Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第08回 練習問題)

2016-11-15 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 第08週 練習問題
(1)基本問題
1詐欺罪の保護法益
 財産犯は、窃盗罪や強盗罪のように、行為客体である財物・利益の喪失によって成立する「個別財産に対する罪」と、背任罪のようい、被害者の財産状態の不良的変更によって成立する「全体財産に対する罪」に分類することができる。

 経済的には全く価値のない財物であっても、保護する必要があるので、被害者が財物を喪失すれば、犯罪としては成立する。ただし、財産状態の不良的変更や財産的な損害を全く度外視することもできない。紙切れ1枚は物であっても「財物」ではないなら、その窃取や詐取は構成要件該当性の問題であるが、「財物」であるならば、可罰的違法性の問題として考えることもできる。

2詐欺罪の行為客体
 詐欺罪の行為客体は、「財物」(1項)である。これは、窃盗罪・強盗罪の行為客体の「財物」と同じ有体物(動産)である。ただし、解釈論上、不動産も含まれる。また、強盗罪と同じく「財産上不法の利益」も行為客体に含まれる。欺いて錯誤に陥れ、債権を放棄させるなどすれば、利益詐欺罪が成立する。

3手段行為――欺く行為(欺罔行為)
 詐欺罪は、人を欺いて→錯誤に陥れ→その錯誤に基づいて財産的処分行為(財物の交付・利益の移転)を行なわせ→それを自己または第三者に得させることで成立する。
 欺く行為とは、他人に虚偽の事実を真実であると誤信させ得る行為である。それは財産取得のための手段であるので、財産的処分行為を誘発するようなものに限られる。

4財産的処分行為
 行為客体が財物の場合、処分行為は「交付」である。それは、被欺罔者がその占有を相手方または第三者に移転する行為である。それは被欺罔者によって行なわれるが(作為)、錯誤に陥った被欺罔者が行為者の持ち帰りを止めない場合にも「交付」にあたる(窃取ではない)。行為客体が財産上の利益の場合、処分行為は利益の処分・移転である。それは、被欺罔者が債権放棄の意思表示などである(意識的な作為)。債務の履行を求めない不作為の場合も処分行為にあたる。ただし、不作為による処分行為の場合、被欺罔者は欺かれていることに気づかず、従って自らの態度が処分行為にあたることを認識していない。このような無意識的な不作為によっても処分行為は行なわれ得ると解されている。

 欺いて債務を履行しない民法上の債務不履行と不作為による利益詐欺との違いは、欺かれなかったならば、債権者が債務の履行やそれに代わる措置を講じたであろうといえる特段の情況が必要である。そのような情況がまだなければ、たんなる債務不履行にとどまる。

5財産上の損害
 他人を欺いて金銭を交付させたが、その人に金額相当の商品を提供した場合、被欺罔者のところで失われた金銭は、提供を受けた商品によって相殺されているので、「財産上の損害」は発生していないように見える。しかし、欺いて金銭を交付させた以上、詐欺罪は成立し、財産上の損害の発生は必要ではないと考えられる(財産上の損害不要説)。価格相当の商品の提供を受けてはいても、金銭を喪失している以上、それを財産上の損害と捉えることもできる(財産上の損害必要説)。

6権利行使と詐欺罪
 正当な権利(例えば物品の返還請求権)を有する者が、それを行使するために、相手方を欺いて、物品を返還させた場合、詐欺罪にあたるか。権利行使は、それに相応しい法的な方法があるので、社会的に相当ではない方法によって物品を返還させた場合、詐欺罪が成立する余地がある(恐喝罪のところで検討)。

7不法原因給付物と詐欺罪
 不法な原因に基づいて給付した物に対しては、給付者はその返還を請求することはできない。闇米の購入資金を受けたが、目的外に消費した場合、民法上その返還を請求することはできない。ただし、闇米を購入する意思があるかのように装って、資金の提供を受けた場合、刑法上、詐欺罪が成立する。

