Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第09回 練習問題)

2016-11-23 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 第09回 練習問題
(1)基本問題
1横領罪――占有物の委託関係
 横領罪(刑252)「自己の占有する他人の物」とは、他人から委託を受けて、保管・管理(占有)する物(動産・不動産)である。釣銭のうち誤って多く支払われた部分、誤配達された郵便物は、委託関係に基づいていないので、離脱物である(刑254)。

2物の占有
 占有とは物に対する事実上・法律上の支配であり、会社が管理する財産や不動産は取締役の占有にある。

3他人の物
 金銭の所有権は、その所持者にあると認められるが、特定物品の購入や特定の決算など使途を定めて所持・管理を委託した場合、委託物の所有権は委託者に帰属する。それを使途目的外に消費すると横領にあたる。

4不法な原因に基づいて物の占有を委託した場合
 不法な原因に基づいて、保管・管理を委託し、それを給付した場合、給付者はその返還を請求はできないが(民708)、その所有権が占有者に移転するわけではないので、消費すれば横領にあたる。

5不法領得の意思の発現としての横領行為
 横領罪の成立要件は、自己の占有する他人の財物を「横領」する行為を不法領得の意思に基づいて行なうことを要する。不法領得の意思は、委託の任務に背いて、その物について権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意思である。ただし、横領行為は、この不法領得の意思が外部に表明された行為であれば足り、処分行為に至っていることは必要ではない。

6横領と背任
 横領罪は委託関係に基づいて占有する他人の物を横領する行為であり、背任罪は他人事務を処理する者が任務に背いて事務処理をして財産上の損害を与える行為である。両者は法条競合の関係にあるので、一方が成立すれば、他方の要件を具備していても、成立しない。

 村長が管理する村の公金を、親交の深い第三者に貸与し、村に損害を与えた場合、村長が行なった「貸与」は、所有者でなければできない行為であるが、それを村長の個人名義で行なった場合は(業務上)横領、村名義で行なった場合は背任が成立する。

7業務上横領罪
 本罪は他人の物の保管を業務として行なっている者による横領罪である。業務者という身分によって横領罪の刑が加重されている(加重的身分犯)。(単純)横領罪と業務上横領罪は、基本類型と加重類型の関係にある。業務とは、社会的地位に基づき、反復・継続して行なわれ、かつ他人の物の保管などの事務である。

8遺失物横領罪・漂流物横領罪・占有離脱物横領罪
 錯誤に基づいて郵便物を配達し、占有を移転させた場合、その郵便物を占有する者は、委託に基づいて占有しているのではないので、横領すれば占有離脱物横領罪が成立する。

 占有離脱物横領罪と(単純)横領罪は、「占有している他人の物を横領する」という点で共通しているが、委託を受けた占有か否かに違いがある。従って、前者は委託を受けていない物の横領という意味で「非委託物横領罪」、後者は委託を受けた物なので、委託物横領罪の関係にある。占有するよう委託を受けたことが「身分」であるならば、非委託物(占有離脱物)横領罪は横領罪の基本類型であり、委託物横領罪は委託関係(身分)による加重類型であることになり、業務上(委託物)横領罪は、非委託物横領を委託関係(身分)と業務者(身分)による二重の加重類型であることになる(山口説)。

 非委託者A、委託者B、業務上の委託者Cがいて、BとCが共同して横領すれば、Bの委託物横領罪とCの業務上横領罪の共同正犯になる。AとB、またはAとCが共同した場合、山口説的に考えると、AはBの委託物横領罪またはCの業務上横領罪の共同正犯であるが、Aには非委託物横領罪である。

9背任罪
 詐欺罪と背任罪は、同一の章に規定されているが、物の占有と事務処理が委託に基づいて行われる点に共通性があるため、罪質に同一性があると解されている。

 本罪の主体は、他人から委託を受けて、その人のための事務を処理する者である。その事務は財産処理に関する事務であり、その多くは、売買・貸借・処分等に関わるので、委託者を代理して、対外的に行なわれる法律事務である。従って、代理権を濫用して、委託された事務の範囲を超えて、契約などの対外的な法律行為を行なって、委託者本人に損害を与えた場合には、背任罪が成立する。

