春の土曜日

展示された江戸時代の振袖を見る

雪の上の雀の刺繍を見つめたあとで

マヨネーズのレシピを立ち読み

白いバッグのもち具合を確認

アイスコーヒーに胡麻のクリームを試す

街に溢れるひとびとは春

交差点に溢れるひとりひとりの

その望みも悲しみも

きれいに分けて

とりだすことは出来ない

笑った記憶もいきどおりも

憧れも傷もそのすべてが

細胞の一部となり

このひとびとを息づかせている

暑すぎる春の土曜日

歩くひとびとから

昨日までの記憶の一部が気化して

横断歩道の上のあたりが

蜃気楼のように揺れている