DIARY yuutu

yuuutunna toki no nikki

北原白秋(1885-1942)「毛虫」『思ひ出』所収(1911年)

2017-04-29 20:02:58 | 日記
 毛虫

毛虫、毛虫、青い毛虫
そなたは何処(ドコ)へ匍(ハ)うてゆく。
夏の日くれの磨硝子(スリガラス)
薄く曇れる冷たさに
幽かに幽かにその腹部(ハラ)の透いて伝はる美しさ。
外の光のさみしいか、
内の小笛のこひしいか。
毛虫、毛虫、青い毛虫、
そなたはひとり何処へゆく。

《感想》
「青」色は、透き通り、また超現実的。
「匍(ハ)う」毛虫は、意図なく進み、実利世界に反する。
「夏の日くれ」は衰滅の時。
「磨硝子(スリガラス)」は明瞭さの対極で、曖昧さの暗喩。
人の血が温かいのに対し、「冷たさ」は死体に等しい。
明瞭な日常の現実に対し、不明瞭で「幽か」な現実。
手の届かぬ向こう側に毛虫は這うが、その「透いて」見える腹部(ハラ)は「美し」い。
非現実世界の「美」のようである。
毛虫は硝子戸の外側を這うが、日暮れの外の光は「さみしい」のか?
あるいは毛虫は硝子戸の内側の歓楽(「小笛」)に惹かれるのか?
毛虫は、「ひとり」、匍(ハ)ってゆく。
そして毛虫は、意図なく、非実利的に「匍(ハ)」い続ける。
詩人は、超現実、非実利、衰滅、曖昧、死体、不明瞭・幽かさ、美、非現実、さみしさ、歓楽、ひとり――これらのものを、愛する。

 A CATERPILLAR

A caterpillar, a caterpillar, a blue caterpillar, where do you crawl?
Through the ground glass of a window, that is cold and slightly gray, the cataerpillar's abdomen can be transparently seen to a too much feeble extent and is very beautiful.
Do you feel sad seeing a light from outside?
Instead, do you want to hear a small whistle blowing from inside?
A caterpillar, a caterpillar, a blue caterpillar, where do you crawl alone?
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「生きる」こと・ものが、「ここ」につながれて、選びようなく、すでに現に居る 

2017-04-29 00:27:39 | 日記
残念なことに、すでに生まれてしまった。
「ここ」にいる。
誰がいるのだ?

この、「ここ」にある身体。
それは、邪魔者。
いつも「ここ」にいる。
なぜ今なのだ。
この今。
いつも今しかない。
過去は、記憶の中にしかない。

傲慢な物の世界。
物は永遠の顔をしている。

欲望が漂う。
ところが欲望は、時に身体の奴隷であり、時に主人である。
欲望は、身体と不可避的に連関する。
かくて欲望は、「ここ」(身体)とつながる。

欲望は、意図を作り出す。

感情も「漂う」。
感情も、もちろん、「ここ」(身体)とつながる。

感覚も「漂う」。
感覚は、「漂い」つつ、物を出現させる。
感覚は、一方で、物に受動的に触発されつつ、他方で、能動的に注視つつ、物を形象(意味)にする。
感覚は、「ここ」(身体)と、不可避的に連関する(つながる)。

「ここ」に、誰がいるのか?
感覚(触発・注視にもとづく物形象の出現)・欲望・意図・感情が、一つながりのものとして、一方で「ここ」(身体)と連関する限りで「ここ」に、他方で同時に、物(身体も含む)と別に、「漂う」。

感覚・欲望・意図・感情複合体が、一方で「ここ」につながれ、しかし他方で同時に、「ここ」とは別に「漂い」つつ、現に、居る。
ともかく居る。
この居るものが、「生きる」こと・ものである。

「生きる」こと・ものが、すでに勝手に、生きている。
「生きる」こと・ものが、起きている。
すでに生まれてしまっている。

「生きる」こと・ものが、「ここ」につながれて、選びようなく、すでに現に居る。
「漂う」、感覚・欲望・意図・感情複合体が、現に、居る。
ともかく居る。
この居るものが、「生きる」こと・ものである。
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