刑法Ⅱ(各論) 第09回 練習問題
(1)基本問題
1横領罪――占有物の委託関係
横領罪(刑252)「自己の占有する他人の物」とは、他人から委託を受けて、保管・管理(占有)する物(動産・不動産)である。釣銭のうち誤って多く支払われた部分、誤配達された郵便物は、委託関係に基づいていないので、離脱物である(刑254)。
2物の占有
占有とは物に対する事実上・法律上の支配であり、会社が管理する財産や不動産は取締役の占有にある。
3他人の物
金銭の所有権は、その所持者にあると認められるが、特定物品の購入や特定の決算など使途を定めて所持・管理を委託した場合、委託物の所有権は委託者に帰属する。それを使途目的外に消費すると横領にあたる。
4不法な原因に基づいて物の占有を委託した場合
不法な原因に基づいて、保管・管理を委託し、それを給付した場合、給付者はその返還を請求はできないが(民708)、その所有権が占有者に移転するわけではないので、消費すれば横領にあたる。
5不法領得の意思の発現としての横領行為
横領罪の成立要件は、自己の占有する他人の財物を「横領」する行為を不法領得の意思に基づいて行なうことを要する。不法領得の意思は、委託の任務に背いて、その物について権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意思である。ただし、横領行為は、この不法領得の意思が外部に表明された行為であれば足り、処分行為に至っていることは必要ではない。
6横領と背任
横領罪は委託関係に基づいて占有する他人の物を横領する行為であり、背任罪は他人事務を処理する者が任務に背いて事務処理をして財産上の損害を与える行為である。両者は法条競合の関係にあるので、一方が成立すれば、他方の要件を具備していても、成立しない。
村長が管理する村の公金を、親交の深い第三者に貸与し、村に損害を与えた場合、村長が行なった「貸与」は、所有者でなければできない行為であるが、それを村長の個人名義で行なった場合は(業務上)横領、村名義で行なった場合は背任が成立する。
7業務上横領罪
本罪は他人の物の保管を業務として行なっている者による横領罪である。業務者という身分によって横領罪の刑が加重されている(加重的身分犯)。(単純)横領罪と業務上横領罪は、基本類型と加重類型の関係にある。業務とは、社会的地位に基づき、反復・継続して行なわれ、かつ他人の物の保管などの事務である。
8遺失物横領罪・漂流物横領罪・占有離脱物横領罪
錯誤に基づいて郵便物を配達し、占有を移転させた場合、その郵便物を占有する者は、委託に基づいて占有しているのではないので、横領すれば占有離脱物横領罪が成立する。
占有離脱物横領罪と(単純)横領罪は、「占有している他人の物を横領する」という点で共通しているが、委託を受けた占有か否かに違いがある。従って、前者は委託を受けていない物の横領という意味で「非委託物横領罪」、後者は委託を受けた物なので、委託物横領罪の関係にある。占有するよう委託を受けたことが「身分」であるならば、非委託物(占有離脱物)横領罪は横領罪の基本類型であり、委託物横領罪は委託関係(身分)による加重類型であることになり、業務上(委託物)横領罪は、非委託物横領を委託関係(身分)と業務者(身分)による二重の加重類型であることになる(山口説)。
非委託者A、委託者B、業務上の委託者Cがいて、BとCが共同して横領すれば、Bの委託物横領罪とCの業務上横領罪の共同正犯になる。AとB、またはAとCが共同した場合、山口説的に考えると、AはBの委託物横領罪またはCの業務上横領罪の共同正犯であるが、Aには非委託物横領罪である。
9背任罪
詐欺罪と背任罪は、同一の章に規定されているが、物の占有と事務処理が委託に基づいて行われる点に共通性があるため、罪質に同一性があると解されている。
本罪の主体は、他人から委託を受けて、その人のための事務を処理する者である。その事務は財産処理に関する事務であり、その多くは、売買・貸借・処分等に関わるので、委託者を代理して、対外的に行なわれる法律事務である。従って、代理権を濫用して、委託された事務の範囲を超えて、契約などの対外的な法律行為を行なって、委託者本人に損害を与えた場合には、背任罪が成立する。
しかし、委託されるのは、対外的な法律行為に限られず、対内的・組織内的な事務もあり、法律行為の形式をとらない場合もある。従って、背任罪の成立範囲を、対外的な法的代理権の濫用に限定すべきではない。ただし、委託された事務が単なる機械的・形式的なものではなく、一定の範囲内において、実質的な判断を加える裁量的な事務に限るべきである。
委託に基づいて、委託者のために事務処理を行なうべき者が、その任務に違反する行為が、いわゆる「任務違反行為」である。これは、対外的な代理権の濫用によって、契約などの法律行為を行なう場合だけでなく、対内的・組織内的な非法律的・事実的な行為によっても行なわれる。
背任罪が成立するには、事務の委託者に財産上の損害を与えることが要件である。それは、本人の財産状態全体を見て、不良的に変更したことを意味する(全体財産に対する罪)。
