わたしはみんなでみんなはわたし

わたしの飲んだ水が

わたしの食べた肉が

わたしになる


わたしの聞いた言葉が

わたしの読んだ物語が

わたしになる


わたしはみんなで

みんなはわたし


わたしをたたくとみんなが痛い

みんなをたたくとわたしが痛い

幸福のパズル

幸福がパズルであるならば

お風呂にゆっくり　とか　

美味しいコーヒー　とか

安心な言葉のやりとり　のように

必要なパーツが数多くありますが

美しいのか　醜いのか

善いのか　悪いのか

温かいのか　冷たいのか

判断不可能で不可思議な

パーツがいくらかあるもので

これが実は　

大きなパズルの面において

砂金のように光る点となり

ひとつしかない模様を描きます

傘をさして歩いていると

傘をさして歩いていると

いつもよりすこしだけ

遠くを見ようと思う

黙々と歩こうと思う

うつりゆく空を見ながら

ほんとは何も変わらないと思う

ふわふわといえば

ふわふわといえば

だしまきたまご

おふとん

ほっぺ

ねこやなぎ

鳥のおなかの白い羽毛

ふわふわといえば

なつかしいものだね

ふわふわといえば

子守唄だね

ちいさな音

花がひらく

ちいさな音がするのだろうか

雨がおちる

ちいさな音がするのだろうか

虫が羽ばたく

ちいさな音がするのだろうか

満ちている

揺れている

ちいさな音のさざなみが

ゆりかごのようにくりかえす

おとなだから

長く使っていたものが

ひとつ　壊れた時は

さみしいけれど　ほっとする

たぶん　おとなだから　なんだろう


　

朝の手紙

ベランダに見えた　赤紫色は

風が運んだか

鳥が落としたか

一枚の　花びら　たぶん　薔薇

けれども　それは　手紙　だろうか

かたづけられず　見つめる　朝　

おとぎ話

おとぎ話の主人公は

もともと強くはありません

心を決めて旅に出た

その道のりが毎日が

旅人を凛々しくするのです

理屈を身軽に乗り越えた

思いがけないお話は

おとぎ話か　現実か

そもそも区別はありません

旅はいつでも新しく

日々はいつでも不思議です

目的の場所

どの道を行っても

たどりつく

そこに行くために

うまれてきたなら

お天気

大雨降ると　洗われる

大泣きすると　洗われる

雨があがると　小鳥が歌う

泣いたあとには　灯りがともる

宝ばこ

今夜の空は

墨染めの地に　きいろい月

月には墨を滲ませる

この世とは

色と柄ゆきの宝ばこ

日々降り注ぐ宝ばこ

つばめよ つばめ

つばめよ　つばめ

たくさんの人間を

雛の守り手として使いなさい

おまえの何代前のつばめが

この方法をはじめたのだろう

わたしの何代前の人間が

つばめを守ろうと思ったのだろう

つばめよ　つばめ

お前は視界を鋭角で横切る

駆け足で生きる人間のようだ

つばめよ　つばめ

お前の雛がわたしを見おろして

あれは何だろうと不思議がり

首をかしげる日は　もうじきだ

ぐうぐう言います

ことりは　嬉しいと　ぐうぐう言います

嘴は閉じたまま　喉のあたりで　ぐうぐう言います

猫が　ごろごろ言うのと　同じかもしれません

ひとも　嬉しいと　ぐうぐう言います

言葉を使わずに　喉のあたりで　ぐうぐう言います

満足がこみあげて　言葉にならないから

ぐうぐうぐうぐう　響かせて　かみしめます

面白いこと

面白いことというものは

出来るかどうか　わからないこと

わからんわからんわからんなあ　

どうにかできないもんかなあ

これでどうだ　これならどうだ

ああもしかして　まただめか

そのうちかちりとなにかがはまり

できるかなできるかな

できるかもできるかも

その工程が面白いこと

隠されたかたち

一本の木から

ひとのかたちを

削り出す

発掘のように　丁寧に

土をはらい　水で洗う

隠された　かたちを求めて