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論文)トウモロコシの分けつを抑制する因子

2011-08-30 19:42:30 | 読んだ論文備忘録

grassy tillers1 promotes apical dominance in maize and responds to shade signals in the grasses
Whipple et al.  PNAS (2011) 108:E506-E512.
doi:10.1073/pnas.1102819108

米国 コールド・スプリング・ハーバー研究所Jackson らは、トウモロコシの花の発達に関する突然変異体の選抜を行ない、雄穂において心皮の成長が抑制されない変異体を選抜した。この変異体は、花の表現型に加えて、栄養成長期の分けつ成長が旺盛となり、穂数が増えて分枝した穂が伸長した。これらの表現型は、変異体では腋芽の休眠が失われていることを示唆している。これらの表現型は完全には劣性でなく、ヘテロ接合体では分けつや花の表現型に変化は見られないが、穂数の増加や穂軸の伸長が僅かに起こった。変異体の表現型と半優性という性質は、トウモロコシの古典的な変異体であるgrassy tillers1gt1 )と類似しており、この変異体とgt1 は対立遺伝子であることが確認されたので、gt1-1 と命名した。gt1-1 のマッピングを行なったところ、第一染色体短腕のホメオドメインロイシンジッパー(HD-Zip)遺伝子のスプライスドナー部位にGからAへの置換が生じてホメオドメイン内でフレームシフトが起こっていることがわかった。gt1 はδサブファミリーに属するクラスI HD-Zipをコードしている。gt1 とパラロガスなクレイドの遺伝子にオオムギの条性決定遺伝子six-rowed spike 1Vrs1 )があり、オオムギの栽培化の過程において二条オオムギからVrs1 機能喪失対立遺伝子を持った六条オオムギが選抜された。gt1 転写産物はシュート腋芽で検出され、分裂組織を抱く葉原基と前形成層組織に発現が限定されて分裂組織自体では発現は見られなかった。穂の原基では、若い心皮原基の雌ずい群の先端部で強い発現が見られ、内花頴や外包頴でも弱い発現が見られた。しかし、外花頴や内包頴では発現が見られなかった。gt1 プロモーター制御下でGT1-YFP融合タンパク質を発現させたところ、GT1-YFPは核に局在し、腋芽の葉において発現が見られた。また、GT1-YFP蛍光は分裂組織の核においても検出され、分裂組織のgt1 mRNAはin situ ハイブリダイゼーションでは検出限界以下であるかGT1タンパク質は葉原基から分裂組織へと移行しているものと思われる。トウモロコシgt1 が腋芽で発現してその成長を抑制することから、gt1 は避陰反応に関与していることが示唆される。トウモロコシ栽培品種では腋芽の成長が抑制されているので、テオシントとソルガムを用いてgt1 と避陰反応との関係を調査した。テオシント芽生えを遠赤色光照射下で育成すると避陰反応を起こして草丈が高くなり腋芽の成長が阻害されるが、この時gt1 転写産物は腋芽において高レベルで蓄積していた。ソルガムのphyB-1 機能喪失変異体は腋生分枝の成長が殆ど見られず、この変異体の腋芽においてもソルガムGt1SbGt1 )転写産物の蓄積量増加が観察された。よって、ソルガムやテオシントのgt1 オーソログは避陰反応経路において腋芽の頂芽優勢を制御しており、この応答はフィトクロムシグナル伝達の制御下にあることが示唆される。トウモロコシの腋芽の成長を抑制する転写因子としてはTCPファミリーに属するteosinte branched1(tb1)が知られているが、gt1-1 変異体の成長中の腋芽でのtb1 の発現は野生型と同じであり、tb1 変異体の腋芽でのgt1 の発現量は野生型と比べて非常に低くなっていた。よって、gt1tb1 は同一経路上で腋芽の成長を制御しており、gt1 の発現はtb1 によって制御されていると考えられる。トウモロコシの分けつ数減少に関与する主要なQTLはgt1 を含んでいる第一染色体短腕にあり、トウモロコシ栽培化の過程においてこのQTLが選抜されてきたものと思われる。

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