EIN2-Directed Translational Regulation of Ethylene Signaling in Arabidopsis
Li et al. Cell (2015) 163:670-683.
DOI: 10.1016/j.cell.2015.09.037
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Ethylene Prunes Translation
Mohammad Salehin, Mark Estelle Cell (2015) 163:543-544.
DOI: 10.1016/j.cell.2015.10.032
エチレンシグナル伝達において、ETHYLENE INSENSITIVE 2(EIN2)は重要な因子となっている。EIN2は小胞体膜に局在しており、エチレン非存在下ではSer/ThrキナーゼのCONSTITUTIVE TRIPLE RESPONSE 1(CTR1)によってC末端部分(CEND)がリン酸化されている。エチレンが受容体に受容されてCTR1が不活性化してCENDがリン酸化されなくなると、CENDは小胞体膜に係留されているN末端から未知のプロテアーゼによって切断されてエチレンシグナルを活性化させる。EIN2の下流に位置する因子としては、ETHYLENE INSENSITIVE 3(EIN3)とそのホモログのEIN3-LIKE 1(EIL1)の2つの転写因子が遺伝子発現制御において重要な役割を演じている。また、EIN2はEIN3/EIL1をターゲットとしているF-boxタンパク質のEIN3-BINDING F-BOX 1(EBF1)、EBF2の機能を抑制していることが知られている。しかしながら、エチレンもしくはEIN2がどのようにしてEBF1/2 の機能を抑制しているかは明らかとなっていない。エチレン応答を正に制御している細胞質5'-3'エキソリボヌクレアーゼをコードしているETHYLENE INSENSITIVE 5 (EIN5 )の機能喪失変異体は、EBF1/2 mRNAの3'非翻訳領域(UTR)断片が過剰蓄積することから、中国 北京大学のGuo らは、EBF1 3'UTR領域(1U )を過剰発現させた形質転換シロイヌナズナを作出してエチレン応答性を観察した。その結果、この形質転換体の黄化芽生えはエチレンに対する応答性が低下し、EIN3タンパク質量が野生型よりも少ないことを見出した。この1U 過剰発現個体のエチレン低感受性はEBF1 もしくはEBF2 の欠失によって部分的に回復した。したがって、1U の過剰発現によるエチレン応答性の低下にはEBF1/2 が関与しており、1U はEBF1/2 の機能を制御していることが推測される。1U 過剰発現個体のEBF1 、EBF2 転写産物量に変化は見られないので、EBF1/2 の転写やmRNA分解に変化はないと思われる。エチレン処理はポリソームを形成したEBF1/2 mRNAを減少させ、EBF1 、EBF2 mRNAの翻訳を抑制させたが、1U の過剰発現はポリソーム形成したEBF1/2 mRNAの減少を回復させ、エチレンによって抑制されていたEBF1/2 の翻訳を増大させた。GFP-EBF1 に1U を付加したコンストラクト(G1F )と付加していないコンストラクト(G1C )を導入した形質転換体のGFP-EBF1 mRNA量に差は見られないが、G1F 導入個体ではエチレン処理によってGFP-EBF1タンパク質量が減少し、1U の過剰発現によって増加した。しかしながら、G1C 導入個体ではそのような変化見られなかった。このことから、1U 転写産物の蓄積は翻訳が高まることでEBF1/2 の機能が高まっていると考えられる。また、GFP に1U を付加したコンストラクト(G1U )を導入した形質転換体はエチレン処理をすることでGFP蛍光が減少し、この減少はエチレン阻害剤の銀イオンを添加することで回復した。したがって、EBF1 3'UTR領域を付加したmRNAはエチレンによって翻訳が抑制されることが示唆される。1U の過剰発現で観察されたエチレン感受性の低下はEBF2 3'UTR領域(2U )を過剰発現させることによっても引き起こされた。エチレン処理によるG1U mRNAの翻訳抑制は、野生型、ein3 eil1 二重変異体において観察されたが、ein2 変異体、etr1 変異体では起こらなかった。したがって、 3'UTR領域による翻訳抑制はエチレン受容体やEIN2が関与しているが、EIN3/EIL1は関与していないことが示唆される。ein2 変異体ではEBF1/2 mRNAポリソームプロファイルのエチレン処理による変化が起こらず、EBF1 の翻訳抑制も見られなかった。完全長EBF1 を発現させた形質転換体の部分的なエチレン非感受性表現型はEIN2 を過剰発現させることで抑制されたが、EBF1 コード領域を発現させた形質転換体のエチレン非感受性は変化が見られなかった。したがって、3'UTR領域は、EBF1 の翻訳を抑制する重要なエチレン応答エレメントであり、この抑制にはEIN2が必要であることが示唆される。1U を98 ntから150 ntの5つの断片に分けてEIN2による翻訳抑制を調査したところ、3つの断片に抑制活性があり、これらの断片には7つのポリUからなるモチーフ(EPU と命名)が含まれていた。そして、7つのEPU を除去したEBF1 を発現させたebf1 変異体は、EIN2による翻訳抑制を受けなくなり、EIN3タンパク質量が減少した。EBF2 3'UTR領域にも5つのEPU があり、これらモチーフもEIN2による翻訳抑制に関与していることが確認された。EBF 3'UTR領域のポリUモチーフは他植物においても見出され、よく保存されたエチレンシグナル伝達制御機構であることが示唆される。したがって、EPU を介したEIN2による翻訳抑制はEBF1タンパク質量を制御し、エチレンシグナル伝達を制御する重要な過程であると考えられる。EIN2による翻訳抑制はC末端部分(654-1272、CEDN)が関与しており、EIN2のCENDに含まれる核局在シグナル(1262-1269、NLS)を欠損もしくは変異させると翻訳抑制活性が失われた。しかしながら、CENDの従来のNLSを異なる配列のNSLに置換してCENDを核に局在させても翻訳抑制活性は復活しなかった。したがって、EIN2 CENDのNLSモチーフは核局在シグナルとは別に翻訳抑制に関与していることが示唆される。1U を含むmRNAは、エチレン非存在下では細胞質と核の両方に局在しているが、エチレン存在下ではEIN2と相互作用を示して細胞質に局在し、この局在にEIN2のNLS配列が関与していることがわかった。1U を含むmRNAとEIN2は、エチレン存在下でEIN5と共に細胞質のPボディに局在していた。また、EIN5およびその他のPボディに含まれる因子のPAB2、PAB4、PAB8は、EIN2 CENDと相互作用をすることが確認された。さらに、Pボディ因子の機能喪失変異体はエチレン感受性が低下していた。以上の結果から、エチレンによって活性化されたEIN2 CENDはEBF1/2 mRNAの3'UTR領域と相互作用をしてPボディ因子とともにPボディを形成してEBF1/2 の翻訳を抑制、その結果EIN3/EIL1の蓄積とエチレン応答が起こると考えられる。
この論文とほぼ同じ内容の論文がCell誌の次のページに掲載された。
Gene-Specific Translation Regulation Mediated by the Hormone-Signaling Molecule EIN2
Merchante et al. Cell (2015) 163:684-697.
DOI: 10.1016/j.cell.2015.09.036
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