フランスに揺られながら DANS LE HAMAC DE FRANCE

フランス的なものから呼び覚まされることを観察するブログ

J'OBSERVE DONC JE SUIS

トマス・ヤング THOMAS YOUNG - POLYMATH (ESPRIT UNIVERSEL)

2005-12-02 00:12:42 | 科学、宗教+

先週届いた英国の科学雑誌 NATURE に面白いエッセイが出ていた。狭い領域を極めるのが科学と見られている世界において、幅広い分野に飽くなき興味を持ち、それを満たそうとする過程でそれぞれの分野で立派な仕事をしたイギリスの Polymath が紹介されている。この手の人物はベンジャミン・フランクリンアレクサンダー・フォン・フンボルトなどのように実績はありながら科学の分野からは余りよい評価をされないのだが、この人も相当のものであったらしい。科学者としての2つの対極にある生き方を考えさせられ、興味が尽きない内容であった。

Thomas Young (13 juin 1773 - 10 mai 1829)
"The Last Person to Know Everything"

10人兄弟の末っ子として生れた彼は言語に長け、14歳でギリシャ語、ラテン語、フランス語、イタリア語、アラビア語、トルコ語など10以上の外国語を知っており、ギリシャ語、サンスクリット語を含む流れに "Indo-European" という名称を与えた名付け親だという。19歳で医学をロンドンで学び始め、21歳でエジンバラ、22歳でゲッチンゲンへ移り、その2年後に物理学の博士号を取っている。26歳でロンドンで開業。28歳で王立機関で物理学の教授になり、開業の邪魔になるというので2年間で辞めている。

彼は光学の分野でも優れた仕事をしている。例えば、光の干渉を28歳の時に発見し、ニュートンの粒子説に対して光の波動説を支持している。また、距離の違うものを見るのはレンズの調節によっていることや乱視 (astigmatisme) を発見し、色覚は網膜にある赤、緑、紫を認識する神経細胞によって行われているという説を発表している。これは Young-Helmholtz 説と呼ばれ、1959年に実験的に証明された。

仕事はそこに留まらず、物質の弾力性を測定する装置(Young's modulus)を開発。さらに、ロゼッタ・ストーンの象形文字 (hiéroglyphes) 解読でも重要な役割を果たしたという。この仕事はジャン・フランソワ・シャンポリオン (Jean-François Champollion, 23 décembre 1790 - 4 mars 1832) によることになっているが、民用文字の解読は彼の手でなされている。

これらの業績を反映してか、彼が Encylopaedia Britannica に書いた項目は多岐に及んでいる。このエッセイから引用してみると、

alphabet
annuities
attraction
capillary action
cohesion
colour
dew
Egypt
the eye
focus
friction
haloes
hieroglyphics
hydraulics
motion
resistance
ships
sound
strength
tides
waves
それに医学に関連する項目多数

彼の興味は留まることを知らず、次から次へと対象を変えて優れた仕事を残したが、王立協会の当時会長は彼への弔辞の中で、「ヤングほどの能力と忍耐力がない人には彼のような生き方は勧められない、やはり狭いところに集中すべきだろう」と忠告している。当のヤング自身は、人類のためには狭い領域を深く突き詰める人と同時に幅広い研究分野を見渡すことのできる人が必要なのではないかと考えていたようだ。

"It is probably best for mankind that the researches of some investigators should be conceived within a narrow compass, while others pass more rapidly through a more extensive sphere of research."

今も昔も変わらない問題であるが、この時代にこういうことが論じられていたのである。科学の歴史の重さを考えさせられてしまう。当時の日本は何を考えていたのか、興味が沸いてきている。

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ジャン・フランソワ・シャンポリオンの像

コメント
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