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Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

19刑法Ⅱ(第09回)基本レジュメ

2019-11-16 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 個人的法益に対する罪――財産犯
 第09週 盗品関与罪・毀棄罪・隠匿罪

(1)盗品等に関する罪
1盗品関与罪の規定
 窃盗罪などの本犯に事後的に関与し、
 盗品の奪還など被害者の追求を妨げる行為
 窃盗罪などの本犯に対する事後的な従犯(幇助)的性格

2盗品関与罪の罪質
 保護法益 被害者の盗品に対する追求権

 ただし、追求権だけを保護法益と捉えると、
 説明できない問題が出る。
 例えば、
 盗品等無償譲受と盗品等有償譲受
 いずれも被害者の追求権侵害(事後従犯的性格)の点では同じ
 法益侵害性が同じ→違法性と有責性も同じ
 しかし、無償譲受と有償譲受の法定刑には格差がある
 しかも、窃盗、詐欺、恐喝、(業務上)横領などの本犯と比べ、
 盗品等有償譲受は懲役刑と罰金刑の両方が科される(併科刑主義)

 なぜ盗品等有償譲受罪の法定刑は重く設定されているのか?
 思うに、有償譲受罪には無償譲渡に比べて、
 法益侵害性や犯罪の重大性が高いから。
 では、盗品等有償譲渡罪の重大性の理由は?
 有償譲受罪には
 窃盗罪などの本犯に対する事後的な従犯的性格(幇助性)だけでなく、
 本犯を事前に助長・促進する性質(本犯助長性)があるから

 有償譲受者(金を払って買い取ってくれる人)がいるから、
 窃盗犯などを行おうという気持ちにさせる

 盗品等有償譲受罪=本犯に対する事前的助長性+事後的従犯性
 それゆえ無償譲受よりも刑が重い(懲役と罰金の併科刑主義)


(2)盗品関与罪
第256条 盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を無償で譲り受けた者は、3年以下の懲役に処する。
2 前項に規定する物を運搬し、保管し、若しくは有償で譲り受け、又はその有償の処分のあっせんをした者は、10年以下の懲役及び50万円以下の罰金に処する。

1行為主体
 盗品を譲り受ける行為が処罰対象
 盗品を譲り渡す人とそれを譲り受ける人
 それは別の人である
 そうすると、
 盗品関与罪の行為主体
 財産犯に該当する行為を行った本犯者以外の人

 窃盗罪の共同正犯2人のうちの1人が
 窃盗後、盗品を運搬などした場合
 盗品等運搬罪は成立しない
 窃盗犯が盗品を運搬しても、
 盗品等運搬罪に当たらない。それはなぜか?
 法文にはその行為を処罰する規定が形式的に設けられていないから
 では、処罰されない実質的理由はなにか?
 運搬等の行為は被害者の追求権を侵害する行為であるが、
 窃盗などの本犯後の行為は独自に処罰されない。つまり、
 窃盗後に行われた運搬は窃盗罪の「不可罰的事後行為」である。
*なお、これを「共罰的事後行為」と表現することもある。
 本犯後の運搬を処罰する規定は形式的にはない。
 それにもかかわらず、それを窃盗罪に加味して、
 実質的にそれと共に処罰し、量刑に反映させれる
 というならば問題である。

2客体
 盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物

3行為
 無償の譲り受け
 盗品の交付を無償で受けること(贈与)
 無利息の消費貸借も含まれる

 運搬
 盗品の所在を移転させること(有償・無償を問わない)
 被害者の家に盗品を運搬した場合は?

