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Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

事後的併合罪の余罪の処断方法について

2018-03-21 | 旅行
 事後的併合罪の余罪の処断方法について

 一 問題の所在
 二 名古屋地方裁判所平成27年12月15日判決
 三 刑法総則の「併合罪」の規範構造
 四 事後的併合罪の余罪の処断方法をめぐる問題
 五 事後的併合罪の余罪に対する死刑の可否

 一 問題の所在
 刑法50条は、併合罪のうちに既に確定裁判を経た罪とまだ確定裁判を経ていない罪とがあるときは、確定裁判を経ていない罪について更に処断すると定めている。例えば、被告人が甲罪(V1・V2に対する強盗殺人罪)、乙罪(V3に対する強盗殺人未遂罪)、丙罪(V4に対する強盗殺人罪)を行い、丙罪について起訴され、無期懲役刑が確定し、その執行中に甲罪と乙罪が被告人の犯行によるものであることが明らかにされたとする。その場合、甲罪と乙罪は、丙罪と併合罪(刑法45条後段の併合罪――以下、事後的併合罪と称す。)の関係にあり、丙罪については確定裁判を経ているが、さらに処断される(なお、甲罪と乙罪は刑法45条前段の併合罪として同時審理され処断される――以下、同時的併合罪と称す。)。では、この甲罪と乙罪はどのように処断されるのか。一般的な同時的併合罪として処断されるだけなのか、それともすでに確定裁判を経た丙罪と関連づけられて処断されるのか。刑法50条は、「さらに処断する」と定めているだけで、その具体的な方法について明確に規定していない。
 小論は、刑法典総則第9章「併合罪」の諸規定を踏まえたうえで、名古屋地方裁判所平成27年12月15日判決において示された事後的併合罪の余罪の処断方法の当否について検討するものである1)。上記に例示したように、名古屋地裁は、無期懲役刑が確定している丙罪と事後的併合罪の関係に立つ甲罪および乙罪に対して死刑を言い渡した。それに対して被告人が控訴したが、名古屋高等裁判所は、平成28年11月8日、第1審判決を是認し、控訴を棄却する判断を示した。さらに被告人が上告したが、裁判は現在のところ確定していない。そもそも、併合罪の関係にある複数の罪のうちの一部の罪について無期懲役刑が確定している場合、その他の余罪に対して死刑を言い渡すことができるのか。本稿では、刑法上それが可能であることは自明ではないこと、むしろ罪刑法定主義を基本原則とする刑法においては認められないことを論証することを目的としている。

 二 名古屋地方裁判所平成27年12月15日判決
1事実の概要
 被告人は、BおよびCと強盗を共謀し、平成10年6月28日午後4時30分頃、V₁宅に侵入し、在宅のV₂に対して暴行を加えた。さらに、BとCが殺意を持ってV₂を殺害し、同人所有の現金6万円を奪った。その後、被告人とBおよびCは、V₁が帰宅するのを待ち、帰宅したV₁に対して被告人が単独またはB・Cと共にV₁に暴行を加えて殺害し、同人所有の金庫1個等を奪った(住居侵入罪および強盗殺人罪:甲事件)。
 被告人は、Bと強盗を共謀し、平成18年7月20日午後零時20分頃、V₃方に侵入し、単独で、又はBと共謀して、殺意をもってV₃に暴行を加えて殺害し、同人所有の現金2万5千円等を強取し、加療56日を要する傷害を負わせた(住居侵入罪および強盗殺人未遂罪:乙事件)。
 被告人は、2名の共犯者と共謀し、平成19年8月24日、被害者1名を殺害し、金員を強取した(強盗殺人罪:丙事件〔闇サイト殺人事件〕)。この事件について起訴され、第1審名古屋地裁において死刑が言い渡され(平成21年3月18日)、控訴審で刑が無期懲役刑に減軽され(平成23年4月12日)、最終的に最高裁の上告棄却の決定(平成24年7月11日)により、被告人に無期懲役刑が確定した(平成24年7月18日)2)。
 被告人は、丙事件の服役中に甲事件および乙事件の嫌疑で逮捕され、起訴された。

