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Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

第14回 刑法Ⅰ(2014.07.14.-07.16.)

2014-07-12 | 日記
 第14週 共犯の諸問題(2) (2014年07月14日・16日)
(1)共犯と身分
1身分犯の意義
 行為者の社会的地位や職業などが犯罪の成立要素となっている犯罪を「身分犯」という。その要素が備わっていない者には、その罪を犯すことはできない。例えば、収賄罪における「公務員」、強姦罪おける「男性」、保護責任者遺棄罪における「保護責任者」などは、身分犯の典型である。
 刑法典のどの犯罪が身分犯であるかは、その規定の形式や解釈によって特定される。収賄罪や保護責任者遺棄罪については、その規定形式から身分犯であることは明らかである。しかし、強姦罪の場合、「男性が…」という形式で規定されていないが、行為客体が女性であること、実行行為が「姦淫」であることから、それは男性しか行ない得ない行為であり、行為主体は男性に限られると解される(強姦罪は〔構成的〕身分犯であり、かつ結合犯類型の形態である)。事後強盗罪の「窃盗が」」、強盗致死傷罪の「強盗が」という規定形式から、それらが身分犯を意味すると解される。学説には「結合犯」と解するものもあり、争いがある。
2身分犯の諸類型
 このように身分犯とは、行為者の身分が犯罪の成立要素になっている犯罪であるが、それには構成的身分犯と加減的身分犯(加重的身分犯と減軽的身分犯)という2つの種類がある。
 構成的身分犯とは、それ自体としては犯罪ではない行為を身分を有する者が行なうことによって初めて可罰性が生ずる場合である。その典型例が収賄罪である。職務に関連して他者から金銭を受け取っても、それ自体としては犯罪ではない。それが犯罪になるのは、公務員が行なった場合である。民間企業の社員が同じ行為を行なっても、処罰の対象にはならない。ただし、社内規則によって懲戒処分を受けることはある。
 加減的身分犯とは、それ自体として犯罪にあたる行為を身分を有する者が行なうことによって、その刑が加重されたり、また減軽されたりする場合である。例えば、他人から預かった物を自分の欲しいままに利用・処分する行為は横領罪であり、それは誰が行なっても処罰されるが、それを業務者が行なった場合、業務上横領罪として加重処罰される。保護責任者遺棄罪も同じである。
 事後強盗罪や強盗致死傷罪は「身分犯」であると解するとしても、それが構成的身分犯なのか、それとも加減的身分犯なのかをめぐって、解釈論上お争いがある。
3共犯と身分
 共犯と身分の問題類型は、①構成的身分犯と②加減的身分犯に関して、以下のように分類して考察される。①構成的身分犯に非身分者が加功した場合、②-1加減的身分犯に非身分者が加功した場合、②-2非身分者の罪に加減的身分犯の身分者が加功した場合である。これらをの扱いに関しては、刑法65条の適用によって決定される。
 まず、①構成的身分犯への非身分者の関与については、65条1項が適用される。65条1項によれば、「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為」に非身分者が加功したときは、非身分者には構成的身分犯の共犯が成立する(この「共犯」には教唆・幇助だけでなく、共同正犯も含まれると通説・判例は考える)。構成的身分犯は、身分を有する者にのみ成立する犯罪であり、非身分者が単独でそれを行なっても処罰されないが、非身分者が構成的身分犯に加功した場合には構成的身分犯の共犯が成立するというのが65条1項の趣旨である。その理由は、刑法65条1項が構成的身分の連帯作用を認めているところにある。例えば、公務員Xの収賄に非公務員Yが加功した場合、X・Yに収賄罪の共犯(共同正犯・共犯)が成立する。