 保管
 委託を受けて盗品を管理すること(有償・無償を問わない)
 保管を約束するだけでは足りない。
 盗品の占有が移転し、実際に保管することが必要。

 有償の譲り受け
 盗品の交付を有償で受けること(買取)
 買い取ることの約束では足りない。
 実際に占有が移転することが必要。

 有償処分のあっせん
 盗品を売買、質入れ、有償による交換などの仲介をすること
 仲介したことへ謝礼が払われること(有償)は問われない
 あっせんの意味を相手方に
 「盗品を買い受けするよう働きかけること」と理解すれば、
 相手方が買い受けの意思を表示していなくても、
 有償処分のあっせんは成立する
 被害者に盗品を買い受けるよう働きかけた場合
 被害者には無償で盗品を取り戻す権利(追求権)があるので、
 有償による買戻しのあっせんは、その追求権を侵害している

4故意
 上記の行為を開始する時点において盗品であることの認識が必要
 「もしかしたら盗品かもしれない」
 未必の故意の場合が想定されることが多い

 盗品とは知らずに保管を開始し、
 途中で盗品であることを知ったが、
 そのまま保管状態を続けた場合
 委託を受けて保管を始めたが、
 盗品であることの認識がなかった
 客観的に盗品保管罪の構成要件に該当する違法な行為を開始している
 保管罪に該当する行為が継続している途中から盗品であることを認識した
 盗品性の認識=故意が生じた時から、盗品保管罪が成立

 盗品保管罪は継続犯
 継続犯の典型としての監禁罪
 物を倉庫に保管した。
 しかし、その後、人であるこを知ったが、そのままにした
 人であることを知った時から、監禁罪が成立する
 盗品保管罪の場合も同じ論理で説明される


(3)親族間の盗品関与罪の特例
(親族等の間の犯罪に関する特例)
第257条 配偶者との間又は直系血族、同居の親族若しくはこれらの者の配偶者との間で前条の罪を犯した者は、その刑を免除する。
2 前項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。

1判例の趣旨
 刑法244条
 親族間の犯罪に関する特例(窃盗罪、不動産侵奪罪)

 刑法255条
 244条の準用(横領罪、業務上横領罪、遺失物横領罪)

 刑法257条 244条を準用せずに、独立した規定を設定
 刑の免除
 親族間で行ったことは、刑を免除する一身的刑罰阻却事由
 盗品関与罪は成立するが、政策的に刑を免除する

2親族関係の範囲
 盗品関与罪の行為者と窃盗罪などの本犯の行為者との親族関係
 さらに、盗品関与罪の行為者と窃盗罪などの被害者との間の親族関係

 このような3者間における親族関係→政策的な一身的刑罰阻却事由
 なぜ、そのような政策をとるのか?
 本犯者と親族関係があること
 →適法行為の期待可能性が減少する
 被害者と親族関係があること
 →被害者の追求権に対する侵害性(可罰的違法性)が減少する
 それゆえ、一身的に刑罰を阻却することが可能


(4)盗品関与罪の特殊問題
 盗品関与罪の行為客体
盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物

・「財産に対する罪に当たる行為」とは?」
 財産犯のうち財物罪(既遂)によって領得された物に限定

 利益強盗罪などいよって得られた「利益」は含まれない

 収賄罪、賭博罪、密漁違反罪などによって得られた物は?
 それは財産犯ではない。
 非財産犯によって領得された物は本罪の客体には含まれない。

・その財産犯は成立要件の全てを満たしていることを要するか?
 刑事未成年者(14才未満の人)が窃取した物
 窃盗罪の構成要件に該当する違法な行為によって領得された物であるが、
 刑事責任は問えない→窃盗罪としては不可罰
 ただし、財物の所有者・占有者には財物の返還請求権がある
 したがって、刑事未成年者が窃取した財物も
 盗品関与罪の行為客体に含まれる

・族間の窃盗によって領得された物については、その窃盗の刑は免除される
 窃盗罪の構成要件に該当する違法で有責な行為によって領得された物であるが、
 行為者・所有者・占有者の間に親族関係があることを理由に
 窃盗罪の刑が刑事政策的に免除される(一身的刑罰阻却事由説)
 ただし、その財物は窃盗罪の被害物である
 盗品関与罪の行為客体に含まれる

・第3者が盗品とは知らずに(善意・無過失)、平穏・公然と取得した場合
 民法192 即時取得の制度
 第3者はその「盗品」の所有権を取得し、被害者は追求権を失う。
 その物は盗品関与罪の行為客体から除外される
 被害者に追求権がない物については、
 盗品関与罪の行為客体から除外される