2裁判所の判断
 名古屋地裁は、まず確定裁判を経た丙罪について、名古屋高裁において強盗殺人罪等の成立が認められ、無期懲役が宣告されたこと、それが最高裁の上告棄却の決定によって確定したことを踏まえたうえで、甲事件および乙事件がいずれも被告人によるものであることを認め、それぞれの罪に科されるべき刑罰の種類として、甲事件につき死刑を、そして乙事件につき無期懲役刑を選択し、刑法45条後段、50条、45条前段、46条第1項本文を適用して、被告人を甲罪につき選択された死刑に処した。量刑理由は、次のように示された(なお、甲罪・乙罪はそれぞれ住居侵入罪と牽連犯〔刑法54条後段〕の関係に立つ)。

 各事件を総合すると、特に、2名の生命を奪い、1名の生命を脅かしたという結果が極めて重大である上、いずれも、殺害の計画性こそ認められないものの、偶発的にではなく、強盗を遂行するために冷徹に各殺害行為に及んだといえるのであって、これらを繰り返した点で被告人の生命軽視の態度は甚だしい。本件各犯行の犯情は誠に重く、特に酌量すべき事情がない限り、死刑を選択することも止むを得ないというべきである。
 被告人は、甲・乙の事件について事実を否認し、客観的事実に反する不合理な弁解をし、いまだに自身の罪に向き合わず、反省は深まっていない。……また、現在受刑中の刑による作業報奨金として得た合計3万円や今後得られる作業報奨金を被害弁償金に充てると述べており、被害者らに対し謝罪の念を持ち始めたことがうかがわれるが、上記の反省の程度に鑑みれば、そのことを評価するにも限度があり、ましてやその責任の重大さからすれば、この点が刑の選択に影響するとは到底考えられない。そのほか、本件犯行までに前科がなかったことなどを入れても、死刑の選択をためらわせる特に酌量すべき事情はない。

 このように名古屋地裁は被告人に死刑を言い渡した。これに対して被告人が控訴したが、平成28年11月8日、名古屋高裁は控訴を棄却した(現在は被告人側から上告中)。

 三 刑法総則の「併合罪」の規範構造
 被告人が行った甲罪は被害者2名に対する強盗殺人罪であり、乙罪は被害者1名に対する強盗殺人未遂罪であった。各犯行の犯情は重く、特に酌量すべき事情がない限り、死刑の選択はやむを得ないと判断された。確かに被告人の行為は重大であるが、それに対する死刑はいかなる法的根拠に基づいているのか。以下では、刑法総則の併合罪に関する規定の内容を確認し、第1審が示し、控訴審が維持した量刑判断の当否を検討する。

1刑法45条前段の同時的併合罪
 刑法45条前段は、「確定裁判を経ていない2個以上の罪を併合罪とする」と定めている。例えば、行為者が甲罪、乙罪、丙罪と断続的に行い、そのいずれもが起訴されず、裁判にかけられていない場合、この3個の罪は併合罪にあたる。この併合罪を処断する方法は、どのように規定されているか。
 この併合罪のうちの1個の罪について死刑に処するときは、他の刑を科さない(刑法46条1項)。例えば、被告人が甲罪、乙罪、丙罪を行い、裁判所が甲罪の刑として死刑、乙罪の刑として無期懲役刑、丙罪の刑として無期懲役刑を選択した場合、甲罪の刑である死刑によって処断される。そのときは、乙罪と丙罪の刑である無期懲役刑は科されない。また、併合罪のうちの1個の罪について無期の懲役刑または禁錮刑に処するときも、他の刑を科さない(刑法46条2項。ただし、罰金、科料および没収は、この限りでない。)。例えば、甲罪、乙罪、丙罪のいずれの刑としても無期懲役刑を選択し、甲罪の犯情が最も重いと判断されるときは、甲罪の刑の無期懲役刑によって処断される。そのときも、乙罪と丙罪の刑である無期懲役刑は科されない3)。
 以上のように、刑法45条前段の同時的併合罪に関しては、死刑、無期懲役刑・禁錮刑の処断方法については明示的に定められている。その限りで言えば、甲罪と乙罪が同時的併合罪の関係にある以上、重い罪の甲罪の法定刑を基準にして死刑が選択された場合、それを科すことが許される4)。

