想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

三年前の夏の日の、きみ

2015-07-31 01:07:06 | Weblog

とっくにおっかあの年を追い越したきみは、
そうやって寝そべったまま、柔らかな波動で
話しかけてきてたね。



花屋の師匠の可愛がっていた猫も亡くなって
花を買いにいくと、お宅のボウズさあ、
あれ、よかったよねえ、もう飼わないよなあ
と言う。もう何度も同じことを聞いた。
それは、師匠がもうオレは飼わねえよ、だって
まだあいつがいるみたいなんだよ、家のなかに。
という意味だから。
なんどでも同じ話を聞く。

長年、店先でお宅のボウズ、げんきかいと声を
かけてくれて、それが挨拶代わりだった。
うん、うちにいるよ、うん、げんきだよ、うん、
と答えて、いい犬だよね、オレに挨拶するよ、
散歩んときさ、オレんとこへシッポ振ってさ、
と、同じ話を何度も何度も交わした。

そばで忙しく立ち働いている店員の青年が
しょうもない話してるよという顔でいつも
笑っていた。

青年は花束やブーケや盛り花をすばやく作る腕を
上げ、師匠がいない日には代わりをするように
なった。今ではわたしの好きな花を知っている。

犬の話、猫の話だと他の人にはたぶんわからない
あいつはさあ、あいつがねえ、というやりとりを
そばでずっと聞いてきた彼は、今は師匠の背後で
静かにやさしい顔をして頷くだけになった。

花を買いに行く。
そして、互いの話をする。
愛するものの記憶と気配を呼び出して
いっとき、幸福な時間を過ごす。
花屋の屋号は知っているが、師匠の名は聞いた
ことがない。
この先もずっと師匠と呼ばせてもらうので
別に困らない。
長生きしてほしいと密かに願っている。















コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 生きたいという意欲 | トップ | 強い個人になる »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。