The jasmonate-responsive GTR1 transporter is required for gibberellin-mediated stamen development in Arabidopsis
Saito et al. Nature Communications (2015) 6:6095.
DOI:10.1038/ncomms7095
東京工業大学の太田らは、ジャスモン酸(JA)シグナル伝達の新規制御因子を同定するために、9つのJA生合成遺伝子(DAD1 、LOX3 、LOX4 、AOS 、AOC3 、AOC4 、OPR3 、OPCL1 、JAR1 )と共発現している遺伝子をATTED-Ⅱ CoExSearchを用いて探索した。その結果、グルコシノレートトランスポーターをコードするNITRATE TRANSPORTER 1/PEPTIDE TRANSPORTER FAMILY(NPF)のファミリー遺伝子であるAT3G47960/GTR1/NPF2.1 がLOX3 、AOS 、OPR3 、JAR1 と共発現していることがわかった。最近の研究から、GTR1/NPF2.10と同じファミリーに属するNRT1.1/NPF6.3がオーキシントランスポーターとして機能すること、AIT1/NPF4.6がアブシジン酸(ABA)トランスポーターとして機能すること、AIT3/NPF4.1がABAとジベレリンの輸送活性があることが報告されている。よって、GTR1/NPF2.10もJAやその他の植物ホルモンを輸送する可能性がある。GTR1 転写産物はシロイヌナズナ芽生えをメチルジャスモン酸(MeJA)処理した30分後には増加が観察され、高い発現は24時間維持された。MeJAと同時にシクロヘキシミド(CHX)処理をするとMeJA単独処理よりもGTR1 発現量が増加し、CHX単独処理によってもGTR1 発現量の増加が起こった。これらの結果から、GTR1 の一過的発現はCHXによって合成が阻害されているリプレッサーによって制御されていることが示唆される。T-DNA挿入によって機能喪失したgtr1 変異体は、JA応答のマーカー遺伝子であるPDF1.2 がMeJA処理をしなくても高い発現を示し、MeJA処理による発現量の増加が見られなかった。gtr1 変異体ではMYC2 の発現量が野生型の半分になっていたが、VSP1 、ERF1 、ORA59 といったJA応答遺伝子やLOX3 、JMT 以外のJA生合成遺伝子の発現量は野生型と同等であった。よって、gtr1 変異体ではJAシグナル伝達の一部に異常が生じていることが示唆される。MeJA添加培地で育成したgtr1 変異体は茶色に変色したが、野生型植物やGTR1 恒常的に発現させたgtr1 変異体ではそのような変化は起こらなかった。MeJA処理したgtr1 変異体では老化のマーカー遺伝子であるSAG20 の発現量が野生型よりも高くなっていることから、gtr1 変異体のMeJA処理による脱緑化はJAによる未成熟葉の老化促進によると考えられる。gtr1 変異体は、長角果が小さく、稔実率が低下しており、雄ずいの花糸が短く、葯が裂開しなかった。gtr1 変異体の柱頭に野生型の花粉を受粉すると正常に稔実すること、gtr1 変異体の成熟花粉の発芽率は野生型と同等であることから、gtr1 変異体は雄ずいの発達が悪いために自らの花粉が柱頭に到達できないことが稔実率の低下をもたらしていると考えられる。JAは花糸の伸長、葯の裂開、花粉の生育力を制御していることから、GTR1は雄ずい発達過程でのJAシグナルを制御しているものと思われる。以前の研究において、GTR1/NPF2.10およびそのホモログのGTR2/NPF2.11はシロイヌナズナの主要な防御化合物であるグルコシノレートの輸送を行っていることが報告されている。しかしながら、gtr1 変異体の表現型はグルコシノレート輸送の欠失によって引き起こされたものとは思えない。gtr1 変異体は雄ずいの発達が悪いので、GTR1は雄ずいの発達を制御しているJAもしくはジベレリン(GA)を輸送している可能性がある。そこで、GTR1 を発現させたアフリカツメガエル卵母細胞を用いて各種植物ホルモンの取り込みを見たところ、 GA3とJA-Ileのみが取り込まれた。また、GTR1との親和性の高いグルコシノレートの4-メチルチオブチルグルコシノレート(4MTB)と植物ホルモンを同時に与えると4MTBが優先的に取り込まれた。したがって、GTR1はグルコシノレート不在下ではGA3とJA-Ileを細胞内に輸送するが、4MTBはGA3やJA-Ileよりも優先的に輸送されると考えられる。gtr1 変異体の花芽にGA3、JA-Ile、MeJAを与えたところ、GA3を処理することで稔性が回復して長角果が成長した。また、MeJAとGA3もしくはJA-IleとGA3を同時に与えても長角果の成長はGA3単独処理と同等であったが、種子数の増加が見られた。よ って、GAはgtr1 変異体の花糸の伸長と葯の裂開をさせ、JA-IleとMeJAは効果がないことが示唆される。gtr1 変異体の発達中の花は活性型GAのGA1やGA4の量が野生型よりも少なく、gtr1 変異体では活性型GAの輸送が低下しているものと思われる。以上の結果から、GTR1はグルコシノレート、JA-Ile、ジベレリンといった構造の異なる化合物を対象とした多機能トランスポーターであり、ジベレリンの供給を通じて雄ずいの発達を正に制御していると考えられる。
東工大ニュース:
高等植物の雄しべ発達過程を制御する植物ホルモン輸送体を発見
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