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Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

2018年度刑法Ⅰ(第09回)基本レジュメ

2018-06-02 | 日記
 第09回 責任論(4)責任能力(問題12)百選34、35、36、37、38、39、61

(1)責任能力
・刑法39条1項(心神喪失)・2項(心神耗弱こうじゃく)
 行為を行なった者が心神喪失の場合、処罰されない。
 心神耗弱の場合、刑を必要的に減軽する。


・刑法41条
 行為を行なった者が14才未満であった場合、処罰されない。
 ただし、14才未満の者には少年法が適用される。
 14才以上であっても、20才以下の者にも少年法が適用される。


・責任主義
 処罰されるのは、原則的に故意の行為であり、例外的には過失の行為も処罰される。
 さらに、
 心神喪失(責任無能力)の場合は不処罰にし、
 心神耗弱(限定責任能力)の場合は刑を減軽する。
 14才未満(刑事未成年)の場合は不処罰にする。

 社会生活上、一定の経験がある人には、法意識・規範意識が備わっており、その意識に従って行動する。その意識に基づけば、是非善悪を判断し、その判断に従って行為をすることができる。つまり、違法行為を思いとどまることができる(予防できる)。それにもかかわらず、違法行為を実行する意思決定をした人には、法的な非難が向けられる。

 しかし、是非善悪を判断することができない人、それができても行動を制御することができない人については、たとえ故意・過失に基づいて行なおうとも、非難することはできない。


・責任能力
 行為の是非善悪を弁識し、その弁識に従って行動を制御する能力

 この能力が、精神の障害により、欠如している→責任無能力  心神喪失(39①)に該当
         〃   著しく減退している→限定責任能力 心神耗弱(39②)に該当

(2)「原因において自由な行為」の理論
・実行行為と刑事責任能力の同時存在の原則
 責任非難の対象は、責任能力時の故意・過失
 責任能力が欠如・減退している→刑法39①②


・しかし、結果行為時の責任能力の欠如・減退は、自己の原因行為の産物
 しかも、原因行為と結果行為との間に連関・連続性あり
 原因行為が結果行為をコントロールしている
 →原因において自由な行為の理論の適用

 間接正犯類似説
 責任能力者である自分が原因行為によって「責任能力を欠いた自分」を作り、
 それを道具のように利用して(コントロールして)、結果行為を実行する

 「原因において自由な行為」の実行の着手時期
 間接正犯類似説→被利用者(責任無能力状態の自己)の行為を基準に実行の着手を判断する
         利用者(責任能力を備えた自己)の行為を基準に実行の着手を判断する

(3)適法行為の期待可能性の欠如
 刑法39条・41条 法定の責任阻却事由・責任減少事由

 法定されていない超法規的責任阻却事由?
 行為者に違法行為ではなく、適法行為を期待できない状況

 期待可能性・不可能性の判断基準は?
  行為者本人を標準にすると、期待できない場合が拡大する?
  一般人を標準にすると、一般人を下回る能力しかない者には酷になる?
  国家・法が前提にする人間像を基準にすると、待される側ではなく、期待する側から判断する?

  カルネアディスの板の事例 緊急避難における法益(生命)同価値の場合
  家族のために行った犯人蔵匿罪・隠避罪、証拠隠滅罪

(4)判例で問題になった責任能力
【34】責任能力の基準(最二判昭和53・3・24系週32巻2号408頁)
 被告人の病歴、犯行態様にみられる奇異な行動、および犯行以降の病状などを総合的に考察すると、被告人は、本件犯行当時、精神分裂病の影響により、行為の是非善悪を弁識する能力(弁識能力)またはその弁識に従って行動を制御する能力(制御能力)を著しく減退していたとの疑いを抱かざるをえない。



【35】責任能力の認定(最一決平成21・12・8刑集63巻11号2829頁)
 責任能力の有無・程度の判断は、法律判断であって、専ら裁判所にゆだねられるべき問題であり、上記法律判断との関係で究極的には裁判所の評価にゆだねられるべきものである。したがって、専門家たる精神医学者の精神鑑定等が問題になっている場合においても、鑑定の前提条件に問題があるなど、合理的な事情が認められれば、裁判所は、その意見を採用せずに、責任能力の有無・程度について、被告人の犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機・態様等を総合して判定することができる。