背任罪の主観的要件としては、他人の事務であること、任務に違背していること、それにり財産上の損害が発生することの認識が必要である(故意)。さらに、自己・第三者の利益を図る目的(図利目的―財産的利益に限らない)または本人に害を加える目的(加害目的―財産上の損害に限る)が必要である。それは、意欲や積極的に容認していることまで必要ではない(ただし、加害目的は財産上の損害の認識と同じ意味)。
「本人の利益を図る目的」から、故意に本人に財産上の損害を発生させた場合、「加害目的」は認められても、「図利目的」が認められないので、背任罪の主観的要件としては、不十分である。ただし、本人図利目的と自己・第三者図利目的は、併存しうる。いわゆる「蛸配当」は、会社の株価の維持と経営の安定化の目的で行なわれるが(本人図利目的)、株主の利益を図るために行なわれるので(第三者図利目的)、背任罪の成立は免れない。
(2)判例問題
62不法原因給付にかかる物件の横領(最判昭和23・6・5刑集2巻7号641頁)
不法原因の為め給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができないことは、民法708条の規定するところであるが、刑法252条1項の横領罪の目的物は、単に犯人の占有する他人の物であることを要件としているのであって、必ずしも物の給付者において民法上その返還を請求しうべきものであることを要件としてはいないのである。
63使途を定めて寄託された金銭の他人性(最判昭和26・5・25刑集5巻6号1186頁)
使途を限定されて寄託された金銭は、売買代金の如く単純な商取引の履行として授受されたものとは自らその性質を異にするのであって、特別な事情がない限り、受託者はその金銭について刑法252条にいわゆる「他人ノ物」を占有する者と解すべきであり、従って、受託者がその金銭について、委託の本旨とは違う処分をしたときは、横領罪を構成するといわなければならない。
→金銭は代替可能(1万円札1枚は千円札10枚に代替可能)。「使途が限定された金銭」も代替可能?
64不動産の二重売買と横領(福岡高判昭和47・11・22刑月4巻11号1803頁)
不動産の二重譲渡の場合、売主である前記Q(本件山林の名義人Pの相続人)の所為が横領罪を構成することは明らかであるが(山林をAに売却後、P名義のまま被告人に売却した)、その買主については、単に二重譲渡であることを知りつつこれを買受けることは、民法第177条の法意に照らし、経済取引上許された行為であって、刑法上の違法性を有しないものと解すべきことは、所論のとおりである(Aは所有権を取得したが、未登記であったので、被告人に対向できない)。しかしながら本件においては、買主たる被告人は、所有者Aから買取ることが困難であるため、名義人Pから買入れようと企て、前記のとおり単に二重譲渡になることの認識を有していたのに止まらず、二重譲渡になることを知りつつ、敢えて前記Qに対し本件山林の売却方を申入れ、同人が二重譲渡になることを理由に右申入れを拒絶したにもかかわらず、法的知識の乏しいQに対し、二重譲渡の決意を生ぜしめるべく、借金はもう50年以上たっているから担保も時効になっている、裁判になっても自分が引き受けるから心配は要らない等と執拗且つ積極的に働きかけ、その結果遂にQをして被告人に売買契約を締結するに至らしめたのであるから、被告人の本件所為は、もはや経済取引上許容されうる範囲、手段を逸脱した刑法上違法な所為というべく、Qを唆かし、更にすすんで自己の利益をも図るため同人と共謀のうえ本件横領行為に及んだものとして、横領罪の共同正犯としての刑責を免れないものというべきである。
65横領罪における不法領得の意思(1)(最判昭和24・3・8刑集3巻3号276頁)
横領罪に成立に必要な不法領得の意志とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意志をいうのであって、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図することを必要とするものではなく、又占有者において不法に処分したものを後日に補填する意志が行為当時にあったからといって、横領罪の成立を妨げるものではない。
→農業会長が各農家から預かり、保管していた政府供出米を、その後に補填する意思のもとに、魚粕に交換
66横領罪における不法領得の意思(2)(最決平成13・11・5刑集55巻6号546頁)
本件交付の意図が専らAのためにするところにあったとすれば、不法領得の意思はなく、業務上横領罪の成立は否定される。しかし、本件交付におけるXの意図は専らAのためにするところにはなかたっと判断して、本件交付につきXの不法領得の意思を認めた原判決の結論は、正当である。
→被告人Xは、会社Aの取締役経理部長。Aの株を買い集め、Aの経営権を奪おうしているBに対抗するため、事件屋Cに種々の仕事を依頼し、資金および報酬として、8億9千5百万円を交付するなどした。
67横領か背任か(大審院昭和9・7・19刑集13巻983頁)
他人のために、その事務を処理するにあたって、自己の占有する本人(他人)の物を自ら不正に領得するのではなく、第三者の利益を図る目的をもって、その任務に背いた行為を行ない、本人に財産上の損害を与えたときは、背任罪を構成する。
