Control of Arabidopsis apical-basal embryo polarity by antagonistic transcription factors
Smith & Long Nature (2010) 464:423-426.
doi:10.1038/nature08843
植物では胚形成の際に極性をもつ軸が形成され、シュートおよび根の幹細胞集団の確立がそれぞれ軸の頂端部と基部の端で起こる。IAA12/BODENLOS(IAA12/BDL)と相互作用を示す転写コリプレッサー TOPLESS (TPL )の温度感受性ドミナントネガティブシロイヌナズナ変異体tpl-1 は、胚を29℃で育成すると軸の頂端側の細胞も根に分化し、両端が根となる。米国 ソーク研究所のLong らは、tpl-1 変異体では基部/根を決定する調節因子のPLETHORA (PLT1 、PLT2 )が頂端側でも発現していることを見出した。tpl-1plt1-5plt2-1 三重変異体では頂端部の根形成が見られないことから、PLT の異所的発現が頂端部での根形成をもたらしていると考えられる。また、クロマチン免疫沈降(ChlP)により、TPLはPLT1 および PLT2 遺伝子のプロモーター領域に結合してPLT の発現を直接抑制していることが判った。次に、tpl-1 変異体の軸の両端での根形成を抑制する変異体を選抜し、クラスIIIホメオドメインロイシンジッパー(HD-ZIPIII)型転写因子PHABULOSA (PHB )遺伝子のマイクロRNA MIR165/166 ファミリー結合部位にミスセンス変異のある変異体phb-14d を見出した。HD-ZIPIII 遺伝子はシロイヌナズナに5つ(PHB 、PHAVOLUTA (PHV )、REVOLUTA (REV )、INCURVATA4 (INC4 もしくはCORONA (CNA ))、ARABIDOPSIS THALIANA HOMEOBOX-8 (ATHB-8 ))存在し、いずれの遺伝子もMIR165/166 による制御を受け、側生器官や維管束走行の向/背軸側の決定に関与していると考えられている。PHB 以外のHD-ZIPIII 遺伝子においてもMIR結合部位に変異が生じた機能獲得変異体はtpl-1 変異による頂端部での根形成を抑制することから、HD-ZIPIII 遺伝子は軸の頂端部の細胞の分化の方向を調節する転写因子として機能していると考えられる。tpl-1 変異体ではPHB 、PHV 、REV 、ICU4 の発現が心臓型胚の頂端部で消失してしまうが、MIR165/166 は正常に発現していることから、tpl-1 変異体頂端部におけるHD-ZIPIII 発現の喪失はMIR165/166 とは別の転写制御によってなされている。tpl-1plt1-5plt2-1 三重変異体では頂端部でのPHB 、REV の発現が維持されていることから、PLT1/2 はHD-ZIPIII の発現の負の制御因子として機能している。また、tpl-1 変異の機能しない温度(24℃)ではtpl-1rev-9 変異体でのPLT1/2 の発現パターンがtpl-1 変異体を29℃で育成した時と類似していることから、HD-ZIPIII はPLT1/2 の発現を制御していると考えられる。以上の結果から、根およびシュートという極の決定においてPLT とHD-ZIPIII は拮抗的関係にあることが示唆される。
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