【36】実行行為と責任能力(長崎地判平成4・1・14判時1415号142頁)
 被告人Xは、暴行を開始した時点において、すでに飲酒していたものの、単純酩酊の状態であり、責任能力に問題はなかった。しかし、その後、飲酒を継続したために、複雑酩酊となり、心神耗弱の状態に陥った。その間に暴行は継続され、被害者は死亡した。
 暴行は、複雑酩酊に陥る前後において行なわれている。それは同じ場所で連続的ないし断続的に行なわれた一連・一体の1個の暴行である。そのような暴行から致死結果が発生しているのであるから、傷害致死罪にあたる。



【37】過失犯と原因において自由な行為(最判昭和26・1・17刑集5巻1号20頁)
 本件被告人の如く、多量に飲酒するときは、病的酩酊に陥り、因って心神喪失の状態において他人に犯罪の害悪を及ぼす危険ある素質を有する者は、心神喪失の原因となる飲酒を抑止又は制限する等前示危険の発生を未然に防止するよう注意する義務あるものといわなければならない。しからば、たとえ原判決認定のように、本件殺人の所為は、被告人の心神喪失時の所為であったとしても、(イ)被告人は、既に前示のような己れの素質を自覚していたのであり、且つ(ロ)本件事前の飲酒につき前示注意義務を怠ったがためであるとするならば、被告人は過失致死の罪責を免れ得ないといわなければならない。



【38】故意犯と原因において自由な行為(大阪地判昭和51・3・4判時822号109頁、判タ341号320頁)
 Xは、本件犯行前に飲酒を始めるにあたって、責任無能力の状態になった時点において、積極的に犯罪を実行しようと決意したとは認められない。しかし、自ら任意に飲酒を継続したことが認められる。飲酒しなければ、死に勝る苦痛に襲われるような特殊な状態にあたっとも認められない。さらに、裁判官から禁酒を命ぜられていたことを自覚していた。したがって、飲酒すれば責任無能力または限定責任能力の状態に陥って、他人に暴行脅迫を加えるかもしれないことを認識・予見しながら、飲酒を続けたといえるので、暴行・脅迫の未必の故意を認めることができる。



【39】限定責任能力と原因において自由な行為(最決昭和43・2・27刑集22巻2号67頁)
 被告人Xは、飲酒後に自動車を運転することになるであろうと認識しながらビールを飲み、その後駐車してあったAの自動車を自車と取り違えて無断で運転し、途中で乗車させたBを畏怖させて金品を喝取した。Xは、行為当時、心神耗弱の状態にあった。
 第1審は、Xに酒酔い運転の罪の成立を認め、刑法39条2項を適用して刑を減軽した(窃盗罪と恐喝罪の罪責は除く)。
 原審は、第1審判決を破棄して、酒気帯び運転罪について、次のように判断した。被告人Xは、心神に異状のない時点において、すでに酒酔い運転の意思があり、それによって酒酔い運転をしている。そうであるから、運転時には心神耗弱の状態にあったにせよ、刑法39条2項を適用することはできない。



【61】期待可能性(最一小判昭和33・7・10刑集12巻11号2471頁)
【事実の概要】
 被告人は、東芝電気株式会社の工場長として、失業保険法所定の保険料の納付義務があったが、昭和23年9月から11月までの保険料を納付しなかったため。失業保険法違反の罪で起訴された。
 控訴審の無罪の判断は、次の通りである。被告人が保険料を納付しなかった行為は、失業保険法の罪の構成要件に該当し、違法であり、かつ故意もあったが(責任能力があったことはもちろんである)、被告人に対して、保険料の納付という義務の履行=適法行為を行うことを期待しえなかった以上、その責任を問うことはできない(期待可能性の欠如による超法規的責任阻却)。
 これに対して、最高裁は、被告人の行為は、保険料納付義務違反の構成要件該当性を否定した。
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