Nо.098 強盗罪・強盗致死傷罪
強盗罪・強盗致傷罪の成否に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものはどれか。
(1)甲は、暴行・脅迫を用いてAの所持しているハンドバッグを奪取する目的をもって、ハンドバッグを奪取し、ついで暴行を加えてその奪取を確保した。この場合、事後強盗罪が成立する。
(2)甲はAに対しナイフを示して脅迫し金員を奪取した。甲の脅迫は社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧する程度のものであったが、Aはたまたま反抗を抑圧されなかった。この場合、甲には恐喝罪ではなく強盗既遂罪が成立する。
(3)甲および乙がAを殺害して覚せい剤を奪取しようと企てたが、計画の一部を変更し、次のように実行した。すなわち、甲がAをホテルの一室に呼び出し、覚せい剤取引仲介を装ってAから覚せい剤を受け取り同室から出た直後、乙が同室に入り、Aに対してけん銃を発射した。これにより、Aは重傷を負った。この場合、殺人と奪取が、同時に行われたのと同一視できる程度に密着した日時場所においてなされたといえるから、甲および乙には1項強盗殺人未遂罪が成立する。
(4)甲があに対し、「金を出せ」「騒ぐと突き刺すぞ」等と申し向けて日本刀を突きつけたところ、Aはその日本刀にしがみついて救いを求め、甲がその刀を引いたことによって右手掌等に傷害を負った。この場合、Aの傷害はAの行為の結果であるから、甲の暴行によるものといえず、強盗傷害罪は成立しない。」
(5)甲は、Aを殺害してAに対する債務の履行を免れようと企図し、Aの東部を殴打し、重傷を負わせたが、殺害の目的を遂げなかった。2項強盗罪は、他人に財産上の処分を強制することを要求するから、単に債務者を殺害する行為は強盗罪にあたらない。よって、甲に2項強盗殺人未遂罪は成立しない。
Nо.099 暴行・脅迫後の領得意思
次の学生AおよびBの【会話】中の①から③までの( )内に入る学生の発言として正しいものを後記【発言】から選んだ場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。
【会話】
学生A 他の目的で暴行・脅迫を加え、被害者の反抗を抑圧した後、財物を奪取する意思を生じ、これを奪った場合にも、強盗罪の成立を認めるべきだ。なぜなら、この場合には、( ① )。
学生B A君の見解には賛成できない。強盗罪は被害者の反抗を抑圧する暴行・脅迫を手段として財物を奪取することによって成立する犯罪であるから、その暴行・脅迫は財物奪取の目的をもってなされる必要がある。したがって、被害者の犯行抑圧状態に乗じて財物を奪取しても、財物奪取の意思が生じた後に、当たらに強盗の手段としての暴行・脅迫がなされないかぎり、強盗罪の成立は認められない。
学生A みずから生ぜしめた反抗抑圧状態を利用して財物を奪取する行為と、反抗を抑圧する暴行・脅迫を手段として財物を奪取する行為とは、違法性や当罰性の点においてそれほど違いがないと思う。
学生B A君の見解は罪刑法定主義からも問題がある。すなわち、( ② )。それにもかかわらず、強盗罪の成立を認めることは許されないはずだ。
学生A B君の見解では、財物奪取行為は窃盗罪として処罰されるにすぎないことになるが、それは形式論にすぎるのではないか。
学生B いや、( ③ )。したがって、僕の立場からも、強盗罪の手段としての暴行・脅迫を認定しやすいことになるから不都合はない。
【発言】
ア 刑法第178条第2項は、人の抵抗不能状態に乗じて姦淫した場合に強姦罪と同様に処罰することを規定しているが、強盗罪にはこのような処罰規定はない。
イ みずからの暴行・脅迫によって生ぜしめた被害者の犯行抑圧状態を利用し、財物を奪取したと認めることができるからである。
ウ すでに被害者が反抗抑圧状態にある場合には、強盗の手段としての暴行・脅迫は、被害者の反抗抑圧状態を継続させるに足りる程度の暴行・脅迫で十分であるといえる。
