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Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第03回 略取・誘拐・人身売買の罪 2016年10月13日)

2016-10-14 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 個人的法益に対する罪――自由に対する罪
 第03週 略取・誘拐および人身売買の罪

(1)略取・誘拐および人身売買罪
 略取・誘拐および人身売買の罪の章は、刑法が制定された当初は、未成年者略取・誘拐罪、営利目的略取・誘拐罪、日本国外移送目的略取・誘拐罪、被拐取者収受罪からなっていました。その後、身の代金目的略取・誘拐罪が新設され(1964年)、さらに人身売買罪が設けられました(2005年)。関連規定が増えたため、全体の構成は複雑になっています。

 略取・誘拐罪の保護法益は、何でしょうか。それは、被害者(被拐取者)の行動の自由と身体の安全です。未成年者が行為客体の場合には、親権者の監護権も保護法益になりえます(福岡高判昭31・4・14高刑裁特3・8・409)。ただし、未成年者であっても、年齢が20才に近くなるほど、監護権の要保護性は低くなります。

(2)未成年者略取・誘拐罪
刑法224条 未成年者を略取し、又は誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処する(1項)。未遂も罰する(228条)。

1行為客体
本罪の行為客体は、「未成年者」(20歳未満の者:民3条)です。婚姻によって成人と見なされる場合、その意思を尊重して、行為客体から除外すべきでしょう。身体の安全が保護法益に含まれるため、略取・誘拐の意味を理解できない嬰児・精神障害者なども行為客体に含まれます。

2実行行為
 本罪の実行行為は、略取・誘拐です。これは、未成年者略取・誘拐罪に限らず、営利目的等略取・誘拐罪、身の代金目的等略取・誘拐罪、所在国外移送目的等略取・誘拐罪に共通する要件です。

ⅰ略取・誘拐の意義
 「略取」とは、暴行または脅迫を用いて、被拐取者の意思に反して、その生活環境から離脱させて、自己または第三者の実力的支配下に移すことです。「暴行・脅迫による略取」は、後で説明される「欺罔・誘惑による誘拐」と同様に扱われるため、被拐取者の反抗を抑圧するような強いものでなくてもかまいません(広島高岡山支判昭30・6・16高刑特裁2・12・610)。

 「誘拐」とは、被拐取者を欺いて、または誘惑して、その生活環境から離脱させて、自己または第三者の実力的支配下に移すことです。

 暴行・脅迫・欺罔・誘惑の開始によって、本罪の実行の着手が肯定されます。被拐取者が自己または第三者の実力的支配下に移ることによって既遂に達します。14歳の少女を誘惑して、自転車に乗せて、1・4キロメートルほど連れ去ったが、少女の母親がそれを発見して奪還した事案ではも、少女を実力的支配下に置いて、一定の時間経過していることから、未成年者誘拐罪の成立が肯定されています(東京高判昭30・3・26高刑特裁2・7・219)。

ⅱ状態犯か、継続犯か
 本罪の性質として、被拐取者が自己または第三者の実力的支配下にいる間は、行動の自由への侵害が続いているので、判例は略取・誘拐罪を「継続犯」と解しています(大判大13・12・12刑集3・871、大阪高判昭53・7・28高刑集31・2・118)。これに対して、被拐取者を実力的支配下に移した時点で既遂に達し、略取・誘拐という行為も終了しているので、「状態犯」と解することも可能です。この議論は、逮捕罪・監禁罪のところで述べたのと同様です。

ⅲ被害者の同意
未成年者が略取・誘拐されることに同意している場合、未成年者略取・誘拐罪の違法性は阻却されるでしょうか。親権者の監護権も本罪の保護法益に含まれるならば、監護権への侵害が認められる以上、違法性は減少しても、完全に阻却されることはありません。

 ただし、監護権侵害の違法性の程度が可罰的違法性のレベルを下回ることは考えられます(19歳の未成年者が同意している場合の略取・誘拐)。未成年者の年齢が相対的に高いかどうか、意思能力・行動能力が備わっているかどうかを基準にして、同意の効果を実態に即して判断されるべきしょう。

(3)営利目的等略取・誘拐罪
刑法225条 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、1年以上10年以下の懲役に処する。未遂も罰する(228条)。