 次に、②加減的身分犯への非身分者の関与および非身分者の犯罪への加減的身分者の関与については、65条2項が適用される。65条2項によれば、「身分によって特に刑の軽重があるときは」、「非身分者」には「通常の刑」が科される。「通常の刑」とは、身分によって刑が加重・減軽される前の罪の刑という意味である。加減的身分犯は、一般に誰によっても行ないうる犯罪の刑を身分によって加重・減軽した犯罪である。②-1加減的身分犯に非身分者が加功した場合、身分者には加減的身分犯の刑が、非身分者には「通常の刑」が科される。その理由は、65条2項が加減的身分の個別的作用を認めているとことにある。例えば、Xの常習賭博に非常習者Yが加功した場合、身分者Xには常習賭博罪の、非身分者Yには単純賭博罪の共犯が成立する。
 では、②-2非身分者の罪に加減的身分犯の身分者が加功した場合、どのように扱われるか。非常習者Yの単純賭博に常習者Xが加功した場合、非身分者Yには単純賭博罪が成立するが、常習者Xには単純賭博罪の共犯が成立するのか、それとも常習賭博罪の共犯が成立するのか。65条2項が、「非身分者」には「通常の刑」が科されると定めているだけで、「身分者」に「加減された刑」が科されるとは定めていない。そうである以上、身分者Xには加減的身分犯の常習賭博罪の共犯ではなく、「通常の刑」の単純賭博罪の共犯が成立すると解すべきであろう。
4判例における身分の定義
 判例は、「刑法65条にいわゆる身分は、男女の性別、内外国人の別、親族の関係、公務員たる資格のような関係のみならず、総て一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位又は状態を指称する」(最判昭和27・9・19刑集6巻8号1083頁)として、身分の意義を広く解している。性別、国籍、親族関係、職業などを理由とする身分は確定しやすいが、それ以外の身分は解釈に委ねざるをえない。判例では、麻薬輸入罪の「営利の目的」も「犯人の特殊な状態」であり、身分に含まれるという(最判昭和42・3・7刑集21巻2号417頁)。
5適用範囲
 非身分者が構成的身分犯に加功した場合、65条1項によれば、構成的身分犯の「共犯」が成立する。この「共犯」には、教唆・幇助だけでなく、共同正犯も含まれる(大判明44・10・9刑録17輯1652頁、大判昭和9・11・20刑集13巻1514頁)。しかし、単独ではなしえない身分犯を、身分者と共同すれば共犯になるのというのは不可解である。学説には、「共犯」には共同正犯は含まれず、非身分者には教唆・幇助しか成立しないとと解するものがある。
(2)共犯と違法性阻却事由
 Aは、XとYに対して急迫不正の侵害を加えた。XとYが共同してAに反撃して、傷害を負わせた。Xには積極的加害意思があったが、Yは防衛の意思で行なった。また、XがAを傷害するようYを教唆し、YをAのところに向かわせた。すると、AがYに先制攻撃を仕掛けてきたため、Yはとっさに反撃し傷害を負わせた。これが共同正犯・共犯と違法性阻却事由の問題である。まず共同正犯の事案を検討し、次に共犯(教唆)の事例を検討する。
1共同正犯と違法性阻却事由
 共同正犯の成立には、「共同実行の事実」と「共同実行の意思」が必要である。一定の犯罪について、共同実行の事実が確認されれば、その構成要件該当性が認められ、その違法性が推定される(加減的身分犯の場合、該当する構成要件は関与者毎に異なる)。正当防衛のような違法性阻却事由にあたる事実があれば、その効果は原則的に共同正犯者全員の行為に及ぶ。しかし、Yだけに積極的加害意思があった場合はどうか。一般に積極的加害意思があった場合、侵害の急迫性が否定されるので、Yの行為は正当防衛にはあたらない。では、Xの行為は正当防衛として違法性が阻却されるか。判例では、X・Yが正当防衛状況においてAを傷害して死亡させたが、Xには積極的加害意思はなかったが、Yにはそれがあった事案について、Xには過剰防衛が、Yにはそれを認めず、通常の傷害致死罪が成立するとした(最決平成4・6・5刑集46巻4号245頁)。判例によれば、共同実行の事実は構成要件該当性のレベルで判断され、違法性阻却事由については、その者の間で個別的に判断されている。