(1)①ア②イ③ウ (2)①ア②ウ③イ (3)①イ②ア③ウ
(4)①ウ②ア③イ (5)①ウ②イ③ア
Nо.100 無銭飲食後の暴行
学生A、BおよびCは、次の【事例】について後記【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から⑤までの( )内から適切な語句を選んだ場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。
【事例】
甲は、無銭飲食の意思で飲食した後、その代金の支払を免れるため、店員に反抗を抑圧する程度の暴行を加えて逃走した。
【会話】
A 僕は、甲には、①(a1甲詐欺罪と2項強盗罪の2罪 b2項強盗罪1罪)が成立すると考える。なぜなら、詐欺罪が成立した後も代金支払義務は依然として存在する以上、その義務を暴行により免れることは新たに財産上の利益を得たことになるからだ。
B A君の見解は、②(c事前に範囲があれば軽い罪、これがなければ重い罪になる dかりに甲が欺いて支払を免れれば、飲食の時点で1項詐欺罪が成立し、支払を免れた時点で2項詐欺罪が成立することを前提としている)点で妥当ではない。僕は、甲には、③(e1項詐欺罪と暴行罪の2罪 f1項詐欺罪と2項強盗罪の2罪)が成立すると考える。なぜなら、すでに詐欺罪が成立している以上、強盗罪が成立する余地はないからだ。
C B君の見解は、④(g事前に範囲があれば軽い罪、これがなければ重い罪になる hdかりに甲が欺いて支払を免れれば、飲食の時点で1項詐欺罪が成立し、支払を免れた時点で2項詐欺罪が成立することを前提としている)点で妥当ではない。僕は、甲には、⑤(i1項詐欺罪と暴行罪の2罪 j2項強盗罪1罪)が成立すると考える。なぜなら、事後強盗罪の場合、先行する窃盗罪が事後強盗罪に吸収されることを類推し、吸収関係を認めることができるからだ。
(1)①a②c③f④h⑤i (2)①a②d③e④h⑤j (3)①a②d③e④g⑤j
(4)①b②c③f④g⑤i (5)①b②d③e④g⑤j
Nо.101 事後強盗罪(1)
強盗罪に関する次の1から5までの各記述を、判例に従って検討した場合、誤っているものはどれか。
(1)甲は、A事務所に忍び込み窃盗を働き、もし他人に発見された場合にはこれに脅迫を加え金員を得るか、もしくは逮捕、盗品の取返しを免れることを計画し、これに使用する凶器として、登山ナイフおよびけん銃を携帯し、ビル街をはいかいし、事務所等を物色した。この場合、甲は、窃盗犯人の身分を有していなくても強盗予備罪が成立する。
(2)甲は、A方に侵入し、Aの留守中に、寝室のたんすから、指輪を窃取してポケットに入れた。さらに、甲は数日間Aの家の天井裏に隠れ、食べ物を盗んだりしようと考え、天井裏に潜んでいた。甲が指輪を窃取してから約2時間後、Aが天井裏にだれか人がいると気づき、警察に通報し、到着した警察官Bが甲を逮捕しようとした際、甲は、持っていたナイフで切りつけ加療3週間を要する怪我を負わせた。この場合、甲には、強盗致傷罪が成立する。
(3) 甲は、A宅に侵入し、現金を奪ったうえで、だれからも発見・追跡されることなく逃げ出したものの、盗んだ金額が少額であったため。再度A宅に盗みに入ろうと考え引き返し、A宅に侵入した。しかし、甲は、室内に家人がいることに気づいたため、逃げようとしたところ、帰宅してきたBに発見されたので、逮捕を免れる目的で持っていたナイフをBに就き付け、Bがひるんだすきに逃げ出した。この場合、甲には、事後強盗罪が成立する。
(4)甲は、乙らと金員を強取することを共謀し、日本刀をはじめとする凶器をそれぞれ準備して、A宅の窓から侵入し、就寝中のAを起こし、日本刀を突き付けて脅迫し、金品を強取しようとした。しかし、Aが救いを求めて戸外に脱出し、その妻Bも騒ぎ立てたため、金品奪取の目的を達することができなかった。そこで甲は唐須おしようとしてA宅を退去したが、追ってきたBに対して、逮捕を免れるために日本刀で刺し、死亡させた。この場合、甲に、強盗致死罪が成立する。
