夏空のはじまり
いくつもの入道雲
日傘で帰る道に
黒い揚羽蝶が一羽
ふらふらと
紫の花にとまった
家に着いてドアを閉めたら
ああ 雨音だ すごい音だ
大粒だ 大雨だ
さっきみかけた揚羽蝶
やわらかい翅は無事かしら
道でみかけた雀たち
路地で立ちどまった猫
あのこたちは無事かしら
夏空のはじまり
いくつもの入道雲
日傘で帰る道に
黒い揚羽蝶が一羽
ふらふらと
紫の花にとまった
家に着いてドアを閉めたら
ああ 雨音だ すごい音だ
大粒だ 大雨だ
さっきみかけた揚羽蝶
やわらかい翅は無事かしら
道でみかけた雀たち
路地で立ちどまった猫
あのこたちは無事かしら
変なの
お買いものにでかけたのに
歩いていたら
なにを買うか忘れて
べつのものを買ってきたりする
変なの
行きたい場所があるのに
歩いていたら
みんなが行くほうへ
ついていってしまった
変なの
望みを口にできないなんて
変なの
怯えているだけなんて
変なの
なにに怯えているかも
わからないままなんて
変なの
なにと闘うかも
わからないままなんて
まだ
さよならを言うにははやい
だけど
ありがとうを言っておこう
いつ
旅立つかわからない
今日咲く花の一輪みたいに
今日流れるひとつの星みたいに
ここに戻ってくることは
もうできないのだから
あしたがくるまえに
ありがとうを言っておこう
遠足にいくんだ
リュックと水筒
お菓子は当然
スケッチブックと
色鉛筆で
描くべきものは
今日見る空と
これから出会う
いろんな景色
描いているうちに
思いだすのは
ずっと昔の
きのうの景色
羽 うごかしてごらん
ばたばた そう
まだ飛べなくても
ばたばた そう
もうすぐ飛べる
どこへいくか
決めていなくても
風がおしえてくれるから
羽 うごかしてこごらん
ばたばた そう
あしたがくるよ
この空は
あのひとがいるところまで
ずっとひとつの空
とぎれない空
どんなに遠くても
ながいこと会えなくても
とぎれないひとつの空
どんな過去も
どんな未来も
ずっとひとつの空
千年まえのあのひとも
見ていたひとつの空
立ち止まる
目を閉じる
戻る
戻る
どんどん戻る
好きな歌が聞こえて
窓からの景色が見えて
戻る
戻る
どこまで戻る
はじめてクレヨンを持ち
はじめて言葉を口にして
戻る
戻る
名前の違うわたしに
戻ったときに
なにをしたかった
どこへ行きたいか
そこまで戻る
もういいかい
もういいよ
かくれんぼうは
もういいよ
出てきてごらん
もういいよ
外をてくてく歩くだけ
空をみあげる
風をかんじる
ただそれだけでいいからさ
ゆっくりのびをするだけで
きもちが軽くなるからさ
もういいかい
いいんだよ
前見て歩くだけでいい
なにかをめざしていくことは
その先にあることだから
空を見て
地面を見て
遠くの山を見て
あしもとの花を見る
ぜんぶが世界
見えるところも
見えないところも
意味をまとわず
ただそこにある
そしてかならず
どこかでだれかが
あたたかいだれかが
生きているこの世界
液体も
固体も
呼吸していても
していなくても
わたしたちは
揺れ動いている
この星のうえで
ともに震えている
泣いてもいい
泣いてもいいんだよ
遠いところから届いた
月のひかりを見ながら
人が描いた絵をみながら
ただ小さな粒のあつまりとして
一緒に 震えているんだから
時間に洗われて
記憶から消えたあと
残るものは
誰かの名前でなく
輪郭が消えても
まだ残る気配
見えないほどの
微細な粒が
ひかりを浴びて
仄かにあかるい
消すことはできない
意志のあかるさ
この一日は
パズルのかけら
ひとつの絵が
できあがる日は
わからないけど
どんな絵が
あらわれるのか
わからないけど
この一日は
いのちのかけら
おなじ色は
二度とない
夏休みの絵のお日さま
石段に降る蝉の声
落としたアイス 擦りむいた膝
眩しいひかりのなかで見つけた
色濃い影が静かに沈む
はじまる前に終わりが見える
クリームソーダの緑
サルビアの赤
さっき話したともだちの
爪のいろはピンク
星を描いて旗にする
幻を編み羽にする
信念を手に道ひらき
誰のものでもなく
自分のものでもなく
いつのまにか
誰かのためになった
そんな旅をしたいだけ