お昼を少し離れたところで取ろうとして、以前に顔を出したことのある、若者がやっているカフェ風のレストランを思いつく。以前とは違った人が働いているようだ。サービスに現れた女性を見た時、少し変な感じがした。なぜか初めてではないような雰囲気を感じたが、その時は別のことを考えていた。そのうちどこかで会った人ではないかという気がしてきた。しかし、相当前だろうからもっと老けていてもよいのではないか、それにしても似ている、どこで会ったのだろうか、もし聞いて違っていればこの親爺何を考えているのか!ということになるだろう。そんなことを考えながらの食事となった。
食事が終わって、このままにしておくのも気持ちが悪いので、こう聞いてみた。「私に似た人をどこかで見かけたことはありませんか」。そう聞いた途端に、彼女の相好が崩れた。どうも最初から気付いていたらしい。それならそうと言ってほしいものである。
5‐6年前だろうか、彼女はそれほど前ではないと言うが。彼女のちょっとした言葉で、忘れていた昔が蘇り繋がってくる。最初はある焼き鳥屋で隣り合わせたこと、その時彼女は二人組で来ていて、デイヴィッド・リンチ David Lynch の 「マルホランド・ドライブ Mulholland Drive」 の帰りだったこと、この監督の素晴らしさを教えられ早速DVDで彼の不思議の世界を味わったこと、それから何度かお見かけしたこと、などなど。
今回話してみると、彼女は家に篭っているのが好きで、海外に一度も行ったことがないという。今時の若い人では珍しいのではないか。しかしどこか足が地についているような、日々の何気ない生活に満足を見出そうとしているような、江戸の世界にいてもおかしくないような、落語や日本古来のものが好きそうな、そんな感じがした。ほっと安心させてくれる何かがあるようだ。
不思議な再会のお陰で、頭の中を一陣の風が吹き抜け、気分が晴れた昼下がりとなった。やはり、話し掛けてみるものである。