(5)甲は、Aが運転するタクシーに乗車し、突然停車を命じ、Aにけん銃を突き付けて金を要求したが、Aは応じなかったため、いったん下車した。その後、再びタクシーに乗車し、約6分後、約6キロメートルの距離にある交番前でAが停車したため、けん銃でAの頭部を殴打するなどして加療2週間の傷害を負わせた。この場合、甲には、強盗致傷罪が成立する。
Nо.102 事後強盗罪(2)
事後強盗罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものはどれか。
(1)事後強盗罪の既遂・未遂は、先行する窃盗罪が既遂か未遂かによって決まるため、財物の取返しを防ぐ目的による暴行・脅迫の場合には、事後強盗既遂罪が成立し、事後強盗未遂罪が成立する余地はない。
(2)事後強盗罪における暴行・脅迫は、窃盗罪の被害者に対してなされる必要がある。
(3)事後強盗罪が成立するためには、窃盗犯人により刑法第238条所定の目的で暴行・脅迫がなされる必要があり、かつ、その目的が達成されなければならない。
(4)事後強盗罪における財物の取返しを防ぐ目的、逮捕を免れる目的が認められるためには、被害者により実際に財物の取返し、逮捕の行為が行われたことが必要である。
(5)事後強盗罪の規定は強盗予備罪の規定よりも後におかれているのであるから、強盗予備罪にいう「強盗の罪を犯す目的」には事後強盗罪の目的は含まれず、事後強盗罪の予備罪は成立しない。
Nо.103 事後強盗罪における窃盗の機会
以下の【事例】における甲、乙の罪名を判例の立場に従って検討した場合、正しいものを後記【罪名】の1から5までのなかから選びなさい(住居侵入罪は除く)。
【事例】
某工場で窃盗を行った甲は、現場から約10メートル離れた同工場塀外の路上においてAに発見され、現行犯人として追跡を受け、約60メートル進んだ地点で逮捕されそうになったので、これを免れるため、手拳でAの胸部を突くなどの暴行を加えた(第1暴行)。さらに甲は、Aからシャツの襟をつかまれて付近の前記工場守衛詰所に連行される途中、2、30メートル進んだ所で、Aの隙をうかがい、その手を振り切って逃げ出し、さらに手拳でAの首辺を殴打し、胸部を突いてその場に店頭させあるいは足蹴にする等の暴行を加えた(第2暴行)。甲の一連の暴行によってAに傷害結果が生じたものの、この障害結果は第1暴行、第2暴行のどちらから生じたか不明であった。
乙はBの留守宅に侵入して財布を盗み、約1キロメートル離れた公園で現金を数えたが、思ったより少なかったため再び盗みに入ろうと引き返し、玄関に入ったところをBに発見されたため、同人にナイフを見せて威嚇し、Bがひるんだ隙に逃走した。
【罪名)
(1)甲:事後強盗致傷罪 乙:事後強盗罪 (2)甲:事後強盗罪・傷害罪 乙:窃盗罪・脅迫罪
(3)甲:事後強盗罪・暴行罪 乙:窃盗罪・脅迫罪 (4)甲:窃盗罪・暴行罪 乙:事後強盗罪
(5)甲:事後強盗致傷罪 乙:窃盗罪・脅迫罪
Nо.104 事後強盗罪の共同正犯
学生A、BおよびCは、次の【事例】について後記【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から④までの( )内から適切な語句を選んだ場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。
【事例】
甲が、丙から財物を窃取して逃走中、追跡してきた丙に対して暴行を加える場面で、乙が情をしって関与し、甲とともに丙に暴行を加えた。
【会話】
学生A 私は、事後強盗罪が身分犯であることを前提に、同罪を①(a真正身分犯 b不信性身分犯)と考える。