2刑法45条後段の事後的併合罪
 刑法45条後段の事後的併合罪についてはどうか。刑法45条後段は、「ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする」と定め、刑法50条は、「併合罪のうちにすでに確定裁判を経た罪とまだ確定裁判を経ていない罪とがあるときは、確定裁判を経ていない罪について更に処断する」と定めている。例えば、被告人が甲罪、乙罪、丙罪を行い、丙罪について起訴され、無期懲役刑が確定し、その執行中に甲罪と乙罪が被告人によることが明らかになった場合、甲罪と乙罪については更に処断される。
 事後的併合罪も併合罪である以上、同時的併合罪と同じように扱われ、同じ処断方法が適用されるのは当然である。ただし、事後的併合罪を構成する罪の一部にはすでに禁錮以上の刑が確定しているので、その余罪を処断するにあたっては、刑法46条に規定された同時的併合罪の処断方法をそのまま適用することはできない。その適用にあたっては、一定の工夫が必要になる。その工夫としては、学説では追加刑主義が主張されている。すなわち、かりに甲罪、乙罪、丙罪の全てを同時審判したと仮定して、判断される刑の種類と量(統一刑)を想定しながら、確定裁判を経た犯罪の刑に余罪の刑を追加的に加算して、想定される統一刑と同一ないし同等になるようにすべきであると主張されている。裁判例においても、この立場に対して肯定的に言及するものがある5)。
 丙罪について無期懲役刑が確定した後に、それと事後的併合罪の関係に立つ甲罪と乙罪を処断する場合、甲罪、乙罪、丙罪の全てを同時審判したと仮定して判断される統一刑を想定することになる。それが死刑であるならば、丙罪の無期懲役刑に追加的に加算されて、死刑と同一ないし同等になる刑が甲罪と乙罪の刑になる。その場合、死刑を選択できるかどうかは明らかではないが、判例では死刑を選択することが一般的に認めらている6)。

 四 事後的併合罪の余罪の処断方法をめぐる問題
 この追加刑主義は、事後的併合罪の量刑を同時的併合罪と等しく判断する方法であり、妥当であると思われるが、統一刑をどのようにして想定するのかについては問題がある。余罪を審理する裁判所は、裁判資料に基づいて確定裁判を経た罪の種類・内容について知ることができるが、その詳細な事実関係を正確に認識することができるかどうかは明らかではない。従って、同時審判はあくまでも仮定であって、それゆえ統一刑もまた想定であって、最高刑である死刑を想定することは慎重でなければならない。ただし、このような限界があったとしても、事後的併合罪の余罪の中に甲罪のようにそれ自体で死刑が相当と判断される罪が含まれている場合には、想定される統一刑として死刑が不当であるとまではいえない。その場合、余罪に死刑を言い渡すことも可能であるが、その執行方法については、刑法51条が一定の制約を課している。