1行為客体
本罪の行為客体には、成人も未成年者も含まれます。営利目的などから未成年者を略取・誘拐した場合、未成年者略取・誘拐罪の加重類型として本罪が成立します(大判明44・12・8刑録17・2168)。

 2目的
 本罪は、目的犯です。所定の目的を持たずに、成人を略取・誘拐しても、本罪は成立しません。

 営利の目的とは、略取・誘拐によって、自ら財産上の利益を得たり、第三者に得させる目的です。典型的には、被拐取者を労働につかせるなどして、その負担・犠牲によって得られる利益ですが、それに限られず、略取・誘拐を行った見返りとして、第三者から与えられる報酬も含まれます(最決昭37・11・21刑集16・11・1570)。ただし、本条の趣旨は、被拐取者を過酷な作業に従事させて搾取することにあると解するな立場からは、「営利の目的」は被拐取者を直接利用して利益を得る目的に限ると主張されています。

 わいせつの目的とは、姦淫など被拐取者の性的自由を侵害する目的です。結婚の目的とは、法律婚・事実婚を含む通常の夫婦生活の実質を備えた関係を築く目的です(岡山地判昭43・5・6下刑集10・5・561)。生命若しくは身体に対する加害の目的は、被拐取者を殺害もしくは暴行・傷害する目的です。臓器の摘出などの目的が、これにあたります。

 これらの目的は「主観的違法要素」と解されています。つまり、この違法な目的があることによって、略取・誘拐する行為が本罪の構成要件に該当する違法行為になるということです。

 3共犯と身分の問題
 さらに、この目的が当該行為を行なう行為者を特徴づける身分の要素(構成的身分)と解するならば、目的を持たない非身分者が、身分者の(成人を被害者とする)営利目的等誘拐罪に関与し、その身分を認識していた場合、非身分者には刑法65条1項が適用されて、本罪の共同正犯になります。しかし、非身分者は単独では行為を行ないえないので、共同正犯が成立するというのは問題であるとの批判もあります。せいぜい、狭義の共犯どまりで、刑の減軽を認めるべきしょう。これに対して、この目的が加重的身分の要素であり、本罪が未成年者略取・誘拐罪の加重類型であるならば、非身分者が成人を被害者とする略取・誘拐罪に関与しても、65条2項が適用されても無罪です。未成年者を被害者とする略取・誘拐に関与した場合は、65条2項が適用され、「通常の刑」である未成年者略取・誘拐罪の(広義・狭義の)共犯が成立します。

(4)身の代金目的略取・誘拐罪
刑法225条の2 近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期若しくは3年以上の懲役に処する(1項)。未遂も罰する(228条)。
 人を略取し又は誘拐した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、又はこれを要求する行為をしたときも、前項と同様とする(2項)。

1本罪の特徴
本罪は、身の代金を得る目的に基づいて行なわれる略取・誘拐であり、1964(昭39)年に創設されたものです。それ以前までは、身の代金目的による略取・誘拐は営利目的略取・誘拐として扱われていました。また、身の代金の要求は恐喝罪の実効の着手であり、交付を受けた場合には恐喝罪の既遂として扱われてきました。罪数関係問題としては、営利目的略取・誘拐と恐喝既遂・未遂は、併合罪として処理されてきました(東京高判昭31・9・27高刑集9・9・1944)。本罪の創設により、身の代金目的略取・誘拐罪1罪として処理されます。その結果、「営利目的」から身の代金目的が除外されることになりました。

 身の代金を得る目的で略取・誘拐が行なわれ(1項)、その後、身の代金の要求・収受が行なわれます(2項)。1項の行為につき、未遂が処罰されるので、2項の行為についてまで未遂を設ける必要はありません。

2身の代金の要求相手
 身の代金の要求相手は、「近親者」と「安否を憂慮する者」です。それ以外の者に身の代金を交付させる目的で略取・誘拐しても、本罪にはあたりません。ただし、その場合でも被拐取者が未成年者であれば、未成年者略取・誘拐罪が成立します。

 近親者とは、直系血族(親・子)、配偶者(夫・妻)、兄弟姉妹を含む関係の者であり、「親族」よりも狭いと解されています(大阪地判昭51・10・25刑月8・9=10・435)。

