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論文)熱ショックタンパク質による暗形態形成と熱形態形成での胚軸伸長の制御

2023-08-20 10:56:48 | 読んだ論文備忘録

HSP90s are required for hypocotyl elongation during skotomorphogenesis and thermomorphogenesis via the COP1–ELF3–PIF4 pathway in Arabidopsis
Zeng et al.  New Phytologist  (2023) 239:1253-1265.

doi: 10.1111/nph.18776

熱ショックタンパク質のHSP90は、原核生物および真核生物において高度に保存された存在量の多いタンパク質で、主要なシグナル伝達タンパク質の集積、成熟、安定化、活性化に関与しており、さらにストレス下での細胞の生存を助けている。また、シロイヌナズナにおいてHSP90 の機能喪失は様々な形態異常をもたらすことが報告されている。そこで、中国 復旦大学のLi らは、シロイヌナズナ芽生えの暗形態形成および熱形態形成による胚軸伸長におけるHSP90の関与について調査した。暗所で育成した芽生えをHSP90の阻害剤であるゲルダナマイシン(GDA)もしくはラジシコール(RAD)で処理すると、処理濃度に応じて胚軸伸長が抑制された。また、HSP90 RNAi系統も暗所での胚軸伸長が抑制されていた。22℃の短日日長で育成した芽生えをGDA処理し、29℃で育成したところ、熱形態形成による胚軸伸長が抑制された。HSP90 RNAi系統も29℃での胚軸伸長が阻害された。これらの結果から、HSP90は暗形態形成および熱形態形成の胚軸伸長に関与していることが示唆される。暗形態形成や熱形態形成による胚軸伸長は、PHYTOCHROME-INTERACTING FACTOR(PIF)によって正に制御されている。暗所で育成した各種PIF 変異体をGDA処理したところ、pif4pif5 変異体と pifQpif1pif3pif4pif5)変異体ではGDA処理による胚軸伸長阻害が見られなかった。GDA処理をした暗所育成芽生えおよび暗所で育成したHSP90 RNAi系統では、PIF4PIF5 の発現量、PIF4、PIF5タンパク質量が対照よりも減少していた。また、pif4pif5 変異体では29℃処理による胚軸伸長促進のGDA処理による阻害が見られなかった。これらの結果から、HSP90はPIF4PIF5 の発現を正に制御することで暗形態形成と熱形態形成による胚軸伸長を調節していることが示唆される。PIF4PIF5 の発現は、概日時計因子であるEARLY FLOWERING 3(ELF3)よって抑制されているので、elf3 変異体でのHSP90阻害剤の効果を調査した。その結果、elf3 変異体では、暗所育成芽生えの胚軸伸長、PIF4PIF5 発現量、PIF4タンパク質量に対するGDAの効果が見られなかった。同様に、29℃で育成した芽生えに対するGDAの効果も見られなかった。これらの結果から、HSP90による暗形態形成と熱形態形成による胚軸伸長はELF3-PIF4に依存していることが示唆される。暗所育成芽生えのELF3含量はGDA処理濃度に応じて増加しており、暗所もしくは29℃で育成したHSP90 RNAi系統のELF3含量は対照よりも増加していた。これらの結果から、HSP90は暗形態形成と熱形態形成の際にELF3タンパク質の分解を促進していることが示唆される。解析の結果、ELF3はHSP90と直接に相互作用をすることが確認された。ELF3の安定性は、E3リガーゼのCONSTITUTIVE PHOTOMORPHOGENIC 1(COP1)によって調節されており、COP1は暗形態形成と熱形態形成に関与している。そこで、cop1 変異体でのGDAの効果を解析したところ、胚軸伸長、PIF4、PIF5 発現量、PIF4タンパク質量、29℃条件でのELF3タンパク質量に対するGDAの効果は、cop1 変異体では完全に消失していることが判った。このことから、暗形態形成と熱形態形成における胚軸伸長に対するELF3-PIF4を介したHSP90の効果は、COP1の機能に依存していることが示唆される。GDA処理は、COP1 発現量やCOP1タンパク質の量や細胞内局在に変化をもたらさないことから、HSP90はこれらのことに影響してはいないと考えられる。ベンサミアナタバコを用いた解析等から、HSP90はCOP1とELF3との相互作用を促進することが確認された。また、無細胞実験系の解析から、ELF3は22℃よりも29℃の方が早く分解されること、この分解はGDAや26Sプロテアソーム分解系の阻害剤であるMG132によって抑制されることが判った。これらの結果から、HSP90はCOP1とELF3の結合を増強して26Sプロテアソーム系でのELF3の分解を促進することが示唆される。以上の結果から、HSP90は、暗形態形成や熱形態形成において、COP1とELF3の結合を増強してELF3の分解を促進することでPIF4 の転写を活性化し、胚軸伸長を促進していると考えられる。

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