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フランスに揺られながら DANS LE HAMAC DE FRANCE

フランス的なものから呼び覚まされることを観察するブログ

J'OBSERVE DONC JE SUIS

「サルトル」

2005-06-03 22:32:27 | 哲学

昨日の余韻がまだ残っている。サルトルと言えば、サルトルの考えに同意しようがしまいが(Que vous soyez d'accord ou non avec Sartre)、

L'œuvre de Sartre est l'une des plus marquantes du XXe siècle.
「サルトルの作品は20世紀で最も重要なものの一つである」

Philosophe, romancier, dramaturge, critique, journaliste, directeur de revue......
「哲学者、小説家、劇作家、評論家、ジャーナリスト、雑誌編集者、、」

Sartre a touché à tous les genres et avec brio (La Nausée, Huis Clos, Les Chemins de la Liberté, Les Mots, L'être et le néant,,,,,)
「サルトルは全てのジャンルに見事に発言した。『嘔吐』、『出口なし』、『自由への道』、『言葉』、『存在と無』、、」

Ses interventions politiques pour l'indépendance de l'Algérie, ses conflits avec le générale de Gaulle, sa relation si originale avec Simone de Beauvoir, son refus du prix Nobel de littérature en 1964,,,,,
「彼のアルジェリア独立のための政治的介入、ドゴール将軍との軋轢、シモーヌ・ド・ボーボワールとの何とも個性的な関係、1964年のノーベル文学賞の拒否、、」

L'intellectuel français capital de notre époque.
「われわれの時代の代表的なフランスの知性」

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お昼の遊歩で、新しく岩波新書に加わった「サルトル」を本屋で見つけ、立ち読みする。最初の章が「嘔吐」で、以前に少しだけ原文を齧ったことがあるので興味津々で読み進んだ。しかし、読みながら、これまで文章の意味を探るのが精一杯で (あるいは、刺激的な、共振する言葉を求めその中に身を委ねようとすることが多すぎるのか) ほとんど小説の内容を理解していなかったな、との思いに至る。この本により、「嘔吐」の輪郭の一部を垣間見たような気がした。

「嘔吐」は、「文筆の仕事にたいする僕の精進と、作家としての純粋さによって、永遠の生を勝ち取ろう」と決意したサルトルが7年をかけて完成させた最初の小説。主人公の若きノマド «nomade» アントワーヌ・ロカンタンの日記の形を取っている。この「サルトル」によれば、Antoine Roquentin は一人暮らしで、ホテルに住み、レストランで食事し、生活の影がない。結婚を馬鹿にし、子供をつくる連中を軽蔑し、家族の絆なるものに嫌悪を覚えている。社会との絆もなく、職も社会的ステータスもない。ブーヴィル Bouville という町で18世紀に実在したロルボン侯爵 (le marquis de Rollebon) について全く個人的な興味から研究し、本を書こうとしている。

物語の中程で、ロールボンはブーヴィルの美術館で町のお偉方の肖像を見る。はじめ彼らに批判されているように感じる。彼らがエリートで町の発展に貢献し、「自分には存在理由がある」と信じて疑わない人種だからだ。それに引き換え、自分はマージナルな存在で尊敬される権利なんかないと考えているロールボン。しかし、見られる側から見る側に変わると彼らが中身のない肉体に見えてくる。彼らを « salaud » (白井浩司訳で「ろくでなし」、この著者によればむしろ「豚野郎」、「下劣漢」) とでも呼ぶべき品性下劣の人間と捉えるようになる。この「サロー」と呼ぶべき人間が著者の周りにごまんといたというのだ。少しでも偉そうにしている人間はすべて「サロー」だったと回想している。

公園のマロニエの木の根を前にして「吐き気」を覚えながら、ロカンタンは《実存(古い訳では、存在)》はすべて余計、説明できない不条理、ただそこに在るだけ、偶然で、無根拠-無益-無意味なのだ、と感じる。

