三田には結局マイカーで行った。出発の寸前まで、
通ったことのない新神戸トンネルを走る気でいたのに、
気がついたら六甲山トンネルの方向に向かって走って
いて驚いた。クルマは運転者の意思に反した走り方を
することがあるんだ。
今年七月一日にオープンしたばかりの「郷の音ホール」
は、想像以上に立派なものだった。たったの35分で
着いてしまったから、時間が余り過ぎて、ホール内の
FRu ful!というケッタイな名前のカフェで食事を摂った
が、ご飯類が全部売り切れていて、やむなくパスタにした
のだが、スパゲッティの不味さに辟易し、これは三田市の
恥だと思った。半分以上を残したから、食器を返す時
「不味かったですか」と、さすがに気にした様子だった。
クロード・チアリさんから招かれたのは、ボク等二名の
他には唯一人だけだった。ジェーン夫人が、わざわざ
席まで挨拶に来て、演奏後に楽屋に来てくださいと
誘われた。
ギターがこんなにも感情を表す楽器だったかと驚きも
したし、ときめきも感じた。31歳になる娘さん、クリステル
と28歳の息子クリスチャンとのファミリー・コンサートだっ
たが、ギターに山口玉三郎という本職はピアノの人が
加わり、本人を中央に山口さんとクリス君を左右に配
した三人編成のギター演奏の素晴らしさ。
それを詳述するだけの語句をボクは持ち合わせていない。
娘のクリステルは、楽器はこなさないが、語りも上手だし、
歌も高音が効いて素敵なのどを披露してくれた。
日本に住みついて33年になるというクロードさんの語り
は軽妙で、観衆を大いに沸かせた。姉から無愛想な弟
と紹介されたクリス君だが、その実はなかなかの役者で、
「ここ十日余り機嫌が悪いんです。十連勝したと喜んで
いたのに八連敗だから」と、生まれて以来のトラキチだと
言って完全に観衆の心をつかんだ。見事なもんだ。
クロードさんが、CDを買ってくれた人にはサインをする
と言ったから、長い行列が出来て、これじゃ楽屋訪問は
あり得ないと判断、ジェーン夫人に挨拶をして、早々に
帰途についた。
北六甲有料道路に出る道が、なかなか見つからず、
帰途は大いに難渋したが、それでも1時間20分ぐらい
で、六甲山から下山したから、そのまま住吉河畔の
レストラン・モーブに行って、夕食を摂った。
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