Laboratory ARA MASA のLab Note

植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
ホームページの更新情報

論文)トマトの複葉形成と分枝を制御するMYB転写因子

2013-03-15 20:25:19 | 読んだ論文備忘録

Trifoliate encodes an MYB transcription factor that modulates leaf and shoot architecture in tomato
Ahmad Naz et al.  PNAS (2013) 110:2401-2406.
doi:10.1073/pnas.1214300110

トマトの葉は、末端の小葉と3、4対の横向きの小葉で構成されており、求基的に発達する。小葉は通常、浅裂もしくは鋸歯があり、これらの切れ込みは小葉原基から求頂的に発達する。しかしながら、幼植物体の複葉の構造は成熟個体よりも単純であり、異型葉性(heteroblasty)を示す。トマトtrifoliatetf )変異体の葉は、葉身が細長く、末端と1対の側面からの3枚の小葉で構成され、葉柄が長く、切れ込みが少ない。また、tf 変異体は腋芽形成が抑制され、多くの葉腋で分枝が見られない。しかしながら、花序の下の2つの葉腋では腋芽形成が起こることから、仮軸成長の性質は維持されている。ドイツ マックス・プランク植物育種学研究所Theres らは、tf 変異体での葉の形成過程を詳細に観察し、tf 変異体の側面の小葉が形成される葉軸分裂組織は野生型よりも細く、細胞数が少なく、細胞間隙が広いことを見出した。このことから、tf 変異体の葉軸の分裂組織は細胞分裂が低下しているが細胞分化は速いことが示唆される。走査型電子顕微鏡で観察すると、tf 変異体の末端小葉の表皮細胞は野生型よりも大きく、若い葉原基でのトライコームの発達が早く、密度も高いことがわかった。これらの観察結果から、tf 変異体の葉原基は成長が速く、早い段階で分化が起こっていると考えられる。tf 変異体の表現型はR2R3 MYB転写因子の機能喪失によるもので、Tfタンパク質はシロイヌナズナLATERAL ORGAN FUSION1(LOF1)およびLOF2と高い類似性を示す。LOF1、LOF2は側生器官の分離や副芽形成に関与している。Tf mRNAは栄養成長期の茎頂、茎、花で検出され、若い葉では非常に量が少なく、根では検出されない。Tf 転写産物は栄養成長期の茎頂分裂組織に広く分布し、特に新しく葉原基が形成される部位での発現が高い。若い葉原基では、Tf の発現は向軸側に限定されており、成熟した葉原基では葉軸分裂組織、小葉、小葉と葉軸の境界領域で発現が見られる。Tf を35Sプロモーターで恒常的発現させた形質転換トマトの葉は、浅裂や鋸歯が深くなり、小葉の数が増加した。また、一次小葉の数に変化は見られなかったが、二次、三次小葉数は野生型よりも多くなった。さらに、古い葉の葉腋部から腋芽が形成されたが、仮軸分枝に変化は見られなかった。トマトの複葉は幼植物体から成熟個体になるにつれて小葉数は増加していく。幼苗の最初の本葉は3枚の小葉で構成されているが、これは成熟したtf 変異体の複葉と類似している。幼植物体から成熟個体へ移行するにつれて、葉原基で発現するTf 量が増加しており、これは小葉数の増加と一致していた。トマトの葉の構築は、KNOTTED1-LIKEKNOX1 )遺伝子の発現に依存しており、葉の発達過程においてKNOX1LeT6 /TKn2 )の発現パターンや発現量に異常が見られることで切れ込みの多い葉を形成するclau 変異、bip 変異、Me 変異にtf 変異が加わると、tf 変異体と同様の3枚の小葉からなる葉となった。したがって、tf 変異はclaubipMe の各変異よりも上位に位置している。しかしながら、個々の小葉の切れ込みはclaubipMe の各変異体のように増加していた。したがって、claubipMe の各変異によるKNOX1 遺伝子の発現異常はtf 変異体の葉の基部での小葉形成に対しては十分な効果を示さないが、末端部の葉の構造変化を引き起こしていることが示唆される。野生型トマトとtf 変異体でKNOX1 遺伝子の発現量は同等であり、TfKNOX1 の発現制御はしていないことが示唆される。オーキシンは、葉原基、維管束、鋸歯の位置決定において重要であり、トマト葉原基をオーキシン処理すると異所的な小葉形成や葉身成長が起こる。tf 変異体の葉原基を部分的もしくは全体的にIAA処理をして形態を観察したところ、どちらの処理も異所的な小葉形成は起こさずに、小葉基部の葉身が拡大成長して1つの葉になってしまった。さらに、AUX/IAA因子がノックアウトされたことによって葉身が拡大成長するe 変異にtf 変異を導入した二重変異体は、tf 変異体の葉と同様の形態を示し、葉縁鋸歯のない3枚の小葉の葉となった。よって、e 変異体で観察される葉身の拡張にはTf 活性が必要であることが示唆される。以上の結果から、Tf は複葉形成とシュート分枝の両方を制御していることが示唆される。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 論文)小さなORFにも意味がある | トップ | 論文)トレハロース-6-リン酸... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読んだ論文備忘録」カテゴリの最新記事