 しかし、委託されるのは、対外的な法律行為に限られず、対内的・組織内的な事務もあり、法律行為の形式をとらない場合もある。従って、背任罪の成立範囲を、対外的な法的代理権の濫用に限定すべきではない。ただし、委託された事務が単なる機械的・形式的なものではなく、一定の範囲内において、実質的な判断を加える裁量的な事務に限るべきである。

 委託に基づいて、委託者のために事務処理を行なうべき者が、その任務に違反する行為が、いわゆる「任務違反行為」である。これは、対外的な代理権の濫用によって、契約などの法律行為を行なう場合だけでなく、対内的・組織内的な非法律的・事実的な行為によっても行なわれる。

 背任罪が成立するには、事務の委託者に財産上の損害を与えることが要件である。それは、本人の財産状態全体を見て、不良的に変更したことを意味する(全体財産に対する罪)。

 背任罪の主観的要件としては、他人の事務であること、任務に違背していること、それにり財産上の損害が発生することの認識が必要である(故意)。さらに、自己・第三者の利益を図る目的(図利目的―財産的利益に限らない)または本人に害を加える目的(加害目的―財産上の損害に限る)が必要である。それは、意欲や積極的に容認していることまで必要ではない(ただし、加害目的は財産上の損害の認識と同じ意味)。

 「本人の利益を図る目的」から、故意に本人に財産上の損害を発生させた場合、「加害目的」は認められても、「図利目的」が認められないので、背任罪の主観的要件としては、不十分である。ただし、本人図利目的と自己・第三者図利目的は、併存しうる。いわゆる「蛸配当」は、会社の株価の維持と経営の安定化の目的で行なわれるが(本人図利目的)、株主の利益を図るために行なわれるので(第三者図利目的)、背任罪の成立は免れない。


(3)事例問題
1不法原因給付にかかる物件の横領
 国会議員Bは、大手ゼネコンからわいろ金を受け取り、それが金融当局に発覚するのを防ぐために、Aに依頼して、その口座に一時的に入金してもらった。Aは、後日その金を引き出し、借金の返済にあてた。

2使途を定めて寄託された金銭の他人性
 Aは、Bから東日本大震災の義援金として「福島県復興課御中」と書かれた10万円入りの封筒を受け取った。Aはその封を開け、一旦は自己の口座に入金し、翌日、引き出して自己の借金の返済にあて、後日、支給された給料から10万円を引き出して、「福島県復興課様」と書いた封筒に10万円入れて届けた。

3不動産の二重売買と横領
 BはCに山林を売却する契約を結び、その所有権を移転したが、登記の事務手続はまだ終えていなかった。Aは、Bに働きかけて、その山林を売却してほしいと依頼したが、Bはそんなことすれば二重売買になると断ったものの、ならば借金の全額を返済するよう迫ったので、Bはやむを得ず、Aの以来通り、山林を売却し、登記を済ませた。Aは、民法177条をたてにして、Cに対抗し、山林の所有権を主張した。

4横領罪における不法領得の意思(1)
 農協会長Aは、会員から集めた政府供出用の精米を保管する任務に当たっていたが、農協が備蓄していた魚粕が不足し、これがなければ農協会員が困ると思い、後に補填するつもりで、政府供出用の精米を売却して、その売上金で魚粕を購入した。

5横領罪における不法領得の意思(2)
 X社の取締役Aは、BがX社の株を買い集め、その経営権を独占しようとしている動きを察知し、事件屋Cに、Bの動きを封ずるよう依頼し、その資金と報酬として、会社の財政から9億円近くの金を拠出した。

6横領か背任か
 A村の村長Xは、B会社の社長Yからの懇請に応じ、A村の基本財産から、A村名義でYに金銭を貸し与えた。
→Xは、自己が保管するA村の金銭をYに貸し、A村に財産上の損害を与えたが、貸し与えた名義はA村の名義であった。それは「領得行為」ではなく、「任務違反行為」である。

