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論文)シロイヌナズナ根端分裂組織娘細胞におけるブラシノステロイドシグナルの不均等分布

2025-06-04 10:41:24 | 読んだ論文備忘録

Polarity-guided uneven mitotic divisions control brassinosteroid activity in proliferating plant root cells
Vukašinović et al.  Cell (2025) 188:2063-2080.

doi:10.1016/j.cell.2025.02.011

ブラシノステロイド(BR)は、植物器官の生長を制御するホルモンとして機能している。シロイヌナズナの根では、BR量は根の軸に沿って勾配を示し、伸長領域でピークに達し、細胞分裂を抑制して細胞伸長を促進している。しかしながら、最適なBRシグナル伝達を維持する機構や、細胞周期中の変動については不明な点が多い。ベルギー VIB-ゲント大学 植物システムバイオロジーセンターRussinovaらは、根表皮の非根毛形成細胞のシングルセルRNA-seq(scRNA-seq)解析を行ない、BRシグナルと細胞分裂活性との関係を解析した。その結果、細胞周期の初期、G1期に発現が増加し、G2期からM期への移行期に発現が減少する遺伝子の中に、CSI1CESA6MYB30 などのBRによって発現誘導されるBES1およびBZR1の標的遺伝子が濃縮されていることが判った。このことから、BRシグナル伝達はG1期の開始時に増加するが、有糸分裂前には低下していることが示唆される。BR処理をした根では、BES1/BZR1標的遺伝子の発現が細胞周期全体で拡大していた。さらに、G1期からS期への移行を制御するCYCD3;1 や、G2期からM期への移行を制御するCYCP3;1 といった、BRによって制御されているコア細胞周期遺伝子の発現が変化しており、CDC48APLT1 といった細胞周期制御因子の発現も増加していた。しかし、BRの長期投与は、核内倍加を阻害することで有糸分裂を促進するCDKB1;1 の発現を減少させ、有糸分裂からエンドサイクルへの移行を促進するCCS52A1 の発現をを増加させた。核内倍加を起こしている細胞を除いて発現解析を行なった結果、増殖領域内の有糸分裂細胞ではBRシグナル伝達が変動していることがわかった。対照的に、エンドサイクル中の細胞ではBR誘導BES1/BZR1標的遺伝子の発現は高いままであり、G2期でも低下しなかった。これらの結果から、BR活性は細胞周期を通して変動しており、BR誘導遺伝子の発現は、G1初期にピークに達し、G2期-M期に進むにつれて減少すると考えられる。BES1/BZR1標的遺伝子の発現変動がBRシグナルの動態によって説明できるかを調べるために、蛍光標識したBES1/BZR1の核内蓄積をBRシグナル活性化の指標として用い、ライブセルイメージングによる観察を行なった。その結果、BZR1の核内蓄積は、分裂期には減少しているが、分裂後から徐々に増加し、G1期にピークとなることが判った。よって、BRシグナル伝達は細胞周期を通して変動し、有糸分裂期には減少し、G1期に増加すると考えられる。BZR1/BES1は、BRシグナル伝達の負の制御因子であるシロイヌナズナSHAGGY関連タンパク質キナーゼ(ATSK)ファミリー(ATSK21/BIN2、ATSK11、ATSK32)によって核内でリン酸化され、不活性化して細胞質へ移動することが知られている。蛍光標識したATSK32とBZR1を用いた解析から、有糸分裂前期にBZR1が核外に排出されてATSK32が核内に侵入し、分裂後期にATSK32が核内から消失した後にBZR1が新しい核に入ることが判った。同様の局在パターンは、有糸分裂中の他のATSKファミリーメンバーについても観察された。これらの結果から、BZR1/BES1の核内蓄積は、ATSKが核内移行する分裂前、分裂中、分裂直後に低下し、細胞質分裂後にG1期の娘細胞核で急速に再集積して標的遺伝子の転写を促進すると考えられる。BRシグナルの活性化は、転写レベルでの負のフィードバックループによってBR生合成を阻害する。しかしながら、BR生合成遺伝子DWARF4DWF4)の発現は分裂後のG1期に増加していた。ライブセルイメージング解析から、DWF4は増殖中の根の表皮細胞でパッチ状に分布し、分裂後に下部の娘細胞で一過的に蓄積量が増加することが判った。この娘細胞間のDWF4の不均等な蓄積は、転写によって制御されており、他のBR生合成酵素(CPD、BR6OX2)においても観察された。これらの結果かから、BR生合成酵素は根の分裂組織において動的な時空間的転写制御を受けていると考えられる。そこで、細胞分裂後の上下の娘細胞のBZR1蛍光シグナルを定量したところ、上側の娘細胞の核に蛍光シグナルがより多く蓄積しており、BES1も類似した局在パターンを示すことが判った。この上下の娘細胞間でのBZR1核局在の差異は、DWF4酵素蓄積の差異に先行していた。BZR1/BES1 を35Sプロモーター制御下で発現させても、細胞分裂後の娘細胞核間での不均等分布は観察された。さらに、BZR1を安定化させるプロテアソーム阻害剤MG132で処理しても不均等分布は解消されなかった。