Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第10回③ 2015年12月03日)

2015-11-21 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 第10回 練習問題
(1)基本問題
1盗品関与罪の保護法益
 盗品関与罪(刑256)は、「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」を、

 1.無償での譲り受け(懲役3年以下)

 2.運搬、保管、有償で有償での譲り受け、その有償処分のあっせん(懲役10年以下及び罰金50万円以下)

である。このような行為は、窃盗罪などの本犯者によって、財物の占有が侵害された後、その財物を取り戻し、現状回復を図る権利(追求権)の行使を困難にする。本罪の保護法益は、本犯の被害者の追求権である。

 しかしながら、1項も2項も追求権の行使を困難にする点で同じであるにもかかわらず、その法定刑が異なる。それは何故か。運搬・保管・有償の譲り受け・有償の処分のあっせんの行為は、本犯者の行為を事後的に援助するものであり、このような行為は、本犯者を窃盗などの行為へ誘惑する性質をも有している。従って、これらの行為は、無償の譲り受けに比べて、本犯を助成・誘発するため(窃盗罪などの本犯の法益を危険にさらすため)、法定刑が加重されている(しかも懲役刑と罰金刑を併科する規定になっている)。


2盗品関与罪の行為主体
 本罪の行為主体は、窃盗罪などの本犯者以外の者である。窃盗罪などの本犯者A・Bが、その盗品をAの家に運搬しても、A・Bには重ねて盗品運搬罪にはあたらない。それは、財物の占有を侵害することで、被害者の追求権をも同時に侵害しているからである。従って、本罪の行為主体は、本犯者以外の者に限られる。

 Cが、本犯者A・Bから盗品を有償で譲り受けが、それを自宅倉庫まで運搬し、保管した場合、成立するのは盗品有償譲り受け罪だけで、その運搬罪、保管罪は成立しない。有償の譲り受けによって、窃盗の被害者の追求権が侵害され、追求権侵害の罪として終了しているので(本罪は状態犯)、その後の運搬・保管によって、追求権侵害が重ねて問題になることはないからである。


3本犯の事前幇助(窃盗幇助罪)と事後幇助(盗品関与罪)の関係
 Cが、AがBの窃盗や強盗を幇助した後(窃盗罪・強盗罪の幇助罪が成立)、Cが被害物を有償で譲り受けた場合、有償譲り受けの罪が成立するか。判例では、Cに強盗幇助を認めた上で、さらに盗品有償譲り受けの罪の成立を認めたものがある。例えば、Cが、A・Bの窃盗を幇助した(被害者D)。A・Bは、盗品を運搬・保管した後、Cがその保管を引き継いだ。A・Bには窃盗罪(の共同正犯)が成立するだけで、盗品運搬罪・保管罪(の共同正犯)は成立しない。この場合、盗品保管罪が成立するのはCだけである。財物の占有に対する直接的な侵害を行なったA・Bに盗品関与罪が成立しないのは、占有侵害後には追求権侵害が重ねて問題にはなりえないからである。

 そうすると、教唆や幇助に当たる行為によって財物の占有に対する間接的な侵害を行なったCにも、同じ様に追求権侵害を重ねて問題にする余地はないと考えることもできる。しかし、教唆・幇助は、窃盗の本犯行為のような財物の占有に対する第1次的な侵害形態ではなく、第2次的な形態であり、同じ様に扱う理由はない。惹起説ではなく、不法共犯論や責任共犯論のような堕落説に立てば、Cの幇助はA・Bを窃盗へと堕落させた罪として(被害者はA・B)、盗品の保管はそれとは別に盗品保管罪(被害者はD)として認定することもできる(窃盗幇助罪と盗品保管罪は併合罪になる)。


4本罪の行為客体
 本罪の行為客体は、「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」である。財産犯、とくに財物罪(窃盗、強盗、詐欺、恐喝、横領、背任)によって領得された賭博罪によって得られた物、漁業法違反によって捕獲された物などは、これに入らない。

