まだ飛んでいかないで
見えないところ
高いところ
自由なところ
きっと
しあわせなところ
でも
あとすこしでいいから
まだ飛んでいかないで
まだ飛んでいかないで
見えないところ
高いところ
自由なところ
きっと
しあわせなところ
でも
あとすこしでいいから
まだ飛んでいかないで
海はあまりに大きいので
器にはいれられません
空はあまりにひろいので
額縁にはおさまりません
ひとはあまりにゆたかなので
説明などはできません
ここ という場所
きょう という日
わたし というひと
その日のいちばん大切なものは
五秒の夕日
みじかい言葉
こどもたちが笑う
小鳥がうたう
風がめぐる
この世のなにかとの
ちいさな共感が
わたしたちをささえる
わたしたちを生かす
善悪よりも
意味よりも
強くなにかを
追い求める
そのためにうまれたと
感じるならば
行きなさい
地図がなくても
星をたよりに
行きなさい
生きてるうちに
行きなさい
星をみよう
湖をみにいこう
ひとに会おう
なつかしい
物語を思いだす
昔から知っている
もっと昔から知っている
私でない頃から
知っている物語を
書きとめよう
あしたをむかえる
舟に乗ろう
鳥と一緒に
朝をむかえよう
お月さま どこかな
雲のうえ 夢のなか
羽をかくして眠っている
ちいさなこどものたましいの
ゆりかご揺らしているのかな
ちいさなこどものたましいを
かくして眠っているおとなに
こもりうた歌っているのかな
壊れるな
なによりもたいせつなこと
他人も自分もすべての生き物も
決してもとにもどらないものを
壊れるままにしておくな
かたちもあるものもないものも
壊れるままにしておくな
さいしょのペンギンは
うっかり足がすべったのだ
それを勇気と呼ばれても
ペンギンはもう海のなか
べつの生きものみたいで
そんな言葉 聞こえるものか
うっかりものは
ほらもう先を泳いでる
泣いてもいい
文句言っていい
まちがっていい
たちどまっていい
じたばたしていい
どんなだっていいから
生きてることだよ
なにができるか
なにになれるか
そんなちいさなことよりも
なによりも
生きてることだよ
今日は
きのうのつづきではない
どんな一日も
どんな一瞬も
だれかに
なにかを
つたえる時間
戻ることのない
時の砂粒は
だれかが
ほんとうに
ほしかった時間
だれかが
だれかを
しあわせにする時間
たちあがって
つかまって
いっぽ
はじめのいっぽ
そのために
あしをあげて
でもまえにはいけなくて
なんどもなんども
ためらって
はじめのいっぽ
そのいっぽを
やっとじめんに
あしあとをつけた
そらからみていて
みんなみていて
どうかみていて
空の色を覚えている
窓から見える雲のかたちも
渡った橋の手すりが白かった
よりみちして飲んだ苺ジュース
がんばったなあ
がんばったんだなあ
意味なんかないんだろうけど
そんな日の景色が
深く記憶に刻まれる
ともだちの言葉も
泣いたことも
夕焼けの色も
きっとおんなじ
がんばったなあ
がんばったんだなあ
一日はひとつの花
朝咲いて夜散って
あくる日の花が咲く
一人はひとつの花
うまれてから去りゆくまで
それぞれの花が
それぞれの日々を
咲いて散っていく
春はきらい
温かくて眩しくて
動きだす気配がして
後戻りできなくて
楽しい顔をしなければ
ついていけなくなりそうで
春はきらい
ながいこと忘れてた
いろんな気持ちが知らぬ間に
花粉のように風にのり
漂う春がだいきらい
きらいきらいだいきらい