→A村の村長Xは、B会社の社長Yからの懇請に応じ、Aの基本財産から金銭を貸し与えた。原判決は、X・Yを業務上横領罪の共同正犯とした。弁護人は、X・Yには不法領得の意思はなく、背任罪にとどまるとと上告した。自己の占有する他人の物について、本人(保管の委託者)に財産上の損害を与えた場合に、「領得行為」が行なわれれば横領罪が、それ以外は「任務違背行為」であり、背任が成立する。
68横領後の横領(最判平成15・4・23刑集57巻4号467頁)
委託を受けて他人の不動産を占有する者が、これにほしいままに抵当権を設定してその旨の登記を了した後においても、その不動産は他人の物であり、受託者がこれを占有していることに変わりはなく、受託者が、その後、その不動産につき、ほしいままに売却等による所有権移転行為を行ない、その旨の登記を了したときは、委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をしたものにほかならない。したがって、売却等による所有権移転行為について、横領罪の成立自体は、これを肯定することができるというべきであり、先行の抵当権設定行為が存在することは、後行の所有権移転行為について犯罪の成立を妨げる事情にはならないと解するのが相当である。
→自己が占有する他人の不動産に抵当権を設定は横領(物には不動産を含む)。しかし、それは依然として「他人の物」。それを売却等して所有権を買主に移転する行為も横領(横領後に横領物を横領する行為)。
69背任罪における「事務処理者」の意義(最判昭和31・12・7刑集10巻12号1592頁)
抵当権設定者は、その登記に関して、これを完了するまで、抵当権者に協力する任務を有することはいうまでもないところであり、右任務は主として他人である抵当権者のために負うものといわなければならない。
抵当権の順位は、当該抵当物件の価額から、どの抵当権が優先して弁済を受けるのかの財産上の利害に関する問題であるから、本件被告人の所為たるAの1番抵当権を、後順位の2番抵当権たらしめたことは、既に刑法247条の損害に該当するものといわなければならない。
70任務違背行為の意義(最決平成21・11・9刑集63巻9号1117頁)
Dグループは、本件各融資に先立つ平成6年3月期において実質倒産状態にあり、グループ各社の経営状況が改善する見込みはなく、既存の貸付金の回収のほとんど唯一の方途と考えられていたG地区の開発事業もその実現可能性に乏しく、仮に実現したとしても、その採算性にも多大な疑問があったことから、既存の貸付金の返済は期待できないばかりか、追加融資は新たな損害を発生させる危険性のある状態にあった。被告人A及び同Bは、そのような状況を認識しつつ、抜本的な方策を講じないまま、実質無担保の本件各融資を決定、実行したのであって、上記のような客観性を持った再建・整理計画があったものでもなく、所論の損失極小化目的が明確な形で存在したともいえず、総体としてその融資判断は著しく合理性を欠いたものであり、銀行の取締役として融資に際し求められる債権保全に係る義務に違反したことは明白である。そして、両被告人には、同義務違反の認識もあったと認められるから、特別背任罪における取締役としての任務違反があったというべきである。
71財産上の損害(最決昭和58・5・24刑集37巻4号437頁)
刑法247条にいう「本人ニ財産上ノ損害ヲ加へタルトキ」とは、経済的見地において本人の財産状態を評価し、被告人の行為によって、本人の財産の価値が減少したとき又は増加すべかりし価値が増加しなかったときをいうと解すべきであるところ、Xが本件事実関係のもとで同協会をしてZの債務を保全させたときは、同人の債務がいまだ不履行の段階に至らず、したがって同協会の財産に、代位弁済による現実の損失がいまだ生じていないとしても、経済的見地においては、同教会の財産的価値は減少したものと評価されるから、右は同条にいう「本人ニ財産上ノ損害ヲ加へタルトキ」にあたるというべきである。
72背任罪における図利加害目的(最決平成10・11・25刑集52巻8号570頁)
本件融資は、主として右のようにB、C及びDの利益を図る目的をもって行なわれたということができる。そうすると、被告人およびXらには、本件融資につき特別背任罪におけるいわゆる(第三者)図利目的があったというに妨げなく、、被告人につきXらとも共謀による同罪の成立が認められるというべきであるから、これと同旨の原判断は正当である。
73不性融資の借りて側の責任(最決平成15・2・18刑集57巻2号161頁)
A会社の代表取締約の被告人Xは、B社のZら融資担当者がその任務に違反するに当たり、支配的な影響力を行使することもなく、また、社会通念上許されないような方法を用いるなどして積極的に働きかけることもなかったものの、Zらの任務違背、B社の財産上の損害について高度の認識を有していたことに加え、Zらが自己及びA社の利益を図る目的を有していたことを認識し、本件融資に応じざるを得ない状況にあることを利用しつつ、B社が迂回融資の手順を採ることに協力するなどして、本件融資の実現に加担しているのであって、Zらの特別背任について共同加功をしたのと評価を免れないというべきである。
→ZはB社の事務処理者であり、Z・A社の利益を図る目的から任務違反をし、B社に損害を与えたのは、特別背任罪の正犯。ではA社のXは?Zへの教唆?それともZとの共同正犯?(B社の身分なし。ただし刑法65条1項適用?
