作家 小林真一のブログ パパゲーノの華麗な生活

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【 青空の下で聴いた田園交響楽(いつも珈琲があった23話)】

2014-03-27 14:24:36 | 03 いつも珈琲があった

ウイーンでも最高の地とされる19区。
その中でも、おそらく最高だろうと思える場所に移り住んだ直後、
珍しく出張も来客も無い日曜日があった。

新しい住居の近くに何があるのかと探訪の散歩に出かけました。
「あれっ?」 何か複数の楽器の音が、歩む道の下の方から風に
乗って聞こえてくる。

何だろうと訝りながら歩みを速めて行ったら、そこもベートーベン
に所縁のあるホイリゲの前の、広場とは言いにくい空き地に大勢の
地元民が集まっているのが見えた。

民族衣装で揃えた人々が、銘々得意とする楽器を携えて練習中。
ロープで仕切っただけの客席に椅子が並べられ、多くはその外で
演奏の始まるのを待っていた。

ボクは勧められて、ロープ内の椅子に座ったが、椅子席の料金は
チップ程度の僅かなものだった。
その場所は最初に住んだヌスドルフにも程近い見覚えがある所。

始まった民族衣装のオーケストラは、予想を超えて本格的なもの。
曲目は期待した通りの「田園」でした。
ボクのウイーン駐在の間は、92回もの東欧出張と来客接待に終始
して、ゆっくり森と音楽の都を楽しんだのは、自分が起こした会社が
軌道に乗ってからのこと。

だから駐在中は、大手企業の社長さんとか専務クラスの方がオペラ
をとお望みになる以外には、音楽を楽しむだけのゆとりも無かった。

あの晴れた日曜日に、思いがけなく出会った「田園」は、後に本格的
なホールで何度も聴いたものと比べても、それは素晴らしい交響曲
でした。

「田園」のすぐ傍で「田園」を聴くとは望外の喜びだった。
多忙なだけで、腹立たしい事も多かった、もし人生のやり直しがあった
としても、二度と行きたいとは思わない、東欧支配人の激務の中で、
あの一日は忘れられぬ一日でありました。

終わって中に入ったホイリゲで、まだワインには早すぎる時間帯だから
注文したコーヒーが、これまた期待した以上の上物の珈琲だった。
折からこの町ハイリゲンシュタットの教会の鐘が鳴り響いた。この鐘を
楽聖ベートーベンも聴いていたんだとの感慨がありました。


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