したがって、BZR1/BES1のリン酸化状態が、娘細胞核への不均等な蓄積を引き起こす主要な機構として機能している可能性が高い。そこで、ATSKが不均等分布をしているかを調査したところ、ATSK32は、細胞分裂後の下部の娘細胞の核と細胞質の両方で上部の娘細胞よりも多く蓄積していることが判った。よって、ATSKがBZR1/BES1の不均等分布に関与しており、最終的に細胞分裂後の下部娘細胞でBR生合成酵素を優先的に発現させていると考えられる。シロイヌナズナの根の垂層分裂は対称的であり、同じ運命の細胞を生み出す。それにもかかわらず、BRシグナル伝達因子や生合成酵素の分布が不均等になることから、この分裂は生理学的に異なる細胞を生み出していると考えられる。この現象の説明として、母細胞に内在する頂端と基部の極性によって娘細胞がある種の分子成分を不均等に受け継いでいることが考えられる。この可能性を調べるために、様々な植物細胞において極性領域を明らかにすることができるBREAKING OF ASYMMETRY IN THE STOMATAL LINEAGE(BASL)タンパク質を根の分裂組織で発現させて局在を観察した。その結果、BASLはDWF4とともに下部娘細胞にほぼ独占的に集積しており、細胞極性が存在することが示された。表皮細胞が並層分裂した際にはDWF4蓄積の差は観察されなかったことから、頂端-基部間の細胞極性が娘細胞における対照的なBR活性を制御していると考えられる。これらの観察から、極性局在するタンパク質が分裂期とその直後のBRシグナル伝達を制御していることが予想される。OPS-LIKE(OPL)ファミリーは、細胞頂端部に局在する膜結合タンパク質で、主に根端分裂組織で発現しており、ATSK21/BIN2と直接相互作用することでこれらを細胞膜に拘束し、BES1/BZR1の核内蓄積を引起してBRシグナル伝達を活性化する。解析の結果、OPL2は細胞質分裂前と細胞質分裂中に母細胞で現れ始め、細胞分裂直後の娘細胞で蓄積はピークに達することが判った。OPL2は、細胞膜頂端部に極性局在しており、細胞分裂後には上部娘細胞の細胞質にも蓄積した。これは、細胞板から上部娘細胞頂端部へのタンパク質の再局在化によるものと考えられる。OPL2の蓄積増加は、BZR1の核内蓄積に先行していることから、OPL2とそのホモログは、細胞分裂後の2つの娘細胞における不均等なBRシグナル伝達と関連していることが示唆される。OPL2 を過剰発現させた系統では、DWF4の急激な減少を引き起こし、BRシグナル伝達が高まった。これは、ATSKがOPSやOPL2と直接的に相互作用することで核内蓄積量が減少し、両方の娘細胞で細胞膜に再局在化したことによると考えられる。また、OPS またはOPL2 を過剰発現させた系統ではATSK32量の全体的な減少が観察され、新たなATSK制御機構の存在が示唆される。これらの結果から、OPLタンパク質は、ATSKと相互作用して、核からの排除と分解を通じてATSK活性を負に制御し、BRシグナル伝達を増大させていると考えられる。表皮細胞と同様に、原生師部増殖領域内においてもOPS/OPL2は上部の娘細胞に多く蓄積していた。scRNA-seqデータを見ると、師部細胞においても細胞周期に関連したBR制御遺伝子の発現変動がみられた。上部娘細胞は、BZR1核内蓄積量が多く、高いBRシグナルと一致して、発現遺伝子はGO用語「細胞壁の組織化または生合成」に富んでおり、CESA6CSI1 の発現が増加していた。一方、下部娘細胞ではBRが抑制するCPDDWF4 の発現が高く、GO用語「翻訳」と「生合成過程」に富んでいた。薬剤誘導CRISPR-Cas9系でops/opl2 変異を誘導すると、原生師部増殖領域の上下娘細胞でBZR1の殆どが細胞質に局在し、核からは排除された状態となった。このことは、OPS/OPL2が原生師部分裂後の不均等なBRシグナル伝達を仲介していることを示している。また、ops/opl2 変異体では原生師部増殖領域の細胞が長くなり分裂しなくなった。一方、OPS 過剰発現系統では、細胞分裂の間隔が短縮され、対照と比較して有意に小さな細胞が分裂した。これらの結果は、OPSとOPL2を介したBRシグナルの活性化が、シロイヌナズナの根端分裂組織における細胞周期の進行を促進していることを示している。分裂後の上下の娘細胞間での不均等なBRシグナル伝達が器官の最適な生長にどのように寄与しているのかの説明として、BRシグナル伝達が不均等に回復することで、シグナル伝達と生合成を協調させ、最適な根の生長をもたらすということが考えられる。この仮説に基づいて根分裂組織の生長をシミュレーションしたところ、娘細胞間のBRシグナル伝達が不均等であるほうが根の生長が安定化することが示された。実際に、ドミナント型BES1-Dを分裂期特異的に発現させた系統は、対照に比べて根の生長と分裂組織の細胞生産が減少した。以上の結果から、シロイヌナズナ根端分裂組織でのブラシノステロイドシグナル伝達(BZR1/BES1の核内蓄積)は細胞周期を通して変動しており、G1期にピークとなること、有糸分裂後の娘細胞間のBZR1/BES1核内蓄積量は不均等であり、上部の娘細胞の蓄積量が多いことが判った。このような極性のある不均等な分裂は、ブラシノステロイドのシグナル伝達と生合成のバランスをとり、最適な根の生長を実現していると考えられる。

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