Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

第3回講義「刑法Ⅱ(各論)」(2013.10.15.)

2013-10-16 | 日記
 刑法Ⅱ(各論)第3回(10月15日) 個人的法益に対する罪――自由に対する罪
(1)自由の保護 (2)脅迫罪・強要罪 (3)逮捕・監禁罪 (4)略取・誘拐・人身売買

(1)自由の保護
 保護法益としての「意思決定の自由」と「意思活動の自由」

 意思活動の自由(脅迫罪・強要罪)、場所的移動の自由(逮捕・監禁罪、略取・誘拐・人身売買罪)、
 性的自己決定の自由(強制わいせつ罪、強姦罪)、住居の自由(住居侵入罪)

(2)脅迫罪・強要罪
1脅迫罪(222)一般に人を畏怖させるに足りる害悪の告知(意思決定の自由に対する危険犯)
 加害の対象 被告知者とその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対する加害
       (例示的列挙ではなく、制限的列挙)
       (それを被強要者に告知して、被告知者を畏怖させる)
加害の内容 将来において行なわれる害悪。告知者による実現可能性・支配可能性
 告知の方法 文書・口頭による。明示的・黙示的な態度でも可能。第三者を介した伝達でもよい。

2強要罪(223) 人の意思活動の自由に対する侵害
 脅迫・暴行を行ない、人に義務のないことを行なわせ、または権利の行使を妨害する(侵害犯)
 加害の対象  被強要者とその親族に対する加害
       (それを被強要者に告知して、被告知者を畏怖させる)
 暴行の対象  被強要者(親族は除外される。被強要者に暴行し、畏怖させる)
 強制と妨害  義務のない行為の強制と権利の行使の妨害
 未遂の処罰  義務なき行為を行なわせ、また権利の行使を妨害したことによって既遂に達する。
        強要罪の実行の着手時期は、暴行・脅迫の開始時点。

(3)逮捕・監禁罪
1逮捕罪・監禁罪(220) 意思決定の自由を侵害して、一定の場所から移動する自由を侵害
 現実的自由 or 可能的自由? 通説・判例は可能的自由(最決昭33・3・19刑集12巻4号636頁)

2行為
 逮捕 直接的に有形力を行使して、人の移動する自由を侵害する
 監禁 一定の場所から脱出することが困難にして、人の移動の自由を侵害する
    例:疾走するバイクの荷台に乗車させる(最決昭38・4・18刑集17巻248頁)

    継続犯→承継的共同正犯、正当防衛、公訴時効の起算点の関連問題

3同意と錯誤
 被害者が移動の自由に対する侵害にる同意
 被害者の同意=一般に違法性阻却事由として理解
 しかし、被害者の同意があれば、「不法に」の要件にあたらないと解釈できるならば、
 →構成要件不該当事由として捉えることができる

 偽罔・偽計に基づく同意の法的効果
 「自動車で送ってあげる」と言われて同乗した(A地点)。
 しかし、車は別の方角に向かって走っ ていたので、騙されたことに気づいた(B地点)。
 「止めて。降ろして」といったが、車を止めななったので、やむを得ず車から飛び降りた(C地点)。

 可能的自由説→A地点において監禁罪は成立(最決昭33・3・19)=AC間の監禁罪
 もし騙されていなかったならば、自動車に同乗しなかったであろうということができる。
 このような偽罔にもとづく同意は無効であり、監禁罪の構成要件該当性は否定されない。
 要するに、移動の自由が侵害されていることの被害の認識がなくても、監禁罪は成立する。

4逮捕捕・監禁致死傷罪(221)
 逮捕罪・監禁罪の結果的加重犯

 致死傷は、逮捕・監禁の「手段行為」または逮捕・監禁の「状態」が原因で生じた場合に限られる
 逮捕・監禁中に被害者に暴行し、死傷→逮捕罪・監禁罪と傷害罪または傷害致死罪(併合罪)

(4)略取・誘拐・人身売買
1基本的性格
 「人を生活環境からの離脱」と「他者の実力支配下に移す」
 その状態が移動の自由の侵害に至れば、逮捕罪・監禁罪が成立する

 略取は暴行・脅迫を手段とし、誘拐は偽罔・誘惑を手段とする。

2未成年者略取・誘拐罪(224)
 20才未満の者に対する略取・誘拐(目的の要件は本罪の成立に不要)

