風の向くまま薫るまま

その日その時、感じたままに。

追悼、菅井きん

2018-08-24 05:22:51 | 名バイプレーヤー







必殺仕置人(1973)より。
左から中村主水(藤田まこと)、中村りつ(白木真理)、中村せん(菅井きん)





「ムコ殿!」という声が聴こえてきそうです。


昭和元年(1926)生まれということですから、この必殺仕置人に初登場した時点ではまだ47歳だった!もっと齢がいっているイメージがあったのですが、意外とお若かった。若い頃から老け役を演じることも多く、実年齢よりも老けて見られることは多かったようです。

それがあってこその、この姑役だったのでしょう。



この『必殺仕置人』の頃は中村主水が主役ではなかったということもあり、「せん」と「りつ」(戦慄)のコンビは登場が少なかった。

それに、後の必殺シリーズでみられるようなコミカルな要素は一切なく、せんは本当に意地悪な、怖い怖い姑として描かれていました。


これがコミカルかつホームドラマ的要素をもったキャラクターとして毎回登場するようになるのは、シリーズ第6弾『必殺仕置屋稼業』(1975)からのこと。以来、中村主水とともに必殺シリーズ不動のレギュラーとして、お茶の間の人気を博していくことになるのです。



大変な人気を誇った役であり、菅井さんの役者としての地位やイメージを確立させた役柄といってよいのですが、あまりにこの「怖い姑」というイメージがつきすぎたため、娘さんの縁談に支障をきたすのではないかという危惧が生じ、菅井さんは役の降板を申し出ます。


制作サイドとしてはシリーズの継続を望んでおり、それには菅井さんの存在は不可欠でした。そこで一定の譲歩を示します。

その時丁度放送されていた『必殺からくり人』(中村主水が登場しない「非・主水シリーズ」)の放送を急遽延長することを決定、『必殺からくり人血風編』という「繋ぎ」の作品を制作し、その間に菅井さんの娘さんの縁談は目出度く決定。こうして菅井さんは、りつ役を降板することなく、必殺シリーズ第10弾『新・必殺仕置人』(1977)に出演。シリーズはさらに続くことになるのです。


それほどに、菅井さん演じるせんというキャラクターは、シリーズの命運を決するほどの重要なキャラでした。



必殺シリーズというのは、金ずくで人を殺す「殺し屋」の物語ですから、そのままでは結構暗いドラマになりがちです。そんな中で、明るくほっと出来る要素が、中村家の「ホームドラマ」的要素でした。プロデューサーの山内久司氏は、シリーズを支えているのは中村家の「ホームドラマ」にあり、これを失くしてはシリーズは続かないという信念に近いものをもっていたようです。

実際、それは当たっていた。


闇を走る殺し屋たちのドラマを支えていたのは、「せん・りつ」コンビによるコミカルなホームドラマだった!このコンビを演じた菅井きん、白木真理の両女優がいなければ、必殺シリーズは続いていなかったわけですね。




これぞまさに、名バイプレーヤー。



心よりの称賛と哀悼と感謝を送りたい。



菅井きんさん、長い間本当に、本当にお疲れ様でした。ありがとうございました。


どうかごゆっくり、お休みください。



稀代の名女優、名バイプレーヤーに、



合掌。