 安否を憂慮する者とは、近親者ではないが、被拐取者との間に特別な人的関係があるために、近親者と同様に被拐取者の安否を親身になって心配する者です。会社の代表取締役が略取され、常務取締役に身の代金が要求された事案では、2人の関係が経済的利害に基づく関係でしかなく、すでに不仲である場合には、常務取締役は「安否を憂慮する者」にはあたらないと判断されたものがあります(大阪地判昭51・10・25刑月8・9=10・435)。それに対して、相互銀行の代表取締役社長が略取され、銀行幹部に身の代金が要求された事案では、銀行幹部らが「安否を憂慮する者」にあたると判断されています(最決昭62・3・24刑集41・2・173、東京地判平4・6・19判タ806・227)。

3身の代金目的略取・誘拐予備罪
 刑法228条の3 第225条の2項第1項の罪を犯す目的で、その予備をした者は、2年以下の懲役に処する。ただし、実行に着手する前に自主した者は、その刑を減軽し、又は免除する。

 本罪は、基本犯である身の代金目的略取・誘拐罪を行う目的で行われた準備行為を処罰する規定です。基本犯の実行に近接した危険性を備えた行為が行われた場合が本罪にあたります。

 予備を行った後、基本犯の実行に着手する前に自首した者は、その刑が減軽または免除されます(必要的減軽・免除)。略取・誘拐の実行の着手前の自首なので、略取・誘拐の未遂は成立しませんが、予備行為が終了している以上、その予備罪は成立します。しかし、その刑が減免されるのは、被害者の生命・身体などの安全を保護する政策を優先するためです(予備罪の刑が減免されるので、任意に実効の着手を中止した場合の中止未遂の規定の準用は必要ありません。それは、強盗予備後に任意に実行に着手を中止した場合にだけ問題になります)。

(5)所在国外移送目的略取・誘拐罪
 刑法226条 所在国外に移送する目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、2年以上の有期懲役に処する。未遂も罰する(228条)

 本罪は、人をその所在する国から、他の国に移送する目的で略取・誘拐する行為です。日本国民がこの行為を行なった場合だけでなく、それ以外の者が日本国民に対して行った場合も成立します(刑3、刑3の2)。本罪は、国連の越境組織犯罪防止条約に附属する「人身取引」に関する議定書に基づいて、それを国内法化した規定です(2005年)。

 オランダ人の夫が、別居中の日本人の妻の養育する2歳の子ども(日本国民)を、日本からオランダに連れ去った事案について、本罪の成立が認められています(最決平15・3・18刑集57・3・371)。かりに妻が子供とアメリカに滞在していても、本罪が成立します。

(6)人身売買罪
 刑法226条の2 人を買い受けた者は、3月以上5年以下の懲役に処する(1項)。
 未成年者を買い受けた者は、月以上7年以下の懲役に処する(2項)。
 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を買い受けた者は、1年以上10年以下の懲役に処する(3項)。
 人を売り渡した者も、前項と同様とする(4項)。
 所在国外に移送する目的で、人を売買した者は、2年以上の有期懲役に処する(5項)。
 1項ないし5項の罪の未遂も罰する(228条)。

 「人身取引」に関する議定書に基づいて、それが国内法化された結果、人の買い取りが処罰されることになりました(1項)。その行為客体が未成年者売買の場合、刑が加重されます(2項)。わいせつ目的等に基づく場合(3項)も、また所在国外に移送する目的の場合(5項)も加重されます。

 人の買い取りだけでなく、人の売り渡しも処罰されます(4項)。人の売り渡しを所在国外に移送する目的で行った場合には、刑が加重されます(5項)。これらの罪の未遂も処罰されます。

(7)被略取者等所在国外移送罪
 刑法226条の3 略取され、誘拐され、又は売買された者を所在国外に移送した者は、2年以下の有期懲役に処する。未遂も処罰する(228条)。

 本罪は、略取・誘拐罪、人身売買罪の被害者を所在国外に移送する行為を処罰する規定です。その未遂も処罰されます。

(8)被略取者引渡罪
 刑法227条 第224条、第225条または前3条の罪を犯した者を幇助する目的で、略取され、誘拐され、又は売買された者を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、又は隠避させた者は、3月以上5年以下の懲役に処する(1項)。未遂も罰する(228条)。

 第225条の2第1項の罪を犯した者を幇助する目的で、略取され又は誘拐された者を引き渡し、収受し、輸送し、隠匿し、又は隠避させた者は、1年以上10年以下の懲役に処する(1項)。未遂も罰する(228条)。