 領得された物それ自体が本罪の行為客体なのか、それとも一定の加工がなされ、変形が施されても、行為客体の同一性は維持されるのか。判例では、盗んできた婦人用自転車のタイヤとサドルを外し、それを男性用自転車に取り付けた事案について、タイヤとサドルの形が維持されていること、それを容易に取り外しできることを理由に、タイヤ・サドルの盗品としての同一性を認めたものがある(形状の不変性と分離可能性が基準)。

 例えば、Aが「ウィスキー」と「ソーダ水」を盗んできて、「ハイボール」を作り、Bが情を知りながら購入した場合、それらを分離することは容易ではないが、融合させて販売するものなので、「ウィスキー」・「ソーダ水」と「ハイボール」の同一性を認めてもよいと思われる。


5本罪の行為
本罪の行為は、無償の譲り受け(1項)、運搬、保管、有償の譲り受け、有償処分のあっせんである。無償とは対価の支払を伴わないことであり、譲り受けとは、取得することであり、貸与のような場合も含まれる。一時的に使用した場合については、取得にはあたらない。

 運搬とは、委託を受けて盗品の場所を移転させることであり、さほど遠くない場所への移転であっても、追求権が困難にされた場合には運搬にあたる。被害者宅に運搬した場合でも、同じ理由から運搬にあたる場合がある。

 保管とは、委託を受けて盗品を管理・占有することである。盗品であることを知らずに保管を始め、途中で知り、引き続き保管を継続した場合には、知った時から保管罪が成立する(判例)。この場合、知った後に、新たな保管行為が行なわれることを要しない(保管罪は継続犯)。これに対して、保管罪は状態犯であり、知らずに保管を開始したことで保管罪は終了すると解すると、知った後に新たな保管行為が行なわれていなければ、保管罪は成立しない。ただし、占有している物が盗品であることを知った者は、それを警察に通報するなどする地位にあり、それが可能・容易であるにもかかわらず、占有を継続したとして、通報義務に反する不作為を「保管」として論ずることもできる(不作為による保管・不真正不作為犯的構成)。

 有償処分のあっせんとは、本犯者と第三者の間に立って、盗品を売買を仲介することである。あっせんが不調に終わっても、盗品をあっせんにかけ、転売を試みること自体が、被害者の追求権の行使を困難にすると解される。


6追求権の侵害
 窃盗などの被害者には、盗品に対する追求権がある。これは、盗品の返還を請求する権利である。この権利は無条件に保障されるべきものである。例えば、AがBから絵画を奪い、Aから委託を受けたCがBに、その絵画の買い戻しをあっせんした場合、追求権を侵害していないとして、有償あっせんの罪の成立を否定することはできない。追求権は、被害者による盗品の正常な回復を求める権利であり、有償により取り戻しが、正常な回復の権利を侵害している以上、有償処分のあっせん罪が成立する。


7公用文書毀棄罪・私用文書毀棄罪
 公用文書とは、公務所の用に供する文書であり、公務所において使用する目的で保管する文書を意味し、その作成者が公務員であるか私人であるかを問わない。公務所において使用する以上、公務のために使用されるか、私人のために使用されるかも問わない。公務所において使用される電磁的記録も同様である。

 私用文書とは、人の権利・義務に関する文書である。人の権利・義務の存否を証明するための文書である。人の権利・義務の存否を証明する電磁的記録も同様である。

 毀棄とは、文書・電磁的記録の形式的部分と実質的部分の両方に及ぶ。文書が判読不可能になるような場合だけでなく(実質的毀棄)、印紙を剥離するだけで、内容の認識可能性が保持されるような場合も毀棄にあたる(形式的毀棄)。


8建造物損壊罪・同致死傷罪
 本罪の客体は、他人の建造物・船舶である。「他人の」とは、他人に所有権等の権利があることを意味する。例えば、Aが建物に設定した抵当権を行使して、競売で落札して、移転登記を経た後、旧所有者が建物を損壊した場合、旧所有者が、その抵当権が詐欺に基づくものであったために、無効の可能性があると主張していた場合でも、建造物損壊罪の成立は否定されない。「他人の」建造物であるというためには、民事訴訟等において、抵当権設定者に建造物の所有権が移転したことが否定される可能性がないということまで要しない。

