サムライブルーがグループステージを突破するとともに、東京に夏がやってきました。梅雨明けです。
日本のグループステージ三戦を〆る終戦のありかたが議論を起こしました。それについては次回。今日は、今大会これまでのベストマッチといってもいいくらいの秀戦となったセネガル戦です。
日本は結果が出た前節を踏襲します。シフトは4-2-3-1。GKは川島。CBは麻也と昌子。SBは右に宏樹左に長友。CMは長谷部と岳。WGは右に元気左に乾。トップ下は真司。1トップは大迫です。
セネガルは戦いかたをアジャストします。これが試合に影響します。シフトは4-1-4-1。GKはカディム・エンディアエ。CBはサネとクリバリ。SBは右にワゲ左にサバリ。アンカーはアルフレッド・エンディアエ。IHは右にパパ・エンディアエ左にゲイェ。WGは右にサール左にマネ。1トップはニアンです。
サッカーの戦術上の優位性は、タレントの能力差に勝るものはありません。これは、サッカーに科学が入りこんでもなお、いまだに原始性を保ち続ける重要な要素のひとつです。
この試合のボールポゼッションは、日本53%に対しセネガル47%。このメルクマール上のイニシアチブはほぼイーブンと言っていいと思います。でもディテールの数値を見ると、シュート数、ショッツオンゴール、オポチュニティのすべてにおいて、セネガルが日本を倍しています。つまり攻撃力はセネガルが圧倒していたということを示しています。ところが、結果においては、ボールポゼッションが珍しく忠実で、ドロー。サッカーの奥深さというか、面白さを如実に表している試合だったと思います。
セネガルの攻撃の優位性は、いうまでもなく圧倒的なスピードです。セネガルがポーランド戦とは異なる布陣で臨んだのは、まずは攻撃力を前面に押し出そうという意図だったと思います。ご存じの通り、4-1-4-1は攻守どちらにもスムーズに片寄せることができる布陣で、先行逃げ切りを狙うセネガルにしてみれば、極めて合理的な作戦だったろうと思います。
攻撃のセネガルに対する日本という構図は、サッカーが持つ普遍的な魅力を濃厚に凝縮するものです。柔よく剛を制すは、なにも日本人のスポーツに対する好みを表わすものではありません。サッカーにおいて、万国共通のコンテンツなのだろうと思います。今大会は、戦術においては、守備に極端に偏重するチームが目立つ大会です。イラン、アイスランド、コスタリカ、スウェーデンなど、ある局面では11人全員が自陣に布陣する作戦を臆面もなく遂行していました。この作戦を否定するものではありませんし、遂行したとしても有効性を持つまでのクオリティを保つのは極めて難しいことですから、勇気と忍耐とディシプリンに感銘を受けました。でも一方で、観ていて爽快感がないものまた事実。サムライブルーのポーランド戦ラスト10分の過ごしかたに、本質的に等しいものがあります。あの選択を批判する人がブラジルーコスタリカにおけるコスタリカの闘いかたを称賛するとしたら、それは自己矛盾だと思います。
それはさておき、日本は結局、グループステージにおいては一度も守備的な作戦を施しませんでした。だからこそ、コロンビア戦の神風を呼び、セネガル戦の粘りの接戦があり、最終的なステージ突破を獲得できたのだと思います。ワールドカップというサッカーのトレンドのショーケースのような舞台で、無邪気に真っ向からアンチトレンドに挑むサムライブルーは、まさしくその名の通り、幕末の侍を彷彿させていたと思います。このような代表の姿は、称賛と批判を起こしてしかるべきだと思います。ひとつの目標を達成したからこそ、ここまでの過程で起こった問題点に目をつぶることなく、真摯に向き合うべきだと思いますし、一方で、今代表が勝ち得た成果にもまた、批判する側は真摯に向き合ってほしいと思います。
この試合のポイントを、日本とセネガルの両面から観ていきます。まずセネガル。データが示す通り、セネガルは勝ってしかるべき試合でした。でもそれを落としてしまい、結果的にステージ敗退に繋がったのは、4-1-4-1の布陣が持つ魔力だと思います。序盤のセネガルは超攻撃的に臨みます。狙うはもちろん、長友の背後。圧倒的なスピードの優位性を根拠に、サールとパパがダイアゴナルに長友の背後のスペースに入ります。これによって長友が守備に専念することを強いられます。必然的に乾もカバーを強いられます。これにより日本の重心が下がります。セネガルが日本を押し込んだ理由は、SBを攻撃的に布陣すること。とくにワゲ。これは、日本のストロングポイントが唯一左サイドだからであり、攻撃こそ最大の防御という意図が含まれています。結局11分に、川島が弾いたボールをマネに押し込まれるかたちで先制を許しますけど、ここまではセネガルが思い描いたシナリオ通りに進みます。日本0-1セネガル。
