Arabidopsis NAC transcription factor JUB1 regulates GA/BR metabolism and signalling
Shahnejat-Bushehri et al. Nature Plants (2016) 2:16013.
DOI: 10.1038/NPLANTS.2016.13
JUNGBRUNNEN1(JUB1)は過酸化水素処理によって発現誘導されるNAC型転写因子で、JUB1 を過剰発現させたシロイヌナズナ(JUB1-OX )は葉の老化が遅延し、様々な非生物ストレスに対して耐性を示す。ドイツ マックスプランク植物分子生理学研究所のBalazadeh らは、JUB1-OX やJUB1 が機能喪失したjub1-1 変異体、人工miRNAで発現抑制されたJUB1-amiRNA の表現型を詳細に観察し、暗所で育成したJUB1-OX 芽生えは脱黄化した短い胚軸となり、jub1-1 変異体やJUB1-amiRNA は胚軸が野生型よりも長くなることを見出した。明所で育成したJUB1-OX は、芽生えは小型で葉色が濃く、ロゼット葉は小型の円形で、下向きに湾曲し、葉柄と葉身が短くなっていた。JUN1-OX の葉の細胞数は野生型と同等であったが、細胞が野生型よりも小さく、細胞拡張に関連する遺伝子の発現量が減少していた。よって、JUB1-OX の葉の小型化は細胞拡張の低下によるものと考えられる。JUB1-OX は花成が遅延し、花糸が短いために雄性不稔を示した。これらのJUB1-OX の表現型はジベレリン(GA)やブラシノステロイド(BR)の欠損変異体と類似していることから、JUB1はGAおよびBRの生合成もしくはシグナル伝達の制御に関与していることが示唆される。JUB1-OX ではGA生合成関連遺伝子(GA3ox1 、GA3ox2 )やBR生合成関連遺伝子(DWF4 、BR6ox1 )の 発現量が野生型よりも低く、JUB1-amiRNA では増加していた。また、PIF1 やBRS1 、TCH4 、BEE1 、BZR1 といったGAもしくはBRのシグナル伝達を正に制御する因子をコードする遺伝子の発現がJUB1-OX では抑制されており、JUB1-amiRNA では誘導されていた。また、GAI 、RGL1 およびIBH1 といったGAおよびBRのシグナル伝達を負に制御している因子の遺伝子の発現は逆のパターンを示した。これらの遺伝子のうち、GA3ox1 、DWE4 、GAI 、RGL1 、PIF4 、BZR1 はプロモーター領域にJUB1結合部位があり、クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイの結果、JUB1はBZR1 以外の遺伝子のプロモーター領域に結合することが確認された。エストラジオール(EST)誘導型JUB1 過剰発現系統を用いた試験から、GA3ox1 、DWF4 、PIF4 の発現はEST処理後に抑制され、RGL1 、GAI の発現は誘導されることが確認された。これらの結果から、JUB1は、少なくとも一部は、GAおよびBR経路に関与する遺伝子を直接制御することによって成長の制限をしていると考えられる。GA生合成阻害剤パクロブトラゾール(PAC)もしくはBR生合成阻害剤ブラシナゾール(BRZ)で処理をした野生型およびjub1-1 変異体芽生えは胚軸の伸長が抑制されたが、JUB1-OX はこれらの阻害剤に対して非感受性であった。暗所育成JUB1-OX 芽生えにBRもしくはGAを与えると胚軸伸長が部分的に回復し、両者を同時に与えると完全に胚軸の表現型が回復した。GA処理をしたJUB1-OX は、葉の表現型が回復し、花成誘導も早くなった。JUB1-OX にGA3ox1の基質(GA9)を与えてもGA欠損に関連した表現型は抑制されなかったが、jub1-1 変異体はGA9に対する感受性が高くなっていた。BZR1の安定性や活性が増加したbzr1-1D 機能獲得変異をJUB1-OX に導入すると、芽生えの胚軸伸長抑制や、花糸や長角果の長さに回復が見られた。よって、JUB1はBR生合成およびもしくはBZR1より上流のBRシグナル伝達に関与していることが示唆される。JUB1-OX は活性型GA量が野生型よりも少なく、jub1-1 変異体では多くなっていた。活性型GAの前駆体物質は、JUB1-OX では野生型と同等もしくは増加しており、jub1-1 変異体では減少していた。活性型BRおよびその中間代謝産物の量はJUB1-OX で減少しており、jub1-1 変異体では増加していた。JUB1-OX の芽生えや葉の形態、花成時期といった表現型は、DWF4 もしくはGA3ox1 を過剰発現させることによって部分的に回復し、JUB1 、DWF4 、GA3ox1 の三者を過剰発現させた個体(Triple-OX )は表現型が完全に回復した。そして、細胞が伸長し、細胞拡張に関与する遺伝子の発現量が増加した。これらの結果から、JUB1-OX で観察された表現型はGAおよびBRの生合成経路の異常によると考えられる。以前にJUB1-OX において観察された老化遅延や非生物ストレス耐性はTriple-OX では見られなくなったことから、これらの表現型もGA量とBR量の減少が関与していると考えられ、JUB1は成長とストレス応答のバランスを制御していることが示唆される。JUB1-OX ではDELLAタンパク質のRGAとGAIの量が野生型、jub1-1 変異体、Triple-OX よりも多く、JUB1-OX のGAが関連する表現型(桜花芽生え胚軸が短い、葉柄と葉身が短い、塩分や高温に対する耐性)は五重della 変異を導入することで失われた。これらの結果は、、DELLAは成長やストレス応答に関してJUB1の下流で作用しており、JUB1とGA3ox1はDELLAタンパク質の蓄積に関しての一貫したフィードフォワードループを形成していることを示している。JUB1 の発現を制御している転写因子を酵母one-hybrid(Y1H)スクリーニングにより探索したところ、PIF4とBZR1がJUB1 プロモーター領域と相互作用をすることが判った。JUB1 プロモーター領域にはPIF4やBZR1が結合するG-boxモチーフ(CACGTG)が1つ存在しており、ChIPアッセイからもこの領域に両転写因子が結合することが確認された。BZR1 過剰発現個体、bzr1-1D 変異体、PIF4 過剰発現個体ではJUB1 の発現量が減少しており、pif4 変異体では増加していた。ベンサミアナタバコを用いた一過的発現試験から、BZR1とPIF4はJUB1 プロモーター活性を抑制し、BZR1とPIF4を共発現させると活性はさらに低下した。GA3ox1 やDWF4 の発現量はBZR1 やPIF4 の過剰発現系統で増加し、pif4 変異体で減少していた。これらの結果から、PIF4とBZR1はJUB1 の発現を直接抑制していると考えられる。BZR1 やPIF4 を過剰発現させた芽生えの胚軸伸長促進はJUB1 を同時に過剰発現させることによって抑制されることから、PIF4やBZR1による細胞伸長促進はJUB1 の発現を抑制することによって引き起こされていると考えられる。以上の結果から、JUB1はジベレリンおよびプラシノステロイドの生合成とシグナル伝達を制御することで、植物の成長と非生物ストレス応答を統合する中心的な成長制御ネットワークを負に制御していると考えられる。
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