春の鳥

春は

つめたく潤む

鳥よ

そのまるい瞳で

散る花と

咲く花を

見ておくんだよ

美しいものを

たくさん

見ておくんだよ

さくら

さくら　さらさら

さくさく　さくら

さくら　くらくら

こぼれる　さくら

さくら　はらはら

じめんが　そまる

さくら　いつから

さくら　いつまで

たいせつ

たいせつ

いまあるもの

まえにあったもの

どちらにせよ

じぶんから

きりはなせない

くべつできない

たいせつ

そのたいせつが

せなかをおす

そのたいせつが

あしもとをささえる

あたらしいたいせつと

であうための旅に

たいせつがあかりになる

たいせつがテントになる

たいせつがうたになる

いつでも月は

墨色の雲

まるい月

いつでもあなたは

そこにいる

雨降る夜も

空を見あげるなんて

忘れている夜も

いつでもあなたは

変わらずにいる

一生

手の中で眠る小鳥の

一生があたたかいまなざしで

満たされますように

小鳥を抱くひとの

一生がなつかしさに満ちて

わかれを言えますように

ひとが暮らすこの地の

一生がなにものにも負けず

くりかえしくりかえしうまれますように

この道のさき

そのかどをまがると

なつかしい場所がある

まだ見知らぬ

これから息づく場所が

はやくはやくと待っている

歩いているからあしたと出会う

あしたはいつもこの道のさき

春がゆく

桜が咲いた

シジュウカラ鳴いた

知らない場所へ

行きたくなった

椿つついてたヒヨドリは

きょうはどこを飛ぶのかな

雲が流れる

雨がひとつぶ

土のにおいが香りたつ

遠くで虹が出てるかな

わたしたちは出会っている

いまこのおなじときに生きていて

いちどもかおをみずに

それぞれの一生を終えるかもしれぬひとよ

でもわたしたちは出会っている

だれかがつくった群れではなく

おなじところへ向かうのではなく

ただ一瞬おなじことを感じたひとよ

二つの星がすれ違うように

わたしたちは出会っている

自分を

征服をするなら

自分を

買いかぶりするなら

自分を

死ぬまでついていくと

宣言するのならば

自分を

誰かがくれた朝

誰かがくれた朝だ

花も

鳥も

ひとも

誰かがくれた朝を

受けとったものたちが

思いがけず

ここにいる朝だ

ゼロではないんだ

ゼロは

望んでも無理

どうしても

そこには

なにかが

ひとつぶ

あるから　

ゼロだと思っても

すべてを捨てたつもりでも

そこには

なにかが

あるんだ

一本の木から

一本の木があった

木の上には鳥

鳥の上には空

そして

木をみあげるわたし

その横にもう一本の木

そこにはもう一羽の鳥

みおろすと花

そのまわりに蝶

地面には蟻

そして

目のまえを

なにかが横ぎる

追いかけて走る

知りたい

みつけたい

わかりたい

つたえたい

立ちどまる

みあげると空

おひさまの下を

鳥がよこぎる

いま

いまにいながら

いまをふりむき

いまをみおろし

いまをささえる

いまをにがさず

いまからにげず

いまをみつめて

このいまにいる

ここはわたしがいきてるところ

花が咲く

風が舞う

月が実る

ここはわたしが

うまれたところ

ここはわたしが

いきてるところ

雲がめぐる

星が遊ぶ

ときがうたう

ここはわたしが

こぎだすところ

ここはわたしが

はじまるところ

今日は椿

きれいなものを

みつけるために

やってきました

今日は　椿

ほかにもいろいろあったけど

でも　いちばんは　椿