墨汁日記

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徒然草 第百四十六段

2005-12-01 20:48:44 | 徒然草
 命雲座主、相者にあひ給ひて、「己れ、もし兵杖の難やある」と尋ね給ひければ、相人、「まことに、その相おはします」と申す。「如何なる相ぞ」と尋ね給ひければ、「障害の恐れおはしますまじき御身にて、仮にも、かく思し寄りて、尋ね給ふ、これ、既に、その危みの兆なり」と申しけり。
 果して、矢に当たりて失せ給ひにけり。

<口語訳>
 命雲座主、相者にあわれて、「己れ、もしや兵杖の難ある?」と尋ねましたらば、相者、「まことに、その相おありです」と申す。「如何なる相だ?」と尋ねましたらば、「障害の恐れあられない御身にて、仮にも、こんなことを思い寄って、尋ねられる、これ、既に、その危険のきざしです」と申した。
 果たして、矢に当たって失せられました。

<意訳>
 延暦寺住職の命雲座主。
 易者に会われてこんな事を尋ねられた。
「もしや、私には戦死する相はないだろうか?」
「まことに、その相おありです」
 命雲座主はさらに尋ねる。
「で、いかなる相だ?」
「戦死など心配なされるご身分でもないのに、仮にも、そんな事をお尋ねになられる。占うまでもなく、その事が既に危険の前兆です」
 易者はそう答えた。
 はたして、命雲座主は流れ矢に当たって死んだ。

<感想>
 命雲座主は「法住寺合戦」で流れ矢に当たって死んだとテキストにある。
 源平の争いの頃の人物で、鎌倉時代末期の兼行にとっても既に歴史上の人物だ。前段から引き続き、占いなんかではなく、その人の普段の言動から、死に方を当てた人の話が続く。

原作 兼好法師