さて、ここからが、ある意味真実のサッカーです。セネガルは、引きます。これこそ4-1-4-1の魔力です。もちろん90分通じて序盤のようなアグレッシブな攻撃サッカーが続けられるわけがないのは、人種が変わっても万国共通なのでしょう。それにしても、セネガルが極端にリトリートしたのは、セネガルのなかに、長くアフリカに欠けると言われるディシプリンに対する憧憬があったためではないかと思います。すでにヨーロッパナイズされてひさしいアフリカのチームですから、政治的またはマネジメント能力の条件が整いさえすれば、ディシプリンに基づく作戦を遂行する能力は疑うべくもありません。4-1-4-1は、IHをアンカーと並列させることで、中盤の守備に厚みを加えることができます。ただし、おもいのほか中盤三人のコンビネーションは易しくはありません。ポーランド戦で臨んだ4-4-2のほうが、真骨頂とする中盤でパスコースを消すプレスの効きがよかった印象です。その意味で、セネガルは自ら中盤の守備バランスを壊す選択をしたことになります。
この試合のポイントを日本サイドから観ると、日本の作戦が、セネガルの選択に対する見事な対抗になったことを上げることができます。日本の狙いは、言うまでもなく左サイド。長友と乾を高い位置で絡ませることです。そのためには重心を高く保つ必要があります。なので、中盤のボール保持は生命線です。この役を担ったのが真司。真司をバイタルエリアでフリーにしポストを安定させることが、対セネガルの基本的なバロメーターです。日本は、大迫と元気が右サイドでフリーランすることで、セネガルの中盤の重心を移動させます。3センターのウィークポイントはもちろんアンカーのサイド。日本は、アルフレッドの右脇スペースを巡る攻防戦を征します。
さらに、空いたサイドのスペースを使うには、卓越した二次元の俯瞰力を持ち、リズミカルかつ正確にチャンスを生み出すコンダクターも不可欠です。岳は、コロンビア戦の後半に続き、好調でした。岳は、タレント豊富な日本の中盤において、この大会で現役選手の頂点に立ったと言っていいと思います。個々のタレント能力の総和で圧倒的なセネガルに対し、日本がこの作戦を遂行することはけして簡単なことではありません。日本人の優位点とされるアジリティを作戦遂行の基軸とした、とても良い例だったと思います。乾のゴールで試合を振り出しに戻します。34分。日本1-1セネガル。
後半頭からシセさんが動きます。シフトを4-2-3-1に変更します。CMにはゲイェとアルフレッドが並びます。パパがトップ下に入ります。ポーランド戦の安定感を取り戻す意図だと思います。シセさんは、言動からもうかがえますけど、とてもジェントルなかたなのでしょう。この作戦変更は、サムライブルーの前半に対する敬意を表わすものだと思います。さりとて、日本のイニシアチブは変わりません。身体的な優位性が絶対的なものであれば、日本がいかに上手く闘おうとも、セネガルが流れを取り戻し、オーガナイズすることは容易です。つまり、セネガルのスピードは、疲労を含め、それほど絶対的なものではなかったということでしょう。セネガルがギアを上げようとしても、長友サイドの攻防戦で二度と優位を取り得なかったことをみると、トータルのサッカー能力では、日本がセネガルに勝っているということができると思います。ところが、このまま同点、もしくは逆転する流れを感じていた雰囲気に反し、セネガルが追加点を上げます。71分。日本1-2セネガル。
これを受け西野さんが動きます。真司に代えて圭佑を同じくトップ下に投入します。コロンビア戦同様、右サイドで攻撃のかたちを作ることで、左サイドの優位性をより顕著にする作戦です。さらに西野さんが続けます。元気に代えて岡崎を投入します。同時にシフトを4-4-2に変更します。右メイヤは圭佑。岡崎は大迫と並んでトップに入ります。攻撃の枚数を増やし、ゴールチャンスを呼び起こそうという作戦です。78分。これがすぐに奏功し、圭佑の同点ゴールが生まれます。右サイドで作ってからの左サイドの仕掛けから岡崎が潰れ、圭佑をアシストしました。日本2-2セネガル。西野さんの作戦がこわいほどはまりました。
残り時間は、西野さんが宇佐美を投入し、シセさんも攻撃的な選手を入れる、ガチのどつきあいになります。互いに勝ち点3が欲しい、ノーエクスキューズの状況だったからこそでもありますけど、出し惜しみなんか一切考えない、西野さんとシセさんの激突だったからこそ演出された、極上エンターテイメントだったと思います。このまま試合終了。日本2-2セネガル。
ここで勝ち点1を拾えたからこそ、グループステージ突破に繋がりました。ここで勝ち点3を得られなかったからこそ、ポーランド戦のラスト10分に繋がりました。いずれにしろ、二戦経過して負け無しの勝ち点4はとても誇らしいと思います。タレントもマネジメントも大会までのプロセスについても、日本にはまったく勝算無しと思われていたし、恥ずかしながら自分もそう思っていました。とりたてて特別なモチベ―ションアップもなく、粛々と、でもとても高度なスカウティングと作戦、そして実行能力を遂行した成果だと思います。グループステージ第三戦は、日本、セネガル、コロンビアを取り巻く結末にいろんなバリエーションが有り得る、大混戦で迎えることになりました。