雪の旅立ち

空から

この世に

いってきます

ふわふわふわり

旅の理由は

みんな知らない

ただよううちに

みつかるかしら

ふわふわふわり

いってきます

聞こえただろうか

いま

聞こえただろうか

花が咲く音

いまこぼした涙が

机に落ちた音

手を降る音

立ち止まる音

歩き出す音

雨の拍手

盛大な拍手

初めましてと再会する

ひとは

おおむかし

やりのこしたことに

つぎの一生で

初めましてと再会する

思い出すこともなく

違う名前の

同じいのちが

引き継がれていく

冬の頃

柿の実熟れたその頃は

つぐみが街にいる頃は

夕焼けみじかいその頃は

赤い手袋する頃は

私がうまれたその頃は

雪が降る頃　つもる頃

ゆっくりしっかり歩く頃

歩いた道の足跡を

見つめてしばらくたちどまり

また向き直り歩く頃

スケッチブック

みつけたものは

いちばん好きな色の絵の具と

描きかけのスケッチブック

おかえり

夏休みの空

赤いグラジオラス

はさんであったプリント

友達の横顔

電線のつばめ

おかえり

制服の自画像

おかえり

名前を書いた自転車

立ち漕ぎした上り坂

そうしてここへきたんだろ

あの明るいところへいこう

きっとなにかが待っている

いかなきゃいけない

どうしてもどうしても

いかなきゃいけない

そうしてここへきたんだろ

一人残らずみんなそうだろ

泣きながら

はだかんぼで

やってきたんだろ

まぶしいところへ

やってきたんだろ

だれかの指をぎゅっと

ぎゅっとにぎったんだろ

まだ出会わぬもののために

まだ出会わぬ人

まだ出会わぬ場所

まだ出会わぬ色

まだ出会わぬかたち

まだ出会わぬ言葉

まだ出会わぬすべて

そのために

明日も目覚める

こんこん こんちは こんにちは

こんこん　こんちは　こんにちは

こんこん　ことしは　もうすこし

こんこん　ころんで　いたかった

こんこん　ころころ　わらってた

こんこん　こうして　おもいだす

こんこん　こんどは　もっともっと

こんこん　こりずに　あるくのさ

こんこん　こんちは　こんにちは

咲け咲けみんな咲き誇れ

くるくるまわる星のうえ

無数の種が眠ってる

無数の芽が顔をだす

風も寒さも雨も吹雪も

ぜんぶの敵から力をもらえ

咲け咲けみんな

みんな咲け

咲け咲けみんな

咲き誇れ

それが強いということです

たとえばそれは草原です

すべてをうけいれ広くて大きい

たとえばそれは一本の樹

雨や日ざしから守ってくれる

たとえばそれは小さな鳥

いのちいっぱい歌ってくれる

たとえばそれは一人のこども

じっとみつめる真実の目

たとえばそれは一人のおとな

いとしいものをこわしたくない

それが強いということです

すべての細胞よ

すべての細胞よ

ひとつの美しいものへ

進みなさい

すべての細胞よ

あなたたちが

いえ　あなたが

みつけたものは

あなたそのもの

あなたが選んだものは

あなたそのもの

すべての細胞よ

あなたに向かって

果てるまで歩みなさい

いいのだ いいのだ

いいのだ　いいのだ

雲がどのような色でも

山がどのようなかたちでも

だれが好きでも嫌いでも

不愉快でも愉快でも

いいのだ　いいのだ

なにかをあきらめた

なにかをなしとげた

そのなにかの名前や意味は

だれがつくったというのだ

いいのだ　いいのだ

目にみえる世界

耳にとびこんでくる世界

いやでもどんどん

扉をたたくように

世界はあなたに語りかける

すべてこれから出会うものは

あなたがはじめて名前をつける

あなたはこれから

世界にふれる

あなたはくすぐられたように笑い

ときにはひっくりかえって泣き

まいにち　赤ん坊のように目覚める

いいのだ　いいのだ

扉をあけていいのだ

器をつくったあなたへ

あなたに会った

ずっとずっと昔

あの器をつくったあなたに会った

あなたの器は

いまもまだ

つやつやと

たっぷりと

息をしていた

あなたに会った

あなたがそこにいた

あなたはずっと

たくさんのひとに

大切にされてきた

あなたはずっと

生きていた

お守り

体温はお守り

橙色にくるまれて

じぶんを守り

ひとを守り

あらゆるものを

あたためる

生きているものは

みんなお守り

必要なもの

あたらしい　を　ひとつ　ください

なつかしい　を　ひとつ　ください

ああ　おいしい　

ああ　きもちいい

ああ　これで　あしたも　だいじょうぶ