2共犯と違法性阻却事由
 XがYを教唆してAに傷害を行なわせたが、Yの行為が正当防衛の要件を満たしていた場合、Yの行為は傷害罪の構成要件に該当するが、違法性が阻却される。では、Xについてはどうか。共犯は正犯の構成要件該当性と違法性に従属すると考えると(制限従属形式)、正犯の違法性が阻却される場合、共犯は成立しない。しかし、違法性阻却事由が関与者(正犯と共犯)の間で異なって適用されるならば、Xには防衛の意思はなく、積極的加害意思に基づいて教唆しているだけなので、Aによる侵害の急迫性はXとの関係では否定され、その違法性は阻却されない。正犯の違法性と共犯の違法性は、各々別に捉えられる(純粋惹起説)。
 しかし、正犯の行為の違法性が阻却されるのに、背後の共犯の行為が違法だというのは不可解である。Xは、偶然とはいえ、Yを教唆して正当防衛を行なわせていたと捉えることができるからである。これは、「偶然による防衛の教唆」とでもいえる現象である。正当防衛論において、結果無価値論の立場から、偶然防衛の違法性阻却が認められるならば、この教唆の違法性も阻却されると思われる。
(3)共犯と錯誤
1共同正犯と具体的事実の錯誤
 XとYが共同してAを殺害したが、XとYはそれをBだと勘違いしていた(具体的事実の錯誤における客体の錯誤)。このような場合、法定的符合説・具体的符合説のいずれからも、錯誤は故意を阻却しない。また、XとYが共同してAを殺害するために各々発砲したが、弾丸は隣にいたBに命中した(具体的事実の錯誤における方法の錯誤)。このような場合、法定的符合説からは錯誤は故意を阻却しないが、具体的符合説からは錯誤は故意を阻却する。
2教唆と具体的事実の錯誤
 XがYにA宅に侵入し、「株券」を盗ってくるよう教唆したが、YはA宅から「現金」を盗ってきた場合、法定的符合説からは、Yの住居侵入罪と窃盗罪の故意は阻却されない。Xについても、住居侵入と窃盗を教唆して、それを実行させているので、その教唆の故意も阻却されない。では、Xが「A宅」に侵入するよう教唆したにもかかわらず、Yが「B宅」に侵入して、窃盗を行なった場合、Yの錯誤は客体の錯誤であり、住居侵入と窃盗の故意は阻却されないが、Xから見れば方法の錯誤にあたる。法定的符合説からは、Xについても、住居侵入と窃盗を教唆の故意は阻却されない。具体的符合説からは、故意が阻却される。
3教唆と抽象的事実の錯誤
 XがYに「A会社の倉庫」を放火するよう教唆したところ、Yは「A宅」を放火した。Yの行為は現住建造物放火罪の構成要件に該当する。Yはその建物を倉庫(非現住建造物)と認識していたので、刑法38条2項によれば、Yには現住建造物放火罪の故意を認めることができないが、法定的符合説に基づいて、構成要件が重なり合う非現住建造物放火罪の成立を認めることになる。Xにも非現住建造物放火の教唆が成立する。逆に、XがYにA宅を放火するよう教唆したところ、YはA会社の倉庫を放火した場合も、Y・Xともに同じ議論が成り立つ。
4教唆と結果的加重犯
XがAを傷害するようYを教唆したところ、YはAを死亡させた場合、Yには傷害致死罪が成立する。では、Xには傷害致死罪の教唆が成立するのか、それとも傷害罪の教唆が成立するのか。
 傷害致死罪は結果的加重犯である。行為者が、基本犯である傷害罪を故意に行ない、そこから加重結果の致死結果が生じた場合に成立する。判例は、加重結果について過失は不要であると解し、それは故意犯の1形態であると見なされている。教唆とは、「人をそそのかして、犯罪遂行の意思を生じさせて、実行させること」と定義すると、教唆とは正犯の故意に従属することになる。判例の立場からは、傷害致死罪は「故意犯」の1形態なので、Xには故意犯である傷害致死罪の教唆が成立する。しかし、学説の多くは、責任主義を徹底する立場から、結果的加重犯の加重結果については過失が必要であると主張する。つまり、結果的加重犯は、故意の基本犯と過失の加重結果から成り立つ犯罪である。Yに加重結果の致死について過失が認められても、その部分は過失犯である。教唆は正犯の故意に従属するので、正犯の過失犯の部分については教唆は成立しない。このように解すれば、Xには傷害罪の教唆にとどまると解される。
