あなたはどこに？

お月さまは空に

猫は塀のうえに

桜の樹は川べりに

あなたはどこに？

花の種は土に

ぬいぐるみはベッドに

小鳥は枝に

あなたはどこに？

つぎの桜が咲くまでに

つぎの桜が咲くまでに

ひとつの道を決めましょう

ひとつの花を選ぶように

つぎの桜が咲くまでに

ほんとのことを言いましょう

扉をあけた家のように

道のひとつになりましょう

春

ああいっせいに咲きだした

ねえ見たかったねこの花を

ああでもどこかで見てるかな

きれいな季節を見てるかな

この花咲くのはあと何回

わたしが見るのはあと何回

ああいっせいに咲きだした

世界はこうして春になる

一秒たりともとまらずに

瞬くひかりそのもので

厳しいものは美しく

激しいものは傷ついて

華奢なものほど強情で

鋭利なまでに愛らしく

ひとつのなかにふたつある

瞬くひかりそのもので

さいごのときまできらきらと

鼓動のたびに眩しくて

手のひらにきいてごらん

握りこぶしを

ひろげてごらん

手のひらがだんだん

あたたかくなる

手のひらにきいてごらん

きみはなにがほしいの

だれと手をつなぎ

なにに手をのぼし

なにを書きたいの

ほしいものをわすれちゃいけない

ほしいものをすててはいけない

きみはなにがほしいの

雪どけ

雪どけだね

だれもしらない

あしたの景色

だれもしらない

あしたの空を

夜の眠りで制作中

水が流れる音がする

光をあつめる旅人が

絶えずに流れる音がする

どこいくの

どこいくの

わからないけど

どこかへいくの

季節がきたら鳥は

飛んでいくものだから

からだのなかの方位磁石に

導かれて飛ぶいきものだから

どこいくの

わからないけど

遠いところへ

すてきなおはなしというものは

すてきなおはなしというものは

ひとつだけ棘があります

ちいさな傷がのこるから

わすれることができないのです

すてきなおはなしというものは

みっつのこどもの顔をして

この世の千年を知るように

はかりしれないものなのです

はんぶん

はんぶんはむこう

はんぶんはこちら

空は青くて

ひかりは白くて

あかるいというのに

なにかがはんぶん

はんぶんのわたしが

こちらをみてる

はんぶんのわたしが

むこうをみてる

ぴったりひとつに

なる日を待ってる

春だね

この風は春だね

ふわふわとあかるい日ざしが

足もとを揺らす春だね

どこかに行きたくなる春だね

たいせつなものを思いだすと

涙が出てくる春だね

変わらないものなど一つもないと

わかっていたはずなのに

しんから気がつく春だね

旅人よ

その瞬きをもとめて

繰り返す日々を生きる

きのううまれたいのちも

百年重ねたいのちも

おひさまとおつきさまのもと

それぞれの旅を生きる

涙も笑顔もこの世の花

空はいつも旅人をみまもり

道はいつも旅人を支える

森を抜けて

歩いているのは森のなか

水がわき出るあの場所へ

古い大きな樹の下で

あいさつしてから通ります

たかい枝から降る声は

ひときわ小さな赤い鳥

木の実をひろい

木漏れ日うけとり

いそがず歩いていくのです

森を抜けたらその場所に

わたしの舟が待っています

星をみる樹

一本の樹

空をみあげて

時間が描く

星の軌跡を

目で追っている

球体のうえ

きいろのうた

きいろはあかるい

あかるいはおひさま

おひさまはまるい

まるいはこども

こどもはうたう

うたうはことり

ことりはちいさい

ちいさいはいとしい

いとしいはさみしい

さみしいはとうめい

とうめいはひかる

ひかるはあかるい

あかるいはきいろ

ほんとうのこと

いみも

もくてきも

りゆうも

わからない

だけどこうしてここにいる

それだけがほんとうのこと

なにかをてわたす

なにかをうけとる

それだけがほんとうのこと

一日また一日

それだけがほんとうのこと