学生B私も、事後強盗罪は身分犯であると考えるが、事後強盗の目的をもたない者が暴行を加えた場合、暴行罪で処理されるにすぎないのに対して、同じ暴行を事後強盗の目的をもって加えた場合にはより重い強盗罪により処罰されるという点を重視するので、A君の考え方には反対だ。次に、刑法第65条について②(c1項は真正身分犯についての成立と科刑を、2項は不真正身分犯についての成立と科刑を規定したもの d1項は真正身分犯および不真正身分犯を通じて身分における共犯の成立について、2項は特に不真正身分犯の科刑について規定したもの)と考える。よって、私は、乙に暴行罪の共同正犯が成立すると考える。
学生A C君は、乙の罪跡についてどのゆに考えるのかな。
学生C 本件における乙の罪跡については、別の観点から考えるべきだと思う。私は、事後強盗罪を結合犯と考える。すると、本件乙の罪跡を考えるにあたっては、③(e承継的共同正犯 f結果的加重犯の共同正犯)の成否が問題となる。この問題について、僕は否定的な立場を採るので、乙には④(g暴行罪の共同正犯 h事後強盗罪の共同正犯)が成立することになる。
(1)①a②c③e④g (2)①a②c③f④h (3)①a②d③e④h
(4)①b②c③e④g (5)①b②d③f④g
Nо.105 強盗致傷罪
次の1から5までの各記述は、被害者Aののどもとに包丁を突き付け、負傷せしめた疑いで警察官の取調べを受けた被疑者の供述であるが、これらの判例の立場に従って検討した場合、その供述の内容が強盗致傷罪の成立を否定する主張となるものを1個選びなさい。
1「私はたしかにAを負傷させましたが、まだ何も実際に奪ってはいない」
2「Aが負傷したのは、私が部屋で物色している隙にAが逃走しようとして転倒したことによるものだ」
3「私は当初、Aを単に負傷させるつもりで包丁を突き付けた。私が強盗を思い立ったのは、包丁dえ負傷させられたAがおびえているのを見たことによるものだ」
4「私は、Aの自宅で現金を盗んだあと、天井裏に3時間隠れていた。Aに発見されてしまったので、やむなくAに包丁を突き付けて負傷させた」
5「私はAではなくBの財布を奪った。Aがそれをみとがめて追いかけてきたことから、Aに対して包丁を突き付け、負傷させた」
強盗罪・強盗致傷罪の成否に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものはどれか。
(1)甲は、暴行・脅迫を用いてAの所持しているハンドバッグを奪取する目的をもって、ハンドバッグを奪取し、ついで暴行を加えてその奪取を確保した。この場合、事後強盗罪が成立する。
(2)甲はAに対しナイフを示して脅迫し金員を奪取した。甲の脅迫は社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧する程度のものであったが、Aはたまたま反抗を抑圧されなかった。この場合、甲には恐喝罪ではなく強盗既遂罪が成立する。
(3)甲および乙がAを殺害して覚せい剤を奪取しようと企てたが、計画の一部を変更し、次のように実行した。すなわち、甲がAをホテルの一室に呼び出し、覚せい剤取引仲介を装ってAから覚せい剤を受け取り同室から出た直後、乙が同室に入り、Aに対してけん銃を発射した。これにより、Aは重傷を負った。この場合、殺人と奪取が、同時に行われたのと同一視できる程度に密着した日時場所においてなされたといえるから、甲および乙には1項強盗殺人未遂罪が成立する。
(4)甲があに対し、「金を出せ」「騒ぐと突き刺すぞ」等と申し向けて日本刀を突きつけたところ、Aはその日本刀にしがみついて救いを求め、甲がその刀を引いたことによって右手掌等に傷害を負った。この場合、Aの傷害はAの行為の結果であるから、甲の暴行によるものといえず、強盗傷害罪は成立しない。」
(5)甲は、Aを殺害してAに対する債務の履行を免れようと企図し、Aの東部を殴打し、重傷を負わせたが、殺害の目的を遂げなかった。2項強盗罪は、他人に財産上の処分を強制することを要求するから、単に債務者を殺害する行為は強盗罪にあたらない。よって、甲に2項強盗殺人未遂罪は成立しない。
Nо.099 暴行・脅迫後の領得意思
