活動における人の信用を低下させること

3業務妨害罪(233・234・234の2)
 業務と公務 公務――強制力を行使する権力的公務
           強制力の行使を伴わない非権力的公務は「業務」として扱う

 虚偽の風説の流布・偽計
  虚偽の犯罪予告を行い、警察を緊急配備させ、その通常の作業を妨害した場合
  →偽計業務妨害

 威力 人の意思を制圧するに足りる勢力の行使(暴行・脅迫よりも制圧作用が弱い)

 威力を用いて、警察の通常の作業を妨害しようとした→威力業務妨害罪?

 電子計算機 人の業務に使用する電子計算機 作動阻害惹起行為 作動阻害

 業務の妨害 業務妨害の危険(危険犯)


 第6回 練習問題
(1)秘密を犯す罪について

・刑法134条の秘密漏示罪の行為主体は、一定の職業に従事している者または従事していた者に限定されているが、その理由を述べなさい。


・新聞記者Aは、日米政府間の密約の取材をするために、外務省の女性職員Xと男女の関係を結んだ。
 そして、その情を利用して密約に関する情報を調べさせ、報告させた。Aの罪責を論じなさい。


(2)名誉棄損罪・侮辱罪について

・個人の名誉は、摘示された事実の有無に関わらず保護されるので、事実を摘示して「虚名」を暴く
 行為も名誉毀損罪にあたる。名誉棄損罪の保護法益の内容を踏まえて、その理由を述べなさい。


・刑法230条の2は、個人の名誉の保護と言論・表現の自由の保障とを調和させるために、
 摘示された事実の公共性、摘示した目的の公益性、摘示された事実の真実性の3点を証明した場合
 には名誉棄損罪として処罰しないことを定めている。不処罰の根拠について述べなさい。


・Aは国会議員Xの議員としてのあるまじき日常を告発するために、政治家としての言動のみならず、
 そのプライベートな不祥事をも記事にして週刊誌に掲載した。しかし、その不祥事の情報は、
 Xの関係者から寄せられたガセネタであった。Aの罪責を論じなさい。


(3)信用・業務に対する罪について

1Aは、私立病院の医療事務に従事するXに対して威力を用いて妨害した。
 Aの罪責を論じなさい。

 Bは、国立病院の医療事務に従事するYに対して威力を用いて妨害した。
 Bの罪責を論じなさい。


2Aは、パトロール中の警察官Xに対して暴行を加えた。Aの罪責を論じなさい。

 Bは、パトロール中の警察官Yに対して威力を行使した。Bの罪責を論じなさい。

 Cは、銀行の警備員Zに威力を加えたが、その仕事を妨害できなかった。
 Cの罪責を論じ なさい。


3 Aは、ネットの掲示板に、冗談で「明日の正午、京都駅構内で大量殺人を決行する」と 書き込んだ。当日の朝から、京都府警の警察官が動員され、警備にあたった。そのため  に、警察官Xは予定の捜査を、Yは小学校での交通安全教室を、そしてZは警察署内での 会計業務を 中止せざるをえなかった。Aの罪責を論じなさい。