白木蓮と青い空

白木蓮と青い空

扉をさがす　春

白木蓮と青い空

ばらばらの　春

白木蓮と青い空

もう帰れない　春

白木蓮と青い空

やせがまん　春

空のウインク

今夜の月は

まるでウインク

とじたまぶたの

ひかりのライン

もうかたほうは

おひさまね

しあわせのひとつ

ひなたぼっこをして

手のひらが

あたたかくなること

それは

生きているかぎり

わすれちゃいけない

しあわせのひとつ

かわらぬもの

あしたあさってしあさって

そのあとずっとずっとさき

きのうおとといさきおととい

それよりずっとずっとまえ

ちがうなまえでいるときも

けっしてかわらぬものがある

なんにもかわらぬものがある

刻まずに去ることはできない

なにも刻まず

去ることはできない

ただここにいるだけで

地面は刻まれ

見つめた視線で

扉は刻まれる

ひとはひとに刻まれる

なにを刻んでいるか

知るひとはわずか

空のうえ 空のした

空のうえ　空のした

楽しいこと　悲しいこと

たくさん　ありましたか

空のうえ　空のした

わかっているのに傷つけたり

知っているのに間違えたり

そんなことたくさんありましたか

空のうえ　空のした

笑ってる顔を覚えていたい

笑ってる顔を思い出してほしい

空のうえ　空のした

今日も一日が終わります

きのうとおなじように

あしたとおなじように

春の風

風だ　風だ

風がぼうぼうと

ほこりを巻き上げる

梅も桜も

咲いてるときは

嵐がきても

花びらは飛ばず

散るときは

ひとひらずつ

飛びたっていく

風だ　風だ

建物を揺らすほどの

風が吹いている

春の土曜日

展示された江戸時代の振袖を見る

雪の上の雀の刺繍を見つめたあとで

マヨネーズのレシピを立ち読み

白いバッグのもち具合を確認

アイスコーヒーに胡麻のクリームを試す

街に溢れるひとびとは春

交差点に溢れるひとりひとりの

その望みも悲しみも

きれいに分けて

とりだすことは出来ない

笑った記憶もいきどおりも

憧れも傷もそのすべてが

細胞の一部となり

このひとびとを息づかせている

暑すぎる春の土曜日

歩くひとびとから

昨日までの記憶の一部が気化して

横断歩道の上のあたりが

蜃気楼のように揺れている

約束

あのとき

そのばしょに

いたことが

約束

おおむかし

わたしが

じぶんで

ちかった

さいごに

おおきく

うなずく

そのための

約束

好きな色

向かいの席の乗客は

60代後半女性

ベビーピンクのコート

ピンクの水玉のハンカチ

ピンクベージュのバッグ

携帯も　もちろんピンク

そうでなくちゃね

好きなんだもん

見習いたまえ

いまのわたしよ

好きなものを

迷いなく

すべてのひとに

伝えよ

未定

行き先は未定

でも

スーツケースを選ぶ

伝えることは未定

でも

語りはじめる

それがいちばん

自然なやりかた

なにもかも未定

でも

うまれてきたんだから

ヒヨドリよ

ヒヨドリよ

椿の蜜は美味しいか

春の陽気は嬉しいか

結構な旅をして

いまここにいる

ヒヨドリよ

無邪気に見えるのは

すてきなことだ

ヒヨドリよ

明日も晴れるかな

雪は白

雪は白

雲は白

波は白

花は白

はじまりと

おわりの

まんなかの白

ふたつの道のまえに立ち

あっちでも

こっちでも

たいしてかわらん

上も下も

損も得も

どっちにしたって

たいしてかわらん

どちらがよいか

そんなこと

だれもわからん

このふたつの道の

どちらに

こころひかれるか

それだけ

じぶんの足で歩きたいか

道の果ての景色をみたいか

それだけ

嬉しいのとおんなじ

花が咲くと

嬉しいんだ

だれかが笑ってたら

嬉しいのと

おんなじ

おひさまでたら

嬉しいのと

おんなじ