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論文)エチレン受容体ETR1のN末端が発するシグナル

2012-07-27 21:03:35 | 読んだ論文備忘録

Arabidopsis RTE1 Is Essential to Ethylene Receptor ETR1 Amino-Terminal Signaling Independent of CTR1
Qiu et al.  Plant Physiology (2012) 159:1263-1276.
doi:10.1104/pp.112.193979

シロイヌナズナにはエチレン受容体が5種類存在し、それらは原核生物の2コンポーネントヒスチジンキナーゼ(HK)タンパク質と類似した構造をしている。サブファミリー I エチレン受容体であるEthylene Response 1(ETR1)タンパク質の場合、N末端から順に、エチレンが結合する膜貫通ドメイン、GAF(cGMP-specific phosphodiesterases, adenylyl cyclases, and FhlA)ドメイン、HKドメイン、レシーバードメインから構成されている。複数のエチレン受容体が機能喪失した変異体は恒常的にエチレンに応答した状態の表現型を示し、エチレン受容体はエチレン応答の負の制御因子として機能している。Ser/Thrキナーゼ活性を有したMEKキナーゼのConstitutive Triple Response 1(CTR1)は、エチレン受容体の下流で作用する因子であり、N末端がエチレン受容体のHKドメインと物理的に相互作用をする。この相互作用はエチレンシグナルの出力にとって重要であるが、HK活性やHKドメインとは独立したETR1エチレン受容シグナルの出力も存在することが示されている。ゴルジ体/小胞体タンパク質のReversion To Ethylene Sensitivity 1(RTE1)は、エチレン非感受性優性変異体etr1-2 のサプレッサースクリーニングによって単離されたエチレン応答の負の制御因子で、ETR1のN末端側と相互作用をする。しかしながら、RTE1とETR1のN末端側のエチレンシグナル出力との関係は明らかではない。中国科学院上海生命科学研究院Wen らは、HKドメイン以降を欠いたN末端側のETR1のエチレンシグナル出力とCTR1やRTE1との関係を調査した。暗所で育成したctr1-1 変異体芽生えは恒常的なエチレン応答表現型を示し、エチレン非存在下でも胚軸や根が短く、茎頂フックが誇張される。ctr1-1 変異体においてETR1のN末端もしくは膜貫通ドメインにアミノ酸置換(C65Y)が起こりエチレン非感受性を示すetr1-1のN末端を発現させると、ctr1-1 変異の表現型が部分的に緩和されて胚軸が長くなった。これらの芽生えをエチレン処理するとETR1 N末端を発現させた個体では胚軸伸長が抑制されるが、etr1-1 N末端を発現させた個体では胚軸伸長阻害が起こらなかった。etr1-1 ctr1-1 二重変異体芽生えはctr1-1 変異体と類似した表現型を示すが、エチレンの有無に関係なく胚軸が僅かにctr1-1 変異体よりも長くなり、成熟個体ではctr1-1 変異による成長障害が僅かに緩和された。明所で育成した芽生えでは、etr1-1 N末端を発現させた個体はETR1 N末端を発現させた個体よりもctr1-1 変異による成長障害を強く抑制した。よって、CTR1の欠損による恒常的なエチレン応答性は、ETR1 N末端からのシグナルによって抑制されることが示唆される。また、etr1-1 N末端のシグナルは、CTR1とは独立していることに加えて、エチレンの影響も受けない。Ethylene Response Factor 1ERF1 )はエチレン処理によって発現が誘導され、その発現量はエチレン応答性を示す指標となるが、ctr1-1 変異体でetr1-1 N末端やETR1 N末端を発現させると、ERF1 発現量はctr1-1 変異体での発現量よりも低くなった。よって、ETR1のN末端から発せられるシグナルはCTR1とは独立したものであることが示唆される。ctr1-1 変異はSer/Thrキナーゼ活性が低下したことによって生じたものであり、ctr1-1タンパク質は発現している。キナーゼドメインを欠いたCTR1をコードしているctr1-2 変異体でETR1 N末端やetr1-1 N末端を発現させた場合も、ctr1-2 変異による成長障害や恒常的エチレン応答が部分的に抑制された。以上の結果から、ETR1 N末端からのシグナルはCTR1とは独立してエチレン応答を抑制し、エチレンはETR1 N末端のシグナルを妨げることが示唆される。ctr1-1 変異体にETR1 遺伝子にナンセンス変異(W74stop)が入ったetr1-7 変異を導入した黄化芽生えはctr1-1 変異体よりも強い恒常的エチレン応答表現型を示し、成長障害を越すが、ETR N末端もしくはetr1-1 N末端をetr1-7 ctr1-1 二重変異体やetr1-7 ctr1-2 変異体で発現させた黄化芽生えは成長障害が抑制された。また、ETR1 N末端を発現させたetr1-7 ctr1-1 二重変異体やetr1-7 ctr1-2 変異体黄化芽生えをエチレン処理すると胚軸伸長が阻害されるが、etr1-1 N末端を発現させた黄化芽生えでは阻害は起こらなかった。etr1-7 ctr1-1 二重変異体やetr1-7 ctr1-2 変異体の明所育成芽生えや成熟個体での成長障害もETR N末端もしくはetr1-1 N末端を発現させることによって抑制された。ETR N末端もしくはetr1-1 N末端の発現によるctr1 変異体の表現型抑制に対して野生型ETR1の欠損の及ぼす効果は僅かであり、ETR1 N末端を発現させたctr1-1 変異体やctr1-2 変異体はETR1 N末端を発現させたctr1 etr1-7 変異体よりも僅かに大きくなった。よって、ctr1-1 変異体やctr1-2 変異体での恒常的エチレン応答性のETR1 N末端による抑制は野生型ETR1がなくても起こる。RTE1 の過剰発現はエチレン非感受性となる。etr1-7 変異体でRTE1 を過剰発現させた場合はエチレン非感受性とならないが、ETR1 N末端を発現させることでエチレン非感受性が回復する。RTE1 を過剰発現させたctr1-1 変異体黄化芽生えは恒常的エチレン応答性の低減を起こさなかったが、同時にETR1 N末端を発現させることで低減が起こった。このctr1-1 変異体でのRTE1 過剰発現によるETR1 N末端シグナルの促進効果は、明所育成芽生えや成熟個体においても観察された。また、ETR1 N末端によるctr1-1 変異体の表現型抑制効果はrte1-2 変異が導入されることで打ち消された。よって、CTR1と独立したETR1 N末端からのシグナルによる恒常的エチレン応答の抑制にはRTE1が必須であり、RTE1はETR1シグナルを促進していることが示唆される。キナーゼドメインを欠いたCTR1 N末端はエチレン受容体と相互作用をするが、過剰発現させるとエチレンシグナル伝達が妨げられることによって恒常的エチレン応答性を示す。CTR1 N末端過剰発現個体でETR1 N末端を発現させると恒常的エチレン応答の表現型が抑制されることから、ETR1 N末端からのシグナル出力は完全長エチレン受容体を介して発せられるのではなく、完全長エチレン受容体はETR1 N末端と協働してCTR1とは独立したシグナルを発していると考えられる。

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