 玄関ドアは、構造的に建造物に固定され、また機能面においても防寒、防音、防犯等の役割を果たしているので、建造物の一部である。

 損壊とは、建造物の機能・効用を消滅させることをいうが、美観や外観もまた、建造物を使用する者に著しく不快な感情を覚えさせ、その利用を妨げる程度になっていれば、損壊にあたる。


9器物損壊罪・自己器物損壊罪・境界線損壊罪
 効用私文書、私用文書、建造物・艦船以外の他人の物は、いわゆる「器物」として、保護の対象に含まれる。

 土地の境界線を損壊、移動、除去する行為、または認識不可能にする行為も処罰される。


10信書隠匿罪
 信書とは、信書開封罪の「信書」である。本罪は、それを隠匿することによって成立する。隠匿とは、それが存在する場所の発見を妨げる行為をいう。」


(2)判例問題
74有償処分のあっせん罪の成否(最決平成14・7・1刑集56巻6号265頁)
 盗品等の有償処分のあっせんをする行為は、窃盗等の被害者を処分の相手方とする場合であっても、被害者による盗品等の正常な回復を困難にするばかりでなく、窃盗等の犯罪を助長し誘発するおそれのある行為であるから、刑法256条2項にいう盗品等の「有償の処分のあっせん」はに当たると解するのが相当である。

 →追求権の侵害=被害の正常な回復を困難にする行為



75盗品保管罪における知情の時機(最決昭和50・6・12刑集29巻6号365頁)
 賍物(ぞうぶつ)であることを知らずに物品の保管を開始した後、賍物であることを知るに至ったのに、なおも本犯のためにその管理を継続するときは、賍物の寄蔵にあたるものというべきであり、原判決に法令違反はない。

→保管は継続犯的性質の行為。それを開始した後は、保管行為は継続している。その途中で盗品であることに気づいた場合、その時点から保管罪が成立する。



76盗品の同一性(最判昭和24・10・20刑集3巻10号1660頁)
 被告人がAなる当時16年の少年が窃取して来た中古婦人用26吋(いんち)自転車1台の車輪2個(タイヤーチウブ附)及び「サドル」を取外しこれらを同人の持参した男子用自転車の車体に組替え取付けて男子用に変更せしめてこれをBに代金4000円にて売却する斡旋をして賍物の牙保をしたものと認定判示したもので、要するに他人所有の婦人用自転車の車輪2個及び「サドル」を賍物と認めてこれを牙保したものと判断したものであること明白である。そして、右原判決の事実認定は、その挙示の証拠により肯認することができる。且つその認定によれば判示のごとく組替え取付けて男子用に変更したからといって両者は原形のまま容易に分離し得ること明らかであるから、これを以って両者(が)分離し、また、もとより所論のおうに婦人用自転車の車輪及び「サドル」を用いてAの男子用自転車の車体に工作を加えたものということはできない。されば中古婦人用自転車の所有者たる窃盗の被害者は、依然としてその車輪及び「サドル」に対する所有権を失うべき理由はなく、従って、その賍物性を有するものであること明白であるから、原判決には所論の違法は認められない。論旨はすべて採ることはできない。

→盗品の形状が著しく変化し、分離することが不可能になれば、盗品としての同一性は失われる。



77建造物の他人性(最決昭和61・7・18刑集40巻5号438頁)
 刑法260条の「他人ノ」建造物というためには、他人の所有権が将来民事訴訟等において否定される可能性がないということまでは要しないものと解するのが相当であり、前記のような本権の事実関係にかんがみると、たとえ第1審判決が指摘するように詐欺が成立する可能性を否定し去ることができないとしても、本件建物は刑法260条の「他人ノ」建造物に当たるというべきである。