(4)必要的共犯・対抗犯
 犯罪は一般に単独で行なうことができ、それを共同して実行した場合には共同正犯になる。しかし、犯罪によっては複数人でなければ行なえないものもある。そのような犯罪を「必要的共犯」(共同正犯・共犯)という。これに対して、単独で行なえる犯罪を共同して実行した場合を「任意的共犯」という。
 必要的共犯には、構成要件が一定の規模の人間集団の共同行為を類型化している場合(多衆犯または集団犯)と、2人の行為者の対称的・対抗的な共同・加功の行為を類型化している場合(対抗犯)がある。多衆犯ないし集団犯の典型は、内乱罪である。内乱罪は集団で行なわれる犯罪であるため、その内部で共同した者に共同正犯の規定を適用する必要はない。またその内部で教唆・幇助したことを理由に教唆・幇助の規定を適用する必要もない。ただし、集団の外から教唆・幇助した場合には、内乱罪の教唆・幇助の成立の可能性はある。対抗犯の典型は、収賄罪・贈賄罪などである。公務員が職務に関して金品を収受する収賄罪が成立するには、その公務員に金品を供与する者の贈賄罪が成立していなければならない。それは、一方が成立しなければ、他方も成立しない関係にある(公務員は職務に関連して金銭を受け取ったと思っていたが、相手方の企業にはその意図がなかった場合、受け取った金銭は職務には関連していなかったことになる)。また、対抗犯として重婚罪をあげることができる。重婚罪とは、婚姻している者が重ねて婚姻関係を結ぶことである。相手方が未婚者であっても、重婚の相手をしている認識があれば、相互に重婚罪が成立する。相手方が重婚の事実を知らなければ、無罪である。
 このように対抗犯については、相手方が処罰されない場合もあるが、それはわいせつ物頒布罪の場合、相手方の行為は常に不処罰である。わいせつ物頒布罪は、社会の性道徳を乱す犯罪であり、その保護のために頒布行為を処罰するという方法がとられている。しかし、頒布罪が成立するためには、それを受け取る行為が必要である。ただし、わいせつ物を受け取っても、それを理由に処罰されることはない。それは何故か。わいせつ物を受け取った者は、性道徳の基盤である社会の一部であり、頒布者によって侵害される行為客体だからである。しかも、YがXに働きかけて、わいせつ物を頒布させて、受け取っても、わいせつ物頒布罪の教唆として処罰されない。
 さらに、自殺関与罪・同意殺人罪についても同じことがいえる。自殺関与罪とは、人を教唆または幇助して自殺させる行為であり、同意殺人罪とは被殺者の依頼・承諾に基づいて殺害する行為である。自殺する者も殺される者も被害者である。では、次のような場合、どのように扱われるか。自殺希望者Yが友人Xに自分を殺害するよう依頼し、XがYの首を絞めたが、死亡に至らなかった。XはYの依頼を受けて行なったので、同意(嘱託)殺人未遂罪である。Yはそれを依頼したが、嘱託殺人未遂の教唆にはあたらない。それは被害者の行為だからである。
 このようにわいせつ物頒布罪や自殺関与罪などの対抗犯の相手方が処罰されないのは、それが被害者の行為だからであるが、それを共犯の処罰根拠論からも説明される。共犯とは正犯を教唆・幇助して構成要件該当の違法行為を行なわせる行為であるが、その行為は共犯から見ても違法な行為でなければならない。つまり、かりに共犯が正犯と同じ行為を行なった場合でも、それが構成要件に該当する違法な行為であることが必要である。わいせつ物頒布の教唆の事案では、YがXにわいせつ物を頒布させて、受け取ったのであるが、かりにYがXと同じ行為を行なった場合でも、わいせつ物頒布罪の構成要件に該当する違法な行為であれば、Yにもその教唆が成立する。しかし、それはYがY自身にわいせつ物を頒布するという行為であり、それはわいせつ物頒布罪の構成要件にが該当しない。従って、YがXにわいせつ物の頒布を行なわせても、その教唆にはあたらない。嘱託殺人未遂の事案でも、YがXと同じ行為を行なった場合に、Yの嘱託殺人未遂の教唆が成立するが、それはYがYを殺そうとする行為であり、それは自殺未遂であり、犯罪の構成要件には該当しない行為である。従って、YがXに自分を殺すよう教唆しても、嘱託殺人未遂の教唆にはあたらない。