真理の探究には代償が必要で、それが孤独だ、と若き日のサルトルは考えていたようだ。パスカルが病床でうめきながら、デカルトが暖炉部屋に閉じこもったように、孤独が真理の探究にとって不可欠な条件であることを自覚していた。ロカンタンにも書かせている。
Moi je vit seul, entièrement seul. Je ne parle à personne, jamais; je ne reçois rien, je ne donne rien.
「わたしは一人で、完全に一人で生きている。誰とも言葉を交わさない。決して。何も受け取らないし、何も与えないのだ」

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サルトルは150センチくらいの小男であり、片目が見えず、「奇妙な」声の持ち主であったという。1905年6月21日、パリに生まれてほどなく父親が亡くなる。「父親を知らぬ子供」が最初のキーワードで、第二には「頭でっかちの本の虫、自然嫌い」。これは父親がこの世を去った後あずけられた祖父のシャルル・シュヴァイツァー(かの有名なアルベール・シュバイツァーの伯父にあたる)の書斎が決定的な影響を与えたようだ。

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「サルトル」を読んでいて、私のどこかにこの小説に共振するものがあるようにも感じた。そんな要素のある小説とは露知らず、フランス語の中に沈んでいたようだ。もう少し詳しく読んで、自分の目で小説として見直してみたいという気持ちが出てきている。

これは余談だが、この本を買った駅前の本屋の老境に入りつつある女性の店主がカバーかけてくれたが、懐かしいやり方であった。表紙をカバーにさっと入れるという味気ないやり方ではなく、背表紙にあたるところ上下の4箇所に鋏を入れて、カバーを折りたたむようにして表紙を覆ってくれた。カバーと表紙がぴったりとしている。なぜか嬉しくなる。

パリでの展覧会が益々楽しみになってきた(L'exposition à la BNF)。

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2005-06-20
 フランソワ・ミッテランでのサルトル展の様子を書いてみた。

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2 コメント

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岡本かの子 (聴雪)
2011-03-06 03:55:53
岡本太郎についての記述がどこかにあったと思うのですが、心に引っかかっていたところ、今度NHKでドラマがかかり見ることにしました。なんと、主題歌も三輪明宏が歌う"rien de rien "で、パリもでてきて大興奮。
今日は、かの子がとてもいいことをいくつも太郎に向かい叫びました。この日のブログにドンビシャですので書きます。
「孤独を持っていない人間のほうが、よっぽど悲劇だわ。」「不遇や孤独を恐れてはダメっ、本当に欲しいものに手がとどかない!」
また、「自分の評価を人に委ねてはだめっ。」「他の自分に絶望して、絵描きに専念しなさい。」には、この人すげ~~~っと主人といっしょに叫びました。
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自らとの会話に必要な孤独 (paul-ailleurs)
2011-03-06 13:58:59
観てみたくなるようなドラマのご紹介ありがとうございます。

岡本太郎と言えば、パリで哲学を学んでいたこともあるので、ある意味ではわたしの先輩にも当たる方になります。彼の言葉はこれまで何度も読んだことがありますが、改めて言うまでもないのでは、という感想を持ちましたので感受性のどこかに繋がるものがあるのかもしれません。日本社会でそれを通すのは大変だったのではないかと思うこともあります。

ところで、主題歌になっているというピアフの歌も強烈な印象として残っています。

「エディット・ピアフ Edith Piaf」
http://blog.goo.ne.jp/paul-ailleurs/e/83fa7cb8200822a1f1534f75cf04e74f

「私には何の悔いもない」 NON, JE NE REGRETTE RIEN
http://blog.goo.ne.jp/paul-ailleurs/e/214b7152052474d98fcd2bd51af1305f

ご指摘のように、岡本太郎に関してはどこかに書いていると思ったのですが、なぜか検索しても引っ掛かってきませんでした。ただ、「パリから観る」には二つありましたので、念のため。
http://paulparis.exblog.jp/6555675
http://paulparis.exblog.jp/12063970

今回、改めて古い記事を読みなおし、昔が蘇ってくるだけではなく、細かい間違いにも気付くことになりました。コメントありがとうございました。

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