→「他人が所有する建造物」であることと、それが民事訴訟等において確定していることとは、別問題。後に所有権が否定されることになっても、行為の時点において、抵当権の設定が無効であり、相手方の所有権が否定される可能性がないことまでは要しない。



78建造物の意義(最決平成19・3・20刑集61巻2号66頁)
 建造物に取り付けられた物が建造物損壊罪の客体に当たるか否かは、当該物と建造物との接合の程度のほか、当該物の建造物における機能上の重要性をも総合考慮して決すべきものであるところ、……事実関係によれば、本件ドアは、住居の玄関ドアとして外壁と接合し、外界とのしゃ断、防犯、防風、防音等の重要な役割を果たしているから、建造物損壊罪の客体に当たるものと認められ、適切な工具を使用すれば損壊せずに同ドアの取り外しが可能であるとしても、この結論は左右されない。そうすると、建造物損壊罪の成立を認めた原判断は、結論において正当である。

→建造物の一部が、構造上・機能上、建造物とどのような関係にあるのか。



79落書きと建造物損壊罪(最決平成18・1・17刑集60巻1号29頁)
 以上の事実関係の下では、本件落書き行為は、本件建物の外観ないし美観を著しく汚損し、現状回復に相当の困難を生じさせたものであって、その効用を減損させたものというべきであるから、刑法260条前段にいう「損壊」に当たると解するのが相当であり、これと同旨の原判断は正当である。

→建造物の損壊→物理的損壊=客観的・物理的に効用が減損
        美観・外観の損壊=不快ゆえに、主観的・心理的に使用が著しく困難=効用の減損



(3)事例問題
1有償処分のあっせん罪の成否
 Aは、窃盗犯Bから依頼を受けて、Cに対して、有償による買い戻しをあっせんした。Cは、不必要であると述べて、断った。



 Aは、窃盗犯Bから依頼を受けて、被害者Dに対して、有償による買い戻しをあっせんした。Dは、世間に騒がれるのを避けるため、警察に被害届を出していなかったので、買い戻しに応じた。



2盗品保管罪における知情の時機
 Aは、Bから「少しの間、ここで保管してほしい」と頼まれて、段ボール箱を預かった。テレビで、Bが宝石店から多数の貴金属を盗んだというニュースを見て、「もしかすると、箱の中身はダイヤの指輪や時計なのかもしれない」と思い、開けてみると、そうであった。Aは、そのまま保管し続けた。



3盗品の同一性
 Aは、Bの自転車からサドルを奪い、Cの自転車から車輪を奪い、Dの自転車からチェーンを奪って、自分の自転車に組み入れて、自転車を完成させ、それをEに売却した。



 Aは、Bの家に侵入し、ふすまを数枚盗み、それを著名な書道家Cのところに持ち込み、「憂国」などと書いてもらい、それをBに買い取らせようと持ち込んだ。Bは三島由紀夫のファンであり、「憂国」の愛読者でもあったので、喜んで買い取った。



4建造物の他人性
 Aは、抵当権を設定できる事実がないにもかかわらず、Bにその事実があると欺かれて、Cの建物に抵当権を設定し、その移転登記を行なった。Cは、抵当権を設定される理由はないと主張し、一方で民事訴訟を提起しながら、他方で建物を守るために、ドアを取り換え、窓のカギを替えるなどした。



5建造物の意義
 Aは、Bによる解雇に不満を抱き、自動車に乗って、Bの家に行ったが、居留守を使われたため、激昂し、自動車ごと門扉にぶち当てて、破壊した。



6落書きと建造物損壊罪
 Aは、商店街の店舗のシャッターに、美しい富士の山を描いた。それがツィッターで話題になり、大勢の観光客が押し寄せるようになり、商店街はかつてのような活気を取り戻した。



 Aは、公園の公衆トイレの壁一面に、赤と黒のペンキでまだらの文字で、「戦争法を廃止する国民連合政府を作ろう」と書いた。利用者のなかには、その文字が奇妙な形をしていたため、そのトイレを使うのを止めたものがいた。文字は、簡単に消すことができないほどのペンキで書かれていた。

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