おはよう
ちいさな窓から見える今日
わたしはこれから森へいく
見えるものから見えないものまで
多くのものが息する森へ
きれいなものを探しにいく
わたしの背中のかごにあつめた
時のモザイク 記憶の実
わたしの庭には鳥がきて
歌と種をおとしていく
夜が空を覆ったら
森の鳥がするように
月のひかりの湿り気を
すいこみながら眠ります
おはよう
ちいさな窓から見える今日
わたしはこれから森へいく
見えるものから見えないものまで
多くのものが息する森へ
きれいなものを探しにいく
わたしの背中のかごにあつめた
時のモザイク 記憶の実
わたしの庭には鳥がきて
歌と種をおとしていく
夜が空を覆ったら
森の鳥がするように
月のひかりの湿り気を
すいこみながら眠ります
この音なあに
氷がとける音
この音なあに
樹のうえの小鳥が
枝を揺らす音
この音なあに
こどもが競って
駆けていく音
この音なあに
桜の花が風に散る音
この音なあに
在るものと
在ったものが
交差する音
見えない船が
すすみだす音
空から
春がこぼれてくる
無視することは
できないほど
そのままでは
いられないほど
壊れても
生きる
変わっても
生きる
自分ではない
と思っても
生きる
揺れる菜の花が
空を照らす日に
ちがう自分が
だけど自分が
生きてる
生きてる
やっぱり
生きてる
うまれてから
あかんぼうのときも
ちいさなこどものころも
おとなになってからも
ろうじんになって
しんでゆくまで
ずっとかわらず
じぶんなんだ
かわいがらなきゃ
もったいない
いちにち
ひとつでいい
さよなら
いままでありがとうと
言ってみるのです
その結果
あいた場所に
はじめまして
どうぞよろしく
がやってきます
お引越しのように
きちんとあいさつ
春ですからね
ゆきやなぎ
もんしろちょう
しろいソックス
余白に描いた
かえりみちの絵
まだやわらかい
季節のいろ
スキップしたり
よりみちしたり
横断歩道
ともだちのいえ
アイスクリーム
レースのカーテン
空を見上げて
わたぐものしろ
白木蓮の咲く庭で
つめたい風と空の青
誓ったわたしはもしかして
ひとつ前のわたしでしょうか
真上に浮かぶまるい月
石段の途中で立ちどまり
見上げたわたしはもしかして
ひとつ前のわたしでしょうか
さくさく雪をふみながら
光る景色のなかにいる
ひとつ前のわたしでしょうか
それともいまのわたしでしょうか
すこし先には さよならがある
その先に見える あたらしい駅
だけどそこは知ってる景色だ
揺れながらおもいだす
小鳥が飛んでく 風が吹いてる
わたしたちはいま
おなじところで
心臓がうごいている
偶然がつくる絵のなかで
走る電車に乗り合わせたきみ
揺れながらおもう
なにも決まっていないのだから
揺れながらいこう
どこまでもいこう
揺れながらいこう
むこうから
春がくるのか
わたしたちが
春へとすすむのか
窓が冷たいのは
この手があたたかいから
泣くことができるのは
やわらかいから
木に咲く花のいろ
雨あがりの雲のかたち
春を記憶した細胞が
急ぎ足で道を行く
手のひらでつつむ
ふっくらとつつむ
にぎりしめず
てばなさず
この手のひらで
ゆきのいろを
ひのひかりを
あめのしずくを
ことりのひなを
ふっくらとつつむ
だれのものでもない
いまここにある
ひとときのいのちを
ふっくらとつつむ
観覧車の頂上で
指で窓に落書きひとつ
飛行機雲
雪のひとひら
ひとつの言葉
なんにものこらないけれど
なんにもなくならない
観覧車はまわる
さざなみがたつ
風がうまれる
ひとは呼吸し
世界はうごく
あなたはとってもちいさくて
いまではもっとちいさくて
だけどとってもおおきくて
こころをぜんぶひとりじめ
おもいでちいさくまるめても
ふわふわもどるふとんのように
おおきくなってしまうから
お月さま
あなたが見おろす世界は
変わりましたか
お月さま
ひとびとはおなじことを繰りかえし
おなじように泣き
おなじように傷をいやし
おなじようにほほえむ
どんなところでうまれたひとも
おなじようにあなたをみあげる
お月さま
たくさんのいのちは
あなたにみまもられて
旅をはじめてやがて去る
お月さま
今夜もまた
あなたからふりそそぐ
つめたいひかりの粒が
あたたかく世界をつつむ