作家 小林真一のブログ パパゲーノの華麗な生活

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【 炎の商社マン 第一章(7) 】

2010-02-04 19:26:00 | ○ 小説「炎の商社マン」

Syousya_zyo_sam  炎の商社マン(上) 

  - 第一章 ( 7 ) 

    





暴行・略奪の限りを尽くし百万の関東軍将兵を捕虜として
シベリアに連行したソ連軍が居なくなって、信介の父は人が
変わったように元気を取り戻し、空いた部屋に収用した
開拓団の人たちを使って、門の傍に店を建てた。
そこで砂糖類を売る。小売じゃなく、野外市場で甘いものを
売る店が多いことに目を付け、砂糖や水あめを卸す商売。


人手はあるし、仕入には満州人に知り合いが多かったから
苦労はなかったみたいで、信介は隠し財産が豊富にあり、
学校も再開されないから、ただの遊び人と化して連日
野外市場をぶらりぶらり。


この頃のおカネの値打ちだが1円で大福もちが10個買えた。
現在1個100円として千倍となる。信介の隠し財産が200円
ぐらいはあったから20万円で、子供の買い食い用資金には
充分過ぎる。


ソ連軍が居なくなると代わりに中華民国政府軍がやってきて
治安に当った。やがて蒙古から毛沢東が率いる共産党の
八路軍が攻めてきて、政府軍との間に新京争奪戦が繰り返された。


そんなこともあって引揚げが遅れ、職場もみな無くなった
日本人はすることがない。
隣組が交代で家を解放しパーティを開く。子供達は二階に
追いやられ子供用のご馳走にありつく。信介が成人するまでに
最も楽しかったのがこの時期だった。


信介が驚いたこと。他の家では父と子が仲良く話し父は決して
怖い人ではないこと。
お互いにじゃれあうみたいに遊ぶ。信じられない光景を
目の当りにして、信介はつくづく我が家は特殊なんだと思った。


引揚げは翌年6月新京発だが、淡路島に帰り着いたのは
9月になってからだった。
父子三人の帰国だったら何の問題もなかったはず。父は元の
職場に復帰して、大阪に住居を用意してもらい、信介も大阪の
高校に行けた。


が、そうは行かなかった。その訳は父の再婚。

隣組に石川さんという満州国文教部(文部省に相当)の
高官が居て、父に再婚話を持ってきた。相手は
満州女子師道大学の助教授をやっていた人で、母親と一緒に
暮らしていた。治安が悪化した満州で女だけの引揚げは
危険が伴うし、子供も小さいから女手がいるだろうとの
大きなお節介。


まだ母が亡くなって百日経ったばかり。帰国して祖父に挨拶し
大阪に落ち着いてからではと、婉曲に反対したら父は怒るし、
それが聞こえた相手側からも、親子連合でそれは物語にも
ないような徹底的なイジメに遭うことになった。


東繊にはどうしても入社したい。そのためには東繊が当時
定めていた指定校14大学のどこかに入学しなきゃならない。
淡路島の田舎高校から14の有名大学の入試に合格することは
至難のことだった。


こちらは大阪梅田ガード下の「おていちゃん」。

高木を囲む山村たちの話は続いている。

高木は先ほどからずっと気になっていたことを訊ねてみた。
五菱石油化学の一件ってなんだろう。滝野が答えた。
滝野も綿糸布部の出身だが、今は合繊織物第二部に
所属している。織物と原料とでは同じ合成繊維部門でも
肌合いが違うが、お互い口も利かぬ綿糸布と合繊原料
ほどではない。


「五菱財閥の最長老で財界に睨みをきかせている池田弥一郎。
その池田さんからトーセンを表敬訪問したいと社長秘書に
電話が入った。確か去年の四月かな」


「五菱の池田弥一郎。超のつく大物じゃないか」

「そうよ、香山社長も大向副社長も何事ならんと、化学品と
合成樹脂の担当役員を集めて、最近何か新しい取引でも
始まったかと訊ねたが、皆首を傾げるばかりで、特に
思い当たることはありませんと」


「だいたい当社に五菱の最高峰が来社したことなんてあったか」

「設立以来皆無だったそうだ。だから首脳部も慌てたわけよ」

「で、どうなった」

「香山・大向の他に東京から化学品・合成樹脂担当役員の
豊村常務も駆けつけて、池田大社長をお出迎えしたのさ」


「池田弥一郎がいわく、商社というのは我々メーカーが
自身努力して作り上げたビジネスに、後から割り込んできて
窓口商社にせよ、そうして扱い口銭を3%で良いからくださいと。
それが商社ってものと思っていた。


五菱商事の場合は皆そうです。メーカーが気がつかなかった
分野にビジネスチャンスを見出して、ゼロから新しい商売を
作り出す。そういうことをやるのがホンモノの商社なんだと、
我々は初めて知ったわけです。流石にトーセンさんの本流である
繊維部門は違うと、伝統の力は凄いものがありますねえ。
どうか今後ともよろしくお願いしたい。


ついては急な話で申し訳ないが今夜吉兆に席を用意してある。
どうかお越しを賜りたい。そう言って立ち去ったとの話」


「繊維だったのか」

「それが中原信介よ。あいつは産業資材って繊維でありながら
理科系みたいなことばっかりやっている。従来取引が無いところ
にでも平気で乗り込んで行くというし、五菱石油化学にも新しい
ビジネスのネタ、それもヤツのことだから壮大なものを
見つけたんだろう」


「香山社長も驚いて、繊維だったのかと急遽田中吉三郎を
呼んだ。産業資材課つまりは中原信介が、相当大きな商売を
五菱石油化学のポリプロピレンという新素材で手がけている
ことが分かり、田中さんも吉兆にお供せよとなった」


「カクさんはどうなった」

「それがお呼びがかからなかったらしいな。もうブンむくれで
ご機嫌ななめもはなはだしいと、お付きのドライバーが
嘆いていたという」


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「炎の商社マン」 解説 

    
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