そして彼女は忽然と俺の目の前から消えた。
否、ここで消えるなど有り得ない――――後ろだ!!
「っあッ!」
横に飛ぶ。
直後、立っていた場所に彼女、シオンの蹴りが通過した。
速い!後ろを振り返っていたら、避けるのが間に合わなかっただろう。
アルクェイド、シエル先輩程ではないが、吸血鬼の力を発揮したさつき並だ。
「初撃は失敗、計算修正――――ここです!」
さらに次の一手。
シオンとの距離は両腕で戦うには離れている。
だが、彼女は確信を持って俺には見えない攻撃を行う。
腕を振るう。
考えるよりも先にナイフを振るい、何かを切った。
感情を表に出さなかったシオンが驚愕の表情を浮かべた。
それでも続けて何かを操作する動作。
丁度綾取りとか、糸を操るような動作をする。
今度は彼女が糸を操っているのを理解した上で、
これもまた考えるより先に腕を動かし、切って捨てる。
「…エーテライトを切断するなんて、何てデタラメ」
俺の行いを見たシオンは唖然とした表情を向けた。
「別に見えない攻撃をするから卑怯とか言わないけど、俺には効かないよ」
見えない糸程度、ネロにロアといった怪物たちと比べれば楽な相手だ。
あの2人のように魔の恐れや、恐怖はないのだから。
「ほう、ならばこちらはどうでしょうか?」
俺の挑発に紫色の眉を上に上げると同時に、
懐から黒い物体を…って、拳銃、うぉ、掠った!!?
「くそっ!銃刀法違反だぞ、君!!」
「ばれなかれば犯罪ではありません!」
続けて発砲。
俺は乙字に駆けることで紙一重で避ける。
くそ、飛び道具、それも拳銃を持ち出すなんて卑怯だ!
「ちっ!」
「っ!?これを避けますか!?」
しかも、それだけではない。
拳銃で此方を牽制しつつ、シオンがエーテライト。
と呼称した糸が同時に俺に襲い掛かって来ており、対応の難易度が上昇している。
偶に模擬戦を付き合う、シエル先輩にアルクェイド、そしてさつきとは全然違うので戸惑うばかりだ。
しかし、それでも活路はある。
確かに彼女の戦い片はシエル先輩、アルクェイドといった面々とはだいぶ違う。
体の動かし方は純粋にパワーに頼りがちなさつきよりもむしろ上手である。
彼女、シオン・エルトナム・アトラシアはまるで数学の計算式のように正確で、
詰め将棋のように次の一手一手を打ち続けおり、侮ってはならない相手であるに違いない。
しかし、俺からすればそれが逆に読みやすい。
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