8三角詐欺
 詐欺罪は欺く者(財物・利益の取得者)と欺かれる者(処分行為、財物・利益の喪失者)との対向関係だけでなく、三者関係においても行なわれる。クレジットカードの不正使用などである。カード会員Aが、口座に入金する意思があるかのように装って加盟店Bを欺いて商品を交付させ、Bにカード会社Cからの立替払の手続(処分行為)を行なわせたが、その後Aは入金せずにCへの支払を免れた場合、被欺罔者Bと財産的な損害者Cは別人物である。このような場合、A・B間の財物詐欺と捉える立場もあるが、AがBを欺いて、Bに財産的処分行為を行なわせて、代金相当額の債権をBに得させた利益詐欺罪と捉える立場もある。詐欺罪が成立するためには、被欺罔者が財産的処分行為者と同一人物であれば足り、財産的損害を被る者である必要はない。

9準詐欺罪
 「未成年者の知慮浅薄」または「人の心神耗弱」に乗じて財物を交付または利益を得たり、第三者に得させた場合、詐欺罪として処罰される。欺く行為は行なわれていないが、被害者の認識・精神状態の利用がそれに相当するものと解されている。

10恐喝罪
 脅迫して権利を行使する行為は、恐喝罪にあたるか。AがBに5間円貸し、返済を求めた際に、脅して8万円を交付させた場合、恐喝罪は成立するが、8万円全額に成立するのか。それとも、5万円は正当な債権行使なので、恐喝罪が成立するのは3万円だけか。
 権利行使には、それに相応しい方法・手段があるので、それによらない行為は、権利行使とはいえない。従って、詐欺罪は8万円全体に成立する(行為無価値論的判断)。



(3)事例問題
1Aは、経済統制令のもとで売買することが禁止されていた財物を獲得するために、Bに対して統制令が解除されたと欺いて、相当価格を支払うことを約束して、Bに同財物を交付させた。


2国会議員Aは、Bを公設秘書として採用し、秘書としての歳費を受けとらせたが、Bには秘書としての就労実態はなく、また受け取った歳費をAの政治資金管理団体に寄付させていた。


3Aは間違って大量に納入した「あんま器」を売り尽くすために、リウマチに効果のある「健康器具」であると、Bを欺いて、あんま器の価格相当額ので販売し、代金を受け取った。


4Aは、市の公共事業として街路樹の伐採を500万円で請け負い、その作業を行なったが、その年に起こった風水害のため街路樹にはほとんど葉はななったため、作業は予定以上に早く終了した。市に請負業務終了報告書を提出するにあたり、伐採した葉と枝の総量を多く見積もった内容虚偽の報告書を提出し、後に500万円の支払いを受けた。


5出国禁止措置を受けているAは、外国に行くため、顔の良く似たBに航空券を予約させ、そのパスポートを航空会社の係員に提示して、航空券の交付を受けた。


6Aは、自分の預金口座に誤って振込があったことを利しながら、それを秘して、ATMからその全額を引き出した(または、銀行の窓口で行員に引き出しを依頼し、その全額を受け取った)。


7Aは最初から支払う意思がないにもかかわらず、それがあるかのように装って、旅館で飲食・宿泊した(Aは支払う意思があったが、財布を忘れたことに気づき、旅館の従業員に「帰宅する知人を、自動車で見送る」と欺いて、そのまま逃走した)。



8Aは、近鉄奈良駅の改札係員Bに奈良・西大寺間の乗車券(210円)を提示して乗車し、京都駅の改札係員Cに東寺・京都間の定期券を提示して改札の外に出て、西大寺・東寺間の乗越乗車料金(410円)の支払を免れた。


9AはBのクレジットカードを使用する権限がないにもかかわらず、それがあるかのように装って、Cスタンドでガソリンを給油した。


 Aは、口座に入金する意思がないにもかかわらず、自己名義のクレジットカードを利用して、Cスタンドでガソリンを給油した。


10Aは、Bへの借金の返済を滞らせ、Bから「これが最後の督促である。払えなければ、法的手段に訴える」と強く言われたので、「今日の夕方に支払う」と欺いて、Bを帰宅させ、そのまま逃走した。


