Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第13回③ 2015年12月24日)

2015-12-05 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 第13回 練習問題
(1)基本問題
0国家的法益に対する罪の構成
・国家の存立――内乱罪、外患罪、国交に関する罪
・国家の作用――公務執行妨害罪、職務強要罪、封印破棄罪、強制執行妨害罪、逃走罪
        犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪、偽証罪、虚偽告訴罪、職権濫用罪、汚職の罪

1内乱罪
 内乱罪(77)とは、国の統治機構を破壊し、またはその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として(目的犯)、暴動をする行為である(1項)。首謀者(1号)、謀議参与者・群衆指揮者(2号)、付和随行者(3号)に応じた刑が定められている。未遂も処罰される(2項)。

 内乱予備罪・内乱陰謀罪(78)は、内乱を実行する目的とした準備行為、内乱を実行するための2人以上の者による合意である。

 内乱罪・内乱予備・内乱陰謀罪の幇助罪(79)は、兵器・資金・食糧を供給するなどして、77条・78条の行為を幇助する行為である。

 内乱予備・内乱陰謀・その幇助後、暴動(=内乱既遂)に至る前に自首した場合、その刑は必要的に免除される(80)。

2外患罪
 外患誘致罪(81)とは、外国の政府や軍隊と通謀して、日本国に対して武力を行使させる行為である。外患援助罪(82)とは、日本国に対しては外国から武力の行使があたときに、これに加担して、その軍務に服し、その他これに軍事上の利益を与える行為である。外患誘致・外患援助の未遂罪(87)・予備罪・陰謀罪(88)も処罰される。

3国交に関する罪
 外国国章損壊等罪(92)とは、外国に対して侮辱を加える目的で(目的犯)、国旗・国章を損壊、除去、汚損する行為である。

 私戦予備罪・陰謀罪(93)とは、外国に対して私的に戦闘行為を加える目的で(目的犯)、その準備をし、またその実行のために2人以上の者の間で合意することである。

 中立命令違反罪(94)とは、外国が交戦している際に局外中立命令に関する命令に違反する行為である。

4公務執行妨害罪
 公務執行妨害罪(95①)の保護法益は、公務員によって執行される公務である。公務員が職務を執行するにあたり、暴行・脅迫を加える行為であり、公務執行の執行が妨害されたことを要しない(抽象的危険犯)。

 公務は適法なものでなければならない。当該公務員(警察官)の一般的・抽象的な職務権限の範囲内にある職務であり(現行犯逮捕)、かつその執行について具体的な権限があり(犯罪の現認など)、さらに関係法令が定める方式(最小限度の有形力の行使)に基づいているものでなければならない。従って、執行方法に重大な法令違反がある場合、その職務の適法性は失われる。たとえ、現行犯人ではない者を逮捕した場合であっても、逮捕行為時において、一般人を基準にして判断すれば、現行犯人と認められる十分な理由があったといえる場合には、そのような職務であっても適法と判断される(それによる被害は刑事補償制度が適用される)。

 ただし、逮捕されそうになった者の側からは、そのような逮捕は適法とは思えない。それを免れるために、警察官に暴行を加えることもある。そのような場合、公務執行妨害罪の構成要件に該当し違法であるが、行為者には自己の行為の違法性を基礎づける事実の認識がないので、公務執行妨害罪の故意が阻却される。

5職務強要罪
 職務強要罪(95②)とは、公務員にある処分をさせ、若しくはさせないために、またはその職を辞させるために、暴行・脅迫を加える行為である。結果として処分させるなどしなくても、成立する。処分は職務権限に属するものなので、当該処職務権限の範囲内にない処分をさせようとした場合、本罪は成立しない。

6封印破棄罪
 封印破棄罪(96)とは、公務員が施した封印・差押えの標示を損壊するなどの行為である。封印などは、公務員が物を保全するために行なう職務である。弁済したので、差押えの効力は失われたと誤信して、その表示を損壊した場合、差押えの表示が公務員によって為されたこと、これを損壊することの認識がある以上、錯誤により違法ではないと誤信したことは、法律(違法性)の錯誤でしかない。制限故意説からは、違法性の認識の可能性がある場合、故意の成立が認められる(犯罪の故意=事実の認識+違法性の認識の可能性)。