(3)事例問題
1不法原因給付にかかる物件の横領
国会議員Bは、大手ゼネコンからわいろ金を受け取り、それが金融当局に発覚するのを防ぐために、Aに依頼して、その口座に一時的に入金してもらった。Aは、後日その金を引き出し、借金の返済にあてた。
2使途を定めて寄託された金銭の他人性
Aは、Bから東日本大震災の義援金として「福島県復興課御中」と書かれた10万円入りの封筒を受け取った。Aはその封を開け、一旦は自己の口座に入金し、翌日、引き出して自己の借金の返済にあて、後日、支給された給料から10万円を引き出して、「福島県復興課様」と書いた封筒に10万円入れて届けた。
3不動産の二重売買と横領
BはCに山林を売却する契約を結び、その所有権を移転したが、登記の事務手続はまだ終えていなかった。Aは、Bに働きかけて、その山林を売却してほしいと依頼したが、Bはそんなことすれば二重売買になると断ったものの、ならば借金の全額を返済するよう迫ったので、Bはやむを得ず、Aの以来通り、山林を売却し、登記を済ませた。Aは、民法177条をたてにして、Cに対抗し、山林の所有権を主張した。
4横領罪における不法領得の意思(1)
農協会長Aは、会員から集めた政府供出用の精米を保管する任務に当たっていたが、農協が備蓄していた魚粕が不足し、これがなければ農協会員が困ると思い、後に補填するつもりで、政府供出用の精米を売却して、その売上金で魚粕を購入した。
5横領罪における不法領得の意思(2)
X社の取締役Aは、BがX社の株を買い集め、その経営権を独占しようとしている動きを察知し、事件屋Cに、Bの動きを封ずるよう依頼し、その資金と報酬として、会社の財政から9億円近くの金を拠出した。
6横領か背任か
A村の村長Xは、B会社の社長Yからの懇請に応じ、A村の基本財産から、A村名義でYに金銭を貸し与えた。
→Xは、自己が保管するA村の金銭をYに貸し、A村に財産上の損害を与えたが、貸し与えた名義はA村の名義であった。それは「領得行為」ではなく、「任務違反行為」である。
7横領後の横領
Aは、所有者Bから自動車の修理・保管を依頼され、保管していたが、非常に価値の高い自動車であったので、ほしいままに自由に使用し、その後、自動車の所有者の名義を自分に変更した。
8背任罪における「事務処理者」の意義
被告人は、Aの抵当権を設定する事務を担当する者であるが、Aの1番抵当権を設定せずに、後順位の2番抵当権にした。
9任務違背行為の意義
銀行の融資担当者Aは、B経営の会社が実質的に倒産状態にあり、改善する見込みはなく、Cの会社に貸しつけていた貸付金の回収も実質不可能になってたことを知りながら、Bに対して抜本的な方策を講ずるよう要請しないまま、ほとんど資産価値のない不動産を担保にして、1億円の融資を決定、実行した。
10財産上の損害
上記の事案において、Aの銀行は、Bに対して1億円の債権を得て、BにはAに対して1億円の債務が生じた。Aは、銀行の取締役会で、額面1億円の債権を得たことを報告し、自分の責任で融資した分については、損失は発生していないと述べた。
11背任罪における図利加害目的
株式会社代表のAは、予定していたほど純利益があがらず、本来では株主に配当金を支払える状況ではなかったにもかかわらず、株の売却などされると、一気に株価が暴落し、経営困難に陥ると考え、株主に対して昨年度同様の配当をした。それによって、会社の経営状態は悪化した。
12不性融資の借りて側の責任
会社の代表取締約Aは、取引銀行の融資担当者Bに対して、本件融資の実現に加担しているのであって、上司に相談せずに、C会社を迂回して、Aの会社に資金が流れるようにしてほしいと話を持ちかけた。Bはやむを得ず、Aのいうとおり融資した。Bは銀行の融資事務担当者であり、刑法上の背任罪の行為主体であると同時に、会社法における特別背任罪の行為主体である。Aは、そのような地位にはついてはいなかった。
(1)基本問題
1横領罪――占有物の委託関係
横領罪(刑252)「自己の占有する他人の物」とは、他人から委託を受けて、保管・管理(占有)する物(動産・不動産)である。釣銭のうち誤って多く支払われた部分、誤配達された郵便物は、委託関係に基づいていないので、離脱物である(刑254)。
2物の占有
占有とは物に対する事実上・法律上の支配であり、会社が管理する財産や不動産は取締役の占有にある。
3他人の物
金銭の所有権は、その所持者にあると認められるが、特定物品の購入や特定の決算など使途を定めて所持・管理を委託した場合、委託物の所有権は委託者に帰属する。それを使途目的外に消費すると横領にあたる。
4不法な原因に基づいて物の占有を委託した場合
不法な原因に基づいて、保管・管理を委託し、それを給付した場合、給付者はその返還を請求はできないが(民708)、その所有権が占有者に移転するわけではないので、消費すれば横領にあたる。
5不法領得の意思の発現としての横領行為