・盗品の同一性と代替性
 盗品関与罪の行為客体→財産犯の被害物それ自体
 では、被害物に一定の加工が加えられた場合、
 盗品の被害物と加工された物との間に盗品としての同一性はあるか?
 本犯行為者が盗品に加工を加えた結果、
 その加工品の所有権を取得することがある。
 重要なことは、
 盗品の所有権が加工者に移転されるほどの加工であるか否か

・また、被害物(紙幣)を両替して得られた物(硬貨)
 被害者の同一性あり


(1)毀棄罪および隠匿罪
1毀棄および隠匿の罪
・毀棄罪
 公用文書・私用文書の毀棄罪
 建造物・器物の損壊罪

 他人の文書・建造物・器物などの
 他人の財物の効用を害し、その利用を妨げる行為
 他人の財物を領得する行為とは異なり、
 その利用を妨げる行為
 通説・判例 効用侵害説

 毀棄
 他人の物を物理的に損壊することによって、
 その物の効用が害され、利用が妨げられる
 ただし、物の性質によっては、
 物理的に損壊しなくても、効用が害されるものもある
 食器などへの放尿→物理的な損壊なし
 ただし、心理的に食器として利用困難
 さらに、隠匿すれば、利用不可能になるので、
 隠匿もまた毀棄の一形態である(通説・判例)

・隠匿罪
 信書隠匿罪


2公用文書毀棄罪
第258条 公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。

 客体
 公務所の用に供する文書・電磁的記録
 公務員が作成した公文書だけでなく、
 公務所の用に供されている私人作成の私文書

 未完成な公用文書であっても、
 文書としての意味内容を備えていれば足りる

 行為
 毀棄 破棄、汚損、貼付の印紙の剥離など
    公用文書としての効用を害する行為


3私用文書毀棄罪
第259条 権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、5年以下の懲役に処する。

 客体
 公務所の用に供していない文書
 それが公文書であっても、私用文書に含まれる
 権利・義務の存否、得喪、変更、消滅などを証明するための文書

4建造物損壊罪・同致死傷罪
第260条 他人の建造物又は艦船を損壊した者は、5年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

 客体
 家屋その他の建造物
 土地に定着し、壁・柱・屋根を有し、
 人の出入り可能な他人の構造物

 行為者・被害者間に所有権の争いがある場合
 建造物が「他人の建造物」であるか否かは
 最終的には民事裁判で決着がつけられる
 その決着前に損壊した場合は?
 民事裁判において他人の所有権が否定される可能性がない
 →他人の所有権→本罪の成立は明らか
 ただし、「他人の所有権が否定される可能性がない」ことは、
 他人の建造物の要件ではない
「他人の所有権が否定される可能性がない」ことが
 証明できていなくても、
 他人の建造物にあたる

 行為 損壊
 建造物の壁や窓ガラスに2千枚のビラを貼付した
 建造物の壁に落書きし「美観」を損ねた


5器物損壊罪
第261条 前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
第262二条 自己の物であっても、差押えを受け、物権を負担し、又は賃貸したものを損壊し、又は傷害したときは、前3条の例による。

 客体
 公用文書・私文書・建造物など以外の物
 他人の自動車、自転車、飼犬なども含む

 行為
 損壊 効用を害する行為
 傷害 動物を殺傷する行為


6境界線損壊罪
第262条の2 境界標を損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法により、土地の境界を認識することができないようにした者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 不動産侵奪罪と併せて追加された(昭和35)
 土地の境界線を損壊するなどして、
 その境界を認識できなくする行為
 柱、杭、柵などの工作物の移動
 立木などの自然物の移動


7信書隠匿罪
第263条 他人の信書を隠匿した者は、6月以下の懲役若しくは禁錮又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。

 他人の信書
 特定の他人に宛てられた文書
 封緘(ふうかん)されていることを要しない

 隠匿
 発見を妨げる行為
 破棄すれば器物損壊


8親告罪
第264条 第259条、第261条及び前条の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

 私文書毀棄罪(259条)
 器物損壊罪(261条)
 信書隠匿罪(263条)
 被害者の告訴が公訴提起の条件