1刑法51条1項本文の一般規則
 刑法51条1項は、「併合罪について2個以上の裁判があったときは、その刑を併せて執行する」と一般的に規定している。この「その刑を併せて執行する」とは、被告人が甲罪、乙罪、丙罪の3つの罪を行い、確定裁判を経た丙罪の刑とその余罪としての甲罪および乙罪に科された刑を合算して執行するという意味である。これらの刑がいずれも有期の懲役刑または禁錮刑の場合は、その「執行は、その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを超えることができない」として、合算した有期刑の合計の超過分は執行過程において調整するとしている(同条2項)。
 例えば、被告人が、強盗罪、窃盗罪、強姦罪を行い、強盗罪と窃盗罪で起訴されて28年の懲役刑が確定し、その執行過程において、余罪である強姦罪で起訴されて3年の懲役刑(旧177条の法定刑の短期に相当。現行の強制性交等罪の短期は5年の懲役刑)が言い渡された場合、併せて31年の懲役刑を執行することになるが、3つの罪のうちで最も重い罪である強盗罪について定められた刑の長期の20年の懲役にその2分の1の10年を加えた30年の懲役を超えることができないので、その刑の執行過程において調整されることになる7)。
 このように51条は、事後的併合罪について言い渡された2個以上の有期刑を執行するにあたって、確定裁判を経た罪の刑と合算した結果、法定の上限を超える量の刑を調整するとしている。つまり、宣告段階において調整せずに、その執行過程において同時的併合罪と同一ないし同等となるよう調整を図ることを定めている。刑法47条は、同時的併合罪に科される有期刑の上限について定め、51条2項は、事後的併合罪に科される有期刑の上限について、それと等しくなるよう定めている。

2刑法51条1項但書の特別規則
 では、併合罪について2個以上の裁判があったとき、その刑に死刑が含まれている場合は、どのようになるのか。刑法51条1項但書は、「ただし、死刑を執行すべきときは、没収を除き、他の刑を執行せず」と定めている。つまり、2個以上の裁判があり、そのなかに死刑が含まれ、その死刑を執行すべきときは、没収を除き、他の罪の刑は科されない。
 この「死刑を執行すべきとき」とは、どのような意味か。執行されるべき「死刑」とは、どの罪について言い渡された刑を指しているのか。それがすでに確定裁判を経た罪の刑であるならば、「他の刑」である余罪の刑は、没収を除いて執行されない。例えば、被告人がすでに強盗殺人罪などで死刑が確定し、その後、強盗致傷罪などの余罪のあることが明らかになった場合、死刑の執行が延期され、後の余罪につき無期または有期の懲役刑が言い渡され、その上で強盗殺人罪の「死刑を執行すべきとき」と判断されたならば、余罪の無期または有期の懲役刑は執行されない8)。
 しかし、被告人が強盗致傷罪などで無期懲役刑が確定し、その執行中に強盗殺人罪などの余罪があることが明らかになり、その罪で起訴され、死刑が言い渡された場合、どのようになるのか。「死刑を執行すべきとき」と言えるかは、必ずしも明らかではない。かりに強盗殺人罪の「死刑を執行すべきとき」にあたると判断された場合、強盗致死罪などの刑はすでに執行中であるため、もはや「他の刑を執行しない」とすることはできない。それを「他の刑をさらに執行しない」という意味において理解したとしても、すでに一定期間の懲役刑を執行した後に死刑を執行することにしかならない。結果的には、同時審判したと仮定して想定される統一刑の「死刑」を超えることになり、追加刑主義の考えに反する。また、このような刑は「懲役刑と死刑の併科」である。刑法はそのような刑種を定めておらず、その意味において罪刑法定主義に抵触すると言わざるを得ない9)。