 保護法益 被拐者の移動・行動の自由と安全(親の監護権の位置付け)

3営利目的略取・誘拐罪(225)
 営利・わいせつ・結婚・生命もしくは身体への加害の目的+未成年者または成人の略取・誘拐

4身の代金目的略取・誘拐罪(225の2)
 身の代金目的 近親者または安否を憂慮する者の憂慮に乗した身代金交付の目的

 安否を憂慮する者 社会通念を基準にした憂慮の当然性(最決昭62・3・24刑集41巻2号173頁)

 略取・誘拐→身の代金要求→その交付(牽連犯:最決昭59・9・27刑集37巻7号1078頁)

5所在国外移送目的略取・誘拐罪(226)
 所在国から国外に移送する目的による略取・誘拐(日本またはA国からB国へ移送)

6人身売買罪(226の2)
 人身買受け罪(1項)、未成年者買受け罪(2項)、営利目的人身買受け罪(3項)、

 人身売渡罪(4項)、所在国外移送目的人身売買罪(5項)、こららの未遂(228)

7被略取者等所在国外移送罪(226の3)
 略取・誘拐・売買された者を所在国外に移送した場合

8被略取者引渡し等罪(227)
 未成年者略取・誘拐罪、営利目的略取・誘拐罪、所在国外移送目的略取・誘拐罪、人身売買罪、被略取者等所在国外移送罪を行なった者を幇助する目的(1項)、身の代金略取・誘拐罪を行なった者を幇助する目的(2項)、営利・わいせつ・生命等への加害の目的(3項)、身の代金目的(4項)で、略取・誘拐・売買された人を収受し、輸送し、蔵匿し、隠避させた行為

4項との関連で、財物を交付させ、または要求した(5項)

9解放による刑の減軽(228の2)
 身の代金目的略取・誘拐罪罪、身の代金要求罪、被拐取者引渡し罪を犯した者が、
 公訴の提起前で、被害者を安全な場所に解放した→刑の減軽
 被害者の生命保護のための刑事政策的配慮から刑罰を必要的に減軽
 「安全な場所」(最決昭54・6・26刑集33巻4号364頁)。

10親告罪
 未成年者略取・誘拐罪および未遂、わいせつ・結婚目的略取・誘拐罪および未遂、被略取者引き渡す等罪は「親告罪」
(営利・生命等加害目的の場合は除外される)

 告訴権者 被害者(刑訴230)、法定代理人(刑訴231)、(法益の理解いかんでは)監護権者
 被拐取者と犯人が婚姻した場合、婚姻の無効・取り消し後に告訴の効力(229)
 告訴後、犯人と婚姻。告訴は無効(名古屋高金沢支判昭32.3・12高刑集10巻2号157頁)


 第3回 練習問題
(1)脅迫罪について
 AはBに対して、「お前の恋人を殺すぞ」と述べた。Bはそれによって畏怖した。Aの罪責を論じなさい。

 AはBに対して、「近畿圏に大地震を起こしてやる」と告知した。Bはそれによって畏怖した。Aの罪責を論じなさい。

 AはBに対して、「警察に訴えるぞ」と告知した。Bはそれによって畏怖した。Aの罪責を論じなさい。


(2)強要罪について
 部下のAは上司のBが仕事で失敗したことをAの責任にすりかえようとしたので、「このことを取締役に報告する。それが嫌なら、土下座して謝罪しろ」と述べた。Bは取締役に知られると、左遷される可能性があったので、やむを得ず土下座した。Aの罪責を論じなさい。

 Aは被害を訴えるBに対して、「もし警察に通報したら、この程度ではすまなくなるぞ」と述べた。それを聞いたBは怖くなって、警察への通報を止めた。Aの罪責を論じなさい。

 AはBが家の前に自動車を駐車したので、「この車をどけろ。壊されてもいいのか」と述べた。Bは、車を壊されると思い、怖くなって、他の場所に移動した。Aの罪責を論じなさい。

(3)逮捕罪・監禁罪について
 AはBを閉じ込めるために、部屋のカギを外側からかけた。Aは10時間後、戻り、カギを開けて、部屋の中に入った。Bはその音で目が覚めた。Bはその間、眠っていた。Aの罪責を論じなさい。