7横領後の横領
 Aは、所有者Bから自動車の修理・保管を依頼され、保管していたが、非常に価値の高い自動車であったので、ほしいままに自由に使用し、その後、自動車の所有者の名義を自分に変更した。

8背任罪における「事務処理者」の意義
 被告人は、Aの抵当権を設定する事務を担当する者であるが、Aの1番抵当権を設定せずに、後順位の2番抵当権にした。

9任務違背行為の意義
 銀行の融資担当者Aは、B経営の会社が実質的に倒産状態にあり、改善する見込みはなく、Cの会社に貸しつけていた貸付金の回収も実質不可能になってたことを知りながら、Bに対して抜本的な方策を講ずるよう要請しないまま、ほとんど資産価値のない不動産を担保にして、1億円の融資を決定、実行した。

10財産上の損害
 上記の事案において、Aの銀行は、Bに対して1億円の債権を得て、BにはAに対して1億円の債務が生じた。Aは、銀行の取締役会で、額面1億円の債権を得たことを報告し、自分の責任で融資した分については、損失は発生していないと述べた。

11背任罪における図利加害目的
 株式会社代表のAは、予定していたほど純利益があがらず、本来では株主に配当金を支払える状況ではなかったにもかかわらず、株の売却などされると、一気に株価が暴落し、経営困難に陥ると考え、株主に対して昨年度同様の配当をした。それによって、会社の経営状態は悪化した。

12不性融資の借りて側の責任
 会社の代表取締約Aは、取引銀行の融資担当者Bに対して、本件融資の実現に加担しているのであって、上司に相談せずに、C会社を迂回して、Aの会社に資金が流れるようにしてほしいと話を持ちかけた。Bはやむを得ず、Aのいうとおり融資した。Bは銀行の融資事務担当者であり、刑法上の背任罪の行為主体であると同時に、会社法における特別背任罪の行為主体である。Aは、そのような地位にはついてはいなかった。


(1)横領罪について
1横領罪の3類型の相互の関係について、通説・判例の見解の特徴を説明し、それに対する批判説の見解の特徴を説明しなさい。




2横領罪の保護法益を論じなさい。




3村への寄付金を銀行口座に預けた後、村長がそれを勝手に銀行の窓口で引き出した行為の罪責




 御振込された金銭を自分の預金であるかかのよに装って銀行の窓口で引き出した行為の罪責




4財物を二重に売買した場合、ローンで購入した財物を完済前に売却した場合の罪責を論じなさい。




5不法な原因にもとづいて委託された物については、委託者の返還請求権が否定されますが、判例は、受託者がそれを自分のものにした場合に横領罪の成立を認めますが、その理由を述べなさい。




6横領の行為の意義に関して、越権行為説と領得行為説の対立を説明しなさい。



「保管中の供給米」



「保管中の自転車」



「秘密資料」


7遺失物横領の故意で「他人が占有する物」を取る行為を行なった場合、窃盗罪の故意で「遺失物」を持ち去った場合の罪責を論じなさい。




8非占有者が占有者の横領(252条・委託物横領罪)に関与した場合




 占有者(非業務者)が業務者の横領(253条・業務上横領罪)に関与した場合




 非占有者(非業務者)が業務者の横領に関与した場合




(2)背任罪について
1背任の意義について、権限濫用説と背信説の対立を論じなさい。




2新権限濫用説・事務処理違反説と限定背信説の違いを述べなさい。




3株式投資など顧客のために行なう商行為と任務違背行為との関係について論じなさい。




4Aは回収の見込みが少ないと認識しながら、Bに無利子・無担保で融資したが、期日通りに返済を受けた。「財産上の損害」の発生の有無に関して、法的財産概念と経済的財産概念からそれぞれ解説しなさい。




5自己・第三者図利目的と本人加害目的の内容を論じなさい。また、本人の利益を図る目的があった場合について背任罪の成否を論じなさい。




6Aは回収の見込みが少ないと認識しながら、融資を強く依頼するBに無利子・無担保で融資した。結果的に債権は回収できなかった。この場合、Bに背任罪の教唆が成立するか。




7背任罪と横領罪の区別基準を論じなさい。




8背任罪と詐欺罪の区別基準を論じなさい。