 営利、わいせつ又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、略取され、誘拐され、又は売買された者を引き渡し、収受し、輸送し、又は隠匿した者は、6月以上7年以下の懲役に処する(3項)。未遂も罰する(228条)。

 第225条の2第1項の目的で、略取され又は誘拐された者を収受した者は、2年以上の有期懲役に処する(4項前段)。4項前段の罪の未遂は罰する(228条)。

 略取され又は誘拐された者を収受した者が近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させた、又はこれを要求する行為をしたときも、同様とする(4項後段)。

 1項は、未成年者略取・誘拐罪(224条)、営利目的等略取・誘拐罪(225条)、所在国外移送目的略取・誘拐罪(226条)、人身売買罪(226条の2)、被略取者等所在国外移送罪(226条の3)を行った者を事後的に幇助する目的で、これらの罪の被害者を引き渡し、収受し、輸送し、隠匿し、または隠避する行為です。

 2項は、身の代金目的略取・誘拐罪(225条の2第1項)を行った者を事後的に幇助する目的で、この罪の被害者を引き渡し、収受し、輸送し、隠匿し、または隠避する行為です。

 3項は、営利目的等略取・誘拐罪(225条)および営利目的等人身売買(226条の2第3項)の被害者を引き渡し、収受し、輸送しまたは隠匿する行為である。基本犯を事後的に幇助する目的は要件として不要です。

 4項前段は、身の代金目的略取・誘拐罪(225条の2第1項)の被害者を収受する行為である。4項後段は、それを収受した者が、被害者の近親者または安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、その財物を交付させ、またはこれを要求する行為である。基本犯を事後的に幇助する目的は要件として不要です。

(9)解放による刑の減免
 刑法228条の2 第225条の2又は第227条第2項若しくは第4項の罪を犯した者が、公訴が提起される前に、略取され又は誘拐された者を安全な場所に解放したときは、その刑を減軽する。

 身の代金目的略取・誘拐罪の行為(225条の2)を行った者、または身の代金目的略取・誘拐罪を行った者を幇助する目的で被拐取者を隠匿するなどの行為(227条2項)を行った者、もしくは身の代金目的略取・誘拐罪の被拐取者を収受する行為を行った者および被拐取者を収受した者で、その近親者等に対して財物を交付させ、またはそれを要求する行為(227条4項)を行った者が、公訴が提起される前に、被拐取者を安全な場所に解放したときは、その刑が必要的に減軽されます。

 安全な場所とは、被拐取者が近親者・警察当局によって安全に救出されると認められる場所のことです。その安全性は、具体的かつ実質的に見て、危険にさらされるおそれのないことを意味します。漠然とした危険があっても、また不安感・危惧感がぬぐえなくても、場所の安全性は否定されません(最決昭54・6・26刑集33・4・364)。行為者に被拐取者の解放するよう促し、規定の政策目的を実現するために、「安全な場所」を広く捉えるべきでしょう。

(8)親告罪
刑法229条 第224条の罪、第225条の罪及びこれらの罪を幇助する目的で犯した227条第1項の罪並びに同条第3項の罪並びにこれらの罪の未遂罪は、営利又は生命若しくは身体に対するが外の目的による場合を除き、告訴がなければ公訴を提起することができない。ただし、略取され、誘拐され、又は売買された者は犯人と婚姻したときは、婚姻の無効又は取消しの裁判が確定した後でなければ告訴の効力はない。

 未成年者略取・誘拐罪(224条)、営利目的等略取・誘拐罪(225条)、これらの罪を幇助する目的で行われた被拐取者の引き渡し等の罪(227条1項)、営利目的等略取・誘拐・人身売買の被害者の引き渡し等の罪(227条3項)、およびこれらの罪の未遂は、告訴がなければ公訴を提起することはできません。ただし、営利または生命・身体加害の目的による場合は除かれます。

 略取・誘拐・売買された被害者が、被疑者と婚姻した場合、裁判で婚姻の無効または取り消しが確定した後でなければ告訴できません。

告訴権は被害者にあるので、未成年者略取・誘拐罪の場合を含めて、被拐取者に告訴権があります。ただし、略取・誘拐の罪の保護法益に親権者の監護権を含めて考えるならば、監護権者にも告訴権があることになります(福岡高判昭31・4・14高刑裁特3・8・409)。
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