11AはBに5万円貸していたが、Bの返済が繰り返し滞ったために、業を煮やし、合計8万円返さなければ、組関係者をお前にところに行かせると述べた。Bは怖くなり、言われるまま8万円を渡した。


12AはBに5万円貸していたが、Bの返済が繰り返し滞ったために、返済を強く迫ったところ、Bから「組関係者を持たせて、向かわせる」といわれた。Aは怖くなり、それ以上なにも言えなかった。




(1)財物詐欺罪について
1詐欺罪の保護法益はどのようなものでしょうか。また、そのなかに「取引上の信義誠実」や「信頼関係」といった非財産的な利益を含める主張の当否について論じなさい。



2詐欺罪は個人的法益に対する罪ですが、欺いて国家の財産を取得した場合も詐欺罪にあたりますか。



3詐欺罪の行為客体の「財物」に不動産が含まれるのはなぜでしょうか。



4「欺く行為」とはどのようなものでしょうか。それは誰に対して行われていなければならないのでしょうか。誇大広告もまた欺く行為にあたるのでしょうか。



5不作為の「欺く行為」が問題になるのは、どのような場合でしょうか。



6財物が交付される相手方は、欺く行為を行なった者だけですか。それとも第三者も含まれますか。




7詐欺罪の成立に「財産的損害」の発生は必要でしょうか。



8欺いて財物を交付させたが、それが不法な原因であった場合、財物詐欺罪は成立しますか。また、公序良俗に反する契約の料金請求に対して、欺いてそれを逃れた場合、利益詐欺罪にあたりますか。



(2)利益詐欺罪について
1利益詐欺罪の行為客体である「財産上不法の利益」の意義を説明しなさい。



2欺いて債務を履行しなかった場合と利益詐欺罪を区別する基準は何ですか。



3財物詐欺罪の場合、財物の移転は被害者の財物の交付行為によってなされますが、利益詐欺罪の場合は何によって利益が移転すると解されていますか。



4不作為による処分行為とはどのようなものですか。それは意識的になされるだけでなく、無意識によってなされる場合も含まれますか。無銭飲食・無銭宿泊を例に説明しなさい。



5いわゆるキセル乗車は刑法上の詐欺罪にあたりますか。




6いわゆる「三角詐欺」について、具体例をあげて説明しなさい。



(3)財物恐喝罪について
1恐喝罪と詐欺罪の共通点と違いを説明しなさい。恐喝罪と強盗罪の共通点と違いを説明しなさい。恐喝罪と強要罪の共通点と違いを説明しなさい。



2恐喝罪の手段行為である「恐喝」の意義について述べなさい。それには脅迫だけでなく、暴行も含まれるかも説明しなさい。



被害者の反抗を抑圧しない程度の暴行を用いて、金品を交付させたところ、被害者が負傷または死亡した。



3一般に被害者の反抗を抑圧する程度の脅迫(または暴行)を加えて、財物を交付させた場合、恐喝罪が成立するでしょうか。



 一般に被害者の反抗を抑圧しない程度の脅迫(または暴行)を加えたところ、被害者が財物の持ち去りを容認した場合、恐喝罪が成立するでしょうか。




(4)利益恐喝罪について
1利益恐喝罪の行為客体である「財産上不法の利益」の意義について説明しなさい。



2利益恐喝罪における利益の移転を判断する基準として被害者の処分行為が必要であすが、意識的な作為・不作為の処分行為が問題になるだけで、無意識の(不作為の)処分行為が問題になりえない理由を述べなさい。



3権利行使と恐喝罪の関係を具体例をあげて述べなさい。



4脅迫して債権(5万円)のところ、8万円を回収した。脅迫して債権(5万円)のところ、8万円の骨董品を回収した。脅迫して債権(5万円)のところ、8万円の借用証書を書かせた。これらの場合、どのような恐喝罪が成立するか論じなさい。



5公務員が、その職務関連行為を行うにあたり、被害者を脅迫して賄賂金を交付させた場合、公務員にはどのような犯罪が成立するか論じなさい。被害者にはどのような犯罪が成立するでしょうか。