(5)不作為と共犯
1不作為犯に対する共犯
 不作為犯には、真正不作為犯と不真正不作為犯の2種類がある。真正不作為犯とは、条文が不作為の形式で定められている場合であり、不真正不作為犯とは作為犯の形式で定められている条文を不作為で実現する場合である。Yが理由があって他人の住居に立ち入った後、退去するよう命ぜられたにもかかわらず、退去しなかった場合、退去せずに不退去の態度をとったYの不作為が不退去罪に該当することは、条文で明らかである(退去すべき義務は不退去罪を構成する身分である)。XがYにそれを教唆した場合、刑法65条1項を適用して不退去罪の教唆が成立する。
 このように真正不作為犯の場合の共犯の問題は、65条1項を適用することで解決される。では、不真正不作為犯の場合はどうか。例えば、刑法217条の単純遺棄罪、218条の保護責任者遺棄罪・保護責任者不保護罪について考えてみる。刑法217条は作為による単純遺棄罪を定め、218条は前段に作為・不作為による保護責任者遺棄罪、後段に不作為による保護責任者不保護罪を定めている。217条の作為による単純遺棄罪と218条前段の作為による保護責任者遺棄罪とは減軽類型・加重類型の関係にあるので、Yの作為による保護責任者遺棄に保護責任の身分のないXが作為によって関与した場合、刑法65条2項を適用して、Xには単純遺棄罪の共犯が成立する。これに対して、不作為による遺棄については、保護責任者による場合だけが保護責任者遺棄罪で処罰され、保護責任の身分のない者の不作為は処罰されない。不作為による不保護の場合も同じである。つまり、保護責任者という身分は不作為による遺棄や不保護に可罰性を与える構成的身分であるといえる。では、保護責任者の不作為による遺棄や不保護に保護責任の身分のない者が不作為で関与した場合、どのようになるか。不作為の保護責任者遺棄や保護責任者不保護罪は、構成的身分犯であり、それに非身分者が関与した場合には刑法65条1項を適用して、非身分者にも保護責任者遺棄罪や保護責任者不保護罪の共犯が成立することになる。しかし、保護責任の身分のない者が単独で行なっても、犯罪にならないにもかかわらず、保護責任者と共同して行なった場合になぜ身分犯の正犯になるのか。非身分者には、保護責任者遺棄罪や保護責任者不保護罪の教唆・幇助にとどまると解すべきあろう。
2不作為による共犯
 不作為による共犯とは、教唆・幇助それ自体が不作為によって行なわれ、それによって正犯の作為が促進される場合である。正犯の作為の証明と成立は比較的容易に行なうことができるが、それを教唆・幇助した行為が不作為である場合、その証明と成立は容易ではない。
 例えば、内縁の夫YがXの子どもAを虐待しているときに、Xは何もせずに傍観した。その結果、YはAを死に至らしめた。Yには傷害致死罪が成立するが、Xはどのようい扱われるか。Xは不作為であったが、それによってYの傷害致死が促進されたというならば、不作為による幇助の成立を認めてもよいだろうか。幇助は一般に作為の類型であるので、それを不作為にって実現する場合には、それは作為義務に反した不作為でなければならない。つまり、Xの不作為が、実の子Aを守るべき義務(保護義務)、または内縁の夫Yの虐待を阻止すべき義務(阻止義務)に反した不作為であったといえなければならない。Xにそのような作為義務があったといえるならば、傍観する態度を盗り続けたことによって、Yの暴行を促進し、よってAを死亡させたといえるのえ、Yの傷害致死を不作為によって幇助したと認定することができる(札幌高判平成12・3・16判時1711号170頁)。ただし、不作為による幇助の成否は、作為義務の内容が法律で明示されていないので、不真正不作為犯論の作為義務論に基づいて、厳格に認定されなければならない。Xが被害者Aとの関係において保護義務を負う保障人は誰であること、また加害者との関係において阻止義務を負う保障人であること、その作為義務は、その履行が求められた時点において履行可能であったこと、また容易であったこと、などの要素を厳格に認定することによって不作為による幇助の成否が判断されることになる。