 五 事後的併合罪の余罪に対する死刑の可否
 すでに述べたように、刑法51条は、事後的併合罪について言い渡された2個以上の刑を併せて執行するにあたって、それらが有期刑の場合、その執行過程において同時的併合罪の統一刑と同一ないし同等となるよう調整を図ることを定めている。そして、確定裁判を経た罪の刑が死刑であり、余罪の裁判が行われることになったために、その執行が延期され、余罪につき無期または有期の刑が言い渡されても、すでに確定している死刑だけを執行し、無期または有期の刑を執行しないことによって、執行段階において調整が図られる。いずれの場合も事後的併合罪の量刑を同時的併合罪と同一ないし同等とするために取られる執行段階における工夫であり、妥当であると思われる。
 しかし、確定裁判を経た罪の無期または有期の懲役刑の執行中に余罪があることが明らかになり、それを更に処断した結果、統一刑として死刑が想定されることを理由に、余罪に死刑を言い渡すことが許されるとしても、実際に執行される刑は、すでに執行された数年の懲役刑と死刑の併科刑になり、それは統一刑である死刑を超えることになる。死刑の執行段階において、すでに執行された懲役刑を調整することはできない。また、それを調整する規定は刑法のどこにもない。従って、余罪の量刑を適正に評価して、死刑が相当であると判断できたとしても、その死刑の執行段階において調整を図ることができない以上、「死刑を執行すべきとき」にあたらないとして、死刑の執行を見合わせる以外にはない。
 本件の被告人は、平成10年6月28日に行った甲罪(V1・V2に対する強盗殺人罪)および平成18年7月20日に行った乙罪(V3に対する強盗殺人未遂罪)の2件の罪につき、名古屋地方裁判所で平成27年12月15日に死刑が言い渡され、その後控訴したが、名古屋高等裁判所で平成28年11月8日、控訴棄却され、現在、上告中である。これら2件の罪は、平成19年8月24日、2名の共犯者と共謀して被害者1名を殺害し、金員を強取した丙罪(V4に対する強盗殺人罪。いわゆる「闇サイト殺人事件」)と併合罪の関係にあり、それは平成24年7月18日、最高裁の上告棄却の決定により無期懲役が確定し、執行中である。従って、本件の甲罪と乙罪の2件の罪について、上告棄却の判断がなされ、死刑が確定・執行されるならば、丙罪について執行中の懲役と併せると「約5年の懲役刑と死刑」を執行することになる。それはすでに説明したように、刑法50条の追加刑主義の考えに反し、刑法51条の執行段階における調整を行わない不当な刑の執行である。さらに、刑法に定められている最高刑の死刑をも超え、罪刑法定主義に反すると言わざるを得ない。
 以上から、事後的併合罪の余罪に対して死刑を科すことはできないと結論づけることができる。刑法50条の追加刑主義の考えに基づくならば、本件の甲罪と乙罪に対して言い渡せるのは、最高でも無期懲役刑である。それが刑法の規定に即した適正な量刑判断である10)。

