想風亭日記new

森暮らし25年、木々の精霊と野鳥の声に命をつないでもらう日々。黒ラブは永遠のわがアイドル。

ジャングル

2008-08-02 01:36:25 | Weblog
   緑のトンネルを初めて目にしたとき、
   うへぇーと言う者と、おおっと喜びの声をあげる者とに
   分かれた。
   森に侵食された道は岩石と雑草に埋まり、両脇から
   おおいかぶさるように伸びた木の枝が交差するその隙間から
   ところどころ陽が射し込んでいて、かろうじてそのあたりが道
   であろうことがわかった。
   地図を頼りに車で進入して行った先にあったのは、ジャングルの
   緑のトンネル。修復した道路と引き換えにもう見ることはなくなった。

   道を作ることから始めた森の生活。
   夏の葉が生い茂る景色を眺めていると、
   草いきれと湿気と蚊の襲撃のなかで我慢比べのような
   日を送っていたことを思い出す。

   道路の両端のユリは、昨年より増えた。
   まだ若いので来年、再来年と成長してしっかりとした
   百合根になるのを待っている、食い気の強いうさこである。
   美しいね、咲いたね、とか言いつつ、まだまだ食えないと
   腹の底では考えているのである。

   NHK、このところ深夜に放映されていた太平洋戦争の証言シリーズ。
   南方のジャングル地帯へ従軍し、飢えと恐怖の極限の地獄を生き延びた
   人々の言葉で当時を振り返る。

   司令部からほど遠い単なる一兵卒だった彼らは命とともに故郷へ帰った。
   その言葉は戦争を映像でしか知りようのない今のわたしたちに
   真実などという言葉を遥かに超越した無慙を伝えている。
   命の言葉だ。

   生きながら地獄へ堕とされた人々には始め何の因果もあろうはずがない。
   因果を作ったのは、戦地である。
   戦地へ誘ったのは国家である。

   心身に深い傷を残し、録音機の前で重い口を開いた老いた人は、
   かつてこの国のためと信じて戦った兵士。
   平成二十年の夏、「兵士」とつぶやいて虚しさと悲しみがわきあがる。

   怒りはないのか。
   どうする、おまえ、と自問する。
   
コメント
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