次の学生AおよびBの【会話】中の①から③までの( )内に入る学生の発言として正しいものを後記【発言】から選んだ場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。
【会話】
学生A 他の目的で暴行・脅迫を加え、被害者の反抗を抑圧した後、財物を奪取する意思を生じ、これを奪った場合にも、強盗罪の成立を認めるべきだ。なぜなら、この場合には、( ① )。
学生B A君の見解には賛成できない。強盗罪は被害者の反抗を抑圧する暴行・脅迫を手段として財物を奪取することによって成立する犯罪であるから、その暴行・脅迫は財物奪取の目的をもってなされる必要がある。したがって、被害者の犯行抑圧状態に乗じて財物を奪取しても、財物奪取の意思が生じた後に、当たらに強盗の手段としての暴行・脅迫がなされないかぎり、強盗罪の成立は認められない。
学生A みずから生ぜしめた反抗抑圧状態を利用して財物を奪取する行為と、反抗を抑圧する暴行・脅迫を手段として財物を奪取する行為とは、違法性や当罰性の点においてそれほど違いがないと思う。
学生B A君の見解は罪刑法定主義からも問題がある。すなわち、( ② )。それにもかかわらず、強盗罪の成立を認めることは許されないはずだ。
学生A B君の見解では、財物奪取行為は窃盗罪として処罰されるにすぎないことになるが、それは形式論にすぎるのではないか。
学生B いや、( ③ )。したがって、僕の立場からも、強盗罪の手段としての暴行・脅迫を認定しやすいことになるから不都合はない。
【発言】
ア 刑法第178条第2項は、人の抵抗不能状態に乗じて姦淫した場合に強姦罪と同様に処罰することを規定しているが、強盗罪にはこのような処罰規定はない。
イ みずからの暴行・脅迫によって生ぜしめた被害者の犯行抑圧状態を利用し、財物を奪取したと認めることができるからである。
ウ すでに被害者が反抗抑圧状態にある場合には、強盗の手段としての暴行・脅迫は、被害者の反抗抑圧状態を継続させるに足りる程度の暴行・脅迫で十分であるといえる。
(1)①ア②イ③ウ (2)①ア②ウ③イ (3)①イ②ア③ウ
(4)①ウ②ア③イ (5)①ウ②イ③ア
Nо.100 無銭飲食後の暴行
学生A、BおよびCは、次の【事例】について後記【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から⑤までの( )内から適切な語句を選んだ場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。
【事例】
甲は、無銭飲食の意思で飲食した後、その代金の支払を免れるため、店員に反抗を抑圧する程度の暴行を加えて逃走した。
【会話】
A 僕は、甲には、①(a1甲詐欺罪と2項強盗罪の2罪 b2項強盗罪1罪)が成立すると考える。なぜなら、詐欺罪が成立した後も代金支払義務は依然として存在する以上、その義務を暴行により免れることは新たに財産上の利益を得たことになるからだ。
B A君の見解は、②(c事前に範囲があれば軽い罪、これがなければ重い罪になる dかりに甲が欺いて支払を免れれば、飲食の時点で1項詐欺罪が成立し、支払を免れた時点で2項詐欺罪が成立することを前提としている)点で妥当ではない。僕は、甲には、③(e1項詐欺罪と暴行罪の2罪 f1項詐欺罪と2項強盗罪の2罪)が成立すると考える。なぜなら、すでに詐欺罪が成立している以上、強盗罪が成立する余地はないからだ。
C B君の見解は、④(g事前に範囲があれば軽い罪、これがなければ重い罪になる hdかりに甲が欺いて支払を免れれば、飲食の時点で1項詐欺罪が成立し、支払を免れた時点で2項詐欺罪が成立することを前提としている)点で妥当ではない。僕は、甲には、⑤(i1項詐欺罪と暴行罪の2罪 j2項強盗罪1罪)が成立すると考える。なぜなら、事後強盗罪の場合、先行する窃盗罪が事後強盗罪に吸収されることを類推し、吸収関係を認めることができるからだ。
(1)①a②c③f④h⑤i (2)①a②d③e④h⑤j (3)①a②d③e④g⑤j