7強制執行妨害罪
 強制執行妨害目的財産損壊等罪(96の2)とは、強制執行の適正な遂行を妨害するために、自己の財産を損壊等する行為である。強制執行の適正な遂行が保護法益であるが、強制執行は債権の実現のための手段であり、最終的には債権者の債権保護を目的とするものであるので、本罪が成立するかどうかの判断に当たっては、少なくとも刑事訴訟の審理過程において、被害者に債権があることが確定していなければならない。

 強制執行行為妨害罪(96の3)とは、偽計・威力を用いて強制執行を妨害する行為である。

 強制執行関係売却妨害罪(96の4)とは、偽計・威力を用いて強制執行において行われ、また行なわれるべき売却の公正を害する行為である。例えば、強制執行として不動産の競売が行なわれ、それを落札した人に対して、その取得を断念するよう威力を用いて要求する行為などである。

 加重封印等破棄罪(96の5)は、報酬を得る目的で、または得させる目的で、他人の債務に関して、96条から96条の4までの行為を行なうことである。

 公契約関係競売妨害罪(96の6①)は、偽計・威力を用いて競売を妨害する行為であり、談合罪(96の6②)は、公正な価格を害し、または不正な利益を得る目的で、競売や入札において競争者が通謀して、価格を取り決めたり、特定の者に落札させて契約者にする行為である。

8逃走罪
 逃走罪(97)とは、裁判の執行により拘禁された既決または未決の者が逃走する行為である。

 加重逃走罪(98)、97条に規定する者、勾引状の執行を受けた者が、拘禁場・拘束器具を破壊し、暴行・脅迫し、または2人以上通謀して、逃走する行為である。

 被拘禁者奪取罪(99)とは、法令により拘禁された物を奪取する行為である。

 逃走援助罪(100)とは、法令により拘禁された者を逃走させる目的で(目的犯)、器具を提供し、その他逃走を容易にすべき行為である。前項の目的で、(看守等に対して)暴行または脅迫する行為である。

 看守等による逃走援助罪(101)とは、法令により拘禁された者を看守し、または護送する者が、その拘禁された者を逃走させる行為である。

 以上の罪の未遂(102)は、処罰される。

(2)判例問題
112職務行為の適法性(最判昭和42・5・24刑集21巻4号505頁)
☞佐賀県議会において、予算案に反対する議員Xが質疑を行なっていたところ、賛成派の議員からXに対する懲罰動議が出され、それに対抗する形で、反対派の議員からも、成派議員への懲罰動議が出された。議会規則77条では、懲罰動議が出された場合、議会に諮らなければならないと定められていたので、Xは動議先決であると主張して、質疑を中断した。しかし、議長Aは動議を諮ることなく、Xに質疑を継続するよう指示した。Xがこれに応じずにいたところ、賛成派の議員から、質疑打ち切り、討議の省略、全議案一括採択の動議が出された。Aは、これを賛成多数により可決されたとして、全議案の一括採択を行なおうとした。これに対して、XはAの措置が不当であるとして、多くの反対派議員とともに議長席付近にかけより、議長マイクのコードを引っ張り、議長席の椅子を揺り動かすなどの行為を行なった。

 議長のとった本件措置が、本来、議長の抽象的権限の範囲内に属することは明らかであり、かりに当該措置が会議規則に違反するものである等法令情の適法要件を完全に満たしていなかったとしても、原審の認定した具体的な事実関係のもとにおいてとられたと当該措置は、刑法上には少なくとも、本件暴行等による妨害から保護されるに値する職務行為にほかならず、刑法95条1項にいう公務員の職務の執行に当たるとみるのが相当であって、これを妨害する本件所為については、公務執行妨害罪の成立を妨げないと解すべきである。

→議会規則に違反していることを理由に、議長の議事運営が違法な職務になるとすると、刑法により保護される職務かどうかは、議会規則によって決定されることになる。しかし、議会規則に違反した議事運営は、その規則に基づいて訂正されるべきであり、そのような訂正が予定される限りにおいて、その議事運営もまた職務として扱わなければならず、それを違法であるとまで言うことはできない。