横領罪の成立要件は、自己の占有する他人の財物を「横領」する行為を不法領得の意思に基づいて行なうことを要する。不法領得の意思は、委託の任務に背いて、その物について権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意思である。ただし、横領行為は、この不法領得の意思が外部に表明された行為であれば足り、処分行為に至っていることは必要ではない。
6横領と背任
横領罪は委託関係に基づいて占有する他人の物を横領する行為であり、背任罪は他人事務を処理する者が任務に背いて事務処理をして財産上の損害を与える行為である。両者は法条競合の関係にあるので、一方が成立すれば、他方の要件を具備していても、成立しない。
村長が管理する村の公金を、親交の深い第三者に貸与し、村に損害を与えた場合、村長が行なった「貸与」は、所有者でなければできない行為であるが、それを村長の個人名義で行なった場合は(業務上)横領、村名義で行なった場合は背任が成立する。
7業務上横領罪
本罪は他人の物の保管を業務として行なっている者による横領罪である。業務者という身分によって横領罪の刑が加重されている(加重的身分犯)。(単純)横領罪と業務上横領罪は、基本類型と加重類型の関係にある。業務とは、社会的地位に基づき、反復・継続して行なわれ、かつ他人の物の保管などの事務である。
8遺失物横領罪・漂流物横領罪・占有離脱物横領罪
錯誤に基づいて郵便物を配達し、占有を移転させた場合、その郵便物を占有する者は、委託に基づいて占有しているのではないので、横領すれば占有離脱物横領罪が成立する。
占有離脱物横領罪と(単純)横領罪は、「占有している他人の物を横領する」という点で共通しているが、委託を受けた占有か否かに違いがある。従って、前者は委託を受けていない物の横領という意味で「非委託物横領罪」、後者は委託を受けた物なので、委託物横領罪の関係にある。占有するよう委託を受けたことが「身分」であるならば、非委託物(占有離脱物)横領罪は横領罪の基本類型であり、委託物横領罪は委託関係(身分)による加重類型であることになり、業務上(委託物)横領罪は、非委託物横領を委託関係(身分)と業務者(身分)による二重の加重類型であることになる(山口説)。
非委託者A、委託者B、業務上の委託者Cがいて、BとCが共同して横領すれば、Bの委託物横領罪とCの業務上横領罪の共同正犯になる。AとB、またはAとCが共同した場合、山口説的に考えると、AはBの委託物横領罪またはCの業務上横領罪の共同正犯であるが、Aには非委託物横領罪である。
9背任罪
詐欺罪と背任罪は、同一の章に規定されているが、物の占有と事務処理が委託に基づいて行われる点に共通性があるため、罪質に同一性があると解されている。
本罪の主体は、他人から委託を受けて、その人のための事務を処理する者である。その事務は財産処理に関する事務であり、その多くは、売買・貸借・処分等に関わるので、委託者を代理して、対外的に行なわれる法律事務である。従って、代理権を濫用して、委託された事務の範囲を超えて、契約などの対外的な法律行為を行なって、委託者本人に損害を与えた場合には、背任罪が成立する。
しかし、委託されるのは、対外的な法律行為に限られず、対内的・組織内的な事務もあり、法律行為の形式をとらない場合もある。従って、背任罪の成立範囲を、対外的な法的代理権の濫用に限定すべきではない。ただし、委託された事務が単なる機械的・形式的なものではなく、一定の範囲内において、実質的な判断を加える裁量的な事務に限るべきである。
委託に基づいて、委託者のために事務処理を行なうべき者が、その任務に違反する行為が、いわゆる「任務違反行為」である。これは、対外的な代理権の濫用によって、契約などの法律行為を行なう場合だけでなく、対内的・組織内的な非法律的・事実的な行為によっても行なわれる。
背任罪が成立するには、事務の委託者に財産上の損害を与えることが要件である。それは、本人の財産状態全体を見て、不良的に変更したことを意味する(全体財産に対する罪)。
背任罪の主観的要件としては、他人の事務であること、任務に違背していること、それにり財産上の損害が発生することの認識が必要である(故意)。さらに、自己・第三者の利益を図る目的(図利目的―財産的利益に限らない)または本人に害を加える目的(加害目的―財産上の損害に限る)が必要である。それは、意欲や積極的に容認していることまで必要ではない(ただし、加害目的は財産上の損害の認識と同じ意味)。
「本人の利益を図る目的」から、故意に本人に財産上の損害を発生させた場合、「加害目的」は認められても、「図利目的」が認められないので、背任罪の主観的要件としては、不十分である。ただし、本人図利目的と自己・第三者図利目的は、併存しうる。いわゆる「蛸配当」は、会社の株価の維持と経営の安定化の目的で行なわれるが(本人図利目的)、株主の利益を図るために行なわれるので(第三者図利目的)、背任罪の成立は免れない。
(2)判例問題
