ボクは子供の頃から、メロンをさして尊ばない。
それよりも西瓜である。西瓜党だった。
九七年六月に、ドイツから大事な客が来たとき、
ボクは笑顔が出なかったらしい。
お互い親戚付き合いのカレは、遠慮なしにいった。
「なんで、そんなに不機嫌なんだ?」
言われてボクは愕然とした。
それなりに必死に応対していたつもりだったから。
尿毒症がそこまで進んだとは、その時に自覚した。
七月に北海道への家族旅行を行った。
新富良野プリンスホテルに五連泊旅でのあった。
ドラマ「北の国から」の撮影中で、ホテルで倉本聡も
純を演じる吉岡クンも見た。
ボクの尿毒症はますます悪化していたらしい。
美味しいはずの、そばも、ジャガバタも、ホテルの
名物カレーライスも、臭いが受け付けられなかった。
ホテルが宿泊客のために、用意してくれたバスで
美瑛や麓郷にも行ったが、足に鉛が詰まった感じで、
ほんの少し高いラベンダー畑にも、昇る気がしなかった。
そこに置いてあった長椅子に座りこんだ。
目の前のガラスの箱の中に西瓜がよく冷えていた。
ボクはそれを頼み、ゆっくり味わった。
生涯で、こんな美味いものは、初めてだと思った。
その西瓜こそが、今のボクの幻の食べ物になっている。
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