113職務行為の適法性の判断基準(最決昭和41・4・14判時449号64頁)
☞A・B両巡査は、警邏中、日本等の仕込杖を所持していたXを銃砲刀剣類等所持取締法違反罪の現行犯人として逮捕しようとした際、同人が傍らに寄りかかってきたYに何物かを手渡している気配を察知し、B巡査が両者の間に割り込んだところ、Yの胸のあたりから拳銃が落ちてきた。そこで両巡査は、Yをも同違反罪の現行犯人として逮捕しようとしたことろ、これを免れようとする被告人XおよびYから暴行を受けた。

 原審は、公務執行妨害罪が成立するには公務員の職務行為が適法であることを要するが、職務行為の適否は事後的に純客観的な立場から判断されるべきでなく、行為当時の状況にもとづいて客観的、合理的に判断されるべきであり、たとえYの前示所持が、事後的に裁判所により無罪の判断をうけたとしても、その当時の状況としてはYの右挙動は客観的にみて同法違反罪の現行犯人と認められる十分な理由があるものと認められるから、右両巡査がYを逮捕しようとした職務行為は適法であると解するのが相当であるとして、第1審の結論を指示した。弁護人は、両巡査の逮捕行為は違法であり、被告人には正当防衛が成立するはずであるとして上告したが、最高裁は上告を棄却し、原判決の判断を正当とした。

→弁護人は、Yに対する現行犯逮捕行為は違法であり、違法な職務に対して暴行しても、それは正当防衛として正当化されると主張した。Xは逮捕されそうになったので、Yに拳銃を渡したとすれば、YはXの協力者の可能性があるが、無関係な者であったならば、Yは銃砲の不法所持の現行犯ではない。現行犯人でない者を現行犯逮捕することはできない。従って、Yに事情を聴取して、事後的に判断すれば、Yは無関係であり、それゆえ現行犯逮捕は違法であることが明らかになる。弁護人の主張の根拠は、このようなものであると思われる。しかし、職務の適法性・違法性は「行為当時の状況」を基準に判断されるべきであるというのが判最の立場である。

114「職務を執行するに当たり」の意義(最決平成元・3・10刑集43巻3号188頁)
☞熊本県公害対策特別委員会において、申請参加者が議員の発言に執拗に抗議したため、委員長Aはそれへの回答を委員会で朗読したところ、て、委員会室内が混乱し騒然となったため、Aは審議を継続できないと判断し、休憩を宣言し退席しようとしたところ、申請参加者XらがAを取り囲み、右腕やわき腹をつかんで引っ張り、委員会室から出たAに対して手拳で殴打し、足蹴りにするなどの暴行を行なった。

 原判決の認定によれば、熊本県議会公害対策特別委員会委員長Aは、同委員会の議事を整理し、秩序を保持する職責を有するものであり、休憩宣言により職務の執行を終えたものではなく、休憩宣言後も、前記職責にもとづき、委員会の秩序を保持し、右紛議に対処するための職務を現に執行していたものと認めるのが相当であるから、同委員長に対して加えられた前記暴行が公務執行妨害罪を構成することは明らかであり、これを同旨の原判断は正当である。

→休憩中である以上、職務の執行は行なわれていないと解することもできるが、休憩に入ったのは、紛糾した議事を正常に戻すためであったので、それは議事が中断されたことを意味するだけで、委員長Aの職務は継続して行なわれていると認定することができる。

115公務執行妨害罪における「暴行」の程度(最判昭和33・9・30刑集12巻13号3151頁)
☞文化祭に参加していたX、Y、Zらは、出動していた警察官に対して反感をいだき、それぞれに投石した。