62不法原因給付にかかる物件の横領(最判昭和23・6・5刑集2巻7号641頁)
不法原因の為め給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができないことは、民法708条の規定するところであるが、刑法252条1項の横領罪の目的物は、単に犯人の占有する他人の物であることを要件としているのであって、必ずしも物の給付者において民法上その返還を請求しうべきものであることを要件としてはいないのである。
63使途を定めて寄託された金銭の他人性(最判昭和26・5・25刑集5巻6号1186頁)
使途を限定されて寄託された金銭は、売買代金の如く単純な商取引の履行として授受されたものとは自らその性質を異にするのであって、特別な事情がない限り、受託者はその金銭について刑法252条にいわゆる「他人ノ物」を占有する者と解すべきであり、従って、受託者がその金銭について、委託の本旨とは違う処分をしたときは、横領罪を構成するといわなければならない。
→金銭は代替可能(1万円札1枚は千円札10枚に代替可能)。「使途が限定された金銭」も代替可能?
64不動産の二重売買と横領(福岡高判昭和47・11・22刑月4巻11号1803頁)
不動産の二重譲渡の場合、売主である前記Q(本件山林の名義人Pの相続人)の所為が横領罪を構成することは明らかであるが(山林をAに売却後、P名義のまま被告人に売却した)、その買主については、単に二重譲渡であることを知りつつこれを買受けることは、民法第177条の法意に照らし、経済取引上許された行為であって、刑法上の違法性を有しないものと解すべきことは、所論のとおりである(Aは所有権を取得したが、未登記であったので、被告人に対向できない)。しかしながら本件においては、買主たる被告人は、所有者Aから買取ることが困難であるため、名義人Pから買入れようと企て、前記のとおり単に二重譲渡になることの認識を有していたのに止まらず、二重譲渡になることを知りつつ、敢えて前記Qに対し本件山林の売却方を申入れ、同人が二重譲渡になることを理由に右申入れを拒絶したにもかかわらず、法的知識の乏しいQに対し、二重譲渡の決意を生ぜしめるべく、借金はもう50年以上たっているから担保も時効になっている、裁判になっても自分が引き受けるから心配は要らない等と執拗且つ積極的に働きかけ、その結果遂にQをして被告人に売買契約を締結するに至らしめたのであるから、被告人の本件所為は、もはや経済取引上許容されうる範囲、手段を逸脱した刑法上違法な所為というべく、Qを唆かし、更にすすんで自己の利益をも図るため同人と共謀のうえ本件横領行為に及んだものとして、横領罪の共同正犯としての刑責を免れないものというべきである。
65横領罪における不法領得の意思(1)(最判昭和24・3・8刑集3巻3号276頁)
横領罪に成立に必要な不法領得の意志とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意志をいうのであって、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図することを必要とするものではなく、又占有者において不法に処分したものを後日に補填する意志が行為当時にあったからといって、横領罪の成立を妨げるものではない。
→農業会長が各農家から預かり、保管していた政府供出米を、その後に補填する意思のもとに、魚粕に交換
66横領罪における不法領得の意思(2)(最決平成13・11・5刑集55巻6号546頁)
本件交付の意図が専らAのためにするところにあったとすれば、不法領得の意思はなく、業務上横領罪の成立は否定される。しかし、本件交付におけるXの意図は専らAのためにするところにはなかたっと判断して、本件交付につきXの不法領得の意思を認めた原判決の結論は、正当である。
→被告人Xは、会社Aの取締役経理部長。Aの株を買い集め、Aの経営権を奪おうしているBに対抗するため、事件屋Cに種々の仕事を依頼し、資金および報酬として、8億9千5百万円を交付するなどした。
67横領か背任か(大審院昭和9・7・19刑集13巻983頁)
他人のために、その事務を処理するにあたって、自己の占有する本人(他人)の物を自ら不正に領得するのではなく、第三者の利益を図る目的をもって、その任務に背いた行為を行ない、本人に財産上の損害を与えたときは、背任罪を構成する。
→A村の村長Xは、B会社の社長Yからの懇請に応じ、Aの基本財産から金銭を貸し与えた。原判決は、X・Yを業務上横領罪の共同正犯とした。弁護人は、X・Yには不法領得の意思はなく、背任罪にとどまるとと上告した。自己の占有する他人の物について、本人(保管の委託者)に財産上の損害を与えた場合に、「領得行為」が行なわれれば横領罪が、それ以外は「任務違背行為」であり、背任が成立する。
68横領後の横領(最判平成15・4・23刑集57巻4号467頁)