(4)①b②c③f④g⑤i (5)①b②d③e④g⑤j
Nо.101 事後強盗罪(1)
強盗罪に関する次の1から5までの各記述を、判例に従って検討した場合、誤っているものはどれか。
(1)甲は、A事務所に忍び込み窃盗を働き、もし他人に発見された場合にはこれに脅迫を加え金員を得るか、もしくは逮捕、盗品の取返しを免れることを計画し、これに使用する凶器として、登山ナイフおよびけん銃を携帯し、ビル街をはいかいし、事務所等を物色した。この場合、甲は、窃盗犯人の身分を有していなくても強盗予備罪が成立する。
(2)甲は、A方に侵入し、Aの留守中に、寝室のたんすから、指輪を窃取してポケットに入れた。さらに、甲は数日間Aの家の天井裏に隠れ、食べ物を盗んだりしようと考え、天井裏に潜んでいた。甲が指輪を窃取してから約2時間後、Aが天井裏にだれか人がいると気づき、警察に通報し、到着した警察官Bが甲を逮捕しようとした際、甲は、持っていたナイフで切りつけ加療3週間を要する怪我を負わせた。この場合、甲には、強盗致傷罪が成立する。
(3) 甲は、A宅に侵入し、現金を奪ったうえで、だれからも発見・追跡されることなく逃げ出したものの、盗んだ金額が少額であったため。再度A宅に盗みに入ろうと考え引き返し、A宅に侵入した。しかし、甲は、室内に家人がいることに気づいたため、逃げようとしたところ、帰宅してきたBに発見されたので、逮捕を免れる目的で持っていたナイフをBに就き付け、Bがひるんだすきに逃げ出した。この場合、甲には、事後強盗罪が成立する。
(4)甲は、乙らと金員を強取することを共謀し、日本刀をはじめとする凶器をそれぞれ準備して、A宅の窓から侵入し、就寝中のAを起こし、日本刀を突き付けて脅迫し、金品を強取しようとした。しかし、Aが救いを求めて戸外に脱出し、その妻Bも騒ぎ立てたため、金品奪取の目的を達することができなかった。そこで甲は唐須おしようとしてA宅を退去したが、追ってきたBに対して、逮捕を免れるために日本刀で刺し、死亡させた。この場合、甲に、強盗致死罪が成立する。
(5)甲は、Aが運転するタクシーに乗車し、突然停車を命じ、Aにけん銃を突き付けて金を要求したが、Aは応じなかったため、いったん下車した。その後、再びタクシーに乗車し、約6分後、約6キロメートルの距離にある交番前でAが停車したため、けん銃でAの頭部を殴打するなどして加療2週間の傷害を負わせた。この場合、甲には、強盗致傷罪が成立する。
Nо.102 事後強盗罪(2)
事後強盗罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものはどれか。
(1)事後強盗罪の既遂・未遂は、先行する窃盗罪が既遂か未遂かによって決まるため、財物の取返しを防ぐ目的による暴行・脅迫の場合には、事後強盗既遂罪が成立し、事後強盗未遂罪が成立する余地はない。
(2)事後強盗罪における暴行・脅迫は、窃盗罪の被害者に対してなされる必要がある。
(3)事後強盗罪が成立するためには、窃盗犯人により刑法第238条所定の目的で暴行・脅迫がなされる必要があり、かつ、その目的が達成されなければならない。
(4)事後強盗罪における財物の取返しを防ぐ目的、逮捕を免れる目的が認められるためには、被害者により実際に財物の取返し、逮捕の行為が行われたことが必要である。
(5)事後強盗罪の規定は強盗予備罪の規定よりも後におかれているのであるから、強盗予備罪にいう「強盗の罪を犯す目的」には事後強盗罪の目的は含まれず、事後強盗罪の予備罪は成立しない。
Nо.103 事後強盗罪における窃盗の機会
以下の【事例】における甲、乙の罪名を判例の立場に従って検討した場合、正しいものを後記【罪名】の1から5までのなかから選びなさい(住居侵入罪は除く)。
【事例】