 公務執行妨害罪は公務員が職務を執行するに当たりこれに対して暴行又は脅迫を加えたときは直ちに成立するものであって、その暴行又は脅迫はこれにより現実に職務執行妨害の結果が発生したことを必要とするものではなく、妨害となるべきものであれば足りうるものである。……。そして投石行為はそれが相手に命中した場合は勿論、命中しなかった場合においても本件のような状況の下に行われたときは、暴行であることはいうまでもなく、しかもそれは相手の行動の自由を阻害すべき性質のものであることは経験則上疑を容れないものというべきである。されば本件被告人等の各投石行為はその相手方である前記各巡査の職務執行の妨害となるべき性質のものであり、従って公務執行妨害罪の構成要件たる暴行に該当することが明らかである。そうだとすれば被告人等の各投石行為がたとえ只1回の瞬間的なものであったとしても、かかる投石行為があったというときは、……直ちに公務執行妨害罪の成立があるものといわなければならない。

→警察官の職務を妨害しうる性質の行為であるという実質的な理由から、行なわれた投石が公務執行妨害罪の形式的要件である暴行に該当するという判断が導き出されている。

116仮処分の公示札の有効性(最決昭和62・9・30刑集41巻6号297頁)
☞被告人がゴルフ練習場をつくるため、A・Bから賃借したとされる土地の両方にまたがる一区画を整地し、その周囲にコンクリート製支柱11本を建てたところ、Bの申立により裁判所が仮処分を命令し、執行官が、Bの土地に対する被告人の占有を解いて、執行官の占有に移し、同土地の執行官保管と公示続行禁止を知らせる公示札を立てる仮処分を執行した。しかし被告人らは、事情を知らない工事業者をして、支柱にネットを張らせ、練習場として囲い込んだ。そのとき公示札は、何者かの仕業であるが、包装紙で覆われており、そのままでは内容を読むことはできなかった。

 仮処分の公示札は、被告人が本件行為に及んだ際には、仮処分執行の際執行官が建てた場所に外見上も立札とわかるように立っており、包装紙で覆われその上からビニールひもが十文字に掛けられていて、そのままではその記載内容を知ることができなかったものの、右包装紙、ビニールひもとも容易に除去して記載内容を明らかにすることができる状態にあったというのであるから、右公示札は、差押の標示としての効力を一部減殺されてはいたけれど、いまだその効力を滅却されるまでには至っておらず、有効な差押の標示として刑法96条の罪の客体になるというべきである。

→封印破棄罪(96)の行為客体であることについて判断したもの。行為者がそのような表示と識していなかった場合、故意の成否が問題になる。

117強制執行妨害罪と債務名義の存在(最判昭和35・6・24刑集14巻8号尾1103頁)
☞被告人は、実弟とともに被告としてSより貸金110万円の連帯保証債務について訴訟を提起され、訴状の送達を受けたので、該債権にもとづく強制執行を免れるため、妻と共謀のうえ、被告人所有の宅地建物を長女名義に仮装譲渡した。原審は、「被告人はSに対して判示の如き保証債務を負担するものであることを認められないことはない」と判示したが、この判決の2日前に貸金請求事件第1審判決において、被告人に保証債務は存在しないとする民事判決が出され、第2審判決も原告Sの控訴を棄却したため、被告人に保証債務がないことが法的に確定した。つまり、民事裁判は、被告人にはSに対する保証債務はないと判断したのである。しかし、刑事裁判の判断では、被告人が強制執行を免れるために、宅地建物を長女に仮装譲渡したことが、強制執行妨害にあたると判断されたのであるが、この判断はSには債権があり、被告人には保証債務があることを前提としている。民事裁判で債務保証が否定されたため、最高裁の判断に注目が集まった。

 およそ刑法96条の2の罪は、国家行為たる強制執行の適正に行われることを担保する趣意をもってもうけられたものであることは疑のないところであるけれども、強制執行は要するに債権の実行のための手段であって、同条は究極するところ債権者の債権保護をその手段とする規程である。同条の「強制執行ヲ免ルル目的」は、「単に犯人の主観的認識若しくは意図だけでは足りず、客観的に、その目的実現の可能性の存することが必要であって、同条の罪の成立するがためには現実に強制執行を受けるおそれのある客観的な状態の下において、強制執行を免れる目的をもって同条所定の行為を為すことを要する。いかなる場合に強制執行を受けるおそれありとみとめるべきかは具体的な事案について個々に決するの外ないのであるが、本件のように、何らの執行名義も存在せず単に債権者がその債権の履行請求の訴訟を提起したというだけの事実をもっては足らず、かくのごとき場合に本条の罪の成立を肯定するがためには、かならず、刑事訴訟の審理過程において、その基本たる債権の存否が確定されていなければならないから、刑事訴訟の審理過程において債権の存在が否定されたときは、保護法益の存在を欠くものとして本条の罪の成立は否定されなければならない。