委託を受けて他人の不動産を占有する者が、これにほしいままに抵当権を設定してその旨の登記を了した後においても、その不動産は他人の物であり、受託者がこれを占有していることに変わりはなく、受託者が、その後、その不動産につき、ほしいままに売却等による所有権移転行為を行ない、その旨の登記を了したときは、委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をしたものにほかならない。したがって、売却等による所有権移転行為について、横領罪の成立自体は、これを肯定することができるというべきであり、先行の抵当権設定行為が存在することは、後行の所有権移転行為について犯罪の成立を妨げる事情にはならないと解するのが相当である。
→自己が占有する他人の不動産に抵当権を設定は横領(物には不動産を含む)。しかし、それは依然として「他人の物」。それを売却等して所有権を買主に移転する行為も横領(横領後に横領物を横領する行為)。
69背任罪における「事務処理者」の意義(最判昭和31・12・7刑集10巻12号1592頁)
抵当権設定者は、その登記に関して、これを完了するまで、抵当権者に協力する任務を有することはいうまでもないところであり、右任務は主として他人である抵当権者のために負うものといわなければならない。
抵当権の順位は、当該抵当物件の価額から、どの抵当権が優先して弁済を受けるのかの財産上の利害に関する問題であるから、本件被告人の所為たるAの1番抵当権を、後順位の2番抵当権たらしめたことは、既に刑法247条の損害に該当するものといわなければならない。
70任務違背行為の意義(最決平成21・11・9刑集63巻9号1117頁)
Dグループは、本件各融資に先立つ平成6年3月期において実質倒産状態にあり、グループ各社の経営状況が改善する見込みはなく、既存の貸付金の回収のほとんど唯一の方途と考えられていたG地区の開発事業もその実現可能性に乏しく、仮に実現したとしても、その採算性にも多大な疑問があったことから、既存の貸付金の返済は期待できないばかりか、追加融資は新たな損害を発生させる危険性のある状態にあった。被告人A及び同Bは、そのような状況を認識しつつ、抜本的な方策を講じないまま、実質無担保の本件各融資を決定、実行したのであって、上記のような客観性を持った再建・整理計画があったものでもなく、所論の損失極小化目的が明確な形で存在したともいえず、総体としてその融資判断は著しく合理性を欠いたものであり、銀行の取締役として融資に際し求められる債権保全に係る義務に違反したことは明白である。そして、両被告人には、同義務違反の認識もあったと認められるから、特別背任罪における取締役としての任務違反があったというべきである。
71財産上の損害(最決昭和58・5・24刑集37巻4号437頁)
刑法247条にいう「本人ニ財産上ノ損害ヲ加へタルトキ」とは、経済的見地において本人の財産状態を評価し、被告人の行為によって、本人の財産の価値が減少したとき又は増加すべかりし価値が増加しなかったときをいうと解すべきであるところ、Xが本件事実関係のもとで同協会をしてZの債務を保全させたときは、同人の債務がいまだ不履行の段階に至らず、したがって同協会の財産に、代位弁済による現実の損失がいまだ生じていないとしても、経済的見地においては、同教会の財産的価値は減少したものと評価されるから、右は同条にいう「本人ニ財産上ノ損害ヲ加へタルトキ」にあたるというべきである。
72背任罪における図利加害目的(最決平成10・11・25刑集52巻8号570頁)
本件融資は、主として右のようにB、C及びDの利益を図る目的をもって行なわれたということができる。そうすると、被告人およびXらには、本件融資につき特別背任罪におけるいわゆる(第三者)図利目的があったというに妨げなく、、被告人につきXらとも共謀による同罪の成立が認められるというべきであるから、これと同旨の原判断は正当である。
73不性融資の借りて側の責任(最決平成15・2・18刑集57巻2号161頁)
A会社の代表取締約の被告人Xは、B社のZら融資担当者がその任務に違反するに当たり、支配的な影響力を行使することもなく、また、社会通念上許されないような方法を用いるなどして積極的に働きかけることもなかったものの、Zらの任務違背、B社の財産上の損害について高度の認識を有していたことに加え、Zらが自己及びA社の利益を図る目的を有していたことを認識し、本件融資に応じざるを得ない状況にあることを利用しつつ、B社が迂回融資の手順を採ることに協力するなどして、本件融資の実現に加担しているのであって、Zらの特別背任について共同加功をしたのと評価を免れないというべきである。
→ZはB社の事務処理者であり、Z・A社の利益を図る目的から任務違反をし、B社に損害を与えたのは、特別背任罪の正犯。ではA社のXは?Zへの教唆?それともZとの共同正犯?(B社の身分なし。ただし刑法65条1項適用?