 かりにYの飲酒癖・暴力癖がひどく、Aを守ろうとすると、Yの暴力が自分に向けられるおそれがあり、また妊娠中であったことから、お腹の中の胎児が暴力の被害をこうむ危険があったような場合には、Yに保障人的地位を認め得るとしても、その作為義務を履行することは不可能だったとか、また可能であっても容易ではなかったならば、作為義務は否定される。これらの要素が満たされ、客観的に見て作為義務に反した不作為を理由に幇助の類型に該当していることが認められても、それ以外の適法行為の期待可能性がなかったならば、幇助の責任阻却が考えられる。

(6)予備罪と共犯
 刑法60条の「犯罪」が法益侵害行為の類型であるならば、その行為の着手前に成立する予備罪は、処罰されるという意味では犯罪であるが、刑法60条の「犯罪」ではない。従って、共同正犯の対象にはならない。61条の「犯罪」も、62条の「正犯」も同じように解釈できるならば、予備罪への共犯は成立しえない。しかし、判例では予備罪に対する幇助の成立が伝統的に肯定されてきた(大判昭和4・2・19刑集8巻84頁)。戦後の判例では、さらに予備罪の共同正犯の成立が認められている(最決昭和37・11・8刑集16巻11号1522頁)。また下級審では、予備罪に対する幇助も認められている(大阪高判昭和38・1・22高刑集16間2号177頁)。
 予備罪は、法益侵害行為を行なう目的に基づいて、その準備行為として行なわれる犯罪である。しかも、その目的は自分が行なうために、自分が行なう予備である。つまり、予備罪は、自己の犯罪を実現する目的を実現するために、自己によって行なわれる予備である(自己目的のための自己予備)。予備罪は単独で行なわれることを想定して規定されているが、複数人が意思を連絡しながら準備行為を共同して行なう場合、予備罪の共同正犯の共同正犯の成立を認めることができる。自己目的なしに、共同して他人の予備罪を共同して実行した場合、あるいは他人の予備罪に協力した場合、予備罪の共同正犯やその幇助の成立が認められる。予備罪も「犯罪」である以上、共同正犯や共犯の対象になりうるというのが判例の立場である。しかしながら、この理由はあまりにも形式的すぎる。予備罪が「自己目的のための自己予備」である限り、自己目的なしに他者の犯罪の準備行為を単独で行なっても、予備罪は成立しない。この場合の自己目的は予備行為を犯罪たらしめる構成的身分だからである。自己目的がないということは、この構成的身分がないということである。しかし、自己目的がなくても、者の予備に関与した場合には、刑法65条1項が適用されて、予備罪の共犯(共同正犯・共犯)が成立する。判例が予備罪の共同正犯や共犯の成立を認める実質的根拠は、自己目的が構成的身分であり、構成的身分犯に自己目的のない者(非身分者)が関与した場合には刑法65条1項が適用されると解しているからである。
 しかし、殺人罪を行なう目的を「構成的身分」と捉えるのは、身分の概念を過度に広く捉えることになりはしないだろうか。それを限定するために、自己目的のない者が他人の予備に関与した場合に予備罪の共同正犯や共犯が成立するのは、その予備が、153条の通貨偽造準備罪のように、自己目的がなくても予備罪が成立すると定められている場合に限られる。他人が行なう犯罪の準備に関与した場合でも、その準備罪ないし予備罪が成立するのは、このような規定がある場合だけである。偽造通貨の行使の目的のない者であっても、他人の通貨偽造のために準備行為を行なえば、通貨偽造準備罪が成立する。このように特別の規定の解釈を一般の予備罪にあてはめることはできないと思われる。
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