→債権の行使のために、債務者の財産を差し押さえることは一般に行なわれており、それを妨害すると強制執行妨害にあたることは明らかである。ただし、そのためには債権が存在することが前提である。強制執行妨害罪の刑事裁判が終了までに、その存在が確定していなければ、有罪にはならない。

118公務員の補助者に対する暴行・脅迫(最判昭和41・3・24刑集20巻3号129頁)
☞被告人はA社を解雇された後、社宅から立ち退かなかったため、A社は社宅の明け渡しの民事訴訟を提起し勝訴したので、執行吏Bに判決の執行を委託した。BはA社の社員Cらとともに、被告人に対する社宅明け渡しの強制執行に着手したところ、被告人はCらが執行吏Bの指揮のもとも労務者として執行行為に関与するものであることを十分に察知しながら、暴行・脅迫を加えるなどした。そのため、Bは強制執行を一時中止せざるをえなくなった。

 刑法95条1項に規定する公務執行妨害罪の成立には、公務員が職務の執行をなすに当り、その職務の執行を妨害するに足りる暴行脅迫がなされることを要するけれども、その暴行脅迫は、必ずしも直接に当該公務員の身体に対して加えられる場合に限らず、当該公務員の指揮に従いその手足となりその職務の執行に密接不可分の関係において関与する補助者に対してなされた場合もこれに該当すると解するを相当とする。本件において、被告人はB執行吏がその職務の執行をなすに当り、公務員ではないがその補助者として同執行吏の命によりその指示に従って被告人方の可罪道具を屋外に搬出中のCに対し第1審判時の暴行脅迫を加えたもので、その際被告人方の出入口又は戸外において執行を指揮していた右執行吏をして、右暴行脅迫により一時執行を中止するの止むなきに至らしめたものであるから、本件被告人の所為は、直接公務員である同執行吏に対してなされたものではないとしても、同執行吏の職務の執行を妨害する暴行脅迫に該当するとした原審の判断は、右説示に照らして正当である。

→95条1項は、公務員が職務を執行するに当たり、「これ」に対して暴行・脅迫する行為を規定しているが、「これ」に職務執行する公務員が含まれることは明らかであるが、職務が公務員だけでなく、民間人の協力を得て行なわれる場合があることを踏まえると、「これ」のなかには、公務員の補助者・協力者も含まれると解すべきである。

119偽計競売入札妨害罪の成否(最決平成10・7・14刑種52巻5号343頁)
☞被告人は、徳島地方裁判所が競売開始決定をした不動産につき、その公正な競売の実施を阻止しようと企て、同不動産につき、短期賃貸借契約が締結されている旨の虚偽の写しを、同契約書の内容が申請なもののように装って、前記競売物件は既に他に賃借されているので取調べを要求する旨の上申書に添付したうえ、郵送により提出した。

 原判決の認定によれば、被告人は、A、B及びCらと共謀の上、徳島地方裁判所が不動産競売の開始決定をしたAら所有の土地建物について、その売却の公正な実施を阻止しようと企て、同裁判所に対し、賃貸借契約が存在しないのにあるかのように装い、右土地建物は既に他に賃貸されているので取調べを要求する旨の上申書とともに、AらとB、Cとの間でそれぞれ競売開始決定より前に短期賃貸借契約が締結されていた旨の内容虚偽の各賃貸借契約書写しを提出したというのであるから、被告人に刑法96条の3第1項所定の偽計による競売入札妨害罪が成立することは明らかであり、これを同旨の原判決の判断は、正当である。

→不動産競売物件情報サイトには、多くの競売物件が紹介されている。夢のマイホームを売らざるを得ない事情は様々である。それを阻止したい気持ちも分からないわけではない。

(3)事例問題
 上記の判例の事実関係を参照。