(3)事例問題
1不法原因給付にかかる物件の横領
国会議員Bは、大手ゼネコンからわいろ金を受け取り、それが金融当局に発覚するのを防ぐために、Aに依頼して、その口座に一時的に入金してもらった。Aは、後日その金を引き出し、借金の返済にあてた。
2使途を定めて寄託された金銭の他人性
Aは、Bから東日本大震災の義援金として「福島県復興課御中」と書かれた10万円入りの封筒を受け取った。Aはその封を開け、一旦は自己の口座に入金し、翌日、引き出して自己の借金の返済にあて、後日、支給された給料から10万円を引き出して、「福島県復興課様」と書いた封筒に10万円入れて届けた。
3不動産の二重売買と横領
BはCに山林を売却する契約を結び、その所有権を移転したが、登記の事務手続はまだ終えていなかった。Aは、Bに働きかけて、その山林を売却してほしいと依頼したが、Bはそんなことすれば二重売買になると断ったものの、ならば借金の全額を返済するよう迫ったので、Bはやむを得ず、Aの以来通り、山林を売却し、登記を済ませた。Aは、民法177条をたてにして、Cに対抗し、山林の所有権を主張した。
4横領罪における不法領得の意思(1)
農協会長Aは、会員から集めた政府供出用の精米を保管する任務に当たっていたが、農協が備蓄していた魚粕が不足し、これがなければ農協会員が困ると思い、後に補填するつもりで、政府供出用の精米を売却して、その売上金で魚粕を購入した。
5横領罪における不法領得の意思(2)
X社の取締役Aは、BがX社の株を買い集め、その経営権を独占しようとしている動きを察知し、事件屋Cに、Bの動きを封ずるよう依頼し、その資金と報酬として、会社の財政から9億円近くの金を拠出した。
6横領か背任か
A村の村長Xは、B会社の社長Yからの懇請に応じ、A村の基本財産から、A村名義でYに金銭を貸し与えた。
→Xは、自己が保管するA村の金銭をYに貸し、A村に財産上の損害を与えたが、貸し与えた名義はA村の名義であった。それは「領得行為」ではなく、「任務違反行為」である。
7横領後の横領
Aは、所有者Bから自動車の修理・保管を依頼され、保管していたが、非常に価値の高い自動車であったので、ほしいままに自由に使用し、その後、自動車の所有者の名義を自分に変更した。
8背任罪における「事務処理者」の意義
被告人は、Aの抵当権を設定する事務を担当する者であるが、Aの1番抵当権を設定せずに、後順位の2番抵当権にした。
9任務違背行為の意義
銀行の融資担当者Aは、B経営の会社が実質的に倒産状態にあり、改善する見込みはなく、Cの会社に貸しつけていた貸付金の回収も実質不可能になってたことを知りながら、Bに対して抜本的な方策を講ずるよう要請しないまま、ほとんど資産価値のない不動産を担保にして、1億円の融資を決定、実行した。
10財産上の損害
上記の事案において、Aの銀行は、Bに対して1億円の債権を得て、BにはAに対して1億円の債務が生じた。Aは、銀行の取締役会で、額面1億円の債権を得たことを報告し、自分の責任で融資した分については、損失は発生していないと述べた。
11背任罪における図利加害目的
株式会社代表のAは、予定していたほど純利益があがらず、本来では株主に配当金を支払える状況ではなかったにもかかわらず、株の売却などされると、一気に株価が暴落し、経営困難に陥ると考え、株主に対して昨年度同様の配当をした。それによって、会社の経営状態は悪化した。
12不性融資の借りて側の責任
会社の代表取締約Aは、取引銀行の融資担当者Bに対して、本件融資の実現に加担しているのであって、上司に相談せずに、C会社を迂回して、Aの会社に資金が流れるようにしてほしいと話を持ちかけた。Bはやむを得ず、Aのいうとおり融資した。Bは銀行の融資事務担当者であり、刑法上の背任罪の行為主体であると同時に、会社法における特別背任罪の行為主体である。Aは、そのような地位にはついてはいなかった。