───────────────────────────────
2009年11月11日/その135◇王子にて
端正な語り口と大らかなユーモア。
心のざらざらを洗い流してくれる、
温か味がにじみ出るようなアートだ。
私の中のフラメンコの水準で云えば、
それはチャノ・ロバートのカンテに匹敵する。
この秋他界された三遊亭円楽師匠。
笑点の司会はいただけなかったが、
そのライブの高座は巨大なオーラに充ち満ちて、
言葉には言い尽くせない贅沢な味わいがあった。
ソレア系みたいな大ネタも素晴らしいが、
アレグリ系の中くらいのネタを私は好む。
有名な『目黒のさんま』の録音などは天下一品だ。
それらライブ録音は、今も私の日常をじんわり潤す。
師匠が旅立った翌週の午後、
円楽CD全集を10枚ばかりリュックに詰め込み、
そのアルテを偲ぶ散歩に出かけた。
唐突に名作『王子の狐』が聴きたくなったので、
じゃあそこだと、国電(←死語)で王子に出た。
名人の「星の王子さま」という若き日の称号からの
連想もあったかもしれない。
八代・暴れん坊吉宗の頃の江戸時代。
王子・飛鳥山は江戸庶民のための桜の名所だった。
いつの間にやら、飛鳥山モノレールなんかが出来てた。
全長が50メートルもないところが、王子らしくてステキ。
何の用事で行ったのかは忘れたが、
学生時代にお世話になった明治通り沿いの
老舗ホテルも健在だった。
東京北部特有のアップダウンが楽しめる飛鳥山は、
落語を聴きながら散歩するにはもってこいのコース。
ここらで『王子の狐』と『目黒のさんま』の、
円楽節の名調子を懐かしんだが、
聴いても聴いても聴き足りず、
さらに石神井川をさかのぼるコースを歩く。
───────────────────────────────
2009年11月12日/その136◇秋の石神井川
きのうの続き。
とりとめもなく、円楽師匠の明るい至芸に没入。
飛鳥山から、滝野川親水公園を経て、
石神井川をさかのぼるパセオ(遊歩道)を歩く。
いっとき練馬に住んでた頃は、
この石神井川を、豊島園あたりからから
隅田川に抜けるコースを好んで歩いた。
ぶらぶら歩いちゃ一服を繰り返し、
師の名演『宮戸川』、『厩火事』、『万金丹』、
『らくだ』などを次々に聴く。
想えば昔から、大好きなアーティストの追悼は、
こんな風にやっていた。
桂枝雀師(落語界のパコ・デ・ルシア)がなくなった時には、
仕事を投げて、10日ばかりそんなことを続けたものだ。
五代目、三遊亭円楽。
ニッポンの誇り。
来年六代目を襲名する楽太郎師匠も、
必ず凄いことになる、と私は想う。
石神井川両岸は紅葉の頃に、その実力を発揮する。
また来月、仕事さぼって歩きにこよう。
って、まあ、なんてとりとめのないフラフラ日記。
───────────────────────────────
2009年11月13日/その137◇ダヴィ・ラゴスのソロデビュー盤
この数週間、ほとんどパセオで流れっぱなし。
なんだかホッとするような、久々の本格フラメンコだ。
DAVID LAGOS/EL ESPEJO EN QUE ME MIRO
(フラメンコ・ワールド/2009年)
このところ、日本人のフラメンコ公演に、
これもやはりチョー凄腕ギターの兄、
アルフレッド・ラゴスと共に活躍する
カンタオールのダヴィ・ラゴス。
森田志保さんや石井智子さんの公演でも、
私たちを心底シビれさせた。
それもそのはず、2007年には本国スペインで、
踊り伴唱の最高賞グラン・プレミオを受賞している。
だが、彼の本領はむしろカンテソロにある。
余分な派手さを制御する誠実な声質。
ふくよかに密度高く、よく伸びる。
しみじみと深い抒情。
コンパス、音程がすこぶるよいが、
何よりホカホカにあったかい。
がしがしプーロや思いきり現代的なノリの、
そのどちらでもない。
じゃあ、誰も聴かないのか?
いーや、その真逆なんだよね!!!