1)名古屋地裁判平成27・12・15判時2327号107頁。その評釈として、拙稿「無期懲役刑が確定した罪と併合罪の関係に立つ余罪に対する死刑の可否」法セ752号(2017年9月)109頁参照。
2)最2小決平成24・7・11集刑308号91頁。
3)「他の刑を科さない」という意味については、最2小決平成19・3・22刑集61巻2号81頁、判時1966号159頁、判タ1238号192頁。その評釈として、芦澤政治「併合罪関係にある複数の罪のうち1個の罪のみでは死刑又は無期刑が相当とされない場合にその罪について死刑又は無期刑を選択することの可否」最高裁判所判例解説62巻3号209頁以下、同・ジュリスト1397号(2010年4月)99頁以下、山火正則・判例評論602号37頁以下、小池信太郎「刑法46条の趣旨」法教・判例セレクト(2007年)30頁、谷直之「個々の罪のみでは無期刑が相当とされない場合に、併合罪として無期刑を選択することの可否」受新684号(2008年2月)28頁以下、只木誠「併合罪にある複数の罪のうち1個の罪では死刑または無期懲役刑が相当とされない場合にその罪について死刑または無期懲役刑を選択することの可否」速報判例解説(刑法No.5)175頁以下、原田保「併合罪における死刑・無期の選択方法」愛知学院大学論叢法学研究50巻2号(2009年)133頁以下、拙稿「刑法46条における併合罪の処断方法と行為責任主義の意義」法セ6367号(2007年12月)頁。
4)最2小決昭和58・7・8刑集37巻6号609頁は、「永山則夫連続射殺事件」において、被告人の行為に対して死刑を選択する基準の1つとして「結果の重大性ことに殺害された被害者の数」を挙げた(永山基準)。その被害者の数は、短期間のうちに殺害された4人を指すものと思われるが、併合罪の関係にある罪につき死刑を選択する場合には、そのうちの1個の罪について死刑にすることになるので、被害者の数は、その1個の罪の被害者の数であって、併合罪の関係にある罪の被害者の合計数ではないと限定的に解することができる。死刑が憲法上認められた刑罰であっても、それは刑法46条1項に基づいて言い渡されなければならない。
5)大塚仁・河上和雄・佐藤文哉・古田佑紀編(中川武隆)『大コンメンタール刑法(第2版』(2001年)269頁以下参照。拙稿「併合罪の一部の罪の確定裁判後に審理された余罪の量刑判断方法について」立命館法学345・346号(2012年3月)697頁以下参照。
6)最3小決平成24・12・17(裁判所HP)は、「本件において量刑上重視されるべき事情は、被告人が、僅か13日前に本件と同様の強盗殺人事件を犯しながら、再び強盗殺人に及んでいる点である。前件等の確定裁判の余罪である本件の量刑判断に当たっては、前件等を実質的に再度処罰する趣旨で考慮することは許されないものの、なお犯行に至る重要な経緯等として考慮することは当然に許されるのであって、本件は、上記のような犯行に至る経緯等に加え、落ち度のない被害者が殺害された結果の重大性等に照らせば、犯情が甚だ悪く、殺害された被害者が1名であっても、死刑の選択が検討されてしかるべき事案である」と判断した。その評釈として、只木誠「強盗殺人事件等の確定裁判の余罪である強盗殺人等につき無期懲役が量定された事例」ジュリスト1466号170頁以下。第1審判決については拙稿「無期懲役刑の確定裁判の後に審理された余罪の量刑判断の方法」法セ692号(2012年9月)131頁、原判決については拙稿「事後的併合罪の余罪に対する量刑判断の方法」法セ700号(2013年5月)133頁。
7)有期懲役・禁錮の上限は30年であるので(刑法14条2項)、刑法51条2項による刑の執行過程における調整もそれを超えることはできない。ただし、30年を超えることができないからといって、30年まで執行しても許されることにはならない。複数の罪を同時審判したと仮定して想定される統一刑が30年の懲役刑または禁錮刑であるとは限らないからである。その点に関しては、拙稿「余罪の量刑判断の方法について」立命館法学357・358号(2015年3月)190頁以下参照。
8)前橋スナック銃乱射事件で死刑が確定した死刑囚について、不動産会社社長=当時(49)を殺害した余罪があるとして、2017年4月10日、警視庁組織犯罪対策4課は殺人罪の嫌疑で逮捕した。実体的真実主義からは、前橋スナック銃乱射事件の裁判において死刑が確定していても、不動産会社社長の殺人事件の全容を解明することが求められる。その限りにおいて確定した死刑の執行は延期され、余罪の殺人に有期または無期の懲役が科されても、それは執行されない。
9)2006年9月23日に神奈川県川崎市で1人を女性を殺害した殺人既遂とその7ヵ月後の2007年4月に1人の女性に重傷を負わせた殺人未遂の事件のうち、後者の殺人未遂事件だけが起訴され、2009年8月に被告人に対して懲役10年の刑が確定し、被告人はその後、栃木県内の刑務所において服役した。2016年1月頃、被告人は刑務所から神奈川県警に対して前者の殺人事件への関与を認める手紙を送り、その後、殺人既遂罪の嫌疑で逮捕された。確定裁判の罪の刑が執行終了間際になって余罪があることが発覚したので、更に処断されることになる。その方法が刑法50条の追加刑主義によらなければならないとしても、余罪の量刑をいかに判断するかが非常に困難な問題である。
10)『年報・死刑廃止2017 ポピュリズムと死刑』(インパクト出版会、2017年)によると、最高裁継続中の死刑事件は6件ある。そのなかで確定裁判後に発覚した事件で死刑が言い渡されたのは、本件だけである。死刑が憲法に違反しているか否かだけでなく、刑法51条に違反しているかどうかを同時に論ずる必要があるように思われる。


*本稿は、住居侵入、強盗殺人、強盗殺人未遂被告事件、名古屋地裁平24(わ)1701号・平25(わ)156号に関して、2017年10月1日、本件の担当弁護人を通じてその付属資料として最高裁に提出した意見書を加筆・補正したものである。

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