某工場で窃盗を行った甲は、現場から約10メートル離れた同工場塀外の路上においてAに発見され、現行犯人として追跡を受け、約60メートル進んだ地点で逮捕されそうになったので、これを免れるため、手拳でAの胸部を突くなどの暴行を加えた(第1暴行)。さらに甲は、Aからシャツの襟をつかまれて付近の前記工場守衛詰所に連行される途中、2、30メートル進んだ所で、Aの隙をうかがい、その手を振り切って逃げ出し、さらに手拳でAの首辺を殴打し、胸部を突いてその場に店頭させあるいは足蹴にする等の暴行を加えた(第2暴行)。甲の一連の暴行によってAに傷害結果が生じたものの、この障害結果は第1暴行、第2暴行のどちらから生じたか不明であった。
乙はBの留守宅に侵入して財布を盗み、約1キロメートル離れた公園で現金を数えたが、思ったより少なかったため再び盗みに入ろうと引き返し、玄関に入ったところをBに発見されたため、同人にナイフを見せて威嚇し、Bがひるんだ隙に逃走した。
【罪名)
(1)甲:事後強盗致傷罪 乙:事後強盗罪 (2)甲:事後強盗罪・傷害罪 乙:窃盗罪・脅迫罪
(3)甲:事後強盗罪・暴行罪 乙:窃盗罪・脅迫罪 (4)甲:窃盗罪・暴行罪 乙:事後強盗罪
(5)甲:事後強盗致傷罪 乙:窃盗罪・脅迫罪
Nо.104 事後強盗罪の共同正犯
学生A、BおよびCは、次の【事例】について後記【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から④までの( )内から適切な語句を選んだ場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。
【事例】
甲が、丙から財物を窃取して逃走中、追跡してきた丙に対して暴行を加える場面で、乙が情をしって関与し、甲とともに丙に暴行を加えた。
【会話】
学生A 私は、事後強盗罪が身分犯であることを前提に、同罪を①(a真正身分犯 b不信性身分犯)と考える。
学生B私も、事後強盗罪は身分犯であると考えるが、事後強盗の目的をもたない者が暴行を加えた場合、暴行罪で処理されるにすぎないのに対して、同じ暴行を事後強盗の目的をもって加えた場合にはより重い強盗罪により処罰されるという点を重視するので、A君の考え方には反対だ。次に、刑法第65条について②(c1項は真正身分犯についての成立と科刑を、2項は不真正身分犯についての成立と科刑を規定したもの d1項は真正身分犯および不真正身分犯を通じて身分における共犯の成立について、2項は特に不真正身分犯の科刑について規定したもの)と考える。よって、私は、乙に暴行罪の共同正犯が成立すると考える。
学生A C君は、乙の罪跡についてどのゆに考えるのかな。
学生C 本件における乙の罪跡については、別の観点から考えるべきだと思う。私は、事後強盗罪を結合犯と考える。すると、本件乙の罪跡を考えるにあたっては、③(e承継的共同正犯 f結果的加重犯の共同正犯)の成否が問題となる。この問題について、僕は否定的な立場を採るので、乙には④(g暴行罪の共同正犯 h事後強盗罪の共同正犯)が成立することになる。
(1)①a②c③e④g (2)①a②c③f④h (3)①a②d③e④h
(4)①b②c③e④g (5)①b②d③f④g
Nо.105 強盗致傷罪
次の1から5までの各記述は、被害者Aののどもとに包丁を突き付け、負傷せしめた疑いで警察官の取調べを受けた被疑者の供述であるが、これらの判例の立場に従って検討した場合、その供述の内容が強盗致傷罪の成立を否定する主張となるものを1個選びなさい。
1「私はたしかにAを負傷させましたが、まだ何も実際に奪ってはいない」
2「Aが負傷したのは、私が部屋で物色している隙にAが逃走しようとして転倒したことによるものだ」
3「私は当初、Aを単に負傷させるつもりで包丁を突き付けた。私が強盗を思い立ったのは、包丁dえ負傷させられたAがおびえているのを見たことによるものだ」
4「私は、Aの自宅で現金を盗んだあと、天井裏に3時間隠れていた。Aに発見されてしまったので、やむなくAに包丁を突き付けて負傷させた」
5「私はAではなくBの財布を奪った。Aがそれをみとがめて追いかけてきたことから、Aに対して包丁を突き付け、負傷させた」