Phytochrome regulates translation of mRNA in the cytosol
Paik et al. PNAS (2012) 109:1335-1340.
doi:10.1073/pnas.1109683109
フィトクロムは赤色光を受容するとPr型からPfr型へ転換して細胞質から核へと移動し、bHLH型転写抑制因子のフィトクロム相互作用因子(PIF)の分解を促して光シグナルの伝達を引き起こす。しかしながら、細胞質に局在するPfr型フィトクロムも光応答において何らかの役割を担っていることを示唆する例が報告されている。韓国科学技術院(KAIST)のChoi らは、酵母two-hybrid法によってフィトクロームと相互作用をするシロイヌナズナ細胞質タンパク質を見出し、PENTA1(PTN1)と命名した。このタンパク質は5つのC3H-タイプZnフィンガーモチーフを含んでいた。このような複数のC3H-タイプZnフィンガーモチーフを含むタンパク質は様々な真核生物において見出されており、シロイヌナズナには10個、イネには7つ見られる。このようなタンパク質のあるものはRNA結合タンパク質であることが示されている。PTN1はPfr型のphyAおよびphyBと優先的に結合することが判り、細胞質に局在し、赤色光や遠赤色光の照射による細胞内局在の変化は起こらないことが確認された。遠赤色光照射下で育成した芽生えを白色光下に移すと光退色を起こして緑化が抑制されるが、PTN1 過剰発現個体では緑化抑制が強まりクロロフィル量が野生型よりも少ないこと、ptn1 変異体では緑化抑制がやや弱まりクロロフィル量も多いことがわかった。ジベレリン(GA)はプロトクロロフィリドリダクターゼ遺伝子(PORA )の発現を抑制することで光退色を誘導することが知られているが、GAは野生型でもptn1 変異体でも光退色を誘導することから、PTN1の系にGAは関与していないと考えられる。遠赤色光による芽生え胚軸の伸長抑制は野生型、PTN1 過剰発現個体、ptn1 変異体ともに同等であり、この過程にPTN1は関与していないと考えられる。クロロフィルの生合成に関与しているHEMA 、GUN5 の転写産物量はPTN1 過剰発現個体、ptn1 変異体で変化が見られず、PORA 転写産物量は遠赤色光条件下でPTN1 過剰発現個体において僅かに増加している程度あった。よって、PTN1は遠赤色光処理による緑化の抑制において、PORA の発現抑制やクロロフィル生合成遺伝子の発現活性化を行なっているのではないと考えられる。しかし、PORAタンパク質量は、ptn1 変異体において僅かに増加し、PTN1 過剰発現個体では大きく減少していた。そこで、ルシフェラーゼ遺伝子にPORA 遺伝子の5'側と3'側の非翻訳領域を付加したコンストラクトを35S プロモーター制御下で発現する形質転換体でのルシフェラーゼ活性を見たところ、赤色光および遠赤色光照射下では暗所よりもルシフェラーゼ活性が低下しており、この活性低下は転写産物の安定性の低下によるものではなかった。この光照射下でのルシフェラーゼ活性の低下はptn1 変異体では野生型よりも弱くなることから、PTN1は光照射下での翻訳抑制に関与していることが示唆される。また、PTN1によるPORA mRNAの翻訳抑制は、5'側非翻訳領域が関与していることがわかった。赤色光下での翻訳抑制はphyB 変異体では部分的に緩和され、phyA phyB 二重変異体では翻訳抑制が起こらなかった。よって、PORA mRNAの翻訳抑制においてphyAとphyBは相加的に作用していると考えられる。phyA 変異体では遠赤色光下でのルシフェラーゼ活性低下が起こらないことから、遠赤色光シグナルによる翻訳抑制には主にphyAが関与していると考えられる。phyB 過剰発現個体では野生型よりも光退色が強まったが、ptn1 変異体でphyB を過剰発現させた個体の光退色は野生型と同等であった。これらの結果から、フィトクロムは赤色・遠赤色光を介した細胞質でのPORA mRNAの翻訳阻害に関与していることが示唆される。phyAタンパク質の核移行に関与しているキャリアタンパク質のfhy1 /fhl 二重変異体でのルシフェラーゼ活性は赤色・遠赤色光下において低下した。遠赤色光下での翻訳阻害は主にphyAによってなされているので、細胞質に局在するphyAが翻訳阻害を行ないうることがこの結果からも支持される。RNA免疫沈降(RIP)アッセイにより、PTN1タンパク質は生体内でPORA mRNAと結合することが確認された。また、このアッセイで、PTN1はPORA 遺伝子の非翻訳領域を付加したルシフェラーゼmRNAとも結合することが確認されたことから、PTN1はPORA mRNAの非翻訳領域と結合していると考えられる。PTN1とPORA 遺伝子の非翻訳領域を付加したルシフェラーゼmRNAとの結合は光条件に関係なく起こるので、フィトクロムはこの結合を制御してはいない。また、フィトクロムはPTN1タンパク質の安定性を制御してはいない。phyBの免疫沈降によるRIPアッセイを行ったところ、ptn1 変異体よりもPTN1 過剰発現個体のほうか多くのPORA mRNA画分が検出された。また、phyBとPORA mRNAの結合は赤色光下で増加した。PTN1はPfr型フィトクロムと優先的に結合するので、Pfr型フィトクロムはPORA mRNAの5'側非翻訳領域に結合したPTN1をリクルートしてPORA mRNAの翻訳を抑制していると考えられる。以上の結果から、Pfr型フィトクロムは、核内におけるPIFを介した転写制御と細胞質でのPTN1を介した翻訳制御の2つの制御により光シグナルの伝達を行なっていると考えられる。
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