誰もが入り込んで聴ける、ストライクゾーンの広いプーロ。
入門者とマニアを同時につかむ、とっつき易さと高純度。
───────────────────────────────
2009年11月14日/その138◇100万光年
マウリツィオ・ポリーニ。
1942年、イタリアはミラノの生まれ。
今年67歳となる、国際的な大ピアニスト。
高校三年生の時にポリーニを聴き、
私はピアニストになることを断念した。
向こう1000年間、ピアノ修行に没頭したとしても、
この私にポリーニを超えることは不可能であることを、
瞬時に悟ったからである。
ちなみに、もうひとつの理由は、それまでの私には、
ピアノを練習したことが一度としてなかったことだ。
当時18だった私に対する、当時のポリーニは31歳。
それから36年間、私は彼のバッハを日々待ち望みながら
暮らしてきたことになる。
マウリツィオ・ポリーニ/
バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻
グラモフォン制作(2009年2月録音)
やはりそー来たか。
待望のバッハ着手は『平均律』だった。
ゴルトベルクだともっとうれしかったが、
贅沢を云ってはバチが当たるな。
老境を迎えたポリーニの枯淡の境地……なのか?
って、そんなわけあるハズもねーよ。
世界中を唖然とさせた、あの明晰にして
完璧なピアニズムはいまだ健在。
うっ、そこまでやっちゃうの、てな感じで、
いつものようにアグレッシブなアプローチで
鍵盤をバンバン叩く。
およそ誤魔化しというものとは無縁な、
真っ向勝負のガチンコ・バッハ。
ふうっ。
シビれるような快感。
やってくれるよなあ。
18歳の私と31歳のポリーニには、
かつて天地の差(約1000年)があった。
ところがどっこい、私もがんばった。
驚くべきことに、現在では
100万光年ほどの差があるのだが、
……それがどーした。
両者のすき間が大きければ大きいほど、
逆に大いにラクチンな気分で、
ポリーニの真似をするのではなく、
オレ様にしかできないやり方で生き抜いてみたくなるのだ。
───────────────────────────────
2009年11月15日その139◇よっ、日本一!
木曜会がチョー午前様だった金曜日は、
日がな本誌のインタビューづくし。
たまった疲れをゆったり湯船で落とし、
行きつけで一杯やる。
居合わせたタワケ者どもと
日刊パセオ『シュール・アホリズム』の爆笑ネタで
盛り上がっている内に、なぜかナゾかけ大会に突入。
「新聞の朝刊」と掛けて、
「坊主」と解く。
その心は、
「今朝(袈裟)きて、今日(経)読む」
「朽ち果てた教会」と掛けて、
「彼女の結婚式」と解く。
その心は、
「神父(新婦)の心労(新郎)、いかばかりか」
小粋な佳作を次々と繰り出すのは、
地元のボスで町会長の金ちゃん(本名・金之助)。
どー見ても893だが、心やさしいインテリあら還だ。
新設する町会事務所の地鎮祭が無事に済んだとかで、
ゴキゲンの絶好調である。
ならば私もと、とっておきを披露する。
「相合傘」とかけて、
「女と男」と解く。
その心は、
「私が開いて、あなたがさす」
珍しく一定の格調を保っていた座のアイレは、
イッキに吹き飛んで、
これをもって、いつもの下ネタ大会に突入する。
さあ、そこでもギンギラ絶好調な金ちゃんは、
やんやの喝采を浴びつつ、
お仲間の勘定をすべて引き受け、さっ爽と退場。
よっ、金ちゃん、ニッポンイチっ!
───────────────────────────────
2009年11月16日/その140◇人気爆発! 中田佳代子のSin Frontera
「フラメンコ舞踊家。
国境なきフラメンコを目指し、日々奮闘中」
中田佳代子は、
スペインのペーニャ・ペルラ・デ・カディスの
アレグリアス・コンクールで、外国人としては初の
準優勝に輝いた筋金入りの実力派バイラオーラ。
明るくてアイレもビンビンな文章に惚れこんで、
即座に連載をお願いした。
日刊パセオフラメンコで、人気爆発中の連載ブログだ。
現在はスペイン・バルセロナのタブラオで踊る様子を
リアルタイムで読むことができる。
度胸と愛敬。
時代がどうあれ、やっぱ人間はコレだわなと、
毎度ふんふん納得しながらこれを読む。
───────────────────────────────
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます